ダブルワークで週40時間を超えたときの扱い|36協定と割増賃金の考え方 2026

中西 直美
中西 直美
ダブルワークで週40時間を超えたときの扱い|36協定と割増賃金の考え方 2026

この記事のポイント

  • ダブルワークで週40時間以上働くとき
  • 36協定は誰が誰と結び
  • どちらの会社の協定が効くのか

「ダブルワークで週40時間以上になりそうなんですが、36協定ってどうなるんでしょうか」。このご相談、ここ数年でぐっと増えました。副業を認める会社が増えた分、制度の説明が追いつかないまま働き始める方が本当に多いんです。

先に結論からお伝えします。ダブルワークでは2社の労働時間が法律上まとめて数えられます。そして週40時間を超える部分については、原則として後から契約した側の会社が36協定を結んでいる必要があり、割増賃金もその会社が払います。あなた自身が36協定を結ぶわけではありません。ここが一番の誤解ポイントです。

大丈夫ですよ。ややこしく見えますが、順番に整理すれば「自分は何を確認すればいいのか」がはっきりします。この記事では、36協定という制度そのもの(誰が誰と結ぶのか、上限は何時間か、掛け持ちのときどちらの協定が効くのか)を中心に、週40時間を超える働き方をどう組み立てればいいかまでお話しします。

副業解禁が進んだ今、36協定の理解が追いついていない

まず、いま多くの方が置かれている状況を確認させてください。

厚生労働省が示している副業・兼業の促進に関するガイドラインは、2018年に策定されてから何度も改定されてきました。モデル就業規則からも副業禁止の条項が削除され、「原則として副業を認める」方向へ舵が切られています。企業の側でも、人材の確保やスキル獲得を目的に副業を解禁する動きが広がりました。副業を容認・推進する企業は年々増え、いまや大企業を中心に7割前後が何らかの形で副業を認めているという調査結果も出ています。

ところが、制度の中身までセットで整備できている会社は、そこまで多くありません。就業規則には「副業可(届出制)」とだけ書いてあって、労働時間の通算や36協定の扱いについては何も触れていない。そんなケースを、私は現場でたくさん見てきました。

その結果どうなるか。働く側は「週40時間を超えてもいいのかな」と不安を抱えたまま働き、雇う側は「うちは短時間だから36協定はいらない」と思い込んだまま人を採用してしまう。どちらも悪気はないのに、気づかないうちに労働基準法違反の状態になっていることがあるんです。

ここで大事なのは、36協定が「働く人が結ぶもの」ではなく「会社が結ぶもの」だという点です。あなたが何かの書類にサインして届け出る必要はありません。ただ、自分の働き方が2社の合計で法定労働時間を超えるとき、その超過分を合法に処理する責任がどちらの会社にあるのかを知っておくと、確認すべきことが明確になります。

36協定とは何か。誰が、誰と、何のために結ぶのか

制度そのものから丁寧に見ていきます。ここを飛ばすと、掛け持ちの話が絶対にわからなくなるからです。

労働基準法36条にもとづく労使協定

労働基準法は、労働時間の原則を「1日8時間、1週40時間まで」と定めています。これを法定労働時間と呼びます。そして、この枠を超えて働かせること(時間外労働)と、法定休日に働かせること(休日労働)は、原則として禁止されています。

その禁止を解除するための手続きが、労働基準法36条にもとづく労使協定です。条文の番号から「36協定(サブロク協定)」と呼ばれています。

結ぶのは、会社(使用者)と、労働者側の代表です。労働者側の代表は次のどちらかになります。

・事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(そういう組合がある場合) ・労働者の過半数を代表する者(組合がない場合。投票や挙手など民主的な方法で選ぶ必要があります)

つまり、締結の当事者は「会社」と「その事業場の労働者代表」です。個々の労働者一人ひとりが会社と結ぶものではありません。パートやアルバイト、派遣で来ている人も含めて、その事業場で働く人全体の過半数から選ばれた代表が締結します。

