本業と副業の労働時間の通算|順番と、対象にならない働き方


この記事のポイント
- ✓本業と副業の労働時間がどんなときに通算され
- ✓通算する順番はどう決まるのかを条文に沿って整理しました
- ✓割増賃金をどちらの会社が負担することになるのか
「ダブルワークの労働時間って、結局どこまで働いていいんでしょうか」。このご相談、ここ数年で本当に増えました。カウンセリングの場でも、開口一番にこの質問をされる方が少なくありません。
不安の正体は、たいてい「数え方がわからない」ことにあります。本業と副業の時間を足すのか、足さないのか。足すとしたら、何時間で赤信号なのか。誰が管理してくれるのか。そこがぼんやりしたまま働き続けると、気づいたときには体のほうが先に限界を迎えてしまいます。
大丈夫です。ダブルワークの労働時間には、はっきりした数え方のルールがあります。この記事では、労働時間という言葉が何を指すのかという入口から、通算の順番、割増賃金を負担するのはどちらの勤務先か、上限として意識すべきライン、そして自分で記録して管理する具体的な手順までを、順番に整理していきます。読み終わるころには「自分は今どのあたりにいるのか」が数字で見えるようになっているはずです。
ダブルワークが当たり前になった今、労働時間の管理だけが置き去りになっている
副業や兼業を認める企業は、この10年で大きく増えました。就業規則の副業禁止規定を見直す動きが広がり、届出制や許可制という形で「条件付きで認める」企業が主流になっています。人手不足を背景に、短時間勤務を掛け持ちする働き方も一般的になりました。制度としてのダブルワークは、もう例外ではありません。
ところが、そのスピードに労働時間の管理が追いついていません。理由は単純で、労働時間の管理は本来「雇う側」の義務なのに、ダブルワークでは働く人が2つ以上の会社にまたがって存在するからです。A社はA社での勤務時間しか把握できません。B社も同じです。両方を足した数字を実感として知っているのは、働いている本人だけという状態が生まれます。
この構造が、いちばんの落とし穴です。それぞれの会社では法定内に収まっているのに、合計すると週50時間を超えていた、というケースは珍しくありません。しかも本人は「どちらの会社でも残業していないから大丈夫」と思い込んでいます。数字を足す作業を誰もしていないのですから、当然です。
厚生労働省は副業や兼業の促進に関するガイドラインを整備し、労働時間の通算や健康管理の考え方を示しています。ルールが存在しないわけではありません。ただ、それが働く人の手元まで届いていない。私が現場で感じているのは、法律の不備ではなく「翻訳の不足」です。だからこの記事では、条文の紹介ではなく、あなたが自分の1週間を数えられるようになることを目指します。
もう1つ、押さえておきたいマクロな変化があります。ダブルワークの中身が「雇用のかけもち」だけではなくなったことです。かつては昼はオフィス、夜は飲食店といったアルバイトの掛け持ちが中心でした。今は本業が会社員で、副業は業務委託のライティングやデザイン、オンライン支援といった形が増えています。この違いが、労働時間の数え方をまるごと変えます。ここを混同したまま情報を集めると、いつまでも答えにたどり着けません。
そもそも「労働時間」とは何を指すのか。数える対象を間違えない
数え方の話に入る前に、何を数えるのかをはっきりさせておきます。ここがずれていると、どれだけ丁寧に足し算しても答えが合いません。
労働時間に含まれるもの、含まれないもの
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。ポイントは「実際に手を動かしていたか」ではなく「自由に過ごせない状態だったか」です。この基準で見ると、意外なものが労働時間に入ってきます。
含まれるのは、実際の作業時間はもちろん、業務のための準備や後片付けの時間、制服への着替えが義務づけられている場合のその時間、参加が事実上強制されている研修や朝礼の時間、電話番などの手待ち時間です。手待ち時間は「何もしていないのに」と感じやすいのですが、席を離れられない以上は指揮命令下にあります。
