退職代行を副業で始める危うさ|非弁行為と適法にできる範囲


この記事のポイント
- ✓退職代行を副業で始めたい人へ
- ✓弁護士法72条の非弁行為とは何か
- ✓どこからが違法になるのか
「退職代行の仕事、副業でできませんか」。先日、そんな相談をSNS経由で受けました。人手不足で退職代行の需要が伸びていること、SNSで見かける退職代行業者が個人でも始められそうに見えること、この2つが重なって、退職代行を副業にしたいと考える人が増えています。ただし結論から言うと、退職代行を副業で始めるのは、非弁行為(弁護士法違反)のリスクと隣り合わせです。つまり、「何をしたら違法になるのか」を知らないまま始めると、本人が加害者側になってしまう可能性があるということです。この記事では、退職代行と非弁行為の境界線、副業として適法に関わる方法を、行政書士の視点から整理します。
退職代行を副業で始めたい人が増えている背景(マクロ視点)
退職代行サービスの市場は、ここ数年で急速に拡大しました。人手不足を背景に、会社側が退職を引き止めるケースや、退職の意思を伝えづらい職場環境が問題視されるようになり、「本人の代わりに退職の意思を伝える」というシンプルなサービスへのニーズが高まっています。利用者側の相場感としては、民間業者で2万円〜3万円程度、労働組合が運営する形態で2.5万円〜3万円程度、弁護士が対応する場合は5万円〜10万円程度が目安とされています。
このマーケットの伸びを見て、「自分も副業でこの仕事に関わりたい」と考える人が出てくるのは自然な流れです。実際、行政書士や社会保険労務士の資格を持つ人だけでなく、資格を持たない一般の人が「退職代行の窓口業務」「LINEでの一次対応」といった形でアルバイト的に関わる求人も見かけるようになりました。しかし、ここに大きな落とし穴があります。退職代行業務は、単に「電話やLINEで退職の意思を伝える」だけであれば適法ですが、そこから一歩踏み込んで「会社と交渉する」「条件を調整する」領域に入ると、弁護士資格を持たない者が行うことは弁護士法72条によって禁止されているのです。
最近、退職代行サービスという言葉をニュースで耳にした方も多いでしょう。2025年10月には、大手退職代行サービスの運営会社が弁護士法違反(非弁行為)の疑いで警視庁の家宅捜索を受けたとの報道があり、業界全体に衝撃が走りました。このニュースに接し、「退職代行サービスは違法なの?」と不安に感じた方もいるかもしれません。本コラムでは、弁護士が行う退職代行サービスの強みと違法な業者との違いを、最近の報道を踏まえて解説します。
出典: k-y-law.jp
つまり、退職代行市場が伸びている裏側で、業界全体のコンプライアンスが厳しく問われる局面に入っているということです。副業として関わろうとしている人ほど、この境界線を正確に理解しておく必要があります。
非弁行為とは何か。つまりどういうことか
非弁行為とは、弁護士資格を持たない者が、報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務(代理・仲裁・和解その他の法律事務)を取り扱うことを指します。根拠になるのは弁護士法72条です。「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない」という条文です。少し堅く聞こえますが、つまり「お金をもらって、他人の代わりに法律的な交渉や手続きをすることは、弁護士にしか許されていない」というルールです。
これ、知らない人が本当に多いんです。「退職代行」という言葉だけを見ると、単に「会社に退職の連絡を代わりにする仕事」のように思えます。ですが実務上、退職に伴って発生する論点は想像以上に幅広いのです。有給休暇の消化交渉、退職金の請求、未払い残業代の請求、離職票や源泉徴収票の発行催促、貸与物の返却手続き。これらはすべて「会社との間で条件をすり合わせる」行為であり、代理人として交渉すれば法律事務に該当します。
※このあたりの線引きは個別の事情によって判断が分かれる部分があります。実際に業務を始める前や、具体的なケースで迷った場合は、必ず弁護士に相談してください。
退職代行業務のどこからが非弁行為になるのか
退職代行の実務を、適法な範囲と非弁行為に該当しうる範囲に分けて整理します。
「使者」として意思を伝えるだけなら適法
法律上、退職代行が適法とされる典型的な形は「使者」としての行為です。使者とは、本人が既に決定した意思を、そのまま相手方に伝達するだけの役割を指します。「本人はもう会社を退職する意思を固めています。本日付、あるいは希望日付で退職したいとのことです」と伝えるだけであれば、これは法律事務ではなく単なる伝達行為であり、非弁行為には該当しません。民間の退職代行業者の多くが「使者としての退職意思の伝達のみを行います」と規約に明記しているのはこのためです。
会社との交渉に踏み込むと非弁行為になりうる
