一人会社(マイクロ法人)の作り方|フリーランスが法人成りする手順

織田 莉子
織田 莉子
一人会社(マイクロ法人)の作り方|フリーランスが法人成りする手順

この記事のポイント

  • フリーランスが一人会社(マイクロ法人)を設立する具体的な手順を解説
  • 合同会社と株式会社の違い
  • 登記手続きから設立後にやるべきことまで実務経験に基づいて紹介します

「法人化したいけど、社員は自分一人。それでも会社って作れるの?」という質問、税理士や起業コンサルタントとして活動していると、本当によくいただきます。結論から申し上げますと、社員が自分一人であっても、まったく問題なく会社は設立できます。むしろ、現在フリーランスや個人事業主から法人成り(法人化)するケースの大半は、この「一人会社(マイクロ法人)」と呼ばれる形態なのです。

2006年の会社法改正により、資本金1円から、そして取締役1名からでも株式会社や合同会社が設立できるようになりました。それ以前は、株式会社を作るためには最低資本金1,000万円、取締役3名以上、監査役1名以上が必要という非常に高いハードルが存在していましたが、現在ではその壁は完全に払拭され、誰でも手軽に法人を所有できる時代になっています。

私が過去に会計事務所で担当したフリーランスの法人設立案件は、累計で50件以上にのぼります。そのうち、実に約8割が従業員を雇わない一人会社でした。従業員を雇う予定が一切なくても、節税効果の最大化、取引先からの信用力向上、あるいは社会保険料の最適化などを目的として法人化を選択するケースが後を絶ちません。特に近年はインボイス制度の導入により、消費税の課税事業者にならざるを得ないフリーランスが増加したことで、どうせ課税事業者になるなら法人化してしまおうという動きが加速しています。

ただし、法人化は決して「魔法の杖」ではありません。勢いで設立してしまったがゆえの失敗例も数多く見てきました。 例えば、ユウトさん(34歳・Webエンジニア)のケースです。彼は売上が上がり始めた勢いで株式会社を設立したものの、設立費用として約22万円がかかりました。さらに、初年度の税理士顧問料が年間36万円、赤字であっても必ず納めなければならない法人住民税均等割が毎年7万円と、ランニングコストが重くのしかかりました。結果として、法人化前よりも手取り額が減ってしまうという本末転倒な事態に陥ってしまったのです。彼の当時の課税所得はまだ500万円に満たない段階であり、法人化に踏み切るには、正直なところ早すぎたと言わざるを得ません。「もう1年、個人事業主のまま待ってからにすればよかった」と、今でも彼は少し後悔しています。

一般的に、法人化の目安となるのは「課税所得が800万円900万円を超えたタイミング」または「売上が1,000万円を超えて消費税の課税事業者になるタイミング」と言われています。所得税は累進課税制度をとっており、所得が高くなるほど税率も上がり、最大で45%(住民税と合わせると55%)にも達します。一方で、法人税は中小企業であれば年800万円以下の所得に対しては15%という軽減税率が適用されます。この税率の逆転現象が起きるのが、おおよそ所得800万円前後なのです。

本記事では、一人会社の設立手順から、合同会社と株式会社の違い、リアルな設立費用、絶対に知っておくべき注意点、そして案件獲得の戦略まで、一人会社設立に関するあらゆる疑問を完全網羅で徹底的に解説していきます。

合同会社と株式会社、どちらを選ぶか

一人会社を設立する際、最初に直面する選択肢が「法人形態をどうするか」です。選べる法人形態は、主に合同会社(LLC)株式会社2つです。それぞれの特徴を詳細に比較してみましょう。

比較項目 合同会社 株式会社
設立費用 約6〜10万円 約20〜25万円
定款認証 不要 必要(約5万円)
登録免許税 6万円 15万円
決算公告義務 なし あり
社会的信用 やや低い 高い
役員の任期 制限なし 最長10年(変更登記が必要)
将来の資金調達 株式発行不可 株式発行で資金調達可

結論から言うと、一人会社なら圧倒的に合同会社がおすすめです。 最大の理由は、設立時および設立後の維持コストの安さです。設立費用が約6万円と、株式会社の3分の1以下で済みます。株式会社の場合、公証役場での定款認証手数料として約5万円、法務局での登録免許税として最低15万円が必要になりますが、合同会社は定款認証が不要で、登録免許税も6万円のみです。