含まれないのは、完全に自由が保障された休憩時間、参加が任意の懇親会や自己啓発、自宅から職場への通勤時間です。ただし通勤でも、勤務先Aから勤務先Bへ会社の指示で移動するような場合は判断が変わります。ダブルワークの文脈でよくあるのは、本業を終えてから副業先へ向かう移動時間ですが、これは通常どちらの労働時間にも入りません。とはいえ体力は確実に削られますから、後で触れる「拘束時間」として別枠で記録しておくことをおすすめします。
所定労働時間と法定労働時間は、まったく別のものです
ここが最初の関門です。相談の場でも、この2つが混ざっている方がとても多いのです。
所定労働時間は、雇用契約や就業規則で「あなたはこの時間働きます」と決められた時間です。1日7時間の会社もあれば、1日4時間のパート契約もあります。会社ごと、契約ごとに違います。
法定労働時間は、労働基準法が定める上限で、原則として1日8時間、1週40時間です。これは会社が勝手に変えられません。
この2つが違うと何が起きるか。所定を超えて働いても、法定の枠内に収まっていれば、それは法定内残業と呼ばれ、割増賃金の対象にはなりません。通常の時給がそのまま支払われます。一方、法定を超えた分は法定外残業となり、25%以上の割増賃金が必要になります。ダブルワークで「残業代が出ていないのはおかしいのでは」と感じたとき、まず確認すべきはこの区別です。
休憩、待機、持ち帰り作業の扱いに注意する
ダブルワークで見落とされやすいのが、勤務と勤務のあいだの待機時間と、家に持ち帰った作業時間です。
待機時間については、たとえば本業が17時に終わり、副業が19時から始まる場合、あいだの2時間をカフェで過ごすなら労働時間ではありません。しかし副業先の指示で18時から待機していたなら、それは労働時間です。曖昧なまま流さず、副業先に確認しておきましょう。
持ち帰り作業は、より厄介です。雇用契約で働いている場合、自宅でやった作業も業務命令に基づくものであれば労働時間に含まれます。ところが打刻はされません。ここが積み上がると、記録上は週38時間なのに実態は45時間という乖離が生まれます。体はごまかせませんから、記録は実態で残す習慣をつけてください。
ダブルワークの労働時間は通算する。ただし通算されない働き方もある
ここからが本題です。結論から言うと、労働時間を通算するかどうかは「その働き方が雇用かどうか」で決まります。
雇用と雇用の掛け持ちは、通算されます
労働基準法は、事業場が異なる場合でも労働時間を通算すると定めています。ここでいう事業場が異なるとは、同じ会社の別支店だけでなく、まったく別の会社であっても含まれます。つまりA社でアルバイト、B社でもアルバイトという掛け持ちは、両方の時間を足して1日8時間、週40時間という法定労働時間と比較します。
たとえばA社で1日6時間、B社で1日3時間働けば、合計9時間です。それぞれの会社では8時間以内ですが、通算すると1時間の法定外労働が発生しています。この1時間について、割増賃金の支払い義務と36協定の必要性が生じます。「どちらも8時間以内だから問題ない」という理解は、ここで崩れます。
業務委託やフリーランスの時間は、通算されません
一方、副業が業務委託契約の場合、その時間は労働基準法上の労働時間として通算されません。フリーランスとしてライティングを請け負う、デザインを納品する、オンラインで相談に応じるといった働き方は、労働者としてではなく事業者として仕事をしているという整理になります。指揮命令を受けず、自分の裁量で時間配分を決めているからです。
これは実務上とても大きな違いです。本業が会社員で副業が業務委託なら、副業側の時間が本業の残業時間にカウントされることはありません。副業先が36協定を結ぶ必要もありませんし、本業の会社に割増賃金の負担が生じることもありません。制度上の摩擦がほとんど発生しないのです。