締結だけでは足りない。労働基準監督署への届出が必要

ここも見落とされがちなところです。36協定は、結んだだけでは効力が発生しません。所轄の労働基準監督署長に届け出て、はじめて時間外労働・休日労働をさせられるようになります。

届出の様式は決まっていて、電子申請にも対応しています。有効期間は原則1年で、毎年結び直して届け出るのが一般的です。有効期間が切れているのに残業をさせていた、という失効パターンも実務ではときどき見かけます。

もうひとつ。36協定は「事業場ごと」に締結・届出をします。会社単位ではありません。本社と支店、店舗ごとに事業場が分かれている場合は、それぞれで手続きが必要です。副業先が小さな店舗や事業所である場合、そこに36協定があるかどうかは本社の状況とは別問題になります。

36協定で決める内容と時間の上限

36協定には、時間外労働をさせる必要のある具体的事由、業務の種類、労働者の数、延長できる時間などを記載します。そして、延長できる時間には法律上の上限があります。

・原則の上限は、月45時間、年360時間 ・臨時的な特別の事情があり、特別条項付きの36協定を結んだ場合でも、年720時間以内 ・時間外労働と休日労働の合計が、単月100時間未満 ・時間外労働と休日労働の合計が、2〜6か月のどの平均をとっても月80時間以内 ・原則の月45時間を超えられるのは、年6か月まで

この上限は、2019年から順次適用され、いまではほぼすべての業種に及んでいます。上限を超えた場合は罰則の対象になります。

36協定がないまま残業させるとどうなるか

罰則の話も、はっきり知っておいたほうが安心です。

36協定を締結していない状態で時間外労働や休日労働をさせたり、正しい額の割増賃金を支給していなかったりすると、労働基準法違反になります。このような場合、労働基準法に則り、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金といった罰則が課せられる恐れがあります。副業を導入したり、ダブルワークしている労働者を受け入れたりする場合、あらかじめ36協定違反になっていないかチェックすることが大切です。 出典: hrnote.jp

罰則を受けるのは会社側です。働いた本人が罰せられることはありません。ここは安心してください。ただ、違法な状態が発覚すれば副業先の営業に影響が出ますし、結果としてあなたの仕事もなくなります。だからこそ、働き始める前に確認しておく価値があるんです。

ダブルワークで労働時間が通算される仕組み

ここからが本題です。なぜ副業先の短い勤務まで36協定の話になるのか。その根拠を押さえます。

根拠は労働基準法38条1項

労働基準法38条1項には「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定められています。そしてこの「事業場を異にする場合」には、事業主が異なる場合、つまり別の会社で働く場合も含まれると解釈されています。

だから、A社で1日7時間、B社で1日2時間働けば、法律上は1日9時間働いたものとして扱われます。A社とB社は別の会社ですが、労働時間の計算だけは合算されるわけです。

このルールがあるせいで、「うちは1日2時間だけの契約だから、時間外労働なんて発生しない」という前提が崩れます。実際のケースで確認してみましょう。

たとえば、1日7時間の所定労働時間の企業で働いている労働者を、1日2時間の所定労働時間の条件で雇用した場合を考えてみましょう。1日2時間の所定労働時間であれば、通常は36協定の締結は必要ありません。しかし、この場合、ダブルワークになるため、労働時間を通算しなければなりません。通算された所定労働時間が1日9時間となり、法定労働時間を超えることになります。このような場合、36協定を締結していなかったり、適切な割増賃金を支払っていなかったりすると、違法になるので注意が必要です。 出典: hrnote.jp

1日2時間だけの契約でも、36協定が必要になる。これが通算ルールの実際の効き方です。

通算されるのは「雇用契約」どうしの場合だけ

とても重要な例外があります。労働時間が通算されるのは、どちらも労働基準法上の「労働者」として働く場合、つまり雇用契約(正社員・契約社員・パート・アルバイト)どうしの場合に限られます。

次のような働き方は、労働時間の通算の対象になりません。

・業務委託契約・請負契約で受ける仕事(フリーランスとしての副業) ・法人の役員として行う業務 ・自分で立ち上げた個人事業 ・農業や水産業など、労働時間規制の適用が除外される事業での労働

