生活保護を受けながらフリーランスで働くなら収入申告が前提


この記事のポイント
- ✓生活保護とフリーランスは両立できるのか
- ✓売上ではなく利益で見る収入の数え方
- ✓ケースワーカーへの相談方法までを2026年時点の制度に沿って整理します
先日、在宅でイラストと簡単なWeb制作を請けている方から相談を受けました。「収入が月7万円まで落ちて生活が回らない。でもフリーランスは自営業だから、生活保護なんて申請しても門前払いされますよね」と。結論から言うと、それは誤解です。生活保護は「職業」で線を引く制度ではなく、「世帯の収入が最低生活費に届いているかどうか」で判断される制度です。フリーランスであること自体は、申請を妨げる理由になりません。これ、知らない人が本当に多いんです。
ただし、フリーランスには会社員にはない独特の落とし穴があります。売上と利益が違うこと、入金が数か月遅れること、経費の考え方が税法と福祉行政で異なること。この3つを理解しないまま申請すると、話がかみ合わないまま手続きが止まります。この記事では、生活保護とフリーランスの関係を、制度の仕組みと実務の両面から丁寧に整理します。あわせて、毎月の収入申告という絶対に外せない義務と、働いた分がきちんと手元に残る勤労控除の設計についても解説します。
なお、生活保護の運用は法定受託事務でありながら、細かい部分は自治体ごとの実施要領や個別の判断に委ねられている領域が広くあります。この記事に書いた内容はあくまで一般的な枠組みであり、最終的にはお住まいの地域の福祉事務所の判断が優先されます。※具体的な金額や可否の判断は、必ず担当のケースワーカーに直接確認してください。
フリーランスと生活保護をめぐる現在地
制度は「職業」ではなく「世帯の収入」を見ている
生活保護法は、その第1条で「生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障する」と定めています。ここで書かれているのは「困窮の程度」であって、雇用形態でも職業でもありません。つまり、会社員でも、パートでも、フリーランスでも、自営業者でも、判断される軸は同じです。世帯としての収入が国の定める最低生活費を下回っているかどうか。それだけが入口の基準になります。
にもかかわらず「フリーランスは対象外」という思い込みが広く共有されているのは、いくつか理由があります。ひとつは、自営業には「事業を続けている=資産や稼働能力がある」というイメージがつきまとうこと。もうひとつは、給与明細のような分かりやすい収入証明がないため、窓口での説明が複雑になりがちなことです。しかし、複雑であることと対象外であることは別の話です。手続きの説明が難しいだけで、権利そのものが消えるわけではありません。
フリーランスとしての月収が8~10万円程度まで落ち込み、子どもを育てる親にとって生活維持が難しい状況であっても、「フリーランスだから生活保護は無理なのでは?」といった不安を感じる人は少なくないでしょう。 出典: news.yahoo.co.jp
受給世帯の全体像から見えること
厚生労働省の被保護者調査によれば、生活保護を受けている人は全国でおおむね200万人前後、世帯数では165万世帯前後で推移しています。世帯類型の内訳を見ると、高齢者世帯が半数を超え、次いで傷病・障害者世帯、母子世帯と続き、それ以外の「その他の世帯」がおよそ15%前後を占めます。フリーランスとして働きながら収入が最低生活費に届かない世帯は、この「その他の世帯」に分類されることが多くなります。
注目すべきなのは、受給世帯のなかにも働いている人が一定数いるという事実です。生活保護は「働いていない人の制度」ではありません。働いていても収入が最低生活費に足りない場合、その差額を補うという設計になっています。制度の正式名称に「補足性の原理」という言葉があるのは、まさにこの意味です。持てるものを活用したうえで、なお足りない分を補う。だから、仕事をやめる必要はありませんし、むしろ制度の側は就労の継続を前提にしています。詳しい統計や制度解説は厚生労働省の公表資料で確認できます。
フリーランス人口の増加が制度の現場に与えている影響
国内のフリーランス人口は、調査主体によって定義が異なるものの、広義でおおむね1,500万人規模、本業として従事する層に絞ってもおよそ300万人台という推計が出ています。母数がこれだけ大きくなれば、収入が不安定になり生活が立ち行かなくなるケースも当然増えます。実際、2024年11月にフリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行された背景にも、報酬未払いや一方的な減額によって生活基盤が揺らぐ実態がありました。
