アクセシビリティ対応を制作会社に依頼する際の伝え方|対応レベルの決め方 2026

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
アクセシビリティ対応を制作会社に依頼する際の伝え方|対応レベルの決め方 2026

この記事のポイント

  • アクセシビリティ対応 web制作 発注で検索する担当者向けに
  • 発注時の伝え方を整理しました
  • 費用相場と失敗しない依頼方法を解説します

「アクセシビリティ対応もお願いしたいのですが、見積もりにどう書けばいいですか」。制作会社への発注メールを前に、この一文で手が止まった経験がある担当者は少なくないはずです。結論から言うと、対応レベルを先に決めてから発注しないと、見積もりは大きくぶれます。本記事では、対応レベルの決め方、費用の内訳、依頼時の伝え方を、発注者が意思決定できる粒度で解説します。

アクセシビリティ対応の発注が増えている背景

2024年4月、改正障害者差別解消法が施行され、事業者による合理的配慮の提供が民間事業者にも義務化されました。これに伴い、公共性の高いWebサイトを中心に、アクセシビリティ対応を制作要件に含めるケースが増えています。特に自治体案件、金融機関、EC事業者からの問い合わせが目立つようになりました。

ただし、ここで多くの発注担当者が誤解しているポイントがあります。法律が求めているのは「合理的配慮」であり、「JIS X 8341-3のAAA準拠を義務付ける」ものではありません。国のWebサイトはAA準拠が推奨基準になっていますが、民間企業のコーポレートサイトに一律の準拠義務があるわけではないのです。この違いを理解しないまま発注すると、不要に高額な見積もりを受け取ることになります。

市場動向として、Webアクセシビリティの診断・改修を専門にする制作会社や診断会社が増えており、一部では既存の受託制作にアクセシビリティ対応をオプションメニューとして組み込む動きも見られます。

EGテスティングサービスは、これまでの「Webアクセシビリティ診断」の提供を通じて、このような課題を多く経験してまいりました。そこで、初期段階のポリシー策定やデザイン設計から伴走支援し、構築後の診断までアクセシブルなサイト構築のためのサポートを一気通貫で提供する「Webアクセシビリティ対応サイト構築支援」を提供開始する運びとなりました。 出典: eg-testing.co.jp

この動きが示すのは、アクセシビリティ対応が「後から追加するオプション」ではなく「設計段階から組み込むべき要件」に変わりつつあるという点です。発注者側もこの前提で見積もり依頼を出す必要があります。

対応レベルは3段階で考える

アクセシビリティ対応と一口に言っても、実際の作業範囲は大きく異なります。発注前に、自社がどの段階を目指すのかを決めておくことが最重要です。

レベル1:基本的な配慮(コスト影響小)

画像への代替テキスト(alt属性)の付与、見出し構造(h1〜h6)の適切な使用、フォームのラベル付け、色のコントラスト比の確保など、設計・実装段階で意識すれば追加コストがほとんど発生しない項目です。新規制作であれば、この水準は標準対応として盛り込んでもらうのが現実的です。

レベル2:JIS X 8341-3 準拠を目指す対応(コスト影響中)

日本の公的なアクセシビリティ規格であるJIS X 8341-3に準拠する場合、キーボード操作のみでの全機能利用、スクリーンリーダーでの読み上げ確認、動画への字幕・音声解説の検討など、実装後の検証作業が必須になります。この段階から、専門ツールでの自動診断や手動チェックの工数が発生し、見積もりに数十万円単位で影響します。

レベル3:第三者機関による準拠試験・証明(コスト影響大)

「準拠している」ことを対外的に証明する必要がある場合、第三者機関による試験を受け、試験結果を公開します。自治体の入札案件や大企業のIR関連サイトで求められることが多い水準で、診断費用だけで数十万円から百万円規模になることもあります。

この3段階のどこを目指すのかを最初に明確にしないまま「アクセシビリティ対応もお願いします」とだけ伝えると、制作会社側はレベル3を想定して高額な見積もりを出すか、逆にレベル1程度の対応で見積もりを出して後から認識のズレが発覚するか、どちらかのリスクが生まれます。

Webサイトは、誰もが使えてはじめて意味をもつ。そう口にするのは簡単ですが、実際にそれを体現できている企業は、まだ多くありません。 出典: goodproductionsjp.com

