アルバイトを掛け持ちして週40時間を超えたら|割増賃金と勤務先への伝え方

中西 直美
中西 直美
アルバイトを掛け持ちして週40時間を超えたら|割増賃金と勤務先への伝え方

この記事のポイント

  • アルバイト 掛け持ち 週40時間以上でどうなるのかを
  • 労働時間の通算ルール・割増賃金を誰が払うか・勤務先への伝え方まで整理しました
  • 社会保険や確定申告の線引き

「掛け持ちしていたら、気づいたら週40時間を超えていました。これって、私がまずいことになるんでしょうか」

このご相談、本当に多いんです。しかも、聞かれるタイミングがだいたい同じ。すでに何ヶ月か働いた後、たまたまネットで「週40時間」という言葉を見つけて、急に不安になって、夜中に検索する。そういう順番です。

先に結論をお伝えします。アルバイトを掛け持ちして週40時間以上になること自体は、違法ではありません。そして、法律違反を問われる立場になるのは、働いているあなたではなく、雇っている側です。ここを取り違えて自分を責めている方が、本当に多い。まずそこだけ、肩の力を抜いてください。

ただし「何も起きない」わけでもありません。割増賃金を誰が払うのか、勤務先に伝えるべきなのか、社会保険や確定申告はどうなるのか。知らないまま進むと、後から面倒になる論点がいくつかあります。

この記事では、労働時間の通算という考え方を土台にして、あなたが実際に何をすればいいのかを順番に整理します。法律の条文をなぞるだけの説明にはしません。相談の現場で、実際にどう伝えているか。その言葉のまま書きます。

週40時間を超える掛け持ちは、いま珍しくない

まず、あなたが特殊な働き方をしているわけではない、という話から始めさせてください。

副業・兼業を認める企業は、この10年で大きく増えました。厚生労働省が2018年にモデル就業規則を改定し、それまで「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」となっていた条文を、原則副業を認める内容に書き換えたのが転換点です。同じ時期に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公表され、企業側が副業を認めるときの労務管理の考え方が示されました。

この流れは、正社員の副業だけの話ではありません。アルバイト同士の掛け持ちも同時に増えています。スキマバイトのアプリが普及して、1日単位、数時間単位で働ける求人が一気に身近になったからです。以前なら「週3のバイトを2つ」という形しかなかったところに、「週4の固定バイト+週末のスポット勤務」という組み合わせが加わりました。

ここで起きているのが、時間の見えにくさです。

固定シフトだけなら、自分が週に何時間働いているかは把握しやすい。ところがスポット勤務が混ざると、先週は38時間、今週は46時間、といった具合に週ごとに揺れます。しかもアプリ側の履歴と、固定バイト先のシフト表は別々。合算した数字を見る機会が、どこにもないんです。

実際、こういうご相談が寄せられています。

いまアルバイトとタイミーの掛け持ちをしており週40時間超えています。この場合どうなりますか? いままで40時間以上になるといけないことを知らずまた店長から言われたこともなかったのでタイミーを始めてから知りどうしたらいいか困っています。教えてください。 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

「店長から言われたこともなかった」という部分に、実態がよく表れています。雇う側も、掛け持ち先の時間まで把握して管理する運用が追いついていない。だから誰も何も言わないまま、時間だけが積み上がっていく。あなただけが不注意だったわけではありません。

週40時間という数字の正体

そもそも週40時間という数字は、どこから来ているのか。

労働基準法第32条が、労働時間の上限を定めています。1日8時間、1週間40時間。これが法定労働時間と呼ばれるものです。この上限を超えて働かせる場合、会社は労働者の過半数代表と協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。労働基準法第36条に基づくので、通称「36協定」と呼ばれます。

大事なのは、この40時間が誰に課された義務なのか、という点です。

条文は「使用者は、労働者に…労働させてはならない」という書き方をしています。禁止されているのは使用者、つまり雇う側の行為です。労働者側に「40時間以上働いてはならない」という義務は課されていません。

ここが、検索して不安になっている方がいちばん誤解しやすいところ。「週40時間を超えたら違法」という見出しだけを読むと、自分が法を犯しているように感じてしまう。でも法的な責任を負うのは事業主側です。あなたが罰せられることはありません。