私が行政書士として相談を受ける中でも、「取引先が1社に集中していて、その1社が倒れた瞬間に収入がゼロになった」という相談は毎年届きます。会社員なら雇用保険という受け皿がありますが、フリーランスには原則としてそれがありません。傷病手当金もない、労災も特別加入していなければ使えない。この「落ちたときに引っかかるネットの少なさ」こそが、フリーランスと生活保護というテーマが検索される最大の理由だと考えています。
受給できるかどうかは「最低生活費との比較」で決まる
最低生活費という物差し
生活保護の可否を決める中心にあるのが「最低生活費」です。これは、健康で文化的な最低限度の生活を営むために必要とされる金額を、国が基準として定めたものです。金額は一律ではなく、住んでいる地域(級地)、世帯の人数、世帯員それぞれの年齢、障害や母子加算の有無などによって細かく変動します。
最低生活費は複数の扶助の合計で構成されます。代表的なものは、日々の食費や光熱費にあたる生活扶助、家賃にあたる住宅扶助、医療費にあたる医療扶助、義務教育に伴う費用の教育扶助などです。たとえば東京都区部(1級地-1)で単身の20代であれば、生活扶助がおよそ7万6千円、住宅扶助の上限がおよそ5万3千円で、合計すると月13万円前後という水準になります。地方の3級地であれば、この合計はもっと低くなります。
生活保護が受けられるかどうかの基準となるのは、「最低生活費」です。最低生活費は、最低限度の生活を送るうえで必要とされている金額のことで、居住地域や世帯人数、年齢によって異なります。
【生活保護の支給額の計算方法】 支給額=最低生活費-世帯の総収入 出典: news.yahoo.co.jp
つまり、最低生活費が18万円のひとり親世帯で、フリーランスとしての利益が8万円であれば、差額の10万円が保護費として支給されるイメージになります。ここで大事なのは、収入があること自体は受給の妨げにならないという点です。収入があるなら、その分だけ支給額が減る。これが基本の構造です。
収入がゼロである必要はまったくない
相談の現場で最も多い誤解が「収入があるうちは申請できない」というものです。これは違います。収入がある状態での申請はごく普通に行われますし、むしろ働き続けながら受給するほうが、後述する勤労控除の恩恵を受けられる分だけ手元に残るお金は多くなります。仕事を全部やめてから申請しようと考えるのは、経済的にも、その後の再スタートという意味でも損な選択です。
もうひとつ誤解されやすいのが、開業届を出していると申請できないという話。これも事実ではありません。事業を継続すること自体が問題視されるわけではなく、その事業が生活の維持にどう寄与しているかが見られます。むしろ、収入が少なくても継続的に受注があり、将来的に収入が回復する見込みがあるなら、事業の継続が認められるケースは十分にあります。※ただし、事業に多額の借入や在庫を抱えている場合は判断が変わることがあるので、その点は必ず事前に相談してください。
収入以外に確認される3つの視点
最低生活費との比較が中心軸ですが、それ以外にも確認される要素があります。ひとつめは資産です。預貯金、不動産、自動車、生命保険の解約返戻金などが対象になります。預貯金は、おおむね最低生活費の半月分程度を超えると、まず取り崩すよう求められるのが一般的な運用です。
ふたつめは扶養義務者への照会、いわゆる扶養照会です。親、子、兄弟姉妹といった扶養義務者に対して、援助が可能かどうかを福祉事務所が問い合わせる手続きです。かつては半ば機械的に行われていましたが、2021年以降の厚生労働省の通知によって運用が見直され、DVや虐待があった場合、長年音信不通の場合、照会によって申請者が申請をためらう恐れがある場合などは、扶養照会を行わない取り扱いが明確化されました。事情がある場合は、申請時に具体的に伝えることが重要です。
みっつめは稼働能力の活用です。働ける状態にあるなら働くことが求められる、という原則です。ただしこれは「フルタイムで働けなければ不可」という意味ではありません。健康状態、育児や介護の状況、地域の求人環境などを総合的に見て判断されます。フリーランスとして週に何日か稼働している状態は、稼働能力を活用している状態そのものです。
フリーランスの「収入」はどう数えられるのか
売上ではなく、必要経費を引いた後の額で見る
