公務員が早期退職するときの進め方

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
公務員が早期退職するときの進め方

この記事のポイント

  • 公務員の早期退職を考えたときに最初に確かめたい応募認定退職の仕組み
  • 退職手当がどれだけ割増しされるのかの計算
  • 健康保険と年金の切り替え

公務員の早期退職について調べている人が本当に知りたいのは、「退職金がいくら増えるのか」と「辞めたあと生活が回るのか」の2点に集約されます。結論から書きます。国の制度でいえば、早期退職募集に応募して認定を受けて辞めた場合、退職手当の計算のもとになる俸給月額に、定年までの残り年数1年につき最大3%が上乗せされます。ただし失業給付にあたるものが民間と同じようには出ないため、辞めたあとの数か月を自力でつなぐ設計が要ります。この記事では、制度の中身、割増しの計算、辞める前に必ず確かめること、退職後の収入の組み立て方を順番に整理します。

早期退職を考え始めたときに、最初に確かめる3つのこと

検索してすぐ出てくるのは「退職金がいくら増えるか」の話ばかりですが、実際に手を付ける順番は逆です。金額の試算は、自分が制度の対象になるかどうかが決まったあとでなければ意味を持ちません。

確かめる順番は次の3つです。

第1に、自分が募集の対象条件に当てはまるかどうか。国家公務員の早期退職募集制度は、各省各庁の長がその都度、勤続年数や職位といった応募条件を定めて募集します。つまり条件は毎年同じとは限らず、所属する省庁と年度によって変わります。退職手当の割増しを受けるための法律上の土台としては、勤続期間が20年以上であることが求められます。

第2に、退職手当がどれだけ変わるか。ここは後の章で計算式を分解しますが、先に結論を言うと、増えるのは「支給率を掛ける前の俸給月額」であって、退職手当の総額に単純に何割か足されるわけではありません。ここを誤解したまま試算すると、実際の振込額とずれます。

第3に、辞めたあとの社会保険と収入。公務員は雇用保険の被保険者ではないため、民間の会社員が辞めたときに受け取る失業給付と同じ形のお金は出ません。健康保険も共済組合から抜けることになり、自分で切り替えの手続きをします。年金を早く受け取ろうとすれば、受け取る額が生涯にわたって減ります。

この3つのうち、第1と第3は人事課や共済組合の窓口に聞けばその日のうちに答えが出ます。第2は自分で計算できます。順番を守れば、迷っている時間はかなり短くできます。

なお、地方公務員の場合は国の制度がそのまま適用されるわけではなく、自治体ごとの条例と規則に基づいて募集が行われます。国の仕組みは設計の考え方が似ているので理解の土台にはなりますが、応募条件も割増しの率も自分の自治体の要項で確認する必要があります。「国はこうだから自分もこうだろう」と決めつけないことが、この分野で一番よくある事故の防ぎ方です。

早期退職募集制度(応募認定退職)とは何か

まず制度の正体をはっきりさせます。ニュースや民間の記事では「早期退職制度」とひとまとめに呼ばれますが、国家公務員の場合の正式な呼び名は早期退職募集制度で、この制度を使って辞めることを応募認定退職と言います。内閣官房の説明を引用します。

職員の年齢別構成の適正化を通じた組織活力の維持等を目的として、透明性の確保された早期退職募集制度が創設され、平成25 年11 月1 日から本制度に基づく退職(応募認定退職)が可能となった。 各省各庁の長等がその都度勤続年数や職位といった応募条件を定めて定年前に退職する意思を有する職員の募集を行い、職員が応募後、各省各庁の長等に認定を受けて指定された日に退職した場合には、退職手当の額が自己都合退職した場合よりも割増しされるものである。 出典: cas.go.jp

ここに制度の性格がすべて書かれています。読み解くと3つの特徴が見えます。

1つめは、辞めたい人が手を挙げる仕組みだということ。会社が人を減らしたいときに行う希望退職の募集と形は似ていますが、応募も応募の取下げも職員の自発的な意思に委ねられるもので、各大臣等はこれらを強制してはならないと明記されています。上司から「応募しろ」と言われる筋合いのものではありません。

2つめは、応募すれば原則として認定されること。ただし公務運営上必要な人材の場合などには認定をしないことがあると但し書きが付いています。応募イコール退職確定ではなく、認定通知書または不認定通知書が交付されて初めて結果が決まります。