理念として「誰もが使えるサイト」を掲げるのは簡単ですが、発注の現場では理念だけでは見積もりが取れません。次章では、実際に発注する際にどう伝えれば良いかを具体的に見ていきます。

発注時に伝えるべき5つの項目

制作会社やフリーランスに依頼する際、以下の5点を発注前に整理しておくと、見積もりのズレを大幅に減らせます。

1. 目指す準拠レベル(AまたはAA)

JIS X 8341-3(およびその元になっているWCAG 2.1)には、A・AA・AAAという3段階の適合レベルがあります。国のガイドラインではAA準拠が推奨されており、民間企業でもAA準拠を目標にするケースが最も多く見られます。AAA準拠は動画の手話通訳など要求水準が非常に高く、一般的な企業サイトでは現実的ではありません。「AA準拠を目指す」と伝えるだけで、制作会社側の見積もり精度は大きく上がります。

2. 対象範囲(全ページか主要ページのみか)

サイト全体を対象にするのか、トップページと主要な流入ページのみを対象にするのかで、工数は数倍変わります。100ページ規模のサイトで全ページ診断を依頼すると、診断だけで見積もりが膨らみます。まずは主要な導線となる10〜20ページに絞って対応し、段階的に拡大する進め方も実務では一般的です。

3. 診断のみか、改修まで含めるか

「現状のアクセシビリティ課題を洗い出してほしい」という診断だけの依頼と、「課題を洗い出した上で改修も実施してほしい」という依頼では、当然費用構造が異なります。診断のみであれば数万円から十数万円、診断+改修まで含めると、サイト規模に応じて数十万円から百万円超まで幅が出ます。

4. 新規制作か、既存サイトの改修か

新規制作の場合、設計段階からアクセシビリティを組み込めるため、追加コストを抑えやすい傾向があります。一方、既存サイトの改修は、既存のコード構造やCMSの制約の中で対応する必要があり、作業難易度が上がりやすい点に注意が必要です。

5. 検証方法(自動ツールのみか、実機での手動確認も含めるか)

自動診断ツール(axe DevToolsなど)によるチェックのみか、スクリーンリーダー実機での手動確認まで含めるかで、工数が大きく変わります。自動ツールだけでは検出できない課題(読み上げ順序の不自然さ、操作フローの分かりにくさなど)は手動確認でしか見つからないため、本格的な準拠を目指すなら手動確認は避けて通れません。

この5項目を発注前に社内で整理し、見積もり依頼のメールや発注書に明記しておくことで、制作会社側も的確な見積もりを出しやすくなります。逆にこれらが曖昧なまま「アクセシビリティ対応込みで見積もりください」とだけ依頼すると、制作会社側は最も安全な(=高額な)前提で見積もりを組まざるを得ません。

費用相場の目安

発注者が知りたいのは、結局いくらかかるのかという点でしょう。案件の内容によって幅がありますが、目安として以下のレンジで捉えておくと判断しやすくなります。

対応内容 費用目安 期間目安
主要ページのみ自動診断 5万円〜15万円 1〜2週間
全ページ自動+手動診断 15万円〜50万円 3〜6週間
診断+改修(中規模サイト) 30万円〜100万円 1〜3ヶ月
第三者機関の準拠試験 50万円〜150万円 2〜4ヶ月
新規制作時の標準組み込み +5万円〜20万円(制作費に加算) 制作期間内

これらはあくまで目安です。サイトの規模、既存コードの状態、CMSの種類(WordPressか独自CMSか)によって上下します。重要なのは、複数社から見積もりを取る際、この目安から大きく外れる金額(極端に安い、あるいは極端に高い)が出てきたら、その理由を必ず確認することです。極端に安い見積もりは自動診断のみで手動確認を含んでいない可能性があり、極端に高い見積もりは不要にレベル3相当の対応まで含んでいる可能性があります。

見積もり比較で見るべきポイント

複数の制作会社から見積もりを取る際、単純な総額比較だけでは適正な判断ができません。以下の観点で内訳を確認することをおすすめします。

診断ツールと診断者の内訳が明記されているか

「アクセシビリティ診断一式」とだけ書かれた見積もりは要注意です。自動ツールでの診断がベースなのか、専門の診断者による手動チェックが含まれているのかで、精度も費用も全く異なります。内訳が不明瞭な場合は、必ず質問して確認しましょう。