在宅で完結する仕事が副業として選ばれやすいのは、通勤時間がかからないという理由だけではありません。この「時間管理の摩擦が小さい」という構造的な利点があるからです。実際に相談を受けていても、雇用の掛け持ちから業務委託中心へ移行した方は、時間の悩みが目に見えて減っていきます。
通算されないことは、無制限を意味しません
ただし、ここで安心しきってしまうのが最大の落とし穴です。通算されないというのは「法律上の残業計算に入らない」という意味であって、「いくらでも働ける」という意味ではありません。
業務委託の時間は誰も管理してくれません。36協定という歯止めも、労働時間の上限規制も適用されません。つまり、ブレーキが自分の中にしかない状態です。私がこれまでお会いしてきた中で、燃え尽きに近い状態まで進んでしまった方の多くは、実はこのパターンでした。会社員としては何も違反していない。だから誰にも止められない。気づいたときには睡眠時間が5時間を切っていた、というご相談を何度も受けています。
また、通算されない場合でも、会社が労働者に対して負う安全配慮義務がなくなるわけではありません。副業の実態を把握したうえで、健康状態に配慮する責任は残ります。だからこそ、後述する自己申告と記録が意味を持ちます。
通算した労働時間の数え方を、順番どおりに整理する
雇用の掛け持ちの場合、どちらの会社の時間から数えるのかという順番が決まっています。この順番を知らないと、割増賃金を誰に請求すべきかがわかりません。
手順1 所定労働時間を、契約を結んだ順に足す
まず、それぞれの契約で決まっている所定労働時間を足します。このとき、先に労働契約を結んだ会社の分を先に、後から契約した会社の分を後に積み上げます。
たとえばA社と先に契約していて所定が1日5時間、後から契約したB社の所定が1日4時間だとします。合計9時間。法定の8時間を超える1時間は、後から契約したB社の側で発生したとみなされます。つまりB社が割増賃金を支払い、B社が36協定を届け出ている必要があります。
順番が契約の締結順である点は重要です。実際に働く時間帯の順番ではありません。朝にB社、夜にA社という勤務であっても、契約の順番で計算します。
手順2 所定外労働は、実際に発生した順に足す
次に、所定を超えて働いた分を足します。こちらは契約の順番ではなく、実際に労働が行われた順番で積み上げます。
A社の所定が5時間、B社の所定が3時間で合計8時間ぴったりだったとします。ここでB社で1時間の残業が発生すれば、合計9時間となり、超過した1時間はB社の法定外労働です。逆にA社で1時間の残業が発生したなら、その1時間がA社の法定外労働になります。実際に時間を超えさせた側が負担するという考え方です。
手順3 法定内残業と法定外残業を必ず分ける
数えた結果を、法定内と法定外に仕分けます。ここを分けておくと、給与明細を見たときに何が正しいかを自分で判断できます。
| 区分 | 内容 | 割増 |
|---|---|---|
| 所定内労働 | 契約で決められた時間内 | なし |
| 法定内残業 | 所定を超えるが1日8時間・週40時間以内 | なし(通常賃金) |
| 法定外残業 | 通算して1日8時間・週40時間を超える部分 | 25%以上 |
| 深夜労働 | 22時から翌5時 | 25%以上(法定外と重複可) |
| 法定休日労働 | 週1日の法定休日 | 35%以上 |
深夜割増は見落とされがちです。副業を夜にしている方は、22時以降の勤務があるかどうかを必ず確認してください。法定外残業と深夜が重なれば、割増は合算されます。
1週間の具体例で確認する
言葉だけだとつかみにくいので、具体的な1週間を置いてみます。A社(先契約・所定1日5時間・週5日)とB社(後契約・所定1日3時間・週3日)を掛け持ちしているケースです。
月曜から金曜までA社で5時間ずつ働くと週25時間。火曜、木曜、土曜にB社で3時間ずつ働くと週9時間。合計で週34時間です。週40時間の枠内ですから、この時点では法定外残業はありません。
ただし火曜と木曜を日単位で見ると、A社5時間とB社3時間で1日8時間ちょうど。ここでB社の勤務が30分でも延びれば、その30分は即座に法定外残業になります。週で見れば余裕があるのに、日で見るとぎりぎりという状態です。ダブルワークでは、この「日単位の詰まり」が先に来ることを覚えておいてください。