さらに、設立後のランニングコストにも大きな差が出ます。株式会社には毎年の決算内容を官報等で公表する「決算公告」の義務があり、これに毎年約7万円程度の費用がかかる場合があります(※ただし中小企業では怠っているケースも多いのが実情ですが、法律上の義務です)。合同会社にはこの決算公告の義務がありません。 また、株式会社の役員(取締役)には最長10年の任期があり、任期が切れるたびに重任登記(法務局への届け出)を行う必要があり、その都度1万円の登録免許税と、司法書士への報酬数万円が発生します。合同会社は役員の任期が無制限であるため、この更新コストも一生かかりません。

ただし、大企業との直接取引をメインに据える場合や、将来的にベンチャーキャピタルから数千万円規模の資金調達を考えている場合、あるいは上場(IPO)を目指すようなスタートアップモデルの場合は、最初から株式会社にしておいたほうが良いケースもあります。合同会社は株式を発行できないため、第三者からの出資を受け入れるハードルが高くなります。また、古い体質の大企業の中には「取引口座の開設は株式会社に限る」といった内部規定を設けているところもゼロではありません。

ある程度事業が安定してきた個人事業主の場合、そのままの形態で事業を進めるよりも、マイクロ法人を設立したほうが様々なメリットを得られる可能性があるため、近年注目が高まっています。 出典: フリーランス・個人事業主は知っておきたい新たな選択肢「マイクロ法人」(辻・本郷税理士法人)

特に社会保険料の最適化という観点で、従業員を持たない「マイクロ法人」は近年爆発的な注目を集めています。個人事業主のまま国民健康保険と国民年金を払い続けるよりも、法人を作って自分自身に低い役員報酬を設定したほうが、社会保険料の総額が劇的に安くなるケースがあるんです。

マイクロ法人(一人会社)の究極の節税スキームとは

ここでは、近年多くのフリーランスが実践している「マイクロ法人を活用した二刀流スキーム」について詳しく解説します。これは、個人事業主としての活動を残したまま、別事業を行うための小さな会社(マイクロ法人)を設立し、両方のメリットを享受するという高度な節税・社会保険料削減テクニックです。

個人事業主の最大のネックは「国民健康保険料の高さ」です。国民健康保険料は前年の所得に連動して計算されるため、例えば課税所得が600万円になると、年間で約60万円〜70万円もの高額な保険料が請求されます。上限額に達すると年間100万円を超えることもあります。

そこで、以下のような手法をとります。

  1. 本業(例:Webエンジニアとしてのフリーランス活動)は、これまで通り「個人事業主」として継続する。
  2. サブ事業(例:ブログの広告収入、資産運用、少額のコンサルティング事業など)を事業目的とした「合同会社(マイクロ法人)」を設立する。
  3. このマイクロ法人の代表社員として、自分自身に月額45,000円という最低水準の役員報酬を設定する。
  4. 法人の役員として「健康保険・厚生年金」に加入する。これにより、個人事業主としての国民健康保険・国民年金からは脱退する。

法人の社会保険料(健康保険+厚生年金)は、支払われる給与(役員報酬)の額面に基づいて決定されます。役員報酬が月額45,000円の場合、適用される標準報酬月額は最低等級となり、社会保険料は労使折半(会社負担分と個人負担分を合わせて)で月額約22,000円程度に収まります。年間計算でも約26万円です。

個人の本業でどれだけ利益(例えば1,000万円)が出ていようとも、社会保険料の計算基礎となるのは「法人から受け取る月額45,000円の給与のみ」となるため、年間で50万円〜70万円近い社会保険料の削減が可能になるのです。

ただし、この手法には厳格なルールがあります。「個人事業主としての事業内容」と「法人の事業内容」が明確に異なっている必要があります。実態が同じ事業を単に数字上で切り分けているだけと税務署や年金事務所に判断された場合、租税回避行為として否認されるリスクがあります。必ず税理士などの専門家と相談の上、実態を伴う別事業を用意することが不可欠です。

一人会社の設立手順(合同会社の場合)の完全ガイド

ここからは、実際に一人で合同会社を設立するための具体的な手順を、5つのステップに分けて詳細に解説します。現在では「freee会社設立」や「マネーフォワード会社設立」といった無料のクラウドサービスを利用することで、専門知識がなくてもスムーズに書類作成が可能です。