そして、8時間・40時間を超えて働かせること自体も、絶対禁止ではありません。36協定を結び、割増賃金を払えば、超えて働かせることは合法です。多くの飲食店や小売店が、繁忙期に法定時間を超えるシフトを組めているのはそのためです。

つまり「週40時間超え」は、違法か合法かの境目ではなく、「ここから先は手続きと割増賃金が必要になる」という境目なんです。この理解に切り替えるだけで、見え方がかなり変わってきます。

労働時間は掛け持ち先と合算される

掛け持ちの話で必ず出てくるのが、通算というルールです。ここが今回の核心なので、丁寧にいきます。

労働基準法第38条第1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。事業場を異にする、というのは同じ会社の別店舗という意味だけではありません。行政解釈では、事業主が異なる場合、つまり別々の会社で働く場合も通算する、とされています。

具体的に見ましょう。

A店で週30時間働き、B店で週15時間働いたとします。それぞれ単独では40時間以下です。でも通算すると45時間。法定労働時間を5時間超えていることになります。

1日単位でも同じです。午前中にA店で5時間、夕方からB店で4時間働けば、その日の労働時間は9時間。1日8時間の法定労働時間を1時間超過します。

この通算ルールがあるせいで、掛け持ちは単純に「両方とも40時間以内ならOK」という話にならないわけです。

割増賃金は「後から契約したほう」が払う

では、超えた分の割増賃金は誰が払うのか。これが実務でいちばん揉めるところです。

原則は、時間的に後から労働契約を結んだ事業主が負担します。これは厚生労働省の副業・兼業ガイドラインでも整理されている考え方です。

順番で説明します。A店に先に採用され、その後B店で働き始めた。この場合、B店が「後から契約した側」です。A店で既に40時間働いている状態でB店が労働させれば、B店の労働時間はすべて法定時間外になります。したがってB店が25%以上の割増賃金を支払う義務を負います。

「先に契約したA店のほうが長く働かせているのに、なぜB店が負担するのか」と思うかもしれません。理屈はこうです。A店は自社の枠内では適法に働かせている。法定時間を超える状態を作り出したのは、後から労働させたB店の側だ、という考え方です。

ただし、この原則には例外があります。所定労働時間ではなく、所定外労働、つまり残業が絡む場合です。

たとえばA店の所定が30時間、B店の所定が8時間で合計38時間。ここまでは法定内です。この状態で、先に契約したA店が5時間の残業をさせて43時間になったとします。この場合、40時間を超えさせたのはA店の残業指示なので、A店が割増賃金を払います。

整理すると、判断の軸は2つです。

第1に、所定労働時間の範囲で超過が発生した場合は、契約の締結順で判断する。後から契約した側が負担します。

第2に、所定外労働で超過が発生した場合は、実際に法定時間超えを発生させた側が負担する。つまり残業を指示した事業主です。

早見表で確認する

よくある組み合わせを表にしました。契約順はA店が先、B店が後とします。

A店の週労働 B店の週労働 通算 割増の対象時間 原則の負担者
30時間 8時間 38時間 なし なし
32時間 8時間 40時間 なし なし
35時間 8時間 43時間 3時間 B店
40時間 5時間 45時間 5時間 B店
20時間 24時間 44時間 4時間 B店
40時間 12時間 52時間 12時間 B店

いちばん下のケースだけ補足します。通算52時間になると、超過が12時間。B店の側では、時給1,200円なら割増分だけで週3,600円の追加負担が発生します。月に直せば1万4,400円ほど。B店にとっては小さくない金額です。

この負担があるからこそ、掛け持ちを申告されると渋い顔をする勤務先が出てきます。次の節で、その現実的な対応を扱います。

勤務先に伝えるべきか、どう伝えるか

「掛け持ちしていることを、言わないといけないんでしょうか」

これも定番のご相談です。答えは、契約内容によります。

多くのアルバイト契約では、就業規則や雇用契約書に副業・兼業に関する条項が入っています。「他社で就労する場合は事前に届け出ること」「許可を得ること」といった形です。この条項がある以上、届け出ずに掛け持ちすれば契約違反にはなります。ただし、届け出義務違反がただちに解雇につながるかというと、そこは別問題です。裁判例では、副業が本業に具体的な支障を与えていない場合、副業を理由とする解雇や懲戒は無効と判断される傾向があります。

