NDAと業務委託契約は別々に結ぶべきか|一体化するメリットと注意 2026


この記事のポイント
- ✓NDA(秘密保持契約)と業務委託契約を一体化するか別契約にするか迷う発注者向けに
- ✓費用相場・条項の作り方・注意点を整理しました
- ✓フリーランスへ直接依頼する際の判断基準を具体的に解説します
「NDAは業務委託契約とは別に結ぶべきなのか、それとも一本の契約書にまとめてしまってよいのか」。外注を検討し始めた担当者から、こういうご相談をよく受けます。答えを先に言うと、どちらも間違いではありません。ただ、案件の性質と契約管理の体制によって向き不向きがはっきり分かれます。この記事では、一体化するメリットと注意点、そして実務でつまずきやすいポイントを整理してお伝えします。
NDAと業務委託契約をめぐる現状
フリーランスや業務委託先への外注が広がるなかで、契約書の作り方に関する相談は年々増えています。中小企業庁の調査でも、外部人材の活用を進める企業は右肩上がりで増加していると報告されており、契約実務の整備が追いついていない現場は珍しくありません。
特に多いのが「これまで社員としか仕事をしてこなかったので、社外の人に情報を渡す契約書の作法が分からない」という声です。社員であれば就業規則や雇用契約の中に守秘義務が組み込まれていますが、業務委託の相手はそうはいきません。情報を渡す前提が違うので、契約書の設計から見直す必要があります。
NDAと業務委託契約はセットで考えましょう。業務委託契約とは、自社の業務の一部を外部(他企業や個人)へ委託する際に結ぶ契約のことです。業務委託契約には「請負契約」「委任契約」「準委任契約」の3種類があります。以下では、それぞれの違いについて解説します。 出典: seraku.co.jp
この引用が示す通り、NDAと業務委託契約は本来セットで検討すべきものです。問題は「セットで検討する」ことと「1本の契約書に一体化する」ことが同じではない、という点です。ここを混同すると、後々のトラブルの元になります。
私自身、フリーランスとして独立してから外部に業務を依頼する立場になり、最初はこの違いをまったく理解していませんでした。知人の紹介で見つけたデザイナーさんに仕事を頼む際、契約書のひな形をそのままコピーして送ってしまい、後から「秘密保持の範囲があいまいで、何を守ってもらえばいいのか相手も困っていた」と気づいたことがあります。契約書は形式を整えるだけでなく、中身が実際の業務に合っているかを確認する作業が欠かせないと、身をもって学びました。
NDAと業務委託契約、それぞれの役割の違い
まず整理しておきたいのは、この2つの契約が守っている対象がそもそも違うという点です。
NDAが守るもの
NDA(Non-Disclosure Agreement、秘密保持契約)は、その名の通り「秘密情報をどう扱うか」だけに特化した契約です。取引を始める前の検討段階、たとえば見積もり依頼や打ち合わせのために自社の内部資料を見せる必要がある場面で、まず結ぶのが基本形です。
検討が短期間で終わり、すぐに取引に関する契約が締結できれば、取引に関する契約書(業務委託契約書や取引基本契約書など)にある「秘密保持」条項で、秘密情報の開示を受ける当事者に対し、秘密保持義務を課すことができるのですが、検討期間は通常数カ月かかることも多く、この場合、秘密保持義務を秘密情報の開示を受ける当事者に課すことのできない状態が継続してしまいます。 出典: hilltop-office.com
この指摘は実務上とても重要です。つまり、業務委託契約を結ぶ前の「お試し期間」「検討期間」が長引く場合、NDAを別に結んでおかないと、その間に開示した情報が無防備な状態になってしまうのです。逆に言えば、検討期間がほとんどなく、すぐに業務委託契約を結べる見込みが立っているなら、業務委託契約の中に秘密保持条項を組み込む一体型でも問題は起きにくいということになります。
業務委託契約が守るもの
一方、業務委託契約は「誰が」「何を」「いつまでに」「いくらで」やるのかという業務の骨組みを定める契約です。請負契約なら成果物の完成、委任契約や準委任契約なら業務の遂行そのものが目的になります。秘密保持はこの契約の中の一条項として扱うことも、独立した契約として扱うこともできます。
つまりNDAと業務委託契約は、目的も対象期間も本来異なるものです。それをどう組み合わせるかは、案件の性質によって変わってきます。
一体化するメリットとデメリット
メリット1:契約管理がシンプルになる
小規模な案件、たとえば単発のバナー制作やSNS投稿の代行を1ヶ月だけ依頼するような場合、契約書が2通に分かれているとお互いに管理が煩雑になります。業務委託契約書の中に秘密保持条項を組み込んでしまえば、押印・電子署名の手続きも1回で済み、締結漏れのリスクも減らせます。契約書の本数を半分にできる点は、特に契約書を扱う担当者が自分ひとりしかいない小規模事業者にとって、実務上のメリットが大きいです。
メリット2:期間の整合性が取りやすい
秘密保持義務の存続期間は、業務委託契約の終了後も一定期間(一般的には2年から5年程度)続けるのが通例です。一体型の契約書であれば、この存続条項をひとつの条文としてまとめて管理できるため、「業務委託契約は終わったのにNDAだけ有効期限が切れていた」といった見落としが起きにくくなります。