Step 1: 会社の基本事項(絶対的記載事項)を決める

まず、会社の骨組みとなる以下の項目を決定します。これを決めないことには書類作成が始まりません。

決めること 決定する際の重要なポイントと具体例
商号(会社名) 「合同会社○○」または「○○合同会社」の形式。英語(アルファベット)、数字、一部の記号(&や-など)も使用可能。同一住所に同名の会社がないか法務局で必ず事前確認する。また、取得したいドメイン(.co.jpなど)が空いているかも同時にチェックする。
本店所在地 自宅の住所で登録するのが最もコストが低い。賃貸の場合は契約書で「法人登記不可」となっていないか確認が必要。バーチャルオフィス(月額3,000円〜5,000円程度)を利用することも可能だが、法人口座の開設審査が厳しくなる傾向がある。
事業目的 定款に記載する会社の事業内容。現在の事業だけでなく、将来やりそうな事業も含めて5〜10個程度記載するのが一般的。最後に「前各号に附帯関連する一切の事業」と入れておくことで柔軟性を持たせる。
資本金 法律上は1円から設立可能。ただし、現実的には当面の運転資金として50万円〜100万円程度を推奨。1円だと法人口座の開設を銀行から断られる確率が極めて高くなる。また、1,000万円未満に設定することで、設立から最大2年間は消費税の免税事業者となるメリットがある。
事業年度(決算月) 個人の確定申告は12月締めと決まっているが、法人は自由に決められる。繁忙期を避け、売上の見通しが立ちやすい月の直前を決算月に設定するのが節税対策上有効。税理士の繁忙期である3月決算は避けるのが無難。

Step 2: 定款(ていかん)を作成する

定款とは、いわば「会社の憲法・ルールブック」です。合同会社の定款は株式会社に比べて比較的シンプルで、以下の項目(絶対的記載事項)を記載します。

  • 商号
  • 事業目的
  • 本店の所在地
  • 社員(出資者)の氏名・住所
  • 社員の出資額(資本金)
  • 業務執行社員の定め
  • 事業年度

紙の定款を作成する場合、収入印紙代として4万円が必要になります。しかし、PDFファイルに電子署名を行う「電子定款」を採用すれば、この4万円は非課税となり全額節約できます。 自力で電子定款を作成するには、マイナンバーカード、ICカードリーダー、そして専用のPDF署名ソフト(Adobe Acrobat等)が必要になり手間がかかります。そのため、行政書士に電子定款の作成代行のみを5,000円程度で依頼するか、前述の「freee会社設立」などのサービスを経由して専門家に依頼するのが、最も時間とコストのバランスが良い賢い選択です。合同会社は公証人役場での定款認証手続き自体が不要なため、作成した定款は会社で保管しておくだけで法的な効力を持ちます。

Step 3: 資本金を払い込む

定款の作成日以降に、個人の銀行口座に資本金額を振り込みます。この時点ではまだ会社が存在していないため、法人口座は作れません。したがって、「発起人(出資者であるあなた個人)の個人口座」に、「発起人自身の名前」で振り込みを行います。

例えば資本金が100万円の場合、自分のA銀行の口座から、設立に使うB銀行の個人口座へ100万円を振り込みます。「誰が、いくら振り込んだか」を履歴として印字させることが目的です。 振込が完了したら、通帳の「表紙」「表紙の裏面(支店名や口座番号がわかるページ)」「振込額が印字されたページ」の3箇所をコピーし、ホッチキスで留めて、会社の実印(法人印鑑)で契印を押します。ネット銀行などで紙の通帳がない場合は、ログイン後の口座名義や振込履歴がわかる画面をプリントアウトしたもので代用可能です。これが登記申請時に必要な「払込証明書」となります。

Step 4: 法務局への登記申請

必要書類がすべて揃ったら、管轄の法務局に以下の書類を提出します。この提出日(法務局が書類を受け取った日)が、会社の「設立日(創立記念日)」となります。大安吉日などを設立日にしたい場合は、その日に法務局へ行く必要があります。

  • 合同会社設立登記申請書
  • 定款(電子定款をプリントアウトしたもの等)
  • 代表社員の個人の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)
  • 資本金の払込証明書
  • 印鑑届出書(会社の法人実印を登録するための書類)

登録免許税は6万円(資本金額の0.7%、ただし計算結果が6万円に満たない場合は最低税額の6万円)です。法務局で収入印紙を購入し、申請書に貼り付けて提出します。 現在はマイナンバーカードを利用したオンライン申請(法人設立ワンストップサービスなど)も普及しており、自宅のパソコンから24時間申請手続きを行うことも可能です。