なので、伝えるかどうかの判断は「法律で決まっているから」ではなく、「後で困らないため」という実利で考えるのが現実的です。

伝えたほうがいい理由

伝えるメリットは、はっきりしています。

第1に、割増賃金を正しく受け取れます。通算を勤務先が把握していなければ、割増分は計算されません。あなたが本来受け取れる金額を、黙って手放していることになります。

第2に、労災の扱いが変わります。2020年9月の法改正で、複数事業労働者については、すべての勤務先の賃金を合算して労災の給付基礎日額を算定する仕組みになりました。休業補償を受けるとき、合算されるかどうかで金額が大きく変わります。掛け持ちを届け出ていれば、この算定がスムーズです。

第3に、シフトの相談がしやすくなります。掛け持ちを隠したままだと、「その日は無理です」と言い続ける理由を毎回作らなければならない。これは想像以上に消耗します。

伝えにくさの正体

とはいえ、言い出しにくい気持ちもよく分かります。

こういうご相談もありました。

掛け持ちバイトで週40時間以上働きたいと思ってるんですが、メインの勤務先は週40時間以上勤務okで掛け持ち先が厳しいと言われたんですが両方からokを貰わないと法的?にダメですよね? 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

片方はいいと言い、片方は難色を示す。この非対称が、掛け持ちの現実です。理由は前の節で見たとおり、後から契約した側が割増賃金を負担するからです。B店の立場では、同じ仕事をさせても人件費が25%高くなる。だから消極的になる。

法的には、両方から許可をもらわなければ働けない、というわけではありません。許可はあくまで各社の就業規則上の話です。ただし届け出を拒まれた状態で強行すると、契約違反を理由にシフトを削られる可能性はあります。

伝え方の具体例

伝えるときは、いきなり「掛け持ちしています」と切り出すより、時間の情報を添えたほうが話が早いです。

言い方の例を挙げます。

「他店でも働いていて、両方合わせると週が44時間くらいになります。労働時間の通算のことを知ったので、シフトの調整が必要でしたらご相談させてください」

ポイントは3つあります。

1つ目、合計時間を数字で出すこと。相手が計算しなくて済みます。

2つ目、通算ルールを知っている、と示すこと。「知らないでやっていた」と受け取られると、管理不行き届きを指摘されたように感じる店長もいます。制度の話として持ち出すほうが角が立ちません。

3つ目、こちらから調整の余地を示すこと。「減らすつもりはありません」という姿勢だと交渉になりませんが、「調整が必要ならご相談を」と置けば、相手も検討しやすい。

言うタイミングは、シフト提出の前が最適です。組まれた後だと、相手は組み直しの手間を負うことになり、心理的な抵抗が上がります。

伝えないと決めた場合の注意

事情があって伝えられない、という選択もあると思います。その場合に注意すべき点だけ書いておきます。

住民税から掛け持ちが判明することがあります。給与所得が複数ある場合、原則としてメインの勤務先に住民税額が通知され、その額が想定より高いと経理担当が気づくケースです。この経路は、確定申告の際に住民税の徴収方法を選ぶことで一部コントロールできますが、給与所得同士の場合は普通徴収を選べないことが多く、確実な回避策にはなりません。

社会保険の加入手続きからも分かることがあります。両方の勤務先で加入要件を満たすと、日本年金機構への届け出が必要になり、そこで複数勤務が明らかになります。制度の詳細は日本年金機構の案内で確認できます。

そして何より、労災が起きたときに困ります。伝えていない勤務先での事故だと、もう一方の賃金を合算した給付を受けるために、事後的に説明する必要が出てきます。

隠し通すことのコストは、思っているより高い。これは相談を受けていて、繰り返し感じることです。

社会保険と税金の線引きを押さえる

掛け持ちで週40時間を超えると、労働時間以外の論点も動き出します。ここを知らないまま年末を迎えて慌てる方が多いので、先に整理しておきます。

社会保険はどうなるか

健康保険と厚生年金の加入要件は、事業所ごとに判定されます。ここが労働時間の通算と違うところです。

加入要件は、週の所定労働時間および月の所定労働日数が、その事業所の通常の労働者の4分の3以上であること。これを満たさない場合でも、一定規模以上の事業所では、週の所定労働時間が20時間以上、月額賃金が8万8,000円以上、学生でないこと、といった要件を満たせば加入対象になります。