デメリット1:検討段階の情報開示を守れない
先ほどの引用にもあった通り、業務委託契約を結ぶ前の打ち合わせ段階で機密情報を渡す必要がある場合、一体化した契約書ではその期間をカバーできません。見積もり比較のために複数の候補者へ資料を見せる、といった場面では、一体型ではなく事前に単独のNDAを結ぶ必要があります。
デメリット2:契約が終わった後の扱いが曖昧になりやすい
一体型の契約書は「契約終了と同時にすべての条項が失効する」という誤解を生みやすい面があります。実際には秘密保持条項だけは契約終了後も存続させる「残存条項」を明記する必要がありますが、この部分を作り込まずにテンプレートをそのまま使うと、契約終了後に情報漏えいが起きても法的な後ろ盾がなくなってしまいます。
デメリット3:再委託先への義務の引き継ぎが漏れやすい
もう一つ見落としがちなのが、再委託の扱いです。
更に、業務委託契約の場合のように、受注者が業務を再委託先に再委託する場合、再委託先にも業務を実施するうえでの必要な情報が開示されますので、再委託先も秘密保持義務を負うことになります(再委託先が受注者と同等の義務を負う旨記載)。 出典: hilltop-office.com
一体型の契約書でこの条項が抜け落ちていると、受注者が別の協力者に仕事の一部を任せた際、その協力者には秘密保持義務が及ばない状態になってしまいます。特に制作・開発系の業務委託では再委託が起きやすいため、一体化する場合も「再委託先への義務の引き継ぎ」を必ず明記する必要があります。
どちらを選ぶべきか|判断の目安
発注者として契約書を用意する際、次の3つの基準で判断すると迷いにくくなります。
基準1:検討期間の長さ
見積もり比較や打ち合わせに1ヶ月以上かかりそうであれば、まず単独のNDAを結んでから業務委託契約に進むのが安全です。逆に、初回の打ち合わせからすぐに契約に進める見込みが高いなら、一体型でも実務上のリスクは小さくなります。
基準2:開示する情報の重要度
顧客リスト、未公開の事業計画、独自の技術情報など、漏えいした場合の損害が大きい情報を扱う場合は、単独のNDAで秘密保持の範囲・目的外使用の禁止・違反時の措置を丁寧に定めるべきです。一方、一般的な業務マニュアルや社内フォーマット程度であれば、一体型の条項でも十分にカバーできます。
基準3:契約期間の長さ
数ヶ月から数年にわたる継続的な業務委託であれば、契約書自体を都度更新することが多いため、一体型でも秘密保持条項の内容を都度見直す機会があります。逆に単発・短期の案件は更新の機会がないまま契約が終わってしまうため、秘密保持の存続期間を契約書内で明確に定めておくことが特に重要になります。
発注者が注意すべき条項の作り方
一体型にする場合も、単独のNDAにする場合も、次の項目は必ず具体的に定めてください。
・秘密情報の定義:「本契約に関連して開示される一切の情報」のような曖昧な定義ではなく、「書面・電子データで秘密である旨を明示した情報」のように範囲を絞ると、後のトラブルを防げます。
・目的外使用の禁止:委託した業務の遂行以外の目的で情報を使わない旨を明記します。
・存続期間:契約終了後も秘密保持義務が何年続くのかを数字で明記します。一般的には契約終了後2年から5年程度が相場です。
・再委託の扱い:受注者が第三者に業務の一部を任せる場合、その第三者にも同等の秘密保持義務を負わせる旨を明記します。
・返還・破棄義務:契約終了時に開示した資料やデータをどう扱うか(返還するのか、破棄して証明書を出してもらうのか)を定めます。
・損害賠償:秘密保持義務に違反した場合の損害賠償について触れておくと、抑止力になります。
これらの項目は、法務スタッフが常駐していない中小企業や個人事業主にとってはハードルが高く感じられるかもしれません。ただ、ひな形をそのまま使うのではなく、自社が渡す情報の中身に照らして一文ずつ確認するだけでも、リスクはかなり下げられます。
よくある失敗パターン
発注者側の実務でよく見かける失敗を紹介します。
失敗1:テンプレートをそのまま使い、業務内容と条項がかみ合っていない
インターネットで見つけたひな形をそのまま使い、実際の業務内容と秘密情報の範囲が一致していないケースです。たとえば動画編集を依頼しているのに、契約書の秘密情報の定義が「顧客の個人情報」だけを想定した文言になっていて、実際に渡す素材データについては何も規定されていない、といったことが起こります。
失敗2:一体型にしたのに存続条項を書き忘れる
業務委託契約が終了すれば秘密保持義務もすべて終わる、と誤解して契約書を作ってしまうケースです。前述の通り、秘密保持条項は契約終了後も一定期間存続させる必要があります。
失敗3:検討段階でNDAなしに資料を渡してしまう
契約を急ぐあまり、正式契約前の打ち合わせで資料を渡してしまい、後からNDAを結ぼうとしても「もう見せた情報」はカバーできない、という失敗です。情報を渡す前に契約を結ぶ、という順番を徹底することが何より大切です。
独自データ考察|直接依頼という選択肢
契約書の整備と並んで、発注者が見落としがちなのが「誰に依頼するか」というルートの選び方です。
代理店やエージェント経由でフリーランスに業務を依頼する場合、仲介手数料が上乗せされるのが一般的です。相場としては業務委託料の20%から30%程度が仲介マージンとして差し引かれるケースが多く見られます。一方、フリーランスへ直接依頼すれば、この中間マージンが発生しない分、同じ予算でより多くの業務を依頼できるようになります。
