翻訳で合わない依頼は代わりの案を出して断ると角が立たない


この記事のポイント
- ✓翻訳の断り方を在宅フリーランスの実務目線で解説
- ✓関係を壊さずに断る文面の型と
- ✓次も声がかかる断り方の条件をまとめました
先日、在宅で翻訳をされている方から相談を受けました。「翻訳会社のコーディネーターから来る依頼を一度も断ったことがなくて、体調を崩しても引き受けてしまう」と。結論から言うと、断ることそのものより、断り方の設計がないことが問題です。翻訳 断り方 在宅と検索してこの記事にたどり着いた方は、たぶん「断ったら次の依頼が来なくなるのでは」という不安を抱えていると思います。
これ、知らない人が本当に多いんですが、翻訳の世界では「上手に断れる人」のほうが長く仕事を続けています。コーディネーターの側から見ると、受けられないのに引き受けて納期に間に合わない翻訳者より、すぐに「今回は無理です」と返してくれる翻訳者のほうがはるかにありがたい。断ることは、信頼を減らす行為ではなく、信頼の質を保つ行為なんです。
この記事では、納期が厳しい依頼、単価が合わない案件、機械翻訳の後編集(MTPE)案件、専門外の分野、そして継続案件から抜けたい場合まで、場面別にそのまま使える文面の型をお渡しします。あわせて、断る判断を機械的に下すための基準と、契約上の注意点も書きます。法律はあなたの味方です。断る自由は、業務委託という契約形態にもともと組み込まれています。
在宅翻訳の市場構造と、断りにくさが生まれる理由
翻訳の依頼は「打診」であって「命令」ではない
まず、法的な前提を整理します。翻訳会社やクライアントから来る依頼は、法律上は「契約の申込み」または「申込みの誘引」にあたります。つまり、あなたが「お受けします」と返事をして初めて契約が成立します。打診の段階では、まだ何の義務も発生していません。
これ、本当に大事なところです。「依頼が来た=受けなければならない」と思い込んでいる方が非常に多い。継続的に取引がある翻訳会社であっても、個々の案件は独立した契約です。前回受けたことが、今回も受ける義務を生むことはありません。
例外は、業務委託基本契約に「一定期間、優先的に受注する」といった条項がある場合です。ただ、在宅翻訳者と翻訳会社の間で交わされる基本契約の多くは、機密保持や品質基準を定めるもので、受注義務までは課していないのが一般的です。※ご自身の契約書に「受注義務」「専属」といった文言がある場合は、断る前に条項を確認してください。判断に迷う内容であれば、弁護士に相談することをおすすめします。
継続案件が「断りにくさ」を作る
翻訳の仕事には、断りにくさを生む固有の構造があります。それが、シリーズもの・継続案件の存在です。
特にYoutube動画やゲーム案件はシリーズものが多いので、1件完結というよりは新規動画や新規アップデートがあるたびに依頼が入ってくるという感じです。 出典: kankokuhonyakunavi.com
シリーズものは、翻訳者にとって収入の安定につながる一方、断りにくさの温床になります。用語集も文体も自分が作ってきたものなので、途中で抜けると引き継ぎコストが発生します。「私が抜けたら品質が落ちる」という責任感が働き、無理をして受け続けてしまう。
もう一つ、断ることが実質的に複数件の断りになるという問題もあります。1件を断ると、その後のシリーズも他の翻訳者に回る可能性がある。だから1件の判断が重く感じられます。
この構造を理解した上で、対策は明確です。継続案件を受けるときに、あらかじめ「稼働可能な範囲」を伝えておくこと。後から抜けるのは難しいので、入るときに条件を明示するのが唯一の解決策です。
在宅翻訳の単価と稼働の実態
判断基準を作るために、市場の数字を押さえておきます。
翻訳の報酬は、原文の文字数またはワード数に単価を掛けて算出するのが一般的です。日英翻訳では原文1文字あたり6円から15円程度、英日翻訳では原文1ワードあたり8円から20円程度という幅で提示されることが多く、専門分野や品質要求によってさらに上下します。映像翻訳では分単位、字幕では尺単位で計算されることもあります。
重要なのは、単価そのものより処理速度との掛け算です。1日に処理できる原文量は、分野と難易度によって大きく変わります。一般的なビジネス文書なら1日2,000ワード前後、専門性の高い技術文書や法務文書なら1,000ワード前後まで落ちるのが実務感覚です。
ここに調査時間が加わります。専門用語の確認、クライアントの既存資料との整合、スタイルガイドの参照。この時間は報酬に含まれないことが多い。実務では、翻訳時間の20%から40%を調査時間として見込むのが現実的です。
