従業員のいない会社同士の取引にも適用される?|一人社長がフリーランスへ発注する時の注意 2026


この記事のポイント
- ✓一人社長がフリーランスへ発注する際の注意点を整理
- ✓フリーランス新法の適用範囲
- ✓直接依頼と仲介経由のコスト差までデータで解説します
「うちは従業員がいない一人社長だから、フリーランスに発注する場合の細かいルールは関係ないだろう」。そう考えている経営者は少なくありません。ですが結論から言うと、それは誤解です。一人社長 フリーランス 発注という組み合わせであっても、取引条件の明示義務や支払期日のルールは原則として適用されます。本記事では、なぜ一人社長でも規制対象になるのか、費用相場はどの程度か、そしてどこにどう依頼すれば失敗しないのかを、データと実務の両面から整理します。
一人社長がフリーランスに発注する市場の現状
まず全体像を押さえておきます。日本の個人事業主・フリーランス人口は近年増加傾向にあり、企業側が業務の一部を外部委託する動きも同時に広がっています。特にコロナ禍以降、経理・事務・SNS運用・Webサイト制作といった業務を、正社員採用ではなくフリーランスへの業務委託でまかなう一人社長・小規模法人が急増しました。
背景には二つの要因があります。一つは採用コストの高騰です。正社員を一人雇用すると、給与に加えて社会保険料の会社負担分、採用広告費、教育コストがかかります。一般的な試算では、月給30万円の社員を1人雇用する場合、賞与や社会保険料込みで年間500万円前後のコストがかかるとされています。もう一つは、業務の繁閑差です。一人社長の会社では、特定の月だけ経理処理が集中したり、キャンペーン時期だけSNS運用の手が足りなくなったりするケースが多く、常時雇用よりも必要な時だけ発注できるフリーランス活用の方が合理的という判断が広がっています。
一方で、この「一人社長が個人に発注する」という取引形態は、法律上は特殊な位置づけにあります。従業員を雇っていない、いわば発注側も個人事業主に近い一人法人であっても、取引先が個人事業主(フリーランス)であれば、フリーランス保護新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、通称フリーランス新法)の適用対象になり得ます。この点を誤解したまま発注を続けると、意図せず法令違反になるリスクがあるため、まず制度面から確認していきます。
一人社長でもフリーランス新法は適用されるのか
下請法との違いを理解する
これまで企業間取引を規律していた主な法律は下請法(下請代金支払遅延等防止法)でした。下請法には資本金要件があり、発注側の資本金が一定額以下の場合は適用対象外になります。具体的には、製造委託等の場合は発注側の資本金が1,000万円以下であれば下請法の適用から外れる、という設計です。多くの一人社長の会社は資本金が数十万円から数百万円程度であるため、下請法の対象外になるケースがほとんどでした。
一方で、フリーランス新法には発注事業者の資本金要件がありません。そのため、資本金1,000万円以下の企業がフリーランスに業務を委託する場合はフリーランス新法が適用されます。 出典: yayoi-kk.co.jp
つまり、下請法では対象外だった小規模な発注者も、フリーランス新法では原則として対象に入るということです。これは一人社長の会社にとって非常に重要な変化です。「うちは小さい会社だから関係ない」という従来の感覚は、フリーランス新法においては通用しません。
「従業員のいない」一人社長同士の取引はどうなるか
ここで多くの経営者が疑問に思うのが、発注側も従業員を雇っていない一人社長(一人法人、または個人事業主)である場合の扱いです。フリーランス新法上、「特定業務委託事業者」に該当するかどうかは、従業員を使用しているかどうかが一つの分岐点になります。
この法律の大きな特徴は、BtoBで業務を行うフリーランス(個人事業主)へ仕事を依頼する事業者に対して、取引条件の明示や報酬支払期間の遵守などの義務を定めている点にあります。これによって、フリーランスとして働く労働者がより安心して事業を行えるようになる見込みです。なお、ここでのフリーランスには、一人社長(法人)も含まれます。 出典: yayoi-kk.co.jp
整理すると、発注側が従業員を使用していない一人社長・個人事業主同士の取引であっても、双方が「特定受託事業者」に該当する場合、基本的な義務(取引条件の明示など)は課される仕組みになっています。発注側に従業員がいるかどうかで、課される義務の範囲(報酬支払期日の60日ルールの適用有無など)が変わってくる点には注意が必要です。従業員を1人でも雇用していれば「特定業務委託事業者」として、より重い義務(60日以内の報酬支払等)を負う可能性が高くなります。従業員がいない一人社長同士の取引でも、取引条件の明示義務自体は発生するため、「うちは相手も自分も個人事業主だから何もしなくていい」とは考えないことが重要です。