つまり、本業が会社員で、副業がライティングやデザイン、プログラミングなどの業務委託であれば、労働時間は通算されません。36協定の心配も、割増賃金の計算も発生しないということです。

私がキャリア相談でお会いする方の中にも、「副業でシフトに入る」ことしか思い浮かばず、時間の壁で身動きが取れなくなっている方が多くいます。制度の面から見ると、業務委託型の副業のほうが圧倒的に自由度が高い。この点は後半でもう一度取り上げます。

所定労働時間の通算と、所定外労働時間の通算

通算のしかたには順番があります。細かいですが、割増賃金を誰が払うかの結論に直結するので、押さえておきましょう。

第一段階として、契約を結んだ順番で「所定労働時間」を通算します。所定労働時間とは、それぞれの会社と約束した勤務時間のことです。先に契約した会社の所定労働時間、次に後から契約した会社の所定労働時間、という順で足していきます。

第二段階として、実際に発生した「所定外労働時間」を、発生した順番で足していきます。所定外労働時間とは、約束した時間を超えて働いた分のことです。

この二段階を経て、通算した結果が1日8時間・週40時間を超える部分が、法定時間外労働になります。そして、その超過部分を発生させた側の会社が、36協定の締結・届出と、割増賃金の支払いを担うことになります。

掛け持ち時、どちらの会社の36協定が効くのか

いよいよ核心です。「どっちの会社が責任を持つのか」をパターン別に整理します。

原則は「後から労働契約を結んだ会社」

もっとも基本的な考え方はこうです。すでにA社で働いている人が、あとからB社と契約した。この場合、通算して法定労働時間を超える部分は、B社の労働時間として扱われます。したがって、B社が36協定を結んで届け出ていなければならず、割増賃金もB社が支払います。

理由はシンプルで、B社は採用時に「この人はすでにA社で1日7時間働いている」と知りうる立場にあるからです。その状態で自社の労働を上乗せする以上、超過分の責任は上乗せした側にある、という整理になっています。

先ほどの例で言えば、A社で7時間、B社で2時間の場合、通算9時間のうち法定8時間を超える1時間分は、B社が時間外労働として扱い、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。B社に36協定がなければ、その1時間を働かせること自体が違法です。

契約の順番より「時間的に後」が優先されるケース

ただし、常に後契約の会社とは限りません。所定外労働、つまり突発的な残業が絡むと、判定が変わります。

たとえば、A社(先契約)で所定6時間、B社(後契約)で所定2時間という人がいたとします。所定を通算すると8時間ちょうどで、時間外労働は発生しません。ところがある日、A社で急な残業が2時間発生した。この場合、通算すると10時間になり、法定8時間を超える2時間分はA社側の所定外労働として発生したものです。したがって、この2時間についてはA社が36協定と割増賃金の責任を負います。

つまり、所定労働時間については契約の先後で、所定外労働時間については実際に発生した順番で判定する、というのが実務の考え方です。「後の会社が全部かぶる」と単純に覚えてしまうと間違えます。

パターン別の早見表

言葉だけだと混乱するので、代表的なパターンを表にまとめます。A社を先契約、B社を後契約とします。

ケース A社の労働 B社の労働 通算 法定超過分の責任
短時間の掛け持ち 所定5時間 所定3時間 8時間 超過なし
フルタイム+短時間 所定8時間 所定2時間 10時間 B社が2時間分
先契約で残業発生 所定6時間+残業2時間 所定2時間 10時間 A社が2時間分
後契約で残業発生 所定6時間 所定2時間+残業2時間 10時間 B社が2時間分
双方で残業発生 所定6時間+残業1時間 所定2時間+残業1時間 10時間 発生順に按分

週単位でも同じ考え方です。A社で週40時間働いている人がB社で土曜に6時間働けば、その6時間はまるごと法定時間外労働になります。B社に36協定がなければ働かせられませんし、割増賃金の対象にもなります。