翻訳関連の職種の報酬水準を俯瞰したい方は、英語・多言語翻訳のお仕事に在宅翻訳の実際の業務内容がまとまっています。映像分野の相場感は映像翻訳・字幕・通訳のお仕事で確認できます。
断る判断を機械化する「4つの基準」
基準1、稼働可能な日数と処理量の上限
まず決めるのは、自分の処理能力の上限です。「1日に処理できるのは2,000ワードまで」「週の稼働は5日まで」といった形で数字にします。
この数字を持っていると、依頼が来た瞬間に判断できます。「金曜納品で8,000ワード」という打診に対して、今日が水曜なら2日で8,000ワード、1日4,000ワードが必要になる。上限の2倍なので受けられない。判断は10秒です。
数字を持っていないと、「頑張ればできるかも」という曖昧な検討が始まります。そして、たいてい引き受けてしまう。徹夜を前提にした受注は、品質低下と体調悪化の両方を招きます。
処理量の上限は、実測して決めてください。過去の案件で、実際に何ワードを何時間で仕上げたか。感覚ではなく記録から出した数字が、最も信頼できる基準になります。
基準2、単価の下限ライン
次に、受けない単価を決めます。ワードあたり、文字あたり、分あたりのいずれかで下限を設定してください。
下限を決める根拠は、時間あたり報酬から逆算するのが合理的です。時間あたり3,000円を目標とし、1時間に300ワード処理できるなら、ワード単価10円が下限になります。調査時間を含めて実質250ワードなら、下限は12円です。
この計算をしておくと、単価交渉が具体的になります。「安いです」ではなく「この分野ですと調査時間を含めて時間あたり200ワード程度になるため、ワード単価12円をいただけないと採算が合いません」と言える。数字は反論されにくいのです。
基準3、受けない分野の定義
専門外の分野は、はっきり定義しておきます。医療、法務、特許、金融、IT。それぞれ求められる知識が違います。
専門外を受けることのリスクは、単に時間がかかるというだけではありません。誤訳が事故につながる分野があります。医薬品の添付文書、契約書の条項、安全に関わる技術文書。ここでの誤訳は、賠償責任の問題に発展する可能性があります。
だから、受けない分野を決めることは自己防衛でもあります。「対応分野はマーケティング、一般ビジネス、観光です。医療と法務は対応しておりません」と最初に伝えておけば、そもそも来なくなります。
自分の専門性を客観的に示す手段として、資格を持っておくのも有効です。翻訳の品質基準に関する認証としてはJTF翻訳品質認証があり、中国語分野では中国語検定(中検)1級が実力の指標として通用します。資格は営業材料であると同時に、「この分野は対応、この分野は非対応」という線引きの根拠にもなります。
基準4、受けない作業形態
近年、判断が必要になっているのが作業形態です。特に機械翻訳の後編集、いわゆるMTPEを受けるかどうか。
MTPEは、機械翻訳の出力を人間が修正する作業形態です。単価は通常翻訳より低く設定されることが多く、翻訳者にとって採算判断が難しい領域になっています。
実務者からは、こうした声が上がっています。
ところが、MTPEには合わないと思っていたマーケティング翻訳がMTPEに移行するという連絡がきたのです。訳すのはホームページなど会社の顔となるような、既存顧客や潜在顧客も頻繁に見に来る場所です。これまでの私のMTPE体験を踏まえると、ホームページのようなところにMTPEを使おうというのは愚案としか思えませんでした。 出典: anneblog.net
さらに、スキル面での懸念も指摘されています。
これまでのMTPEやMTPEのレビュー経験からいって、MTPEをやればやるほど翻訳する力も、日本語を書く力も衰えていくためできる限りやりたくないです。 出典: anneblog.net
MTPEを受けるかどうかは個人の判断ですが、判断を先に決めておくことが重要です。案件ごとに悩むと、そのつどエネルギーを使います。「MTPE案件は原則お受けしていません」あるいは「MTPEは通常単価の70%以上でのみ対応します」と決めておけば、返事は即答できます。
場面別、関係を壊さない断り方の型
断り文の基本構造は「即答・感謝・事実・代替」
翻訳の断り文で最も重要なのは、実は内容ではなくスピードです。コーディネーターは、あなたに打診しながら次の候補も探しています。返事が早ければ早いほど、相手の手間が減ります。
理想は打診を受けてから2時間以内、遅くとも当日中です。「検討して明日返事します」は、相手のスケジュールを止めてしまいます。