3条通知(取引条件の明示義務)の中身
フリーランス新法で最も実務に直結するのが、業務委託をする際の「3条通知」、つまり取引条件の明示義務です。発注時には、以下の項目を書面または電磁的方法(メール、チャットツール等)で明示する必要があります。
・業務の内容 ・報酬の額 ・支払期日 ・業務委託をした日 ・給付を受領し、または役務の提供を受ける日 ・給付を受領し、または役務の提供を受ける場所 ・(検査を行う場合)検査完了日 ・報酬の支払方法に関する事項
これらを口頭やメールの一文だけで済ませてしまうケースが、一人社長の発注では特に多く見られます。「知り合いだから」「毎回同じような案件だから」という理由で書面を省略すると、後々の報酬トラブルの火種になりやすく、法令上も望ましくありません。発注書・契約書のテンプレートを一つ用意しておき、案件ごとに項目を埋めて送付する運用にしておくと、この義務は無理なく満たせます。契約書の必須項目についてはフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストで、発注書に盛り込むべき項目をチェックリスト形式でまとめているので、実際に発注書を作成する際の参考になります。
フリーランスへの発注費用相場
制度面を押さえたところで、実際に「いくらで発注できるのか」という費用感を見ていきます。一人社長が発注する業務は、大きく分けて次のようなカテゴリに分類できます。
事務・経理代行の相場
記帳代行や請求書発行などの経理事務は、月額2万円〜8万円程度が目安です。取引件数や業務範囲(記帳のみか、決算書作成まで含むか)によって幅があります。年末調整や確定申告のスポット業務であれば、3万円〜15万円程度が相場です。
SNS運用代行の相場
SNS運用は、投稿作成・投稿代行・分析レポートまでを含めるかどうかで大きく変わります。1アカウントあたり月額3万円〜15万円が一般的なレンジです。広告運用(SNS広告のCPA管理を含む)まで依頼する場合は、広告費とは別に運用手数料として広告費の20%前後を上乗せするフリーランスが多く見られます。
アプリケーション開発の相場
システム開発・アプリ開発は業務範囲が最も広く、単価の幅も大きい領域です。簡易なWebサイト制作であれば10万円台から、業務システムの構築になると100万円を超える案件も珍しくありません。開発工程やスキルレベルの違いを把握したうえで発注先を選ぶ必要があります。開発業務を外注する際の費用相場や発注時のポイントについてはAI開発をフリーランスに外注する方法|費用相場と発注のポイントで詳しく解説しているので、AI関連の開発案件を検討している場合は合わせて確認しておくと判断がしやすくなります。
コンサルティング・業務活用支援の相場
近年増えているのが、AIツール導入や業務効率化のコンサルティング業務です。スポット相談で1時間1万円前後、継続的な伴走支援になると月額5万円〜20万円程度が目安になります。この分野は専門性による価格差が特に大きく、実績のある個人ほど単価が高くなる傾向があります。具体的な業務内容や依頼の進め方はAIコンサル・業務活用支援のお仕事で、どのような支援メニューがあるかを確認できます。
これらの相場を年収データとあわせて確認すると、より精緻な判断ができます。たとえばエンジニアに発注する場合、ソフトウェア作成者の年収・単価相場を見ておくと、提示された見積もりが市場相場から乖離していないかを判断する材料になります。同様に、ライティングや編集業務を依頼する場合は著述家,記者,編集者の年収・単価相場を参考にすると、文字単価や記事単価の妥当性を検証しやすくなります。
仲介会社経由と直接依頼のコスト差
一人社長がフリーランスに発注する経路は、大きく分けて三つあります。一つは代理店・制作会社に丸ごと依頼し、その先でフリーランスに再委託される経路。二つ目はクラウドソーシングサイトを通じて個人に直接依頼する経路。三つ目は、手数料のかからないマッチングサービスや紹介を通じて直接契約する経路です。
代理店経由の場合、代理店のマージンが中間コストとして乗るため、実際にフリーランスへ支払われる金額よりも発注側の支払額が大きくなる構造があります。中間マージンの水準は業界や案件規模によって幅がありますが、一般的な制作会社・代理店の粗利率は30%から50%程度と言われることが多く、100万円の予算で発注しても実際に制作者の手元に渡るのは半分程度、というケースも珍しくありません。