3つめは、辞める日が指定されること。各大臣等が指定した日に退職して初めて、割増しされた退職手当が支給されます。自分の都合で前倒ししたり先送りしたりできるものではありません。

手続きの流れは、募集の周知、応募、認定、通知、退職の5段階です。募集実施要項が対象者全員に周知されるところから始まり、応募した人に対して認定通知書または不認定通知書が交付され、募集実施要項に退職すべき期間が書かれている場合は退職すべき期日が通知されます。

規模感もつかんでおきましょう。内閣官房が公表している応募認定退職の認定者総数は、令和7年度分が1,867人、令和6年度分が1,972人、令和5年度分が2,199人でした。令和4年度分は1,721人、令和3年度分は1,648人です。国家公務員全体から見れば小さな数字ですが、毎年2千人前後が実際にこの道を選んでいます。特別な制度ではなく、使われている制度だということです。

退職手当がどう割増しされるのか、計算式を分解する

ここが一番誤解の多いところなので、式から入ります。国家公務員の退職手当は次の形で決まります。

退職手当額 = 退職時の俸給月額 × 支給率(勤続年数と退職理由で決まる) × 調整率 + 調整額(職責に応じた加算額)

早期退職募集に応じて辞めた場合に何が起きるか。国家公務員退職手当法の第5条の3に「定年前早期退職者に対する退職手当の基本額に係る特例」という条文があり、そこでは退職日俸給月額に、定年と退職日の年齢との差に相当する年数1年につき、その年数と俸給月額に応じて100分の3を超えない範囲内で政令で定める割合を乗じて得た額を加えた合計額を、計算のもとに使うと定められています。対象になるのは勤続期間が20年以上で、定年に達する日から政令で定める一定の期間前までに退職した人です。

つまり増えるのは式の一番左にある「俸給月額」の部分です。ここが増えると、支給率を掛けた結果も比例して増えるので、総額としては大きく効きます。けれども「退職金が3%増える」という言い方は正確ではありません。

現在の運用も押さえておきます。定年の引上げが進んでいる関係で、令和5年4月1日以降は当分の間、引上げ前の定年から15年以内の年齢(引上げ前の定年が60歳だった場合は45歳)から、引上げ前の定年に達する日前までの職員が特例措置の対象とされています。そして、改正前の定年に達する日前までの残年数が1年の人(局長または審議官クラスを除く)の割増率は3%です。

感覚をつかむために単純化した試算を置きます。俸給月額が40万円で、定年までの残年数が5年、1年あたりの割合が3%だとすると、上乗せ分は40万円 × 3% × 5年 = 6万円です。計算のもとになる金額が40万円から46万円に変わります。仮に支給率が40だとすれば、40万円ベースなら1,600万円、46万円ベースなら1,840万円。差は240万円です。実際には調整率と調整額が加わり、支給率も自己都合退職と応募認定退職で異なるため、この数字がそのまま振込額になるわけではありません。正確な額は人事担当部署が試算してくれます。

税金の扱いも先に知っておくと安心できます。退職金は給与とは別枠で計算され、退職所得控除を引いたあとの金額の2分の1にだけ課税される仕組みです。控除額は勤続20年以下なら1年あたり40万円、20年を超える部分は1年あたり70万円で計算します。勤続30年なら800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円が控除されます。この枠に収まっていれば所得税はかかりません。

もうひとつ、事務手続きで落としやすい点があります。退職金を受け取る前に「退職所得の受給に関する申告書」を勤め先に出しておくかどうかで、源泉徴収のされ方が変わります。出していれば原則として確定申告は不要ですが、出さなかった場合は支払金額の20.42%が源泉徴収され、自分で確定申告して精算することになります。手元に残る金額のタイミングが変わるので、退職前のチェックリストに入れておきたい項目です。

早期退職のメリットを、数字で言える部分だけ並べる

メリットを挙げる記事は多いのですが、根拠の示せるものとそうでないものが混ざっているのが現状です。ここでは公的資料で確かめられる範囲に絞ります。

第1に、退職手当の計算のもとになる金額が増えます。前章の通り、残年数1年につき最大3%です。定年まで残り10年の段階で辞めれば、計算の土台が最大で30%増えた状態で支給率が掛かります。自己都合で普通に辞めた場合と比べたときの差は、このルートを通るかどうかで決まります。

