フリーランス採用のリスクと対策|人事担当者が知るべき法的注意点

久世 誠一郎
久世 誠一郎
フリーランス採用のリスクと対策|人事担当者が知るべき法的注意点

この記事のポイント

  • フリーランス採用における法的リスクと対策を人事担当者向けに解説
  • 知らないと危険な法的注意点を網羅

「フリーランスを業務委託で契約するとき、法的に何を気をつければいいですか?」。人事担当者からの質問で最も多いのがこれです。特に近年は働き方の多様化に伴い、副業やフリーランスへの発注を積極的に行う企業が増えていますが、同時に法的なトラブルも急増しています。

正社員の採用なら労働基準法のルールが明確ですが、フリーランスとの業務委託は労働法や下請法、さらに2024年に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)など、複数の法律が複雑に絡み合います。知らずに「うちは大丈夫」と思っている企業ほど、実は大きなリスクを抱えています。

人材会社に25年いた経験から断言しますが、形式だけで判断するのは非常に危険です。実際に先月も、業務委託のつもりで契約していたのに、実態が労働者とみなされ、労基署から是正勧告を受けたコンサル先の企業がありました。その結果、過去の残業代や社会保険料の遡及支払いが必要になり、数百万円単位の想定外のコストが発生したケースです。

本記事では、企業がフリーランスと安全に業務委託契約を締結し、健全な協力体制を構築するために必要な法的知識と実務上の注意点を詳細に解説します。

3大リスク

フリーランスとの取引において、企業側が特に警戒すべきリスクは大きく分けて以下の3点です。

リスク1:偽装請負

最も多い問題が、形式は「業務委託契約」なのに、実態が労働者派遣や労働契約になっている「偽装請負」です。

私がコンサルしている企業でも過去3件、「業務委託のつもりだった」のに労基署から是正勧告を受けた例があります。いずれも共通していたのは「勤務時間を9時〜18時で指定していた」という事実です。担当の若い人事課長は「業務の効率化のために時間を合わせただけです」と弁明しましたが、法律上は完全なアウトです。

偽装請負かどうかの判定は、契約書のタイトルではなく「実態」で決まります。特に重要なのが「指揮命令権」の所在です。

チェック項目 業務委託(適法) 偽装請負(違法)
勤務場所の指定 フリーランスが自律的に選択 会社が場所を指定・拘束
勤務時間の指定 納期(成果物)で管理 9時〜18時などの就業時間を指定
業務の進め方 フリーランスの裁量で工夫 具体的な手段・順序を指示
業務の代替性 再委託が可能(契約による) 本人が必ず従事する必要がある
報酬の計算 成果物の対価として支払う 時間単価(時給・日給)で計算
備品・ツール 自身のPC等を利用 会社の備品を使用・貸与

右の列に3つ以上該当すると偽装請負のリスクが極めて高いといえます。偽装請負が認定されると、行政指導(是正勧告)だけでなく、労働者としての認定がなされ、未払い残業代や社会保険料の遡及支払い義務が発生します。悪質な場合は刑事罰(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)に処される可能性もあります。

業務指示のNG例とOK例(実務上の境界線)

実務において、フリーランスとやり取りする際の「言い回し」や「指示の出し方」には細心の注意が必要です。

項目 NG(指揮命令とみなされるリスク) OK(成果物管理として適法)
出勤・場所 「毎日9時に出社してください」 「成果物を○月○日までに納品してください」
進捗管理 「今すぐ報告して」「作業の手を止めてこれをやって」 「マイルストーンごとに進捗共有をお願いします」
ミーティング 「毎朝の朝会に必ず参加してください」 「週1の情報共有に任意で参加していただけると助かります」
指示出し 「この方法で、この順序で作業して」 「この仕様書通りの品質で成果物を作成してください」

「指揮命令」は労働法上の強い拘束力を持つのに対し、「業務委託」はあくまで「成果物の完成」に対する対価です。常に「何を(What)」を求めるのが原則であり、「どうやって(How)」を強要してはいけません。

リスク2:下請法違反

資本金が1,000万円を超える企業が、フリーランス(個人または資本金1,000万円以下の法人)に「情報成果物作成」や「役務提供」を委託する場合、下請法(下請代金支払遅延等防止法)の適用対象となります。

下請法は立場の弱い下請業者を守るための非常に強力な法律です。禁止される行為には以下のようなものがあります。

  • 受領日(納品日)から60日以内に支払わないこと
  • 発注時に合意した金額を、後から一方的に減額すること
  • 正当な理由なく、完成した成果物を返品すること
  • 通常の対価を著しく下回る金額で発注すること(買い叩き)

もし違反が発覚すれば、公正取引委員会から勧告を受け、企業名の公表が行われます。社会的信用の失墜は計り知れません。 小嶺氏は、株式会社武蔵野(ダスキンフランチャイズ最大手、年商60億円超)の取締役で、採用支援サービス「Kimete」を展開されています。同氏の指摘通り、外部リソースを活用する際も、その法的責任は発注元の企業が負います。外部に丸投げするのではなく、自社の法務部が契約書をチェックし、スキーム自体が適切であるかを定期的に見直す体制は必須です。

リスク3:フリーランス新法への対応

2024年11月に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等に関する法律」(フリーランス新法)は、フリーランスを取り巻く取引環境を改善するために非常に重要な法律です。これまでの下請法よりも適用範囲が広く、多くの企業が対応を迫られています。

義務内容 対象となる取引
取引条件の明示 すべての発注(口頭はNG、書面またはメール等が必要)
報酬の支払期日 受領日から60日以内
禁止行為 減額、返品、買い叩き等の禁止
ハラスメント対策 相談窓口の設置等の義務化