重要なのは、この判定に掛け持ち先の時間は足されない点です。A店で週15時間、B店で週15時間なら、通算では30時間ですが、社会保険はどちらでも加入対象になりません。労働時間は通算するのに、社会保険は通算しない。この非対称が、混乱のもとになっています。

一方、両方の勤務先で加入要件を満たした場合は、「二以上事業所勤務届」を提出することになります。この場合、両方の報酬を合算して標準報酬月額を決め、保険料を各事業所で按分して負担します。手続きは自分で行う必要があるので、要件を満たしそうなら早めに確認してください。

雇用保険の扱い

雇用保険は、原則として1つの事業所でのみ加入します。週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある勤務先が対象で、複数該当する場合は生計を維持するに足る主たる賃金を受ける勤務先で加入するのが基本です。

なお2022年から、65歳以上の労働者を対象に、複数の事業所の労働時間を合算して雇用保険に加入できる仕組みが試行的に始まっています。年齢要件があるので該当者は限られますが、制度は動いている、という認識は持っておくとよいと思います。

確定申告が必要になるライン

給与を2ヶ所以上から受けている場合、年末調整は主たる勤務先1ヶ所でしか行えません。従たる勤務先の給与は年末調整されないため、原則として確定申告が必要になります。

例外として、主たる給与以外の収入の合計が20万円以下なら、所得税の確定申告は不要です。ただしこれは所得税の話で、住民税の申告は別途必要になります。この点は誤解が多いので注意してください。

また、確定申告をしたほうが得になるケースもあります。従たる勤務先では、源泉徴収が乙欄という高めの税率で行われることが多く、申告すると払いすぎた分が還付される場合があるからです。掛け持ちしている方は、面倒でも一度計算してみることをおすすめします。制度の詳細は国税庁のサイトで確認できます。

扶養に入っている場合

配偶者や親の扶養に入っている方は、もう1つ壁があります。

税制上の扶養は、給与収入の合計で判定されます。掛け持ちしている場合、当然すべての勤務先の収入を合算します。片方が少額だから関係ない、とはなりません。

社会保険の扶養は、年収130万円未満が目安です。こちらは1月から12月の実績ではなく、今後1年間の見込み収入で判定されるのが原則です。週40時間近く働いていれば、時給1,100円でも年間200万円を超えます。扶養からは外れる前提で計画したほうがいいでしょう。

週40時間超えが体に与える影響を軽く見ない

ここからは、法律や制度の話から少し離れます。私がカウンセリングの現場で見ている、もう1つの側面です。

週40時間を超える掛け持ちで、いちばん先に壊れるのは、実は体ではありません。判断力です。

労働時間が長くなると、まず睡眠が削られます。睡眠が削られると、判断が雑になる。判断が雑になると、シフトを断る判断ができなくなります。「今週きついな」と思っても、断る理由を組み立てる気力がないので、そのまま受けてしまう。そして翌週さらに時間が増える。

このループに入ると、自力では抜けにくくなります。本人は「まだいける」と思っているのに、周りから見ると明らかに消耗している。そういう状態が数ヶ月続いて、あるとき突然、朝起きられなくなる。これが典型的な経過です。

私が独立してすぐの頃、自分でもこれをやりました。カウンセリングの仕事と並行して、生活を安定させるために別の仕事を入れていた時期があります。両方合わせると週50時間を超えていました。本業が伸びるまでの一時的なことだから、と自分に言い聞かせて。

3ヶ月目に、クライアントの話が頭に入らなくなりました。聞いてはいるんです。でも、その言葉が意味を持って届かない。カウンセラーとして、これは致命的です。そのとき初めて、自分が判断できる状態になかったことに気づきました。減らす決断ができなかったのは、意志が弱かったからではなく、単純に判断機能が落ちていたからです。