第2に、支給率そのものが自己都合退職より有利に扱われます。退職手当の支給率は勤続年数と退職理由の組み合わせで決まる表になっており、同じ勤続年数でも理由によって数字が変わります。応募認定退職は自己都合とは別の扱いです。「どうせ辞めるなら募集に応じた形で辞めたほうがよい」と言われるのは、割増しと支給率の両方が効くからです。

第3に、動ける年齢で動けること。これは金額に換算しにくいものの、実務的にはかなり大きい要素です。民間の中途採用は年齢で門前払いされる場面が減ってきたとはいえ、選択肢の幅は年齢と連動します。60歳で辞めて選べる仕事と、50歳で辞めて選べる仕事は、量も種類も違います。

第4に、辞める日が制度として決まるため、準備の期間を確保しやすいこと。募集実施要項が周知されてから応募し、認定を受けて指定された日に退職するという流れなので、いつ辞めるかが早い段階で確定します。健康診断を受けておく、住宅ローンの借り換えを先に済ませる、クレジットカードを作っておくといった、在職中でないと通りにくい手続きを計画的に片付けられます。

正直なところ、ここに挙げた4つ以外のメリットは、書き手の意見や個別事情に依存するものが大半です。「自由な時間が手に入る」「やりたいことができる」は間違いではありませんが、辞めたあとに収入をどう作るかの設計とセットでなければ、判断材料としては弱い。次の章で、そのセットの片方であるデメリットを見ます。

デメリットと、見落としやすい落とし穴

ここが、早期退職を扱う記事で一番省略されやすい部分です。順に並べます。

最初に押さえるべきは、失業給付の扱いです。公務員は雇用保険の被保険者ではないため、辞めても民間の会社員と同じ形で基本手当(いわゆる失業保険)を受け取ることはできません。その代わりに、国家公務員退職手当法の第10条に「失業者の退職手当」という仕組みが置かれています。ただしこれは誰にでも出るものではなく、受け取った一般の退職手当の額が、雇用保険法の基本手当に相当する額に満たない場合に、その差額に相当する部分を支給するという建て付けです。退職手当をまとまって受け取る人の場合、実際には支給されないことが多くなります。「公務員にも失業保険に相当するものがあるらしい」という話を鵜呑みにせず、自分のケースでどうなるかを共済組合と人事担当に確認してください。

次に年金です。辞めたあとの収入をつなぐために年金の繰上げ受給を考える人がいますが、日本年金機構は減額率を明記しています。昭和37年4月2日以降に生まれた人は1か月あたりの減額率が0.4%で、60歳0か月まで繰り上げると最大24%の減額です。昭和37年4月1日以前生まれの人は1か月あたり0.5%、最大30%の減額になります。しかもこの減額は生涯続き、繰上げ請求を取り消すことはできません。国民年金の任意加入や保険料の追納もできなくなり、繰上げ請求した日以後は事後重症などによる障害基礎年金や障害厚生年金を請求できなくなります。一時的な資金繰りのために生涯の年金額を削る判断になっていないか、慎重に見る必要があります。

3つめは健康保険です。共済組合の組合員ではなくなるため、国民健康保険に入るか、共済組合の任意継続の制度を使うか、家族の健康保険の被扶養者になるかを選びます。どれが有利かは前年の所得と家族構成で変わりますし、手続きには期限があります。退職日が決まった時点で共済組合の窓口に相談するのが確実です。

4つめは住民税です。住民税は前年の所得に対して課税され、翌年に納めます。退職して収入が下がった年に、現役時代の所得に基づく住民税の請求が来る形になります。辞めた直後の家計で想定から外れやすい支出の代表です。

5つめは再就職に関する規制です。国家公務員には再就職等規制があり、内閣府の再就職等監視委員会の説明によれば、再就職者が離職前5年間に在職していた局等に現在所属している役職員に対し、契約や処分に関して職務上の行為をするよう要求したり依頼したりすることは、原則として離職後2年間禁止されています。在職中に自ら決定した契約等については期限の定めなく禁止されます。また、職員が利害関係企業等に対して、離職後にその企業に再就職することを目的として求職活動を行うことも禁止されています。辞める前に次の仕事を決めておきたいと考えるのは自然ですが、相手によっては在職中の接触そのものが問題になります。管理職だった人は特に、動き出す前に確認してください。