割増賃金は、どちらの勤務先が支払うのか
ここは働く側にとって、いちばん実利に直結する部分です。
原則的な方法では、超過させた側が支払う
原則として、通算した結果として法定労働時間を超えさせた側の使用者が、割増賃金を支払う義務を負います。所定労働時間の積み上げで超えた場合は後から契約した会社、所定外労働で超えた場合は実際にその労働をさせた会社です。
この方式は理屈としては明快ですが、運用は簡単ではありません。B社はA社での勤務実績を毎回把握しないと、自社の支払額を確定できないからです。そのため、労働者からの自己申告に頼ることになります。申告が正確でなければ、正しい賃金が支払われません。ここに、記録を自分で持っておく実務上の意味があります。
簡便な方法として「管理モデル」がある
原則的な通算計算の負担を減らすために、簡便な方法として管理モデルという枠組みが示されています。あらかじめA社とB社がそれぞれの上限時間を設定し、その枠内で働かせる限り、相互の実績を細かく確認しなくても法令違反にならないようにする仕組みです。
具体的には、A社での所定と所定外の合計、B社での労働時間の合計が、単月100時間未満、複数月平均80時間以内という時間外労働の上限規制の枠に収まるよう、それぞれの上限を決めておきます。そのうえで、後から契約したB社は自社の労働時間すべてについて割増賃金を支払う、という整理をします。
働く側から見たメリットは、毎回の申告負担が軽くなること、そして枠が数字で決まるので自分の限界が可視化されることです。副業先を選ぶ際、この管理モデルを採用しているかどうかを聞いてみると、その会社が副業をどれくらい真面目に受け止めているかが見えてきます。
36協定と上限規制。ダブルワークで超えやすいラインを知る
法定労働時間を超えて働かせるには、労使協定の締結と届出が必要です。この点は制度の土台なので、正確に押さえておきましょう。
副業・兼業やダブルワーク(Wワーク)で40時間以上働きたい労働者も少なくないでしょう。法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて従業員に労働させる場合には、事前に労働基準法第36条に基づき、いわゆる「36(サブロク)協定」を労使間で締結し、所轄労働基準監督署へ届け出る必要があります。 出典: hcm-jinjer.com
36協定を結んだうえでも、時間外労働には上限があります。原則は月45時間、年360時間です。特別条項を付けた場合でも、年720時間以内、単月100時間未満、複数月平均80時間以内、月45時間を超えられるのは年6回までという枠が定められています。
数字が並ぶと構えてしまいますが、覚えておいてほしいのは月45時間と単月100時間の2つだけで十分です。月45時間は「ここから先は例外扱いになる」というライン。月100時間は「健康障害のリスクが明確に上がる」というラインです。過労死の労災認定でも、この80時間から100時間という水準が判断の目安として使われています。
そして、この上限は制度の話であると同時に、体の話でもあります。
法定外労働時間も、1ヵ月45時間、1年360時間を超えないという規定はありますが、ダブルワークは心身にかかる負担が大きく、人によっては過労による体調不良などに見舞われるおそれがあります。 出典: hcm-jinjer.com
ダブルワークの疲労が単独勤務より重くなる理由は、時間の総量だけではありません。職場が変わることによる切り替えの負荷、移動の負荷、人間関係が2セットあることによる気疲れが上乗せされます。同じ週50時間でも、1つの職場で50時間働くのと、2つの職場で分けて働くのとでは、体感の重さが違います。この差は数字に出てきません。だから自分で気づくしかないのです。
なお、労働時間の通算や健康確保措置についての公的な考え方は、厚生労働省が公表している資料で確認できます。勤務先と話し合う際に、共通の土台として参照すると話が早く進みます。