ここがフリーランスにとって最大の要点です。生活保護における自営業者の収入は、入ってきた売上そのものではありません。売上から、その事業に必要な経費を差し引いた後の金額、つまり利益ベースで認定されます。月に20万円の売上があっても、外注費や材料費で13万円出ていれば、収入として見られるのは差額の7万円です。
この仕組みを知らずに「売上20万円もあるから無理だ」と自己判断で申請をあきらめてしまう方が、かなりの数いらっしゃいます。実際に相談を受けたケースでも、動画編集を請けている方が外注のナレーターとBGMライセンスに毎月まとまった額を支払っていて、通帳の入金額だけを見て「自分は対象外」と思い込んでいました。実際に帳簿を整理して福祉事務所に持ち込んだところ、利益ベースでは最低生活費を大きく下回っていることが分かり、話は前に進みました。帳簿がないと、この主張ができません。
経費として認められるもの、認められにくいもの
ただし注意が必要なのは、税法上の必要経費と、生活保護の実務で控除が認められる経費は完全には一致しないという点です。税務では計上できても、福祉行政では「生活費との区分が不明確」として認められにくいものがあります。
認められやすいのは、事業に直接必要で、支出の事実が領収書などで明確に確認できるものです。外注費、材料費、仕入れ、事業専用の通信費、業務に不可欠なソフトウェアのサブスクリプション費用などが該当します。一方で、認められにくいのは、私的利用との切り分けが難しいものです。自宅兼事務所の家賃(住宅扶助との二重計上になるため)、自家用車の維持費、交際費、私的利用が混ざるスマートフォンの通信費などです。
たとえばスマートフォン代を全額経費で申告しても、業務利用の割合が説明できなければ按分での認定になります。ここは自治体によって判断の幅がある領域なので、「うちの地域ではどこまで認められますか」と、実際の支出項目を一覧にしてケースワーカーに直接確認するのが最短です。※感覚で処理せず、必ず事前に確認してください。後から否認されると、遡って返還を求められることがあります。
入金と稼働のズレをどう扱うか
フリーランス特有の悩みが、月末締め翌々月払いのような支払いサイトによる時間差です。3月に納品した仕事の報酬が5月に振り込まれる。この場合、収入としてどの月に計上されるのか。実務では、原則として実際に収入があった月、つまり入金があった月に計上する取り扱いが一般的です。ただし、事業所得については一定期間を通算して平均化する方法が取られる場合もあります。
この扱いを誤ると、入金が集中した月だけ収入が跳ね上がり、その月の保護費がゼロになるという事態が起こります。生活は毎月続くのに、収入は数か月おきにまとめて入る。この不整合を放置すると生活が破綻します。だからこそ、契約時点で「いつ納品して、いつ入金予定か」を一覧にして、あらかじめケースワーカーと共有しておくことが実務上とても効きます。予定が見えていれば、平均化などの調整を相談する余地が生まれます。
収入申告は義務。これを外すと制度が壊れる
毎月、収入申告書を提出する
生活保護を受けている間、収入があったときはその内容を福祉事務所に申告しなければなりません。これは任意の協力ではなく、生活保護法第61条に定められた法律上の義務です。同条は「被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない」と定めています。つまり、収入が増えたときも減ったときも、届け出る義務があるということです。
多くの自治体では「収入申告書」という様式が用意されていて、毎月あるいは定期的に提出します。フリーランスの場合、この申告書に加えて、売上が分かる資料(請求書の控え、通帳の入金記録、取引先からの支払通知書など)と、経費が分かる資料(領収書、帳簿、会計ソフトの月次レポートなど)を添えるよう求められるのが通常です。
収入がゼロの月も、ゼロであることを申告します。「何もなかったから出さなくていい」ではありません。この一手間を省いたことが、後になって「申告漏れ」として扱われる原因になります。
申告しなかった場合に何が起きるか
申告義務を果たさなかった場合、生活保護法第78条にもとづき、支給された保護費のうち本来受け取るべきでなかった分の返還を求められます。「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」た場合、その費用の全額または一部を徴収されるという条文です。さらに、悪質と判断されれば徴収額に最大40%を上乗せして請求される規定もあり、刑事告発に至るケースもあります。