一方で、会社側から「有給休暇はあと5日しか残っていない」「退職日を1ヶ月後にしてほしい」といった反論や条件提示があったときに、代わりに交渉して条件をまとめてしまうと、これは「和解」や「代理」に該当し、非弁行為のリスクが一気に高まります。例えば、こんな相談を受けたことがあります。ある退職代行業者を名乗るサービスの担当者が、依頼者に代わって「退職日を来月末まで延ばしてほしいという会社の要望を、今月末で通してもらえるよう交渉しました」とSNSで発信していました。つまり、これは使者の範囲を超えて、条件交渉という法律事務に踏み込んでしまっている典型例です。本人にそのつもりがなくても、結果として非弁行為に該当してしまう可能性があります。
未払い賃金・退職金の請求代行は特に危険
未払い残業代の請求や、退職金の金額をめぐるやり取りを代行することは、金銭債権の請求という明確な法律事務にあたります。これは弁護士、あるいは労働組合が団体交渉権にもとづいて行う場合を除き、非弁行為に該当する可能性が非常に高い領域です。労働組合が運営する退職代行サービスが「有給消化の調整」まで対応できるのは、組合が労働組合法にもとづく団体交渉権を持っているからであり、資格を持たない個人や一般企業が同じことを行うと、根拠のない代理行為とみなされます。
副業として退職代行に関わる人が陥りやすい落とし穴
資格なしで開業できると誤解している
退職代行サービスを運営すること自体には、特別な許認可は必要ありません。この点が誤解を生みやすいポイントです。「開業に資格がいらない=何をしても自由」ではありません。開業自体は自由でも、業務の中身が法律事務に踏み込めば、資格がないことがそのまま違法行為の根拠になります。副業として退職代行の「窓口業務」を請け負う求人に応募する際も、その業務範囲が使者にとどまっているか、会社側との交渉まで求められていないかを、必ず事前に確認する必要があります。
「使者」と「代理人」の境界を理解していないまま対応してしまう
依頼者から「有給消化についても会社と話をつけてほしい」と頼まれたとき、断り切れずに交渉に踏み込んでしまうケースが少なくありません。これ、副業でこの仕事に関わる人が一番陥りやすい落とし穴です。依頼者としては「全部任せたい」という気持ちが強く、担当者側も「頼られている以上、応えたい」という心理が働きます。ですが、この場面でこそ「私は伝達のみを行う立場で、条件交渉はできません。必要であれば弁護士や労働組合の退職代行をご案内します」と明確に線を引く必要があります。
SNSでの発信・体験談が法律相談に踏み込んでしまう
副業で退職代行に関わっている人がSNSで実績を発信する際、「こういうケースでは会社にこう言えば通ります」といった、個別具体的な法律相談に近い情報発信をしてしまうことがあります。不特定多数への一般的な情報提供は問題になりにくいものの、個別の相談に対して「あなたのケースならこう交渉すべき」と回答すると、これも非弁行為の周旋(他人と依頼者の間を取り持つ行為)にあたる可能性があります。
私自身、行政書士として開業した当初、契約書のひな形をSNSで配布した際に「私のケースだとどう変えればいいですか」という個別相談のDMが殺到し、どこまで無償で答えてよいものか線引きに悩んだ経験があります。一般的な情報提供と、個別具体的な法律相談との境界は、実務をやってみて初めて実感として分かる難しさがあります。退職代行の副業に関わる人も、同じ壁にぶつかるはずです。
副業として適法に関わる方法
使者業務に徹する
最も安全な関わり方は、伝達内容が定型化された使者業務に徹することです。「本人が退職の意思を固めていること」「退職希望日」「連絡先」といった、あらかじめ決まった内容を会社に伝えるだけであれば、副業としても適法に関わることができます。ただし、会社側からの質問や反論に対して独自の判断で回答してはいけません。想定外の反応があった場合は、必ず運営元の弁護士や責任者にエスカレーションする体制が必要です。
弁護士や労働組合と提携し、監修のもとで動く
退職代行サービスの中には、弁護士が監修し、非弁行為に該当する可能性がある交渉部分は弁護士自身が担当し、初期対応や事務連絡は副業スタッフが担当するという分業体制を取っているところがあります。この形であれば、副業スタッフが担当する範囲は使者業務や事務作業に限定されるため、法的なリスクを抑えながら関わることができます。副業として退職代行の仕事を探す際は、運営体制に弁護士や労働組合が関与しているか、自分が担当する業務範囲がどこまでかを、契約前に必ず確認してください。
書類作成や事務サポートに徹する
退職に伴う書類、例えば退職届のひな形作成や、離職票・源泉徴収票の発行を会社に依頼するための定型文の作成といった、事務的なサポートであれば、法律事務には該当しません。行政書士が扱える書類作成業務の延長として関わる形であれば、副業としても比較的リスクを抑えやすい領域です。ちなみに、行政書士がどのような業務を扱えるかについては、行政書士の資格ガイドで解説していますので、法務系の副業に関心がある方は参考にしてください。
退職代行を利用する側が確認すべき注意点
副業として関わる側だけでなく、これから退職代行を利用しようとしている読者に向けても触れておきます。退職代行業者を選ぶ際は、次の3点を必ず確認してください。第一に、運営元が弁護士事務所か、労働組合か、民間企業かを確認すること。第二に、有給消化や退職金の交渉が必要な場合は、交渉権限のある弁護士または労働組合系のサービスを選ぶこと。民間業者に交渉まで依頼すると、非弁行為に該当する業者を選んでしまうリスクがあります。第三に、料金体系が明朗で、追加料金の発生条件が事前に説明されているかを確認すること。