文面の構造は4つのブロックです。
第1ブロック、感謝。「ご連絡ありがとうございます」「お声がけいただき光栄です」。
第2ブロック、結論。「大変申し訳ございませんが、今回はお受けすることができません」。ここを先に書きます。相手は結論を先に知りたいからです。
第3ブロック、事実。「〇日まで別案件が入っており、ご希望の納期に対応できません」。理由を1文で。長く書かないこと。
第4ブロック、代替。「〇日以降でしたら対応可能です」「今後も同様の案件がございましたら、ぜひお声がけください」。次につなげます。
この構造の肝は、結論を第2ブロックに置くことです。日本語のビジネス文書では結論を後ろに置きがちですが、断りの連絡では逆です。相手は次の翻訳者を探す必要があるので、結論が先にあるほうが親切です。
納期が厳しい案件を断る文面
最も多い断りの場面です。
「〇〇様
いつもお世話になっております。このたびはお声がけいただきありがとうございます。
大変申し訳ございませんが、今回のご依頼は納期の都合でお受けすることができません。8月8日まで別案件のスケジュールが埋まっており、ご希望の8月7日納品には対応が難しい状況です。
8月9日以降のご納品でよろしければ対応可能ですので、スケジュールのご調整が可能でしたらお知らせください。難しい場合は、他の方にご依頼いただけますと幸いです。
引き続きよろしくお願いいたします。」
この文面のポイントは3つです。
1つ目、断る理由を「別案件のスケジュール」という具体的な日付で示しています。「忙しくて」ではなく日付を出すことで、事実であることが伝わります。
2つ目、対応可能な日付を提示しています。相手は納期を調整できるかもしれない。可能性を残すことで、機会を捨てずに済みます。
3つ目、「他の方にご依頼いただけますと幸いです」と、相手が次に取るべき行動を明示しています。これはコーディネーターにとって非常にありがたい一文です。
単価が合わない案件を断る文面
お金の話は、感情を入れないのが鉄則です。
「〇〇様
ご連絡ありがとうございます。案件の詳細を拝見しました。
今回の分野は専門用語の確認に相当の時間を要するため、ご提示の単価ですと採算が合わず、今回は辞退させていただきたく存じます。
参考までに、この分野ですと調査時間を含めて1日あたり1,200ワード程度の処理量となります。ワード単価14円以上でご調整いただけましたら、お受けすることが可能です。
ご検討いただけますと幸いです。今後とも何卒よろしくお願いいたします。」
この文面では、断りと交渉を同時に行っています。「14円以上なら受ける」という条件を提示することで、相手に判断を委ねています。
注意点として、「安すぎます」「割に合いません」という評価の言葉は使わないこと。評価は反論を招きますが、「1日1,200ワードです」という測定値は反論できません。事実で語るのが最も強い交渉です。
また、単価交渉を持ちかけることで関係が悪くなるのでは、と心配される方がいます。実務上、単価交渉自体が失礼にあたることはありません。翻訳会社側も、社内で単価改定の余地を持っていることがあります。聞かなければ絶対に上がりません。
MTPE案件を断る文面
作業形態が理由の断りは、品質の観点から説明すると納得が得られやすい。
「〇〇様
お世話になっております。ご案内いただきありがとうございます。
今回の案件はMTPEでの対応とのことですが、当方は原則としてMTPEをお受けしておりません。特にマーケティング分野の文章では、機械翻訳の出力を基に修正するより、原文から訳し起こしたほうが結果的に品質と作業効率の両面で優れると考えているためです。
通常翻訳としてのご依頼でしたら、引き続き対応可能です。今後もぜひお声がけいただけますと幸いです。」
この文面は、断りの理由を「品質と効率」という相手の利益に紐づけています。「単価が安いから嫌だ」ではなく「この方式は成果物のためにならない」と述べることで、プロとしての判断に見えます。
実際、マーケティング系や創造性を要する文章では、機械翻訳の出力に引きずられて訳文が硬くなるという現象が起きます。これは翻訳者側の都合ではなく、成果物の品質に関わる論点です。
専門外の分野を断る文面
専門外は、正直に伝えるのが最善です。
「〇〇様
ご連絡ありがとうございます。案件内容を拝見いたしました。
今回は医療機器の技術文書とのことですが、当該分野は専門外のため、責任を持って品質を担保することができません。誤訳が重大な影響につながる分野でもございますので、今回は辞退させていただきます。