クラウドソーシングサイト経由の場合は、プラットフォームの手数料がフリーランス側から差し引かれる仕組みが一般的です。主要なクラウドソーシングサイトのシステム手数料は、契約金額に応じて16.5%から20%程度に設定されているケースが多く、発注側が支払った金額のうち、それだけの割合が中間コストとして消えていることになります。発注側から見ると手数料は表面化しにくいものの、フリーランス側は手取りが目減りする分、見積もり単価を上げて提示する傾向があるため、間接的に発注側のコストにも跳ね返ってきます。
これに対して、中間マージンや手数料が発生しない手数料0%の直接依頼という選択肢もあります。仲介コストがない分、同じ予算でもフリーランス側の手取りが厚くなり、結果として発注側もより良い条件で継続的に依頼しやすくなるという構造です。特に継続的な発注が見込まれる業務(月次の経理代行、定期的なSNS運用など)では、この差が積み上がりやすいため、初回だけでなく中長期の総コストで比較する視点が欠かせません。
筆者自身、以前に別のメディアで動画編集を外注した際、複数の制作会社から見積もりを取ったことがあります。最も安い会社を選んだところ、実際の作業者は別のフリーランスへの再委託だったことが後からわかり、納品物の品質確認や修正依頼のたびに間に代理店を挟むことになって、意思疎通に余計な時間がかかってしまいました。安さだけで選ぶと、実際の制作者とのコミュニケーション距離が遠くなり、細かい要望が伝わりにくくなるリスクがあることを、身をもって学びました。
失敗しない発注先の選び方
業務範囲を先に文書化する
発注前によくある失敗が、「とりあえず依頼してから、必要な業務を都度追加していく」という進め方です。これは後々の追加料金トラブルの原因になります。発注前に、以下の項目を最低限文書化しておくことを推奨します。
・対応してほしい業務の範囲(含む業務・含まない業務) ・成果物の形式(データ形式、納品方法) ・修正対応の回数と範囲 ・納期 ・報酬額と支払方法、支払期日 ・秘密保持に関する取り決め
特に「修正対応の回数」は揉めやすいポイントです。無制限に修正を受けると認識している発注者と、初回納品後1〜2回までと考えているフリーランスとの間で、認識のズレが起きやすいためです。事前に「修正は2回まで、それ以降は追加料金」といった形で明記しておくと、双方にとって安心材料になります。
見積もり比較は総額だけで判断しない
複数のフリーランス・制作会社から見積もりを取る際、単純に総額の安さだけで比較すると失敗しやすくなります。見積もり金額に何が含まれているか(打ち合わせ回数、修正回数、著作権の譲渡有無など)を揃えたうえで比較する必要があります。
筆者が最初に外注を経験した際、A社は15万円、B社は22万円という見積もりを提示してきました。金額だけ見るとA社が魅力的でしたが、詳細を確認すると、A社の見積もりには修正対応が1回までしか含まれておらず、追加の修正は1回あたり2万円の別料金でした。結局、修正が3回発生し、最終的な支払額はB社よりも高くなってしまいました。見積もりの安さに飛びつく前に、含まれる範囲を必ず確認するべきだと痛感した経験です。
NGワードや契約条件のチェックリストを持っておく
発注時の文面や契約条件には、フリーランス側にとって不利な、あるいは法令に抵触しうる表現が紛れ込むことがあります。発注側が意図せず問題のある表現を使ってしまうケースもあるため、事前にチェックリストを持っておくと安心です。発注時に避けるべき表現や注意すべき言い回しについてはフリーランスに仕事を発注する際のNGワード集にまとめているので、発注書や依頼メールを作成する前に目を通しておくと、無用なトラブルを未然に防げます。
資格や専門性を確認する
業務内容によっては、特定の資格やスキル証明を持つフリーランスに発注した方が、成果物の品質や納期の安定性が高まるケースがあります。たとえば文書作成業務であればビジネス文書検定の資格を持つ人材、ネットワーク関連の業務であればCCNA(シスコ技術者認定)を保有する人材というように、資格を一つの判断材料にすることで、スキルレベルの見極めがしやすくなります。もちろん資格の有無がすべてではありませんが、初めて発注する相手であれば、客観的な指標として活用する価値はあります。
契約時に押さえておくべき実務ポイント
支払期日は明確に、かつ早めに設定する