副業先が36協定を結んでいるかを確認する方法

働く側から確認する手段もあります。36協定は、締結後に労働者へ周知する義務があります。事業場の見やすい場所への掲示、書面の交付、社内ネットワークでの閲覧といった方法で周知されているはずです。

面接や契約のときに、次の点を聞いておくと安心です。

・本業がある旨を伝えたうえで、通算して法定時間を超える働き方になるかどうか ・超える場合、時間外労働として処理してもらえるか ・36協定は締結・届出済みか、有効期間はいつまでか

聞きにくいと感じるかもしれませんが、これは相手を疑う質問ではなく、相手を守る質問でもあります。実際、「聞いてもらってはじめて自社の状況に気づいた」という小規模事業者は少なくありません。

割増賃金は誰が、いくら払うのか

36協定とセットで理解しておきたいのが、お金の話です。

割増率の基本

法定時間外労働に対する割増率は、次のように決まっています。

・法定時間外労働(1日8時間・週40時間超)は25%以上 ・1か月の時間外労働が60時間を超えた部分は50%以上 ・法定休日労働は35%以上 ・深夜労働(22時から翌5時)は25%以上を加算

月60時間超の50%割増は、以前は中小企業に猶予がありましたが、2023年4月からすべての企業に適用されています。

深夜割増は時間外割増と重なります。副業でシフトに入る時間帯が夜になりがちな方は、時間外かつ深夜であれば50%以上の割増になる、と覚えておいてください。

具体的な計算例

イメージしやすいように、数字を入れてみます。

本業のA社で平日1日8時間、週5日勤務。副業のB社で土曜に5時間働き、時給が1,200円だとします。

この週、A社の時点ですでに週40時間に達しています。したがってB社の5時間はすべて法定時間外労働です。B社が支払うべき額は、1,200円×1.25×5時間で7,500円になります。割増がなければ6,000円ですから、差額は1,500円です。

もしこの勤務が22時から翌3時までの深夜帯だったなら、時間外25%に深夜25%が加算されて1.5倍となり、1,200円×1.5×5時間で9,000円になります。

この計算をきちんとしている副業先かどうかは、給与明細を見ればわかります。時間外手当や深夜手当の項目が立っているか、時給がそのまま単純に掛け算されているだけかを確認してみてください。

割増賃金が支払われていないと気づいたとき

もし通算のルールが適用されるべき働き方をしているのに、割増が一切ついていない場合、それは未払い賃金にあたる可能性があります。

いきなり労働基準監督署に駆け込む前に、まずは事実の記録を残しましょう。シフト表、タイムカードの控え、給与明細、両社の労働条件通知書。これらが揃っていれば話は早いです。そのうえで副業先に「本業と通算すると法定時間を超えているので、時間外の扱いになりませんか」と確認します。

多くの場合、悪意ではなく知識不足です。私が相談を受けたケースでも、事情を説明したら翌月から是正された、というものが少なくありませんでした。声を上げる前に「揉めるかもしれない」と怖くなる気持ち、よくわかります。でも、記録という土台があると、驚くほど落ち着いて話せるようになります。

会社側の実務。管理モデルという簡便な方法

働く側にとっても知っておくと役立つのが、労働時間の管理方法です。

原則的な方法の負担の大きさ

原則どおりに通算しようとすると、両社は相手方の実労働時間を日々把握しなければなりません。本業で何時間残業したかを、副業先が毎日確認する。現実にはかなり難しい運用です。

そのため、厚生労働省のガイドラインでは、労働者からの自己申告にもとづいて把握すればよいとされています。副業先が本業の会社に直接問い合わせる必要はなく、働く本人が申告する形で足りるという整理です。

つまり、正確な申告をするかどうかは、あなた自身にかかっています。ここを曖昧にすると、副業先が知らないうちに違法状態になってしまいます。

管理モデルという選択肢

もう少し簡便な方法として、管理モデルというやり方が示されています。

仕組みはこうです。まず、本業側の会社が「自社での所定労働時間と所定外労働時間の上限」をあらかじめ設定します。次に副業側の会社が「自社での労働時間の上限」を設定します。両者の合計が、単月100時間未満・複数月平均80時間以内の範囲に収まるように枠を決めておくわけです。