所要日数: 申請書類を提出してから、法務局での審査が完了し、正式に登記が完了するまでには約1〜2週間の時間がかかります。登記が完了すると、会社の身分証明書である「履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)」や「法人の印鑑証明書」が取得できるようになり、これで晴れて法人口座の開設申し込み等に進むことができます。

Step 5: 設立後の各役所への届出(極めて重要)

登記が完了して「無事に会社ができた!」と安心するのは早計です。会社設立後は、税金や社会保険に関して、息をつく暇もなく様々な役所への届出が必要になります。これを怠ると、大きな不利益を被ることになります。

届出先 提出する主な書類名 提出期限の目安
税務署 法人設立届出書 設立日から2ヶ月以内
税務署 青色申告の承認申請書 設立日から3ヶ月以内、または最初の事業年度終了日の前日のいずれか早い日
税務署 給与支払事務所等の開設届出書 開設から1ヶ月以内
都道府県税事務所 法人設立届出書(地方税) 設立日から1〜2ヶ月以内(自治体により異なる)
市区町村役場 法人設立届出書(地方税) 設立日から1〜2ヶ月以内(東京23区の場合は都税事務所への提出のみで兼務)
年金事務所 健康保険・厚生年金保険 新規適用届 設立日から5日以内

特に青色申告の承認申請書は、法人の節税において最も重要な書類です。これを期限内に提出し忘れると、初年度から青色申告の様々な恩恵(赤字の10年間繰越控除、少額減価償却資産の特例など)が一切受けられなくなり、白色申告での厳しい税金計算を強いられるため、絶対に忘れないでください。

NGな失敗例: 登記が完了したことで満足してしまい、本業の忙しさにかまけて税務署への届出を後回しにする。ふと思い出した時には青色申告承認申請書の期限(設立から3ヶ月以内)を過ぎてしまっており、初年度に発生した100万円の赤字を翌期に繰り越すことができず、翌期に黒字が出た際に本来払わなくてよい多額の法人税を納める羽目になる。

OKな成功例: 法務局での登記完了予定日をカレンダーに登録しておき、登記完了と同時に「履歴事項全部証明書」を3通取得。その日のうちに事前に準備しておいたすべての届出書類を持って、税務署・都道府県税事務所・年金事務所を回って一括提出を完了させる。青色申告承認申請書も初日に提出し、初年度から法人の節税メリットをフル活用する体制を整える。

一人会社の設立費用と年間維持費のリアルな内訳まとめ

会社設立にかかるイニシャルコスト(初期費用)と、会社を維持するためのランニングコスト(維持費)の現実的な数字を整理します。

設立にかかる初期費用(イニシャルコスト)

費目 合同会社の場合 株式会社の場合
登録免許税(法務局へ納付) 60,000円 150,000円
定款認証手数料(公証役場) 0円 約50,000円
定款の収入印紙代 0円(電子定款の場合) 0円(電子定款の場合)
謄本・印鑑証明書取得費 約2,000円 約2,000円
法人実印の作成代 約5,000円〜20,000円 約5,000円〜20,000円
合計目安(自分で手続きした場合) 約67,000円 約207,000円

合同会社であれば、法人印鑑の作成費用を含めても約7万円弱で設立が可能です。もし、これらの手続き一式を行政書士や司法書士に丸投げ依頼する場合は、上記の実費に加えて別途5万円〜10万円程度の専門家報酬が必要になります。

設立後に毎年かかる維持費(ランニングコスト)

法人は「息をしているだけでお金がかかる」と言われます。一人会社であっても、以下のランニングコストは覚悟しておく必要があります。

  • 法人住民税の均等割年間7万円 法人が存在する都道府県と市区町村に対して支払う税金です。個人事業主と決定的に違うのは、法人が「赤字」であっても、あるいは売上が0円で休眠状態であっても、毎年必ず最低7万円は納税する義務があるという点です。
  • 税理士報酬(顧問料・決算申告料)年間30万円〜50万円 個人の確定申告は自力でできても、法人の決算申告(法人税申告書の作成)は別次元の複雑さです。別表と呼ばれる専門的な書類を多数作成する必要があり、素人にはほぼ不可能です。そのため税理士との顧問契約が必須となります。相場としては月額顧問料が2万円〜3万円、決算申告料が10万円〜15万円程度かかります。
  • 会計ソフト利用料年間3万円〜4万円 freee会計やマネーフォワードクラウド会計などの法人向けプランの契約が必要です。個人向けプランよりも料金が高く設定されています。
  • 社会保険料(会社負担分):役員報酬額に応じる 役員報酬が月額45,000円の場合、会社が負担する社会保険料の法定福利費は年間で約13万円程度発生します。