私がコンサルしている企業でも、新法施行前は半数以上がこの義務を正しく認識しておらず、特にお仕事ガイドや業務要件の「書面明示」が徹底されていませんでした。

フリーランスは仕事・生活面で様々なリスクが起こり得る。フリーランスは、自分次第で好きな働き方を選ぶことができます。その一方で、リスクの管理も自分次第です。 — 出典: フリーランスが抱える3大リスクとは?(創業手帳)

創業手帳は累計発行部数200万部超を誇る、日本最大級の起業・創業支援メディアです。フリーランス側が自分自身でリスク管理をしているのと同様に、発注企業側も法を遵守することで、双方にとって持続可能で安心な取引環境が生まれます。

リスク回避の4つの対策

上記のような法的リスクを回避するため、実務レベルで導入すべき対策を解説します。

対策1:契約書の徹底的な整備

口約束や、軽いメールのやり取りだけで業務を開始させるのは最も危険な行為です。必ず以下の条項を明記した「業務委託契約書」を締結してください。

  • 業務内容(業務範囲の定義): どこからどこまでが業務なのか、曖昧さを排除する
  • 報酬額と支払い条件: 消費税の取り扱いや、振込手数料の負担について
  • 納期と検収方法: いつまでに、どのような品質で納品するか
  • 修正回数の上限: どこまでが対価に含まれ、どこからが追加発注かを規定
  • 秘密保持条項(NDA): 漏洩リスクへの備え
  • 知的財産権の帰属: 納品物の権利がどちらにあるか
  • 契約解除の条件: 債務不履行時などの対応ルール

対策2:指揮命令関係を作らない組織体制

「フリーランスを社員のように扱う」ことへの心理的障壁を徹底的に取り除く必要があります。

  • 業務指示はすべて「アプトプット(成果物)」の定義として言語化する
  • 社内のタイムカードシステムや勤怠管理システムに、フリーランスを登録してはならない
  • 自社社員向け朝会や定例会議への参加は、あくまで「情報共有の場」として、参加義務を課さない(任意参加の形式をとる)

対策3:適正な支払いサイトの順守

下請法やフリーランス新法を意識し、支払いサイトを最適化します。

パターン 支払い日 適法性
月末締め翌月末払い 受領後最大30日 ◎ 安心
月末締め翌々月15日払い 受領後最大45日 ○ 適法
月末締め翌々月末払い 受領後最大60日 △ 注意
それ以降の支払い 60日超 × 違法

企業のキャッシュフロー上の理由で支払いサイトを長く設定したい場合でも、法令順守が最優先です。

対策4:インボイス制度への慎重な対応

消費税の取り扱いについては非常にデリケートです。

  • 登録済み事業者: 通常通り、消費税の全額仕入税額控除が可能
  • 未登録事業者(免税事業者): 2026年9月30日までは80%控除可能(経過措置)

ここでの注意点は、インボイス登録をしていないことを理由に「消費税分を値引きしてほしい」と一方的に要請することです。これは下請法における「買い叩き」とみなされ、公正取引委員会から指摘を受ける重大なリスクになります。報酬交渉はあくまで双方の合意に基づいて行う必要があります。

今後の展望と社内チェックリスト

企業がフリーランスを戦力として活用することは、DX推進やスピード感のある経営において不可欠です。しかし、その活用には専門的な法務の知識が不可欠です。最後に、社内の体制を見直すためのチェックリストを掲載します。

社内チェックリスト

  • 業務委託契約書は最新の法律(フリーランス新法等)に準拠したフォーマットになっているか
  • 現場の担当者がフリーランスに指揮命令をしていないか(定期的な研修の実施)
  • 支払いサイトは受領日から60日以内に設定されているか
  • すべての発注において取引条件を明示した書面または電磁的記録を交付しているか
  • インボイス未登録者に対して不当な値下げ要求を行っていないか
  • 万が一のトラブルに備え、フリーランス専用のハラスメント相談窓口を設置しているか

もし社内に法務専門職がいない場合は、@SOHOの資格ガイドなどを活用し、社会保険労務士や行政書士などの有資格フリーランスに、法務チェックのみをスポットで依頼するのも有効な手法です。第三者の専門家を通すことで、客観的なリスク排除が可能になります。

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よくある質問

Q. 2026年の下請法改正(取適法)はすべてのフリーランスに適用されますか?

はい、原則としてBtoB(企業間取引)で業務を受託するすべてのフリーランス・個人事業主が保護の対象となります。

Q. インボイス制度に登録しないと法律違反になりますか?

いいえ、法律違反にはなりません。インボイス制度への登録は事業者の任意であり、免税事業者のままでいること自体に罰則や法的なペナルティは一切ありません。

Q. フリーランス向けのセキュリティ対策として最低限必要なツールは何ですか?

最新のOSとアンチウイルスソフトに加え、通信を暗号化するVPN、そして安全なパスワード管理を行うためのパスワードマネージャーの導入が推奨されます。これらはリモートワークにおける必須のインフラと言えます。

Q. フリーランスになったら、まずどの保険に入ればいいですか?

まずは「賠償責任保険」です。月額1,000円程度で、個人では負いきれない数千万円〜1億円の賠償リスクをカバーできます。次に検討すべきは、病気やケガで無収入になるリスクを防ぐ「所得補償保険」です。

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久世 誠一郎

この記事を書いた人

久世 誠一郎

元人材コンサル・中小企業支援歴25年

大手人材会社でコンサルティング部門を率いた後、中小企業の業務改善・外注戦略の支援に転身。発注者目線でのクラウドソーシング活用術を発信しています。

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