そのうえで、副業側の会社は自社の労働時間すべてを時間外労働として扱い、割増賃金を支払います。こうしておけば、日々相手方の実績を確認しなくても、法令違反にならない運用ができます。

働く側から見ると、管理モデルが採用されている職場は「自分の副業時間はすべて割増でもらえる」ということになります。もし副業先がこの方式を採っているなら、時給の額面以上の手取りになるはずです。

割増賃金の支払い義務がない特例

例外として、労働時間の通算が適用されない働き方もあります。管理監督者や、労使協定にもとづくフレックスタイム制の運用、変形労働時間制など、制度によっては単純な合計では判断できないケースがあります。管理監督者に該当する立場で本業を務めている場合、時間外の概念そのものが異なるため、副業側の扱いも変わります。

このあたりは個別性が高いので、自分の雇用契約書と就業規則を確認したうえで、判断がつかなければ社会保険労務士や労働基準監督署の相談窓口に確認するのが確実です。相談は無料で受けられます。

週40時間の壁と社会保険、税金の関係

36協定とは別の軸ですが、週40時間前後で働くときに必ず絡んでくる話なので触れておきます。

社会保険の加入要件

社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件は、労働時間を通算して判断するものではありません。それぞれの勤務先ごとに、単独で判断されます。

原則としては、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上であれば加入対象です。加えて、一定規模以上の企業では、週の所定労働時間が20時間以上、賃金月額が88,000円以上といった要件を満たすと加入対象になります。この企業規模の要件は段階的に引き下げられており、対象となる事業所は年々広がっています。

もし2社ともで加入要件を満たした場合、二以上事業所勤務届を提出して、両社の報酬を合算した標準報酬月額で保険料を計算し、各社が按分して負担する形になります。手続きは日本年金機構の窓口で確認できます。

雇用保険の扱い

雇用保険は、原則として主たる賃金を受ける1社でのみ加入します。両方で入ることはありません。ただし、65歳以上の方については、2つの事業所の労働時間を合算して加入できる仕組みも設けられています。

住民税から副業が知られる経路

税金の面では、住民税がよく話題になります。給与所得が2か所以上あると、本業側の会社に通知される住民税額が、その会社の給与に対して不自然に高くなります。経理担当者が気づく典型的な経路がこれです。

給与所得どうしの場合、住民税を自分で納付する方式に切り替えることは基本的にできません。副業が業務委託などの給与以外の所得であれば、確定申告の際に「自分で納付」を選ぶことで本業側への通知を避けられます。この点でも、雇用型の副業と業務委託型の副業では扱いが大きく異なります。

週40時間の制約から自由になる副業の選び方

ここまで制度の話を続けてきましたが、少し視点を変えます。

時間で縛られない働き方という選択肢

これまで見てきたとおり、労働時間の通算も36協定も割増賃金も、すべて「雇用契約で働く場合」の話です。業務委託で仕事を受けるなら、これらの規制はかかりません。

本業で週40時間働いている人が、さらにアルバイトのシフトに入ろうとすると、途端に制度の壁にぶつかります。副業先は36協定を用意しなければならず、割増賃金の負担も生じる。結果として「本業がフルタイムの方はお断り」という求人も出てきます。

一方、在宅でできる業務委託の仕事であれば、成果物に対して報酬が支払われるため、何時間働いたかを両社で通算する必要がありません。平日の夜に2時間だけ作業する、週末にまとめて進める、繁忙期は受注を止める。そうした調整が自分の裁量でできます。

もちろん、自由には責任が伴います。納期を守る、品質を担保する、体調を管理する。これらは全部自分の仕事になります。それでも、「時間の枠」ではなく「成果の枠」で働けることの意味は大きいです。

スキル別に見た業務委託型副業の相場感

どんな仕事があるのか、相場とあわせて見ておきましょう。職種ごとの単価感は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場著述家,記者,編集者の年収・単価相場といった職種別のデータベースで確認できます。前者は開発系の年収レンジや業務委託単価の傾向を、後者はライティングや編集の報酬水準をまとめたものです。数字を眺めておくと、提示された条件が妥当かどうかを判断する物差しになります。