契約書の整備という観点でも、直接依頼の場合はNDAや業務委託契約の内容を発注者と受注者の間で直接すり合わせられるため、代理店を挟むよりも条項の意図を正確に伝えやすいという利点があります。もちろん、契約書の作成や見直しの手間は発注者自身が負うことになりますが、ひな形を用意しておけば大きな負担にはなりません。
20年近くフリーランス・在宅ワーク市場を見てきた運営者の視点から言えば、長く安定して付き合える委託先ほど、契約書の段階から丁寧なやり取りができている傾向があります。秘密保持の範囲や再委託の可否について発注者側からきちんと説明し、受注者側もそれに納得して契約を結んでいる関係は、後々の追加発注や継続契約につながりやすいと感じます。逆に、契約書を形式だけ整えて中身を確認しないまま進めてしまう案件ほど、途中で「言った・言わない」のトラブルに発展しやすい印象です。
中間マージンが乗らない直接取引は、依頼する側にとっては同じ予算でより多くの業務を頼める余地が生まれ、受け手にとっては手取りが厚くなるという、双方にとって得のある構造です。この構造を活かすためにも、契約書の整備は発注者自身が主体的に取り組むべき実務だと考えています。
外注を検討する際に、業務内容の切り出し方から迷うことも多いはずです。たとえばAIコンサル・業務活用支援のお仕事では、社内のAI活用を外部の専門家に相談する際の業務範囲の決め方を紹介しています。マーケティングやセキュリティ分野で外部人材を活用する場合はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事、システム開発を伴う案件ではアプリケーション開発のお仕事も参考になります。
依頼する相手の報酬水準を把握しておくことも、適正な契約条件を決めるうえで役立ちます。エンジニアへの依頼であればソフトウェア作成者の年収・単価相場、記事作成やコンテンツ制作を依頼する場合は著述家,記者,編集者の年収・単価相場のデータベースで、業界の相場感を事前に確認しておくと、見積もりの妥当性を判断しやすくなります。
クラウド関連の業務を依頼する機会が増えている企業では、依頼先の技術力を見極める材料として資格の有無を確認することもあります。Microsoft Azure Fundamentals(AZ-900)やCCNA(シスコ技術者認定)は、クラウドやネットワーク分野での基礎知識を示す資格として、発注先選定の参考情報のひとつになります。
なお、受注者側がNDAをどう扱うべきかについてはフリーランスのNDA(秘密保持契約)テンプレート|書き方と注意点で詳しく解説しています。発注者・受注者の双方が同じ理解を持っておくことで、契約締結までのやり取りがスムーズになります。また、業務委託契約を使って人材を募集する際の基本的な流れは業務委託契約で人材を募集する方法|正社員採用との違い【2026年版】にまとめています。クラウド関連の副業人材を探している場合はAzure Fundamentals(AZ-900)で始めるクラウド副業|Microsoft資格の価値も、依頼先の候補を理解するうえで参考になるはずです。
契約書は一度作って終わりではなく、案件の性質に合わせて都度見直す前提で運用するのが、発注者としてリスクを抑える一番の近道です。一体化するかどうかで悩んだときは、まず検討期間の長さと、開示する情報の重要度の2点から考えてみてください。
よくある質問
Q. NDAと業務委託契約を一体化すると印紙税は変わりますか?
契約書の性質によって印紙税の課税対象が変わる場合があります。業務委託契約が請負契約に該当する場合は課税文書となることがあるため、一体化した契約書を作成する際は国税庁の印紙税に関する案内を確認するか、税理士に相談することをおすすめします。
Q. NDAだけを結ぶ場合、費用相場はどのくらいですか?
自社でひな形を用意して締結するだけであれば費用はかかりません。弁護士にレビューを依頼する場合は、契約書1通あたり3万円から10万円程度が相場です。案件の重要度に応じて依頼するかどうか判断してください。
Q. 一体型の契約書を途中で単独のNDAに分けることはできますか?
可能です。契約は当事者間の合意で内容を変更できるため、途中から秘密保持条項を独立させた覚書を追加で締結する方法があります。ただし変更後の内容は書面で明確に残しておく必要があります。
Q. フリーランスに直接依頼する場合、契約書はどちらが用意すべきですか?
一般的には発注者側が用意するケースが多いです。ひな形をそのまま使うのではなく、依頼する業務内容に合わせて秘密情報の範囲や再委託の扱いを調整したうえで、受注者に提示するとトラブルを防ぎやすくなります。
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この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
中西 直美@SOHO編集部
産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。
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