フリーランス新法では、発注側が従業員を使用している場合、報酬の支払期日は原則として給付を受領した日から60日以内、かつできる限り短い期間内に設定することが求められます。これは発注側に従業員がいない場合でも、望ましい実務として踏襲しておくべき基準です。フリーランス側にとって、支払いサイトの長さは資金繰りに直結する重要な要素であり、支払いが早い発注者は継続的に良い人材を確保しやすくなるという副次的なメリットもあります。
検収基準を事前にすり合わせる
「検収」、つまり納品物を確認して問題がなければ受け入れる、という工程を曖昧にしたまま進めると、「思っていたものと違う」という理由で支払いが遅延したり、無償の修正を繰り返し要求したりするトラブルにつながります。発注前に、どのような状態であれば検収完了とするか(例:デザインカンプの承認、テスト環境での動作確認完了など)を具体的に決めておくことが重要です。
秘密保持と成果物の権利関係
一人社長の会社では、秘密保持契約(NDA)を結ばずに口頭ベースで発注してしまうケースが見られます。特に顧客情報や未公開の事業計画に関わる業務を依頼する場合は、簡易なものでもNDAを締結しておくべきです。また、成果物の著作権がどちらに帰属するのか(納品と同時に発注者に譲渡されるのか、フリーランス側に留保されるのか)も、契約時に明記しておく必要があります。この点を曖昧にしたまま、後から「この画像を別の媒体でも使いたい」といった要望が出ると、追加の権利関係の交渉が必要になり、余計な時間とコストがかかります。
独自データから見る発注の実態
在宅ワーク・フリーランスマッチングを長年運営してきた立場から見えてくる傾向として、継続的に良い関係を築いている発注者ほど、単発の作業依頼ではなく、フリーランス側にとって「この人からの依頼は仕事がしやすい」と思われる関係づくりに時間を割いているという共通点があります。具体的には、発注時の要件が明確で、修正指示が具体的で、支払いが期日通りに行われる発注者には、フリーランス側から継続案件の相談が来やすくなる傾向が観察されます。
もう一つの観察は、額面よりも手取りの実感が発注者と受注者双方の満足度を左右するという点です。同じ10万円の予算であっても、仲介手数料が発生する経路では発注者の実質的な購買力が目減りし、フリーランス側の手取りも目減りします。一方、中間マージンの発生しない直接取引では、発注者は同じ予算でより多くの業務を依頼でき、フリーランス側は同じ作業量でもより多くの手取りを得られます。この「双方が得をする」構造は、単なる価格競争とは異なる次元の話であり、長期的な取引関係を築くうえでの土台になっているというのが、現場を見てきた実感です。
一人社長という立場は、経営判断のスピードが速い反面、労務や契約まわりの実務を一人でこなさなければならないという制約もあります。だからこそ、発注先の選定や契約条件の整備にかける手間を惜しまないことが、結果的に事業の安定運営につながります。フリーランス新法への対応、費用相場の把握、直接依頼のコストメリットという三つの視点を押さえたうえで、自社に合った発注先を見極めていくことが、一人社長がフリーランス活用を成功させるための土台になります。
よくある質問
Q. 一人社長の会社でも発注書は必ず作成しなければならないですか?
フリーランス新法上、業務委託時には取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務があります。口頭のみのやり取りは避け、簡易な発注書やメールでも構わないので、業務内容・報酬額・支払期日などを明記した記録を残すことを推奨します。
Q. フリーランスへの発注費用は仲介会社を通す場合と直接依頼で、どれくらい差が出ますか?
仲介会社の粗利率は案件により30〜50%程度、クラウドソーシングサイトの手数料は16.5〜20%程度が目安です。中間マージンのない直接依頼では、同じ予算でもフリーランス側の手取りが厚くなり、発注側も割安に依頼できる傾向があります。
Q. 従業員がいない一人社長同士の取引でも支払期日の60日ルールは適用されますか?
発注側に従業員がいない場合、60日ルールなどの重い義務は適用対象外となる可能性があります。ただし取引条件の明示義務は原則として発生するため、支払期日を含めた条件を事前に書面で示しておくことが望ましいです。
Q. 発注先を選ぶ際、見積もりの安さ以外に何を確認すべきですか?
修正対応の回数、成果物の権利関係、検収基準、支払いサイトなどを事前にすり合わせることが重要です。見積もり金額に何が含まれているかを揃えたうえで比較しないと、後から追加料金が発生し総額が逆転することがあります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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