改修範囲が具体的に示されているか

「気になる箇所を修正します」ではなく、「alt属性の未設定箇所を洗い出し、〇〇件を修正」「コントラスト比不足の箇所を〇〇件修正」のように、具体的な件数や範囲が示されているかを確認します。範囲が曖昧だと、後から「これは対象外です」と追加費用を請求されるリスクがあります。

アフターフォローの有無

アクセシビリティ対応は一度実施して終わりではありません。サイト更新のたびに新しいコンテンツが追加され、そのたびに新たなアクセシビリティ課題が生まれます。改修後の運用フェーズでどこまでサポートしてもらえるのか(月次チェックの有無、更新時のガイドライン提供の有無)を確認しておくと、長期的な費用対効果が見えやすくなります。

発注先の選び方

アクセシビリティ対応を依頼する先は、大きく3つのパターンに分かれます。

アクセシビリティ診断を専門にする会社

診断・改修の専門性が高く、JIS X 8341-3への理解も深い一方、Webサイト制作自体は請け負っていないケースが多く、制作会社との二重発注になりやすい点に注意が必要です。

アクセシビリティ対応を標準メニューに含む制作会社

制作から診断・改修まで一気通貫で依頼できるため、窓口が一本化される利点があります。ただし、アクセシビリティの専門性は会社によって差が大きく、実績を必ず確認する必要があります。

アクセシビリティ対応の経験があるフリーランスエンジニア

手数料0%で直接依頼できる分、同じ予算でより多くの作業時間を確保できるのが直接取引の強みです。代理店・仲介会社を通すと中間マージンが上乗せされ、その分は実際の診断・改修作業には使われません。フリーランスへ直接依頼すれば、その差分がそのまま作業の質や量に反映されます。一方で、個人に依頼する場合は、実績とスキルの見極めがより重要になります。過去の対応実績、JIS X 8341-3への理解度、実際に使用しているスクリーンリーダーの経験などを確認してから発注することをおすすめします。

私自身、初めてアクセシビリティ対応を外部に依頼したとき、複数社の見積もりを金額だけで比較して安い会社を選んだ結果、納品物が自動診断レポートの転記に近く、実際の改修提案がほとんど含まれていなかった経験があります。以降は、見積もり比較の際に必ず「診断結果に基づく具体的な改修提案が何件含まれるか」を確認するようにしています。金額だけで判断すると、こうした認識のズレが起きやすいというのが実感です。

発注書・見積もり依頼書に書くべき文面例

実際に発注する際、見積もり依頼書に何を書けばよいか迷う担当者も多いでしょう。以下は依頼文面の骨子です。

「〇〇株式会社様。弊社Webサイトのアクセシビリティ対応について、以下条件でお見積もりをお願いいたします。 目指す準拠レベル:JIS X 8341-3 レベルAA準拠 対象範囲:トップページおよび主要導線ページ〇〇ページ 対応内容:自動診断+手動診断+改修提案(改修実装は別途相談) 希望納期:〇〇年〇〇月末 現状のCMS:WordPress(テーマは〇〇を使用)」

このように、対応レベル・対象範囲・対応内容・納期・技術環境の5点を明記するだけで、制作会社側は精度の高い見積もりを提示しやすくなります。逆にこれらが不明瞭なまま「アクセシビリティ対応をお願いします」とだけ送ると、往復のやり取りに時間がかかり、発注までのリードタイムが伸びる原因になります。

よくある失敗パターンと回避策

失敗1:見積もり時点でレベルを決めていない

前述の通り、目指す準拠レベルを決めずに見積もりを依頼すると、金額の比較ができません。A社はレベル1相当、B社はレベル2相当の見積もりを出してきた場合、単純な金額比較は意味を持ちません。必ず同じ前提条件で複数社に見積もりを依頼しましょう。

失敗2:診断だけで満足してしまう

診断レポートを受け取って「課題が分かってよかった」で終わってしまうケースが少なくありません。しかし、診断は改善の出発点に過ぎません。改修まで実施しなければ、実際にアクセシビリティが向上することはありません。診断予算と改修予算を分けて確保しておくことをおすすめします。