マーケティング資料、Webサイト、観光関連の文書でしたら、引き続き対応可能です。該当する案件がございましたら、ぜひお声がけください。
よろしくお願いいたします。」
「品質を担保できません」と「誤訳が重大な影響につながる」という2点を挙げることで、断りが誠実さの表れになります。無理に受けて事故を起こすより、はるかに信頼されます。
そして必ず、対応できる分野を明記してください。断りの連絡は、同時に営業の機会でもあります。
継続案件から抜ける文面
シリーズものから抜けるのは、最も配慮が必要な場面です。引き継ぎコストを相手が負うことになるからです。
「〇〇様
いつもお世話になっております。ご相談があり、ご連絡いたしました。
現在担当させていただいているシリーズについて、来月以降の対応が難しくなりました。他案件のスケジュールとの兼ね合いで、継続的な稼働時間の確保ができない見込みです。
現在お預かりしている第12話までは責任を持って納品いたします。また、これまで作成した用語集とスタイルメモを整理してお渡ししますので、後任の方への引き継ぎにお使いください。
直前のご連絡となり申し訳ございません。他の案件では引き続き対応可能ですので、今後ともよろしくお願いいたします。」
この文面の核は「用語集とスタイルメモを整理してお渡しします」の一文です。継続案件を降りるときの最大の負担は引き継ぎなので、そこを引き受ける姿勢を示すと、相手の受け止め方がまったく変わります。
そして、抜ける連絡はできるだけ早く。継続案件の場合、次の話数が発注される前に伝えるのが鉄則です。
断り文で避けるべき表現
翻訳の断り文で使わないほうがいい言葉を整理します。
「今は忙しくて」は暇になれば受けられると読まれ、再打診の口実になります。「難しいかもしれません」は保留に見えて、相手のスケジュールを止めます。「検討させてください」と言って翌日返事するのも、緊急案件では実質的な迷惑です。「すみません」の連発は立場を弱く見せ、次の交渉を不利にします。
そして最も避けるべきは、返事をしないことです。断りにくいからと既読のまま放置するのが、最も関係を損ないます。断ることより、返事がないことのほうがコーディネーターにとって困ります。
代わりに使うのは、「〇日まで別案件が入っております」「この分野は対応しておりません」「ワード単価14円以上でしたら可能です」といった、日付・分野・数字を含む具体的な言葉です。
断ることが評価につながる理由
コーディネーターの立場から見た「良い断り方」
翻訳会社のコーディネーターは、クライアントから受注した案件を翻訳者に割り振る役割です。彼らのKPIは、納期どおりに品質を満たした成果物を届けること。だから最も困るのは、引き受けた翻訳者が納期に間に合わないことです。
この視点で見ると、良い断り方の条件は3つです。
1つ目、早いこと。打診から数時間以内に返事があれば、コーディネーターは次の候補にすぐ動けます。
2つ目、条件が明確なこと。「9日以降なら可能」「14円以上なら可能」と条件が示されていれば、社内で調整できるかどうかを判断できます。
3つ目、代替の方向を示すこと。「この分野は対応可能です」と書いてあれば、次の案件で声をかけやすい。
逆に、悪い断り方は「返事が遅い」「理由が曖昧」「今後の可能性が見えない」の3つです。これらがそろうと、リストから外れる可能性が高まります。
つまり、断ること自体はマイナス評価になりません。断り方の質が評価されているのです。
断らないことのリスク
無理に受けたときに起きることを整理しておきます。
第一に、品質低下です。時間が足りないと、調査を省き、推敲を飛ばすことになります。翻訳の品質は推敲で決まる面が大きいので、ここを削ると成果物の水準が落ちます。一度品質が落ちると、その印象は長く残ります。
第二に、納期遅延です。これは最も深刻で、クライアントの公開スケジュールやイベント日程に影響します。翻訳会社の信用問題に直結するため、一度の遅延で取引が終わることもあります。
第三に、健康の問題です。在宅翻訳は座業で、長時間の集中を要します。無理な稼働が続くと、眼精疲労、腱鞘炎、腰痛、そして睡眠障害につながります。健康を損なうと、稼働そのものができなくなります。
第四に、単価が上がらなくなることです。どんな条件でも受ける翻訳者に、単価を上げる理由はありません。断らないことは、長期的には自分の市場価値を下げる行為です。
私が断れなかった時期のこと
正直に書くと、私も断ることが苦手でした。独立して間もない頃、相談の依頼を全部受けていた時期があります。断ったら次がないと思っていたからです。