最後に、収入の空白です。退職手当は退職後しばらくしてから振り込まれます。失業給付が出ないことと合わせて、退職日から次の収入が立ち上がるまでの数か月を自己資金でつなぐ前提で計画を立てるのが安全です。

定年まで勤める場合と早期退職する場合を、同じ表で比べる

比較は、同じ項目を並べないと意味がありません。よく見かける「早期退職は退職金が増えるからお得」という比較は、増える側だけを見て減る側を見ていないため片手落ちです。次の表は、判断のときに必ず両方埋めてほしい項目です。

比べる項目 定年まで勤める 早期退職(応募認定退職)
退職手当の計算のもと 退職時の俸給月額のまま 残年数1年につき最大3%を上乗せした額
退職までの給与収入 定年まで満額 辞めた時点で止まる
失業給付 対象外 対象外(差額が出る場合のみ失業者の退職手当)
健康保険 共済組合のまま 国民健康保険、任意継続、被扶養者から選ぶ
年金 通常の受給開始 繰上げれば1か月0.4%減額(生涯)
住民税 給与から天引き 前年所得に基づく請求が退職後に来る
時間 定年まで拘束 早く自由になる
次の仕事の選択肢 年齢とともに狭まる 動ける年齢で選べる

この表を自分の数字で埋めると、「辞めると退職金が何百万円増える」の隣に「辞めると給与が何年分消える」が並びます。残り5年で年収600万円なら、消えるのは3,000万円です。増える退職手当が240万円だとすれば、差し引きは大きくマイナスになります。

それでも早期退職を選ぶ人がいるのは、消えた給与の代わりに別の収入を作る前提で計算しているからです。辞めたあとに年300万円の収入を5年続けられれば1,500万円で、差は縮まります。時間を取り戻したぶんで何をするかが決まっていない状態で辞めると、この式の右側が空欄のまま進むことになります。

言い換えると、早期退職は「退職金の割増しで得をする制度」ではなく、「時間を前倒しで買う制度」です。買った時間で何をするかが決まっている人にとっては合理的で、決まっていない人にとっては高い買い物になります。この見方で判断すると、退職金の試算に一喜一憂する必要がなくなります。

退職を決める前に踏む手続きと、時間の流れ

実際の段取りを時系列で並べます。所属先によって細部は異なるので、必ず自分の勤務先の募集実施要項で確認してください。

募集実施要項の確認から始まります。各大臣等が募集対象者全員に要項を周知するところから制度が動き出します。ここに応募条件(勤続年数、職位、年齢など)と、退職すべき期間が書かれています。自分が条件に当てはまるかを、この段階で人事担当に確認します。

次が応募です。応募も応募の取下げも自発的な意思に委ねられるものとされているので、迷っている段階で相談することは問題ありません。ただし取下げには期限があるのが通常なので、いつまでなら引き返せるかを先に確かめておきます。

そして認定と通知です。応募者には原則として認定がなされ、認定通知書または不認定通知書が交付されます。不認定になる可能性もあるため、認定通知が出る前に次の仕事の契約を結んでしまうのは避けたほうが無難です。

最後が退職です。指定された日に退職し、割増しされた退職手当が支給されます。

この流れと並行して、在職中にしか通りにくい手続きを片付けます。住宅ローンの借り換えや新規借入、クレジットカードの申込み、賃貸物件の契約、人間ドックや歯の治療などは、収入が安定している在職中のほうが通りやすく、費用も抑えられます。退職日が決まったら共済組合に健康保険の切替を相談し、年金事務所で自分の年金見込額を確認します。退職金を受け取る前には退職所得の受給に関する申告書を提出します。

書類の準備も早めに始めます。次の仕事を業務委託で受けるにしても、民間企業に転職するにしても、これまでの仕事を外部の人が読める言葉で書き直す作業が要ります。公務員の職務は内部の用語で書かれていることが多く、そのままでは実績が伝わりません。書き方の型については、職務経歴書の構成や書き出しの作法をまとめた職務経歴書の書き方完全ガイド|転職成功率を上げるコツ【2026年版】が実務の手順に沿っていて使いやすい構成になっています。転職サイトの選び方から入りたい場合は、年代と職種別に向き不向きを整理した転職サイトおすすめ比較【2026年版】|年代・職種別の選び方が入口として分かりやすくまとまっています。