そして、返還の対象になるのは「収入として認定されるはずだった額」ではなく「支給された保護費」です。ここが厳しいところで、たとえば月5万円の収入を1年間申告しなかった場合、返還を求められるのは5万円の12か月分だけでは済まないことがあります。後から一括で数十万円単位の返還を求められて生活が立ち行かなくなった、という相談は残念ながら現実にあります。
収入は把握される仕組みになっている
「申告しなければ分からないのでは」と考える方がいますが、それは成立しません。福祉事務所は、生活保護法第29条にもとづいて、官公署に対して必要な資料の提供を求める権限を持っています。具体的には、市区町村の課税台帳の閲覧、金融機関への照会、年金機構への照会などです。
フリーランスの場合、確定申告をすれば税務署から市区町村へ所得情報が流れ、住民税の課税資料として記録されます。福祉事務所はこれを閲覧できます。また、取引先が支払調書を提出していれば、その情報も税務側に残ります。振込であれば通帳の記録も残ります。つまり、時間差はあっても、いずれ突き合わせられる構造になっています。
私が繰り返しお伝えしているのは、隠すという選択肢は存在しないということです。隠す方法を探すのではなく、正しく申告して制度上の控除を最大限に使うほうが、確実に手元に残るお金が多くなります。これは倫理の話であると同時に、単純な計算の話でもあります。理由は次の章にあります。
勤労控除という設計。働くほど手元が増える
収入があっても、その全額が差し引かれるわけではない
ここが、生活保護制度のなかで最も誤解されていて、かつ最も知っておく価値がある部分です。働いて得た収入は、その全額が保護費から差し引かれるわけではありません。一定額が「勤労控除」として収入認定から除外され、その分は保護費が減らずに手元に残ります。
なぜこうした仕組みがあるのか。働いても働かなくても手取りが同じなら、誰も働かなくなるからです。制度は就労を促す方向に設計されていて、働いた分だけ生活が上向くようになっています。つまり、収入をきちんと申告して働くことは、経済的に見ても合理的な選択なのです。
主な控除の種類
基礎控除は、就労収入がある人に適用される最も基本的な控除です。収入額に応じて控除額が段階的に増える仕組みで、月の就労収入がおおむね1万5千円までであれば全額が控除され、それを超えると収入が増えるにつれて控除額も増えていきます。実務上の目安として、月10万円の就労収入があれば、控除額は2万4千円前後になるイメージです。
新規就労控除は、これまで就労していなかった人が新たに継続的な仕事に就いた場合に、一定期間(おおむね6か月間)適用される控除です。金額はおおむね月1万2千円前後。仕事を始めた直後は、被服費や交通費など出費が増えるため、それを見込んだ設計になっています。
未成年者控除は、20歳未満の被保護者が就労している場合に適用される控除で、こちらもおおむね月1万2千円前後です。このほか、実際に通勤にかかった交通費や、社会保険料の本人負担分などは、実費として収入から控除される取り扱いがあります。
なお、これらの控除額は毎年度の基準改定で変更されます。※ここに書いた金額は執筆時点の目安であり、必ず最新の額を福祉事務所で確認してください。
自営業・フリーランスの場合の適用
自営業者やフリーランスにも勤労控除は適用されます。ただし、その計算の起点になるのは売上ではなく、必要経費を差し引いた後の事業収入です。ここで正確な帳簿が効いてきます。経費が適切に認定されれば認定収入が下がり、そこからさらに勤労控除が引かれる。二段構えで手元に残る額が増える設計になっています。
実感として、帳簿をきちんと付けている人とそうでない人では、最終的に使えるお金がはっきり変わります。会計ソフトを使って月次で数字を締めておくだけで、収入申告書の作成が格段に楽になりますし、ケースワーカーへの説明の説得力も違います。無料プランのあるfreeeやマネーフォワードなどを使って、月末に一度だけ数字を整える習慣を作っておくといいでしょう。帳簿と確定申告の実務については、フリーランス 経理 確定申告 freee!2026年最新の時短術で会計ソフトを使った月次処理の手順をまとめています。
確定申告と収入申告は、まったく別の手続き
目的も提出先も期間も違う
この2つを混同している方が非常に多いので、はっきり整理します。確定申告は、税務署に対して1年分(1月1日から12月31日)の所得を申告し、所得税額を確定させる税の手続きです。提出時期は原則として翌年の2月16日から3月15日まで。窓口は税務署で、根拠は所得税法です。
一方、収入申告は、福祉事務所に対して毎月の収入状況を届け出る福祉の手続きです。提出時期は毎月または定期。窓口は福祉事務所で、根拠は生活保護法第61条です。