失敗3:制作会社任せにして社内でチェックしない

アクセシビリティ対応は制作会社に任せきりにできる領域ではありません。特に、コンテンツ担当者が日常的に更新する画像や記事に代替テキストを付け忘れると、どれだけ制作会社が丁寧に対応しても効果が薄れます。制作会社に運用ガイドラインの作成まで依頼し、社内の更新フローに組み込むことが重要です。

独自データから見る発注動向の考察

受発注システムのクラウド化2026|FAXから脱却してIT導入補助金を活用する方法で触れたように、業務のデジタル化・IT導入補助金の活用は中小企業にも広がっています。アクセシビリティ対応も同様に、単発の改修プロジェクトとしてではなく、継続的な業務委託として捉える発注者が増えている傾向があります。

20年この市場を見てきた立場から言えば、アクセシビリティ対応の発注で成功している企業ほど、一度きりの改修で終わらせず、継続的にチェックできる体制を作っています。単発の診断・改修だけを発注して終わりにすると、半年後にはまた元の状態に戻ってしまうケースを何度も見てきました。月次や四半期ごとに簡易チェックを依頼できる関係性を築いている発注者の方が、結果的にトータルコストを抑えられている印象があります。

また、運営者として見てきた限りでは、代理店経由での発注と、実務者への直接発注とでは、コミュニケーションの速度に明確な差が出ます。代理店を挟むと、診断結果の解釈や改修の優先順位付けについて質問しても、担当者を介して実務者に確認が入り、回答までに数日かかることが珍しくありません。一方、実務者に直接依頼している場合は、この確認プロセスが省略され、同じ予算でも実質的な対応スピードが上がる傾向があります。中間マージンが乗らない直接取引は、依頼者側がより多くの作業時間を確保できるだけでなく、コミュニケーションの手取り速度も厚くなるという構造がここにあります。

Webアクセシビリティの対応範囲は、SNS運用代行 フリーランスで稼ぐ!発注者視点で成功の秘訣と注意点を解説で紹介したような他の外部委託業務と同様、最初の依頼範囲を明確にすることが成否を分けます。特にエンジニアリング寄りの発注では、見積もり比較の前に技術要件を固める作業自体が、発注者側の重要な役割になります。この点で、Web制作フリーランスの見積もり術|適正価格の出し方と交渉テクニックで解説した見積もり比較の考え方は、アクセシビリティ対応の発注にもそのまま応用できます。

制作パートナーを探す際は、アプリケーション開発のお仕事で紹介しているような技術者向けの募集情報から、アクセシビリティ対応の実績を持つエンジニアを探す方法もあります。また、社内でアクセシビリティ対応の必要性を説明する資料作成やコンサルティングが必要な場合は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事のような業務活用支援の専門家に相談する選択肢も検討する価値があります。

対応レベルを明確にした上で発注すれば、アクセシビリティ対応は決して手の届かない高額プロジェクトではありません。むしろ、段階を踏んで着実に対応することで、費用対効果の高い投資になります。

よくある質問

Q. アクセシビリティ対応は必ずJIS X 8341-3のAAA準拠まで必要ですか?

必要ありません。国のWebサイトはAA準拠が推奨基準で、民間企業の多くもAA準拠を目標にしています。AAA準拠は要求水準が非常に高く、一般的な企業サイトでは現実的ではないケースがほとんどです。

Q. 既存サイトの改修と新規制作、どちらが費用を抑えやすいですか?

新規制作の方が費用を抑えやすい傾向があります。設計段階からアクセシビリティを組み込めるため、後から改修するより追加コストが少なく済みます。既存サイトは既存コードの制約があり、作業難易度が上がりやすいです。

Q. 自動診断ツールだけでアクセシビリティ対応は完結しますか?

完結しません。自動ツールは一部の課題しか検出できず、読み上げ順序の不自然さや操作フローの分かりにくさは手動確認でしか見つかりません。本格的な準拠を目指す場合は手動確認が必須です。

Q. アクセシビリティ対応を発注する際、最初に決めるべきことは何ですか?

目指す準拠レベル(AまたはAA)、対象範囲、診断のみか改修まで含めるか、新規制作か既存改修か、検証方法の5点です。これらを明確にしてから見積もりを依頼すると、比較検討がしやすくなります。

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この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年6月6日最終更新:2026年7月31日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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