文書作成そのものの作法に自信がない場合は、社外向けの文書ルールを体系立てて学べる資格を挟むのも手です。ビジネス文書の形式と敬語の使い分けを扱うビジネス文書検定は、行政文書の書き方に慣れた人が民間の文体に切り替えるときの補助線になります。

辞めたあと1年間の家計を、先に紙の上で回してみる

退職の可否を悩む時間は、家計表を1枚作れば大幅に短くなります。やることは単純で、退職後12か月分の入りと出をひと月ずつ並べるだけです。頭の中で「たぶん大丈夫」と考えている状態と、月ごとの残高が並んだ表を見ている状態では、判断の質がまったく違います。

出ていくほうから埋めます。毎月の生活費、住居費、教育費、保険料に加えて、退職したことで新しく発生する項目を忘れずに入れます。健康保険料は共済組合から国民健康保険などに切り替わるため、保険料の計算の仕方が変わります。国民年金の保険料も、60歳未満であれば自分で納めることになります。そして住民税です。住民税は前年の所得に対して課税されるので、収入が下がった最初の年に現役時代の所得を基準にした請求が届きます。この3つは、退職前の給与明細には天引きとしてしか現れないため、家計表を作るときに抜けやすい代表格です。

入ってくるほうは、確定しているものと未確定のものを分けて書きます。確定しているのは退職手当だけ、という前提で始めるのが安全です。退職手当がいつ振り込まれるかは所属先に確認します。退職日の翌月に入るとは限りません。次の仕事の報酬は未確定の欄に入れ、ゼロでも家計が回る月数を数えます。

この「ゼロでも回る月数」が、早期退職を決めるかどうかの実質的な判断材料になります。目安として6か月分の生活費が手元にあれば、焦って条件の悪い仕事を受けずに済みます。12か月分あれば、単価を上げる交渉ができる立場で動けます。逆に3か月を切っている状態で辞めると、最初に来た話を断れません。ここで受けた仕事の単価が、その後の基準として固定されてしまうことがよくあります。

表を作ったうえで足りないと分かった場合の選択肢は3つです。退職の時期を後ろにずらして貯蓄を積む、生活費そのものを下げる、在職中に許可の範囲で準備を進めて退職後すぐ収入が立つ状態にしておく。年金の繰上げは、この3つを検討したあとの最後の手段です。前の章で触れた通り、1か月あたりの減額は生涯続き、あとから取り消せません。

退職後の収入を、何本かに分けて組み立てる

辞めたあとの収入を1本に賭けないことが、この段階の基本です。再就職先を1社に絞る、独立して1つの取引先に依存する、といった形は、うまくいけば効率的ですが、切れたときに代わりがありません。

現実的な組み立ては、次の3つを組み合わせる形です。1つめは、前職の経験がそのまま値段になる仕事。2つめは、経験と隣接していて学べば届く仕事。3つめは、時間の融通が利く小さな仕事。最初の数か月は3つめが生活を支え、その間に1つめと2つめを育てます。

公務員から移るときに値段になりやすいのは、制度や手続きを正確に理解して人に説明できる力です。この力は、文章を書く仕事、業務の手順を整理する仕事、社内の仕組みを作る仕事で評価されます。どのくらいの単価がつくのかは職種によって幅があります。文章を扱う仕事の相場感は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場に職種としての水準がまとまっています。技術寄りに振るならソフトウェア作成者の年収・単価相場が参考になります。いずれも「この仕事でいくらもらえるか」ではなく「この職種の世の中の水準はどのあたりか」を知るための資料として使うのが正しい読み方です。

仕事の種類そのものを広く見たい場合は、業務の内容と必要なスキルが整理されたガイドが早道です。生成AIの導入を業務目線で支援する仕事は、業務の流れを理解している人の経験が効きやすい分野で、その内容はAIコンサル・業務活用支援のお仕事にまとまっています。情報の取り扱いに厳しい環境で仕事をしてきた人なら、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事で扱われている領域とも接点があります。

働き方の形も選べます。民間企業に正社員として入る、任期付きで入る、業務委託で受ける、複数を並行する。公務員として長く働いてきた人ほど「雇われる」形しか想像しないことがありますが、実際には業務委託のほうが経験を値段に変えやすい場面があります。仕事の受け方については、仲介の手数料が引かれない直接契約の形もあり、同じ報酬額でも手元に残る金額が変わります。