つまり、確定申告をしたから収入申告をしなくていい、ということには一切なりません。両方それぞれに義務があります。逆に、収入申告を出しているから確定申告は不要ということもありません。事業所得がある以上、要件を満たせば確定申告の義務は残ります。詳しくは国税庁のサイトやe-Taxで確認できます。
青色申告と減価償却の扱い
税務上のテクニックが、そのまま福祉行政の判断に通用するとは限らない点にも注意が必要です。たとえば青色申告特別控除は、税額を計算するための制度上の控除であって、実際にお金が出ていったわけではありません。そのため、生活保護における収入認定では、青色申告特別控除を差し引く前の金額を基礎とする取り扱いが一般的です。
減価償却も同様で、たとえばパソコンを分割して費用計上する処理は税務上の考え方です。福祉行政では、実際にその月に支出があったかどうかを重視するため、扱いが異なることがあります。※このあたりは自治体ごとの実施要領で細部が違うため、税理士と福祉事務所の両方に確認したほうが確実です。節税の考え方そのものについてはフリーランス 節税の教科書!手残りを最大化する控除と経費の全知識で控除と経費の全体像を整理しています。
仕事道具と生活環境の扱い
パソコン、スマートフォン、ソフトウェア
在宅で仕事をするうえでパソコンは必須です。生活保護を受けているとパソコンを持てないという話を聞くことがありますが、現在の運用ではそうではありません。処分価値が著しく高いものでなければ、日常生活用品として保有が認められ、事業に必要なものであればなおさら認められやすくなります。実際、就労活動や求職活動にもインターネット環境は不可欠であり、この点は現場でも理解が進んでいます。
問題になりやすいのは、新規に高額な機材を購入する場合です。数十万円のワークステーションを買うといったケースでは、その資金の出所と必要性の説明が求められます。買う前に相談する。この順番を守るだけで、後のトラブルはほとんど防げます。
自動車
自動車は、生活保護の実務でも扱いが厳しい資産のひとつです。原則として保有は認められませんが、例外もあります。障害があって公共交通機関の利用が困難な場合、公共交通機関が乏しい地域に住んでいる場合、そして事業に自動車が不可欠で、それによって得られる収入が維持費を上回る場合などです。
配送や出張撮影のように、車がなければ仕事が成立しない業種であれば、事業用資産として保有が認められる余地があります。ただし判断は個別的で、自治体差も大きい領域です。※車の保有可否は、口頭ではなく書面で条件を確認しておくことをおすすめします。
住まいと住宅扶助
家賃は住宅扶助として支給されますが、地域ごとに上限額が定められています。上限を超える家賃の物件に住んでいる場合は、より安い物件への転居を指導されることがあります。逆に、収入が増減しても住宅扶助の上限自体は変わりません。
自宅兼事務所として家賃の一部を経費計上している方は要注意です。住宅扶助で家賃が賄われている以上、その同じ家賃を事業経費として二重に控除することは認められません。ここは実務でよく混乱が起きる論点なので、家賃の扱いは必ず整理しておいてください。
ケースワーカーとの付き合い方が、結果を大きく左右する
相談は早く、具体的に、記録を残す
生活保護の実務は、担当のケースワーカーとのやり取りで進みます。私が見てきた限り、うまくいっている方に共通しているのは、判断が必要な場面で先に相談しているという点です。新しい取引先と契約する前、機材を買う前、引っ越しを考えた段階、収入が大きく変わりそうなとき。事後報告になるほど、選択肢は狭くなります。
相談するときは、抽象的な質問ではなく具体的な数字と状況で伝えます。「経費って認められますか」ではなく、「今月、外注のライターに3万円、素材サイトの利用料に5千円を支払いました。領収書はこれです。これは必要経費として認定されますか」という聞き方です。答える側も判断しやすくなり、話が早く進みます。
そして、やり取りは記録に残してください。相談した日付、担当者名、確認した内容、回答。ノートでもスマートフォンのメモでも構いません。担当者は数年で交代しますし、口頭の確認は後から食い違うことがあります。記録があるだけで、無用な争いをかなり防げます。案件や取引の記録管理そのものについては、フリーランス 転職活動 Notion 記録術!2026年最新の効率化で継続的に記録を残す仕組みの作り方を紹介しています。
判断に納得できないときの手段