これらを合計すると、一人会社であっても年間で最低50万円以上の維持費がかかる計算になります。このランニングコストを上回る節税効果や売上向上が見込めるかどうかが、法人化を決断する最大のボーダーラインとなります。

一人会社を設立・運営する上で絶対に注意すべき5つのこと

一人会社特有の落とし穴や、税務調査で指摘されやすい重大な注意点を5つ厳選して解説します。

1. 役員報酬は「期首から3ヶ月以内」に決定し、絶対に変更しない

一人会社の場合、社長である自分への給与は「役員報酬」として会社から支払います。税法上、この役員報酬は事業年度の開始から3ヶ月以内に金額を決定し、その後1年間は毎月同じ金額を支払い続けなければならないという厳格なルールがあります(定期同額給与の原則)。 「今月は売上が良かったから報酬を20万円増やそう」「今月は赤字だから自分の給料は0円にしよう」といった自由な変更は原則として認められません。もし期中に金額を変動させた場合、その変動部分は税務上の「経費(損金)」として認められず、法人税の計算上不利な扱いを受けます。少なすぎると社長個人の生活費が足りなくなり、多すぎると法人側が赤字転落してしまうため、年間の売上予測を緻密に立て、税理士と十分にシミュレーションをして最適な金額を決める必要があります。

2. 社会保険(健康保険・厚生年金)への加入は絶対の義務

「社員は自分一人だけだから」という理由で社会保険への加入を渋る方がいますが、それは通用しません。法人は、代表取締役(代表社員)が一人だけであっても、役員報酬を1円でも受け取っている限り、健康保険と厚生年金保険への加入が法律で義務付けられている「強制適用事業所」となります。 未加入のまま放置していると、年金事務所から指導が入り、最悪の場合は過去最大2年間に遡って社会保険料を一括徴収されるという致命的なペナルティを受ける恐れがあります。設立登記が完了したら、速やかに年金事務所で手続きを行ってください。

3. 個人と法人の「お財布(口座)」は厳格に分離する

一人会社に最もありがちで、かつ税務調査で最も厳しく追及されるのが、個人の資金と法人の資金の混同(どんぶり勘定)です。法人の銀行口座や法人クレジットカードで、個人の生活費、スーパーでの食料品、私的な旅行代金などを決済してはいけません。 法人の口座から社長個人にお金が流れた場合、それは「役員貸付金(会社が社長にお金を貸している状態)」として処理されます。役員貸付金が膨らむと、会社は社長から利息を受け取らなければならず無駄な税金が発生します。さらに、金融機関からの信用は地に落ち、銀行融資を受けることは絶望的になります。法人の銀行口座は設立後すぐに開設し、事業用の入出金はすべて法人口座に一元化する仕組みを徹底してください。

4. 設立直後の「法人口座開設」は想像以上にハードルが高い

現在、マネーロンダリングや振り込め詐欺などの特殊詐欺に法人口座が悪用されるケースが多発しているため、銀行の口座開設審査はかつてないほど厳格化されています。特に、メガバンク(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)では、設立直後で実績のない一人会社の口座開設は、容赦なく審査落ちとなるケースが頻発しています。 対策としては、まずは審査が比較的柔軟で手数料も安いネット銀行(GMOあおぞらネット銀行、PayPay銀行、住信SBIネット銀行など)で最初の法人口座を開設し、事業の実績を作ることが定石です。審査の際には、しっかりとした事業計画書、明確な料金表が掲載された会社の公式ホームページ、取引先との契約書などを準備しておくことで、審査通過の確率を大幅に高めることができます。

5. 廃業(会社をたたむ)際にも多額のコストと時間がかかる

個人事業主であれば、「廃業届」を税務署に一枚提出するだけで翌日から事業を終了できます。費用もかかりません。 しかし、法人の場合はそう簡単にはいきません。会社を消滅させるためには、「解散登記」と「清算結了登記」という法務局での複雑な手続きが必要になります。合同会社の場合でも、解散と清算人の登記に39,000円、清算結了登記に2,000円の登録免許税がかかります。さらに、法律により官報での公告義務があり、その掲載費用として33,000円が必要です。 また、これらの手続きや解散期の決算申告を税理士や司法書士に依頼すると、追加で15万円〜30万円の費用が発生します。つまり、会社をたたむだけで最低でも20万円以上の出費と、最低でも2ヶ月以上の期間を覚悟しなければならないのです。「とりあえず作ってみて、ダメならやめればいい」という軽い気持ちで法人化するのは非常に危険です。

法人化後、案件獲得はどうする?