結果として、締切が重なった週に対応が雑になり、ある案件で確認漏れが起きました。幸い大事には至りませんでしたが、そのとき理解したのは、断らなかったことで結局相手に迷惑をかけたという事実です。受けた時点では善意でも、履行できなければ悪影響のほうが大きい。
もう一つ学んだのは、断る文面をテンプレート化することの効果です。毎回ゼロから考えるから消耗するのであって、場面別の型を用意しておけば、返事は3分で書けます。断る作業を感情労働から事務作業に変える。これが、続けるための最大の工夫でした。
契約と法律の観点から押さえておくこと
報酬の支払いに関するルール
翻訳者が事業者から業務委託を受ける場合、報酬の支払いについて一定のルールがあります。発注者は、成果物を受領した日から起算して一定期間内に報酬を支払う義務を負います。「クオリティに納得がいかない」という主観的な理由だけで支払いを拒むことは、原則として認められません。
つまり、納品後に一方的に支払いを止められた場合、泣き寝入りする必要はないということです。こういうケース、実は本当に多い。特に、修正指示が繰り返されて事実上の無償労働になっているケースは、翻訳の現場でよく見かけます。
対策は、受注時に修正対応の範囲を明記することです。「軽微な修正は2回まで無償、それ以降および仕様変更に伴う修正は別途お見積り」といった条件を、見積書や受注メールに書いておく。これが後から効いてきます。
事業者間の取引の適正化については公正取引委員会が情報を公開しています。※支払いが滞っている、修正が際限なく続くといった状況が深刻な場合は、早めに弁護士に相談してください。金額が大きい案件ほど、初動が重要です。
受注前に確認すべき5項目
断るかどうかを判断する前に、確認すべき項目があります。これを聞かずに受けると、後で断りたくなる案件を引き受けることになります。
1つ目、原文の分量と形式。ワード数、ファイル形式、翻訳支援ツールの指定の有無。
2つ目、納期と中間納品の有無。分納が必要かどうかで作業計画が変わります。
3つ目、修正対応の範囲と回数。ここを曖昧にすると、後の負担が読めません。
4つ目、参考資料の有無。用語集やスタイルガイド、過去の翻訳データがあるかどうかで作業時間が大きく変わります。
5つ目、支払い条件。締め日、支払日、振込手数料の負担。
この5つを聞いた上で判断すれば、受けてから後悔することが減ります。そして、質問すること自体がプロらしさの表れになります。曖昧なまま受ける翻訳者より、条件を確認する翻訳者のほうが信頼されます。
税務と収入管理
在宅翻訳の報酬は、原則として事業所得または雑所得として扱われます。翻訳会社から支払われる報酬には源泉徴収が行われることが多く、確定申告で精算します。
副業として翻訳をしている場合、一定額を超えると確定申告が必要になります。経費として計上できるものには、辞書やツールの購入費、通信費、書籍代、資料代などがあります。詳細は国税庁の情報を確認してください。
収入の見通しを立てておくことは、断る力にも直結します。年間の収入計画があれば、「この案件を断っても年間の目標には届く」という判断ができます。逆に計画がないと、目の前の案件を全部受けるしかなくなります。
在宅ワーク市場を長く見てきた立場からの観察
20年この市場を見てきた立場から言えば、在宅で長く仕事を続けている翻訳者には共通点があります。それは、対応範囲を明確に言語化していることです。
「何でも訳します」という翻訳者より、「マーケティングと観光分野、MTPEは非対応、ワード単価はこの水準から」と明示している翻訳者のほうが、仕事が途切れていません。一見すると間口を狭めることは不利に見えますが、実際には逆です。条件が明確な相手には、条件に合う依頼だけが集まります。ミスマッチが減るので、無理な納期も、品質の妥協も、支払いのもめごとも減る。依頼する側から見ると「この人に任せると予定が読める」という状態になり、繰り返し声をかけたくなります。
運営者として見てきた限りでは、間に事業者が入らない直接取引ほど、双方に余裕が生まれる場面が多いと感じます。翻訳の世界では、クライアントから翻訳会社、翻訳会社からコーディネート部門、そして翻訳者へと発注が流れる過程で、各段階の取り分が差し引かれていきます。中間マージンが乗らなければ、依頼する側は同じ予算でより多くを頼めますし、受け手は同じ作業量でも手取りが厚くなる。手数料0%という条件が意味を持つのは、金額そのものより、無理な量をこなさなくても成り立つという余裕が生まれるからです。余裕があれば断れる。断れれば、品質を守れる。品質を守れれば、指名で仕事が来る。この循環に入れるかどうかが、在宅翻訳を長く続けられるかの分かれ目だと感じています。