だから、掛け持ちの相談を受けるときは、必ず数字で線を引くようお伝えしています。

自分で決めておく3つの線

1つ目、週の合計時間の上限を決めること。45時間なら45時間と、事前に数字で決めます。「無理そうなら減らす」という決め方は機能しません。無理そうかどうかの判断力が、まさに落ちているからです。

2つ目、連続勤務日数の上限を決めること。6日までにする、といった形です。掛け持ちの怖いところは、A店の休みの日にB店を入れると、カレンダー上は連勤にならないのに、実際には何週間も休みがない状態になることです。

3つ目、移動時間を労働時間に含めて計算すること。法的には勤務先間の移動は労働時間に含まれないことが多いですが、体感としては完全に拘束時間です。A店からB店まで40分かかるなら、その40分も自分の計算表には入れておく。そうしないと、実際の負荷を過小評価します。

この3つを紙に書いて、見えるところに貼っておく。地味ですが、効きます。判断力が落ちた自分に判断させないための仕組みなので、シンプルなほどいいんです。

休憩時間のルールも確認しておく

体を守る観点で、休憩の話も入れておきます。

労働基準法第34条は、1日の労働時間が6時間を超える場合に少なくとも45分、8時間を超える場合に少なくとも1時間の休憩を与えることを定めています。これはアルバイトにも当然適用されます。

問題は、掛け持ちのときの扱いです。休憩時間の付与義務は、事業場ごとに判定されます。A店で5時間、B店で4時間働く場合、どちらも6時間以下なので、法律上はどちらの店も休憩を与える義務がありません。でも実際には、その日あなたは9時間働いていて、休憩がゼロという状態が発生しうる。

制度の隙間に落ちる典型例です。だから、法律が守ってくれない部分は自分で埋めるしかありません。移動の間に必ず座って食事をとる、といった形で、意識的に休憩を確保してください。

時間の切り売りから抜ける選択肢を持つ

ここまで、週40時間超えの掛け持ちを続ける前提で書いてきました。最後に、別の角度からの選択肢に触れます。

時給で働く仕事は、収入が時間に完全比例します。増やしたければ時間を増やすしかない。でも1日は24時間しかないので、必ずどこかで頭打ちになります。しかも掛け持ちの場合、上で見たとおり、後から契約した勤務先に割増賃金の負担が生じるため、そもそも長時間シフトを組んでもらいにくいという構造的な壁もあります。

この壁に当たっている方に、私がよくお伝えしているのが、時間単価ではなく成果で報酬が決まる仕事を一部混ぜる、という考え方です。

業務委託で受ける在宅の仕事は、その典型です。労働契約ではないため、労働時間の通算の対象になりません。これは重要なポイントで、アルバイト同士の掛け持ちで生じる割増賃金の論点も、勤務先への届け出の論点も、業務委託の仕事には基本的に発生しません。雇用ではないので、そもそも労働時間という概念で管理されないからです。

もちろん、労働者としての保護がない、という裏返しでもあります。最低賃金の適用もなければ、労災保険の当然適用もない。だから全部を業務委託に切り替えるのは危険です。私が勧めているのは、あくまで一部を混ぜる形。生活の土台になる雇用の仕事は残しつつ、時間に縛られない収入源を少しずつ育てる、という順番です。

どんな仕事から始めるか

在宅で受けられる業務委託の仕事は、分野によって求められる経験がかなり違います。

書く仕事は、比較的入口が広い分野です。取材記事、商品紹介、マニュアル制作など幅があり、経験を積むほど単価が上がりやすい。実際の相場感は著述家,記者,編集者の年収・単価相場にまとまっているので、目安として見てみてください。文字単価や案件の性質によって幅が大きい世界だと分かると思います。

事務系のスキルを持っている方なら、文書作成の正確さがそのまま評価につながります。ビジネス文書の書き方を体系的に押さえておくと安心で、ビジネス文書検定は、その基礎を証明する資格として案件応募時に触れやすいものです。

技術寄りの分野に興味があるなら、報酬水準は上がります。ソフトウェア作成者の年収・単価相場を見ると、書く仕事とは相場の桁が変わることが分かります。ただし学習期間が必要なので、掛け持ちで時間がない状態からいきなり目指すのは現実的ではありません。中期的な目標として置いておく、くらいの距離感がいいと思います。