副業先と本業先への申告。伝え方の実務
労働時間を正しく通算するには、双方の会社が実態を知っている必要があります。ここで多くの方が足踏みします。「言ったら止められるのではないか」という不安があるからです。
まず確認したいのは、就業規則の副業に関する規定です。全面禁止なのか、届出制なのか、許可制なのか。この3つで対応がまったく変わります。近年は届出制や許可制が主流になっており、届け出れば認められるケースが増えています。禁止と書かれていても、労働時間や競業の観点から問題がなければ、実際には認められることも少なくありません。
申告する際に伝えるべき情報は、そう多くありません。副業先の業種、契約形態(雇用か業務委託か)、1週間あたりのおおよその労働時間、勤務する曜日と時間帯。この4つです。報酬額を聞かれることもありますが、労働時間管理の観点では必須ではありません。
伝え方のコツをひとつだけ。「副業をしたいのですが」と切り出すより、「本業に支障が出ないよう時間を管理したいので、副業の勤務時間を共有させてください」と切り出すほうが、話がスムーズに進みます。会社が心配しているのは、副業そのものではなく、本業のパフォーマンス低下と健康リスク、そして情報漏えいだからです。こちらから管理の姿勢を示すと、警戒が半分に減ります。
副業先に対しても同じです。本業での所定労働時間を伝えておけば、副業先はシフトを組むときに法定外労働の発生を予測できます。伝えないまま働くと、副業先が知らずに違反状態を作ってしまい、結果としてあなたのシフトが急に削られることにもなりかねません。
労働時間を自分で管理する。今日からできる具体的な手順
ここまでルールの話をしてきましたが、最後は実践です。制度を知っていても、記録がなければ管理はできません。
見る指標を3つに絞る
管理を続けるコツは、項目を増やしすぎないことです。私がおすすめしているのは、次の3つだけです。
1つめは週の実労働時間の合計です。雇用も業務委託も区別せず、実際に働いた時間を全部足します。法律上の通算とは別に、体にとっての総量を知るためです。
2つめは週の拘束時間です。実労働時間に加えて、移動時間と待機時間を含めます。この数字が週60時間を超えてくると、生活の余白がほぼなくなります。
3つめは睡眠時間の平均です。労働時間の管理は、突き詰めると睡眠の確保の話になります。週平均で1日6時間を切る週が2週続いたら、それは黄色信号です。
記録は「その日のうちに」が鉄則
記録の方法は、続けられるものであれば何でも構いません。スマートフォンのメモでも、紙の手帳でも、表計算ソフトでも同じです。大事なのは、翌日にまとめて書かないことです。記憶は必ず短く見積もる方向にずれます。実際、相談の場で1週間分を思い出しながら書き出してもらうと、後から確認した実績より平均で数時間短く申告される方がほとんどです。
具体的には、勤務が終わった直後に「開始時刻、終了時刻、休憩、移動」の4項目だけ打ち込みます。30秒で終わります。週末にそれを合計して、上の3つの指標を出す。これだけです。
体のサインを、時間とセットで書き残す
もう1つだけ加えてほしいのが、体調のメモです。数字は「頑張れているかどうか」を教えてくれますが、「頑張りすぎているかどうか」は教えてくれません。それを教えてくれるのは体のほうです。
寝つきが悪い、朝起きたときに疲れが残っている、食欲が落ちた、休みの日に何もする気が起きない。こうしたサインが出たら、その日の労働時間の横にひとこと書いておきます。数週間ためると、自分にとっての限界ラインが数字で見えてきます。人によって、その線は週45時間のこともあれば週55時間のこともあります。法律の上限と、あなたの上限は別物です。
私自身、独立した最初の年に同じ失敗をしました。会社を辞めてカウンセリングの仕事を始めたころ、時間が自由になった嬉しさから、オンラインの面談を詰められるだけ詰めていた時期があります。表向きは順調でした。けれど3か月ほど経ったとき、相談者の話を聞きながら、自分の頭が半分しか動いていないことに気づいたのです。慌てて記録を見返したら、週の実働が58時間まで膨らんでいました。自分では40時間くらいのつもりでいたのです。数えていなかった、ただそれだけの理由でした。