独自データから見える在宅翻訳者の傾向と考察
在宅ワークの求人情報と職種別データを俯瞰すると、翻訳分野についていくつかの傾向が読み取れます。
第一に、専門分野を明示している人ほど、単価の水準が高い傾向があります。汎用的な「英日・日英翻訳」よりも、「医療機器のマニュアル翻訳」「ゲームローカライズ」といった特化型のほうが、価格競争に巻き込まれにくい。これは、代替可能性の低さが単価を支えているためです。
第二に、複数の言語ペアまたは複数の作業形態を持つ人のほうが、収入の変動が小さい傾向があります。翻訳、字幕、チェック、レッスンといった複数の収入源を持つと、一つの案件が終わっても稼働が空きません。稼働に余裕があることが、断る力の実質的な土台になります。
第三に、資格や認証を持っている人のほうが、単価交渉に成功しやすい傾向があります。実力の証明を第三者機関に委ねられるからです。中国語分野の実力を示すならHSK(中国語検定)で副業する方法|翻訳・通訳・インバウンド案件に資格活用の道筋がまとまっていますし、英語分野では英検準1級・1級を副業に活かす|翻訳・教育・ライティングの案件が案件との紐づけを整理しています。語学力を教育分野に展開する方法は言語交換を副業にする方法|日本語教師・翻訳・通訳で稼ぐ【2026年版】にまとまっています。
第四に、翻訳以外の周辺スキルを持つ人のほうが、断りやすい立場を確保しています。ライティング、編集、レッスン提供といった隣接業務があると、翻訳案件を断っても稼働が埋まります。ライティングやレッスンの実務については翻訳・ライティングレッスンのお仕事に業務内容がまとまっており、文章系職種の報酬水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場で確認できます。技術文書の翻訳に関心があるなら、ソフトウェア作成者の年収・単価相場で開発職の報酬水準を見ておくと、IT分野の翻訳単価の妥当性を測る材料になります。
結論を繰り返します。翻訳の依頼を断れない原因は、性格でも義理でもありません。断る基準を数字で持っていないこと、そして返事を先延ばしにしていること。この2つです。処理量の上限、単価の下限、対応しない分野、対応しない作業形態。この4つを紙に書いて、机の見えるところに貼ってください。そして、打診が来たら2時間以内に返す習慣をつけてください。
断ることは、関係を壊す行為ではありません。守れない約束をしないという、プロとしての誠実さの表れです。範囲を明示し、範囲外は即座に断り、範囲内では全力で応える。この単純な運用が、在宅翻訳で最も強い信頼を作ります。法律はあなたの味方です。受けるかどうかを決める権利は、最初からあなたにあります。
よくある質問
Q. 翻訳の依頼を断ると、次から声がかからなくなりませんか?
断ること自体が評価を下げることはありません。コーディネーターが最も困るのは、引き受けた翻訳者が納期に間に合わないことです。打診から2時間以内に返事をし、「9日以降なら可能」「この分野なら対応可能」と条件を示せば、むしろ扱いやすい相手として次も声がかかります。最悪なのは返事をせずに放置することです。
Q. 単価が安い案件はどう断るのが角が立ちませんか?
「安すぎます」といった評価の言葉は避け、測定値で伝えてください。「この分野は調査時間を含めて1日1,200ワード程度の処理量となるため、現在の単価では採算が合いません。ワード単価14円以上であればお受けできます」と条件を提示すると、断りと交渉を同時に進められ、相手も社内で調整を検討しやすくなります。
Q. MTPE案件は断ってもいいのでしょうか?
断って問題ありません。判断は案件ごとに悩むのではなく、事前に方針として決めておくのが効率的です。断る際は「機械翻訳の出力を修正するより原文から訳したほうが品質と効率の両面で優れると考えているため」と、成果物の品質を理由にすると納得が得られやすくなります。あわせて通常翻訳なら対応可能だと添えてください。
Q. 継続案件から途中で抜けたいとき、何に気をつければいいですか?
次の話数が発注される前に伝えることと、引き継ぎの負担を引き受ける姿勢を示すことの2点です。「現在お預かりしている分は責任を持って納品します」「用語集とスタイルメモを整理してお渡しします」と明記すれば、相手の最大の懸念である引き継ぎコストが解消され、円満に離脱できます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
関連記事
カテゴリから探す