ネットワーク系の資格を持っているなら、CCNA(シスコ技術者認定)は業務委託の案件でも評価される資格です。すでに関連の実務経験がある方は、活かせる場面が多いはずです。

AI関連の業務は、ここ数年で案件の種類が急速に増えました。AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、企業のAI導入を支援する仕事の内容が整理されています。より広くマーケティングやセキュリティ領域まで見たい場合はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事が参考になります。開発寄りの仕事に関心があるならアプリケーション開発のお仕事も見ておくといいでしょう。

探し方と時間の作り方

在宅の仕事をどう探すかは、それ自体が1つのスキルです。求人の見極め方や、応募時に何を伝えるかで結果が変わります。在宅ワークの求人の探し方5選|初心者でも安心な方法と注意点を徹底解説には、初心者が引っかかりやすい落とし穴も含めて手順がまとまっています。

そして、掛け持ちで疲れている状態から新しい仕事を始めるには、時間の使い方を変える必要があります。まとまった時間は取れないので、細切れの時間で成果を出す方法を身につけるしかありません。在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックでは、短時間で集中に入る具体的な方法が紹介されています。

家庭と仕事を両立している方の1日の組み立て方も参考になります。在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開は、実際にどの時間帯に何をしているかが時系列で書かれているので、自分の生活に当てはめて考えやすいはずです。

市場を長く見てきた立場からの観察

在宅ワークとフリーランスの市場を20年運営してきた立場から、掛け持ちで悩んでいる方に伝えておきたい観察があります。

長く安定して働けている人と、いつまでも時間を売り続けている人の差は、スキルの高さではありません。差がつくのは、同じ相手から繰り返し依頼が来る状態を作れているかどうかです。

運営者として見てきた限りでは、単発の仕事を毎回新しく探し続ける働き方は、どこかで必ず疲弊します。案件を探す時間、条件を交渉する時間、相手のやり方を覚え直す時間。この見えないコストが、実労働と同じくらい体力を削っていく。アルバイトの掛け持ちで消耗する構造と、実はよく似ています。

一方、「この人に頼むと楽だ」という評価を作れた人は、探す作業から解放されます。依頼が向こうから来るので、時間の使い方を自分で決められる。結果として、同じ収入でも拘束時間が短くなる。長く続いている人ほど、目先の単価より、この関係づくりに時間を使っています。

もう1つ、金額の話ではなく手取りの話をしておきます。

仲介が何段も入る仕事は、依頼主が払った金額と、実際に手元に届く金額の間に大きな差が生まれます。依頼主は高い費用を払っているのに、受け手の実感は薄い。この構造では、双方に不満が残ります。

中間マージンが乗らない直接取引だと、この差が縮まります。依頼主は同じ予算でより多くを頼めるようになり、受け手の手取りは厚くなる。手数料0%という条件が意味するのは、単に金額が増えるということではなく、双方が納得しやすい関係が作れる、ということです。長く続く取引関係は、たいていこの形になっています。

そして、これは掛け持ちで悩んでいる方にとって、直接関係のある話です。週40時間を超えて働かなければ生活が成り立たない、という状態は、多くの場合、1時間あたりの手取りが薄いことから生まれています。時間を増やす方向で解決しようとすると、体が先に限界を迎える。手取りの厚い仕事を1つでも持てれば、必要な労働時間そのものが減ります。

すぐに切り替えられる話ではありません。ただ、方向として持っておくかどうかで、1年後の状態はかなり変わります。

掛け持ちの時間管理を仕組みにする

最後に、いま掛け持ちを続けている方が今日からできることを整理します。

労働時間を1ヶ所で合算する

まず、両方の勤務時間を1つの表で管理してください。方法は何でもかまいません。スマートフォンのカレンダーに両方の勤務を入れる、スプレッドシートに手入力する、紙のカレンダーに書き込む。大事なのは、合計が一目で見える状態を作ることです。