それ以来、私は週の合計時間を毎週日曜に出す習慣を続けています。人の心の相談を受ける仕事は、自分のコンディションが道具そのものです。これはどんな職種でも同じで、疲れた頭で作った成果物は、どこかに必ず粗が出ます。時間管理は、我慢の技術ではなく品質の技術だと考えてください。
時間で殴らない働き方へ切り替えるという選択肢
労働時間の悩みを根本から軽くする方法は、実はもう1つあります。時間あたりの単価を上げることです。
雇用の掛け持ちは、収入が働いた時間に正比例します。だから収入を増やそうとすると、必ず時間を増やすことになり、通算の上限と体力の上限に同時にぶつかります。この構造がある限り、どんなに上手に管理しても限界が来ます。
一方、業務委託で成果に対して報酬が支払われる働き方であれば、同じ時間でも単価によって収入が変わります。時間の壁を、スキルで押し返せるということです。もちろん最初から高単価の仕事が取れるわけではありませんが、方向として持っておく価値はあります。
どの分野が単価を上げやすいのかを見るには、職種ごとの相場を確認するのが早道です。エンジニア系の相場感を知りたい方はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっており、開発案件の単価帯や必要スキルの傾向を確認できます。文章まわりの仕事を検討している方には、記事執筆や編集の報酬水準を扱った著述家,記者,編集者の年収・単価相場が参考になります。どちらも、時間を増やさずに収入を伸ばす余地がどこにあるかを判断する材料になります。
仕事の内容そのものを知りたい場合は、職種別のガイドが役立ちます。近年もっとも単価が伸びている領域のひとつは生成AI関連で、企業の業務にAIをどう組み込むかを支援する仕事の全体像はAIコンサル・業務活用支援のお仕事で解説されています。マーケティングやセキュリティと組み合わせた案件の広がりについてはAI・マーケティング・セキュリティのお仕事が、開発系の実務の流れについてはアプリケーション開発のお仕事が、それぞれ具体的な業務内容と求められる経験をまとめています。
資格が単価に直結する分野もあります。事務やバックオフィス系の副業を検討している方には、文書作成の基礎力を客観的に示せるビジネス文書検定が入口として扱いやすく、ネットワーク領域を目指すならCCNA(シスコ技術者認定)が案件応募時の説得力を高めます。時間を増やす前に、単価の軸を1つ持てないかを考えてみてください。
在宅ワーク市場から見えるダブルワークの時間設計
ここからは、フリーランスと在宅ワークの市場を20年にわたって運営してきた立場からの観察です。
運営者として長く見てきて、はっきりしていることがあります。ダブルワークを長く続けられる人と、半年ほどで消えていく人の差は、稼働時間の長さではありません。差が出るのは、時間の使い方が「作業の積み上げ」で終わっているか、「関係の積み上げ」になっているかという点です。
短期で消耗していく方は、案件を単発で拾い続けます。毎回、条件のすり合わせから始まり、進め方を説明し、初回だからと余分に手を動かします。この見えない時間が、実働時間の外側にどんどん積み上がります。一方、長く続く方は、同じ発注者と2回目、3回目と仕事を重ねます。すると「この人に任せると楽だ」という状態が生まれ、説明のコストが減り、同じ報酬でも実質的な稼働が短くなっていきます。時間の悩みを、時間管理ではなく関係づくりで解決しているわけです。
もう1つ、額面と手取りの話をしておきます。仲介手数料が引かれる仕組みでは、受け手の手取りは額面より必ず薄くなり、依頼側は同じ予算で頼める量が減ります。ここに手数料0%の直接取引が入ると、同じ予算で依頼側はより多く頼め、受け手は同じ稼働で手取りが厚くなります。これは金額の多寡の話というより、1時間あたりの密度が変わるという話です。時間の上限が決まっているダブルワークにおいて、この差は想像以上に効いてきます。運営者として見てきた限り、時間の壁にぶつかった方がまず見直すべきなのは、稼働時間ではなく取引の構造のほうです。