なお、公務員の在職中に副業として準備を始めたいと考える人もいますが、国家公務員法は営利企業の役員等との兼職や自ら営利企業を営むことを原則として禁じており、報酬を得て事業に従事する場合にも許可が要ると定めています。地方公務員にも同様の制限があります。在職中に何をしてよいかは所属先の規程で確認し、自己判断で始めないでください。

早期退職した人が最初につまずくところ

フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、公務員から移ってきた人の強みと弱みははっきり分かれます。

強みは、約束を守ることと、記録を残すことです。締切を守る、決まった形式で提出する、経緯を文書に残す。この3つが当たり前にできる人は、実は多くありません。発注する側から見ると、この3つが揃っているだけで「またこの人に頼もう」という判断になります。長く続いている人ほど、単発の作業をこなすことではなく、この人に任せると楽だという関係を作ることに時間を使っています。

弱みは、値段を自分で付けることと、売り込むことです。役所では単価は決められたものであって、自分で交渉するものではありません。そのため、最初の見積りで極端に安い金額を出してしまい、そこが基準になって抜け出せなくなる例をよく見ます。最初の1件は安くてもよいのですが、2件目からは相場を調べて出し直すこと。相場を知るための資料として、前章で挙げた職種別の年収・単価のページのような、職種単位で水準を確認できるものを手元に置いておくと、根拠のある金額を出せます。

もうひとつ、運営者として見てきた限りでは、手取りの話を早めに理解した人のほうが立ち上がりが速いです。仲介を挟む仕事は便利な反面、報酬から一定の割合が引かれます。年間で100万円の仕事を受けて15%引かれれば15万円です。同じ仕事を手数料0%の直接取引で受ければ、その15万円は手元に残ります。依頼する側から見ても、中間マージンが乗らないぶん同じ予算でより多く頼めるので、双方が得をする構造になっています。額面の大きさより、手取りが厚くなる経路を持っているかどうかが、続くかどうかを分けます。

最後にもうひとつ。早期退職は、辞めてから考えるのでは遅い制度です。募集実施要項が周知されてから応募までの期間は長くありません。割増しの計算も、社会保険の切替も、次の仕事の準備も、在職中にしかできないものが大半です。定年まであと何年かを数えて、その数字に3%を掛けてみるところから始めてください。そこで出た金額が、時間を前倒しで買うときの値札です。買うかどうかは、その時間で何をするかが決まってから判断すれば間に合います。

よくある質問

Q. 早期退職募集制度を使うと、退職金はどのくらい増えますか?

増えるのは退職手当の総額ではなく、計算のもとになる退職時の俸給月額です。定年までの残年数1年につき、最大で3%を上乗せした額に支給率を掛けます。残り5年で俸給月額40万円なら、計算のもとが46万円になる形です。実際の支給額は支給率、調整率、調整額で変わるため、人事担当部署に試算を依頼してください。

Q. 公務員が早期退職しても失業保険はもらえますか?

公務員は雇用保険の被保険者ではないため、民間と同じ形の基本手当は受け取れません。国家公務員退職手当法には失業者の退職手当という仕組みがありますが、受け取った退職手当の額が基本手当に相当する額に満たない場合の差額を支給するものです。退職手当をまとまって受け取る人は対象にならないことが多いので、共済組合と人事担当に確認してください。

Q. 早期退職の対象になるのは何歳からですか?

応募条件は各省各庁の長が募集のたびに定めるため、年度と所属によって変わります。退職手当の割増しの特例については、令和5年4月1日以降は当分の間、引上げ前の定年から15年以内の年齢(引上げ前の定年が60歳だった場合は45歳)から、引上げ前の定年に達する日前までの職員が対象とされています。あわせて勤続期間が20年以上であることが求められます。

Q. 退職金を受け取るとき、確定申告は必要ですか?

退職金を受け取る前に「退職所得の受給に関する申告書」を勤め先に提出していれば、原則として確定申告は必要ありません。提出しなかった場合は支払金額の20.42%が源泉徴収され、自分で確定申告して精算します。退職した年に他の所得がある場合など、事情によって扱いが変わることがあるので、税務署に確認するのが確実です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年8月28日最終更新:2026年9月23日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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