週の区切りは、就業規則で定められた起算日に合わせます。定めがない場合は日曜起算が原則です。ここがずれていると、計算が合いません。

記録すべき項目は4つ。勤務先、日付、実働時間、休憩時間。これだけで十分です。項目を増やすと続きません。

週の途中で確認する習慣を持つ

週が終わってから合計を見ても、手遅れです。木曜あたりに一度確認して、残り時間を把握する。これを習慣にしてください。

「今週はあと6時間で40時間に届く」と分かっていれば、金曜のスポット勤務を入れるかどうかを、意識的に判断できます。何も見ずに受けてしまうのと、数字を見て受けるのとでは、後の納得感がまったく違います。

給与明細で割増分を確認する

割増賃金が正しく支払われているか、明細で確認してください。時間外労働の欄があるか、その単価が通常の1.25倍以上になっているか。深夜(22時から翌5時)の勤務があれば、さらに25%の深夜割増が加算されます。時間外かつ深夜なら合計50%増しです。

計算が合わない場合、まず勤務先に確認します。それでも解決しないときは、労働基準監督署に相談する道があります。労働時間や賃金に関する相談窓口の案内は厚生労働省のサイトに掲載されています。

記録を残しておく

シフト表、タイムカードの写し、給与明細。これらは最低でも数年は保管してください。

割増賃金の未払いを後から請求する場合、賃金請求権の消滅時効は当面3年とされています。請求するには、実際に働いた時間を自分で立証する必要があります。記録がなければ、主張が通りません。

スマートフォンで写真を撮って、クラウドに保存しておくだけで十分です。手間はほとんどかかりません。

数字で自分の状態を見る

最後にもう一度、体の話に戻ります。

週の合計時間を記録すると、自分の消耗度を数字で見られるようになります。「なんとなくきつい」ではなく「今月は平均47時間だった」と分かる。この違いは大きいです。

数字が出ていれば、減らす判断も客観的にできます。逆に「思ったより働いていなかった」と分かることもある。どちらにしても、感覚だけで自分を評価するより、ずっと正確です。

掛け持ちで週40時間を超えること自体は、悪いことではありません。生活のために必要な選択であることも多い。ただ、それを見えない状態で続けるのは危険です。見える化して、線を引いて、記録を残す。この3つを仕組みにできれば、掛け持ちはずっと扱いやすくなります。

そして、いつか時間を減らせる方向に舵を切れるよう、選択肢だけは持っておいてください。今日すぐでなくてかまいません。方向を知っているかどうかが、いちばん効いてきます。

よくある質問

Q. アルバイトを掛け持ちして週40時間以上働くのは違法ですか?

違法ではありません。労働基準法が禁じているのは、使用者が法定労働時間を超えて働かせることであり、働く側に上限の義務はありません。しかも36協定の届け出と割増賃金の支払いがあれば、超えて働かせること自体も合法です。責任を問われるのは雇う側なので、あなたが罰せられることはありません。

Q. 週40時間を超えた分の割増賃金は、どちらの勤務先が払うのですか?

原則として、時間的に後から労働契約を結んだ勤務先が負担します。先の勤務先ですでに40時間に達している状態で働かせた側が、法定時間超えを生じさせたと考えるためです。ただし所定外労働、つまり残業で超過が発生した場合は、実際に残業を指示した勤務先が負担します。

Q. 掛け持ちしていることを勤務先に伝えないとどうなりますか?

就業規則に届け出義務があれば契約違反にはなりますが、それだけで解雇が有効になるとは限りません。ただし伝えないと割増賃金が計算されず、本来受け取れる金額を失います。労災時に複数勤務先の賃金を合算する手続きも煩雑になるため、伝えるほうが実利があります。

Q. 掛け持ちで週40時間を超えると、社会保険や確定申告はどうなりますか?

社会保険の加入要件は事業所ごとに判定され、労働時間は通算されません。両方で要件を満たした場合のみ二以上事業所勤務届が必要です。税金は、2ヶ所以上から給与を受けると年末調整が1ヶ所でしかできないため、原則として確定申告が必要になります。従たる給与が20万円以下なら所得税の申告は不要ですが、住民税の申告は別途必要です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年1月29日最終更新:2026年8月3日
中西 直美

この記事を書いた人

中西 直美@SOHO編集部

産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。

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