ケースワーカーや福祉事務所の判断に納得できない場合、泣き寝入りする必要はありません。保護の開始や変更、廃止といった行政処分に不服がある場合は、都道府県知事に対して審査請求ができます。生活保護法第64条以下に定められた正式な手続きで、処分があったことを知った日の翌日から原則3か月以内に行う必要があります。
審査請求の裁決になお納得できなければ、その先に行政訴訟という道もあります。とはいえ、いきなりそこまで行くケースは多くありません。多くの行き違いは、事実関係の説明が足りていないことから生じています。まず資料を揃えて再度説明する。それでも動かなければ、法テラスや弁護士、生活保護問題に取り組む支援団体に相談する。※法的手続きに進む場合は、必ず弁護士に相談してください。段階を踏むことが大切です。
保護を受けながら、自立に向けて進むための道筋
就労自立給付金と自立支援プログラム
生活保護は、そこに留まり続けることを目的とした制度ではありません。収入が回復して保護を必要としなくなる、その過程を支える仕組みもあわせて用意されています。
代表的なのが就労自立給付金です。就労によって保護が廃止になった際に、それまで収入認定された額の一部を積み立てた形で支給される制度で、上限は単身世帯でおおむね10万円、複数世帯でおおむね15万円です。保護から抜けた直後は、税や社会保険料の負担が一気に発生するため、その谷を埋める役割を持っています。
また、各自治体では就労自立支援プログラムが実施されていて、ハローワークとの連携、職業訓練の紹介、履歴書や面接の支援などが受けられます。フリーランスとして仕事を増やしたい場合も、スキル習得の面で活用できる講座があります。
単価を上げる方向に力を配分する
フリーランスとして収入を回復させるとき、稼働時間を伸ばす方向には限界があります。1日は24時間しかありません。伸びしろがあるのは単価のほうです。同じ作業時間でも、扱う領域が変われば報酬水準は大きく変わります。
現在の相場感を知るには、職種別のデータを見るのが早いです。ソフトウェア作成者の年収・単価相場では開発職の報酬水準を、著述家,記者,編集者の年収・単価相場ではライティング・編集職の水準を、それぞれ職種単位で確認できます。自分の今の単価がどの位置にあるのかを客観的に把握することが、次の一手を決める材料になります。
需要が伸びている領域に軸足を移すのもひとつの方法です。AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、企業の業務にAIを組み込む支援業務の内容と求められるスキルを、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事では、AIとマーケティング、セキュリティを横断する職種の実際の業務を解説しています。開発寄りに進みたい場合はアプリケーション開発のお仕事が参考になります。
資格は「信用の代わり」として効く場面がある
実績がまだ薄い段階では、資格が信用の代わりになることがあります。事務系の受注を狙うならビジネス文書検定は、正確な文書作成能力を客観的に示す指標として使えます。インフラやネットワーク領域に進むならCCNA(シスコ技術者認定)が、ネットワーク技術の基礎を証明する定番の資格です。
ただし、資格取得にかかる費用や、その間の生活設計については、事前にケースワーカーと相談してください。技能習得費として支援の対象になる場合があり、自己資金だけで抱え込む必要がないケースもあります。※制度の適用可否は自治体判断なので、必ず確認してください。
支援制度の比較。生活保護だけが選択肢ではない
生活保護の申請を検討する段階で、他の制度も並行して確認しておく価値があります。状況によっては、生活保護より先に使える制度があるからです。
| 制度 | 主な内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 生活保護 | 最低生活費との差額を支給 | 期間の定めなし。資産・扶養照会あり |
| 生活困窮者自立支援制度 | 相談支援、家計改善支援、就労準備支援 | 保護に至る前段階。相談だけでも可 |
| 住居確保給付金 | 家賃相当額を一定期間支給 | 原則3か月、最長9か月。求職活動が要件 |
| 生活福祉資金貸付 | 生活費や一時的な資金の貸付 | 返済義務あり。低利または無利子 |
| 国民健康保険・年金の減免 | 保険料の減額・免除 | 所得減少時に申請可。時効に注意 |