どれほど完璧な節税スキームを構築し、立派な定款を作って法人化したとしても、継続的に安定した案件を獲得できなければ、維持費だけが垂れ流しになり会社はあっという間に倒産してしまいます。しかし、見方を変えれば、法人化したこと自体が案件獲得の強力な武器になり得ます。

BtoB(企業間取引)の世界では、コンプライアンスの観点や下請法等の法務リスクを回避するため、「業務委託契約を結ぶのは法人(株式会社や合同会社)のみに限定し、個人事業主とは一切直接契約しない」という内部規定を設けている中堅〜大手企業が数多く存在します。あなたが法人格を取得したことで、これまで個人事業主という理由だけで門前払いされていた高単価な優良案件の土俵に、初めて立つことができるのです。

@SOHOが保有するフリーランスの年収データベースや直近の成約データを分析しても、法人成りしたフリーランス(一人会社)は、個人事業主のまま活動しているフリーランスと比較して、明らかに高単価で長期的な案件を受注しやすい傾向が顕著に表れています。法人格があることで「事業として腰を据えて取り組んでいる」という覚悟が伝わり、取引先からの信頼度と安心感が格段に上がり、結果として契約のハードルが下がるためです。

→ フリーランスの年収データを職種別に見る

よくある質問

Q. フリーランスが法人化した場合、これらの制度はどうなりますか?

法人化すると小規模企業共済は引き続き加入できますが、iDeCoの上限額が月23,000円に下がります(企業年金がない場合)。国民年金基金と付加年金は加入できなくなります。ただし、法人化すれば厚生年金に加入できるため、年金面ではメリットもあります。税金の仕組みについてはフリーランスの税金完全ガイドも併せてご覧ください。

Q. 合同会社と株式会社、どちらで設立するのがおすすめですか?

設立費用を抑えたいなら合同会社、社会的信用を重視するなら株式会社がおすすめです。合同会社は登録免許税が6万円と株式会社の21万円より安く、定款認証も不要なため設立の手間と費用が大幅に削減できます。一方で、株式会社は世間的な知名度が高く、将来的に資金調達を考えている場合に有利です。ご自身の事業形態や予算に合わせて慎重に選択しましょう。

Q. 一人会社(マイクロ法人)を作ることで具体的にどんな節税ができますか?

主なメリットは「所得の分散」と「経費の拡大」です。個人事業主の場合、利益のすべてに所得税がかかりますが、法人化して自身に役員報酬を支払うことで、個人と法人に所得を分散でき、全体の税負担を軽減できます。また、個人の確定申告では認められにくい家賃や通信費、出張旅費などを会社の経費として計上できる範囲が広がるため、手元に残る現金を増やすことが可能です。

Q. 一人会社の設立手続きは、自分一人でも問題なく進められますか?

はい、専門家に依頼せず自分一人で行うことは十分可能です。現在は「会社設立freee」などのオンラインサービスを活用すれば、必要事項を入力するだけで書類が自動作成され、法務局への申請手順もガイドされます。登記申請自体は難しくありませんが、定款の作成内容や資本金の取り扱いで迷う場合は、一度司法書士などの無料相談や書籍を活用して正しい知識を整理することをお勧めします。

Q. 一人会社を維持するために、毎年どのくらいのコストがかかりますか?

最低でも年間7万円程度の「法人住民税の均等割」が発生します。たとえ赤字でもこの税金は支払う必要があります。加えて、決算申告を税理士に依頼する場合はその費用(年間10〜20万円程度)がかかります。社会保険料の負担も個人の国民健康保険より増えるケースが多いため、節税メリットとこれらの維持コストを比較し、売上が安定してから設立を検討するのが堅実です。

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織田 莉子

この記事を書いた人

織田 莉子

FP2級・フリーランス経理サポーター

会計事務所で10年間の実務経験を経て独立。フリーランスの確定申告・節税・資金管理を専門に、お金にまつわる記事を執筆しています。

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