クラウドソーシング入門
クラウドソーシングの基礎知識・始め方・サイト比較

職種別ガイド
職種・スキル別の案件獲得方法と単価相場

フリーランス
フリーランスの独立・営業・実務ノウハウ

お金・税金
確定申告・節税・経費・ローンなどお金の知識

スキルアップ
プロフィール・提案文・単価交渉などのテクニック

比較・ランキング
サービス比較・おすすめランキング

AI活用
職種別にChatGPT・生成AIを活用して業務効率化・収益化するノウハウ

最新トレンド
市場動向・法改正・AIなど最新情報

発注者向けガイド
クラウドソーシングで外注・人材探しをする企業・個人向け

転職・キャリア
転職エージェント・転職サイト比較・キャリアチェンジ

看護師の転職・求人
看護師の転職・派遣・単発バイト・副業など働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

薬剤師の転職・求人
薬剤師・登録販売者の転職・派遣・パートなど働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

介護職の転職・求人
介護職・介護福祉士・ケアマネジャー・訪問介護員の転職・派遣・夜勤など働き方のガイド

保育士の転職・求人
保育士・保育補助・幼稚園教諭の転職・派遣・パートなど働き方のガイド

医療職の転職・求人
医師・産業医・リハビリ職・歯科衛生士・管理栄養士・医療事務の転職や働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

保険
生命保険・医療保険・フリーランスの保険設計

採用・求人
無料求人掲載・採用コスト削減・人材募集の方法

オフィス・ワークスペース
バーチャルオフィス・コワーキング・レンタルオフィス

法律・士業
契約トラブル・士業独立開業・フリーランス新法

シニア・50代
シニア世代のキャリアチェンジ・副業・年金

セキュリティ
サイバーセキュリティ・脆弱性対策・情報保護

金融・フィンテック
暗号資産・決済・ブロックチェーン・金融テクノロジー

経営・ビジネス
経営戦略・ガバナンス・事業承継・知財

ガジェット・機材
フリーランスに役立つPC・デバイス・周辺機器

子育て×働き方
子育てと在宅ワークの両立・保育園・時間管理

補助金・助成金
個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド
SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方