時間の設計という点では、生活リズムの実例を見るのがいちばん腹落ちします。家事や育児と在宅の仕事を並行している方の1日の組み立ては在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開にまとまっており、細切れの時間をどう束ねているかがわかります。限られた時間で集中を保つ工夫については在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックが、環境づくりから休憩の取り方まで具体的に扱っています。副業先そのものを探し直す段階にある方は、探し方と見極めのポイントを整理した在宅ワークの求人の探し方5選|初心者でも安心な方法と注意点を徹底解説から始めるとよいでしょう。
副業に関する労働時間の考え方は、公的なガイドラインでも「健康管理」と一体で示されています。
副業を始めてみたいと思っているものの、どれくらい時間を割いて良いのか、副業であれば制限なく働けるのかなど疑問に思う人もいるのではないでしょうか。健康管理や本業と無理なく両立させるためにも、副業を行う際は、本業と同様に労働時間を管理することが必要です。 出典: yayoi-kk.co.jp
最後に、いちばん伝えたいことを書きます。ダブルワークの労働時間を管理する目的は、法律に違反しないためだけではありません。あなたが来年も再来年も同じ仕事を続けられる状態を保つためです。
働く時間を数えるという作業は、地味で、面倒で、誰にも褒められません。それでも週に一度、5分だけ電卓を叩く習慣を持っている人は、無理をする前に自分でブレーキを踏めます。数字は、あなたを縛るためではなく、守るためにあります。今週の合計時間を出すところから、始めてみてください。
よくある質問
Q. 本業と副業の労働時間は必ず通算されますか?
どちらも雇用契約で働いている場合は通算されます。それぞれの会社で8時間以内でも、合計が1日8時間・週40時間を超えれば法定外労働となり、割増賃金と36協定が必要です。一方、副業が業務委託契約の場合は労働基準法上の労働時間として通算されません。ただし健康面の負担は変わらないため、自分での記録は必要です。
Q. 通算して法定労働時間を超えた場合、割増賃金はどちらの会社が払いますか?
原則として、超過させた側の会社が負担します。所定労働時間の積み上げで超えた場合は後から労働契約を結んだ会社、所定外労働で超えた場合は実際にその残業をさせた会社です。判断には両社の勤務実績が必要になるため、自己申告と記録が前提になります。管理モデルを採用している場合は、後契約側が自社分すべてに割増を支払う形になります。
Q. ダブルワークで働きすぎないための目安時間はありますか?
法律上は時間外労働が月45時間、年360時間が原則の上限で、単月100時間未満という枠もあります。実務上は、移動や待機を含めた週の拘束時間が60時間を超えたあたりから生活の余白がなくなります。睡眠が週平均で1日6時間を切る状態が2週続いたら、稼働量を見直す合図と考えてください。
Q. 会社に副業の労働時間を申告しないとどうなりますか?
正しい割増賃金が計算されず、本来受け取れるはずの賃金が支払われない可能性があります。また、会社が労働時間を把握できないため健康面の配慮も受けられません。申告する際は、副業先の業種、契約形態、週あたりの労働時間、勤務する曜日と時間帯の4点を伝えれば十分です。就業規則の副業規定を先に確認しておくと話が進みやすくなります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
中西 直美@SOHO編集部
産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。
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