手数料0%を掲げる直接契約型のマッチングサービスであっても、退職代行という業務の性質上、必ず運営元の法的立場(弁護士監修か、労働組合か)を確認したうえで依頼することが重要です。
副業として法務・キャリア支援に関わる選択肢は退職代行だけではない
退職代行という切り口に限らず、キャリアや法務の知識を活かせる副業の選択肢は他にも広がっています。例えば、退職や転職に関する相談を受ける仕事は、退職代行のような交渉業務に踏み込まず、傾聴とアドバイスに徹する形であれば、資格がなくても始めやすい領域です。キャリア・副業・人生相談のお仕事では、こうした相談業務系の副業の探し方をまとめています。実際にキャリア相談の副業を始めた方の事例は、キャリア・副業・人生相談のオンラインカウンセラー入門でも紹介していますので、退職代行そのものではなく「相談を受ける」という関わり方に興味がある方は参考にしてください。
また、行政書士として法務系の文書作成に関わる場合、隣接する副業領域として、契約書のリライトや利用規約の分かりやすい言い換えといったライティング業務があります。この分野の相場感は著述家,記者,編集者の年収・単価相場で確認できます。法律文書を「つまり〜」と噛み砕いて伝える技術は、行政書士業務にもライティング業務にも共通する部分が多いというのが、私自身の実感です。
さらに視点を広げると、在宅ワーク全体では、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事や作曲・編曲・効果音・ジングルのお仕事のように、法務とはまったく異なる専門性を活かす副業も数多く存在します。退職代行という一つのテーマに固執せず、自分の資格や経験がどの領域で最も安全かつ適法に活かせるかを、広い視野で検討することをおすすめします。エンジニア系の副業に関心がある方はソフトウェア作成者の年収・単価相場、副業を始めた後の確定申告について不安がある方は副業 確定申告 売上管理 スプレッドシート!2026年最新の時短術、副業選び全般のヒントは副業 おすすめ!37歳教育系講師が教える在宅で稼ぐ秘訣と成功への道も併せて確認しておくと、退職代行以外の選択肢との比較検討がしやすくなります。
運営者の一次観察
20年この在宅ワーク市場を見てきた立場から言えば、「需要が伸びている領域ほど、法的なグレーゾーンに踏み込む個人事業主が現れやすい」というのは、退職代行に限った話ではありません。副業マッチングの現場では、資格が不要に見える業務ほど参入障壁が低く感じられ、結果として本人が意図しないまま違法性の高い領域に足を踏み入れてしまうケースを繰り返し見てきました。長く続けられる人ほど、「自分ができる範囲」と「専門家に委ねるべき範囲」の線引きを最初に明確にし、その線を越える依頼が来た場合は迷わず断るか、提携先の専門家に引き継ぐ判断ができる人です。
もう一つ、運営者として見てきた実感として付け加えるなら、仲介手数料が発生しない直接契約の仕組みは、依頼者と受注者の双方にとって「無理な業務範囲の拡大」を防ぐ効果もあります。中間マージンが乗らない直接取引では、依頼者は限られた予算の中でも必要な専門家(例えば弁護士監修の退職代行)に適正な報酬を払いやすくなり、受注者側も「範囲外の業務まで無理に引き受けて単価を確保する」動機が薄れます。手数料0%の仕組みが実現するのは、単に金額面の得だけでなく、双方が本来の専門性の範囲内で、無理のない形で仕事を続けられるという構造的なメリットです。これは、退職代行のように法的な境界線がシビアな領域であればあるほど、大切な視点だと考えています。
法律はあなたの味方です。退職代行を副業として検討している方も、これから退職代行を利用しようとしている方も、「どこまでが適法か」を正しく理解したうえで、安心して選択できる状態を作ってください。
よくある質問
Q. 退職代行を副業で始めるのに資格は必要ですか?
退職代行サービスの運営自体に特別な許認可は不要ですが、業務内容が会社との交渉や金銭請求に踏み込むと弁護士資格が必要です。使者としての伝達業務にとどめれば資格なしでも副業として関わることができます。
Q. 有給消化の交渉も代行してしまいましたが、非弁行為になりますか?
本人に代わって会社と条件をすり合わせる行為は法律事務にあたり、弁護士や労働組合以外が行うと非弁行為に該当する可能性があります。心当たりがある場合は速やかに弁護士に相談してください。
Q. 退職代行業者を選ぶとき何を確認すればいいですか?
運営元が弁護士事務所か労働組合か民間企業かを確認し、有給消化や退職金交渉が必要なら交渉権限のある弁護士または労働組合系のサービスを選ぶことが重要です。料金体系の明朗さも事前に確認しましょう。
Q. 退職代行以外に法務知識を活かせる副業はありますか?
契約書のリライトや利用規約の言い換えといったライティング業務、キャリア相談業務など、交渉権限を伴わない領域であれば資格がなくても副業として始めやすい選択肢があります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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