とくに見落とされがちなのが、国民健康保険料と国民年金保険料の減免です。フリーランスは収入が下がっても保険料の請求は前年所得ベースで来るため、負担が重くのしかかります。所得が大きく減った場合の減免制度は各自治体にありますし、国民年金の免除申請は日本年金機構で手続きできます。免除を受けた期間も受給資格期間に算入されるので、未納のまま放置するより圧倒的に有利です。
まずは自治体の生活困窮者自立支援窓口に相談してみる、というのが実務上のおすすめです。ここは生活保護の申請窓口とは別に設けられていることが多く、生活保護に至る前の段階から相談に乗ってくれます。話をした結果、生活保護の申請につながることもありますし、他の制度で乗り切れることが分かる場合もあります。
市場を見てきた運営者の視点から
在宅ワークとフリーランスの市場を20年運営してきた立場から言えば、収入が急に落ちる人には共通する構造があります。取引先が1社か2社に偏っていること、そして、案件の受け渡しに複数の仲介が入っていて、実際に受け取る額が発注元の予算からかなり目減りしていることです。この2つが重なると、1社が離れた瞬間に生活が立ち行かなくなります。
運営者として見てきた限りでは、長く続いている人ほど、単発の作業をこなすことより「この人に任せると楽だ」という関係を作ることに時間を使っています。納期の連絡が早い、修正の意図を確認してから手を動かす、次に必要になりそうなことを先回りして伝える。こうした積み重ねが継続発注につながり、結果として収入の振れ幅を小さくします。技術の高さより、この安定感のほうが単価に効いている場面を何度も見てきました。
もうひとつ、額面と手取りの違いについて。同じ仕事でも、あいだに入る事業者が多いほど、受け手に届く額は薄くなります。中間マージンが乗らない直接取引であれば、依頼する側は同じ予算でより多くを頼めますし、受け手は手数料0%で手取りが厚くなります。この双方が得をする構造は、収入が最低生活費のあたりで揺れている人にとっては特に効いてきます。月々の利益が数万円変わるだけで、勤労控除と合わせて生活の余裕がまったく違ってくるからです。
生活保護を受けている期間を「止まっている時間」だと捉える必要はありません。制度が生活の土台を支えているあいだに、取引先を分散させ、単価の高い領域にスキルを寄せ、直接取引の比率を上げていく。その積み重ねが、保護から抜けた後も崩れない基盤になります。私が相談を受けてきた中で、実際に自立していった方々は例外なく、この期間を準備の時間として使っていました。
制度は、あなたを縛るものではなく支えるものです。収入を正しく申告し、勤労控除を使い、ケースワーカーと相談しながら進めることが、遠回りに見えて最も確実な道になります。法律はあなたの味方です。分からないことがあれば、ひとりで抱え込まず、必ず窓口で聞いてください。
よくある質問
Q. フリーランスでも生活保護は申請できますか?
申請できます。生活保護は職業や雇用形態で線を引く制度ではなく、世帯の収入が国の定める最低生活費に届いているかどうかで判断されます。開業届を出していても、事業を続けていても、それ自体が申請を妨げる理由にはなりません。ただし資産の有無や扶養義務者への照会など、他の要件も併せて確認されます。
Q. 生活保護における収入は売上と利益のどちらで見ますか?
必要経費を差し引いた後の利益で見ます。売上が20万円あっても外注費や材料費で13万円出ていれば、収入として認定されるのは7万円です。ただし税法上の必要経費と福祉行政で認められる経費は完全には一致せず、自宅家賃や私的利用が混ざる通信費は按分や否認になることがあります。帳簿と領収書を揃えて確認してください。
Q. 収入申告をしないとどうなりますか?
生活保護法第61条の届出義務違反となり、同法第78条にもとづいて支給された保護費の返還を求められます。悪質と判断されれば最大40%の上乗せ徴収や刑事告発に至ることもあります。福祉事務所は課税台帳の閲覧や金融機関への照会ができるため、時間差があってもいずれ把握されます。収入がゼロの月も申告が必要です。
Q. 働くと保護費がその分まるごと減りますか?
減りません。就労収入には勤労控除が適用され、一定額は収入認定から除外されて手元に残ります。基礎控除は月1万5千円程度までなら全額が控除され、収入が増えるにつれ控除額も段階的に増えます。新規就労控除や交通費の実費控除もあり、働いたほうが手元のお金は増える設計です。控除額は年度ごとに改定されるので最新額を確認してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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