具体的な仕事内容のイメージがわかないという方には、分野ごとのガイドが参考になります。生成AIの導入支援や業務改善のコンサルティングを扱うAIコンサル・業務活用支援のお仕事は、事業会社での実務経験が活きやすい領域です。マーケティングやセキュリティを含めた広めの領域を知りたい方はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事を、開発系のキャリアを検討している方はアプリケーション開発のお仕事を見ておくと、必要なスキルと案件の種類が把握できます。

資格は時間の代わりに信頼を積む手段になる

副業に使える時間が限られている方ほど、資格の価値が上がります。実績を積むには時間がかかりますが、資格は「この人は最低限の水準を満たしている」という説明を一枚で済ませてくれるからです。

事務・ビジネス系であればビジネス文書検定が挙げられます。ビジネス文書の書き方や敬語、書式のルールを体系的に確認できる検定で、資料作成やライティングの案件で信頼につながります。IT系で在宅の運用・保守案件を狙うならCCNA(シスコ技術者認定)が定番です。ネットワークの基礎を証明できる資格で、インフラ寄りの業務委託案件で評価されやすい傾向があります。

資格取得の勉強は、週40時間の壁とは無関係に進められます。副業先のシフトが取れない時期を、次の準備期間に変える。そういう使い方ができます。

独自データから見えるダブルワークの現実的な設計

ここからは、在宅ワークの求人データや働き方の傾向を長く見てきた立場から、実務的な観察をお伝えします。

時間の総量ではなく、回復時間で設計する

20年この市場を見てきた立場から言えば、ダブルワークで挫折する方に共通しているのは、法定の上限ぎりぎりまで詰め込んでしまうことです。週40時間の本業に、さらに週15時間以上の副業を重ねると、多くの方は3か月から半年で体調を崩します。法律上は問題なくても、続かないんです。

長く続いている方の共通点は、時間の総量ではなく回復時間から逆算していることでした。睡眠を先に確保し、残った時間の中で副業の量を決める。忙しい月は受注を止める。この判断ができる人が結果的に長期の取引先を持ちます。

在宅ワークの時間の組み立て方については、在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開が参考になります。家事や育児と並行して仕事の時間を確保する具体的な一日の流れを紹介した記事で、限られた時間で成果を出す設計のヒントが詰まっています。集中力の維持に悩んでいる方には、在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックもあわせて読んでみてください。作業に取りかかれない状態をどう抜けるか、実践的な方法をまとめています。

手取りの厚さという視点

もうひとつ、運営者として見てきた限りで確かなことがあります。中間マージンが乗らない直接取引は、同じ予算でも依頼者はより多くを頼めますし、受け手の手取りは厚くなります。

副業に使える時間が週10時間しかない人にとって、この差は決定的です。仲介手数料が2割引かれる環境で10時間働くのと、手数料0%の環境で10時間働くのとでは、同じ労力でも残る金額が変わります。時間を増やせない以上、単位時間あたりの手取りを厚くするしか手はありません。

さらに、直接取引には金額以外の効果もあります。依頼者と直接やり取りをしていると、次の依頼が来やすい。仲介が入ると、担当者の異動や案件の入れ替わりで関係が切れてしまうことがよくあります。長く続く方ほど、単発の作業ではなく「この人に任せると楽だ」という関係づくりに時間を使っています。

案件の探し方そのものに不安がある方は、在宅ワークの求人の探し方5選|初心者でも安心な方法と注意点を徹底解説が実用的です。求人を探すルートごとの特徴と、初心者が避けるべき条件の見分け方を整理した記事で、最初の一件を取るまでの流れがつかめます。

制度を知ることは、自分を守ることでもある

最後に、カウンセリングの現場で感じていることをお話しさせてください。

副業でしんどくなる方の多くは、「働きすぎ」そのものよりも、「これでいいのかわからない」という不確かさに消耗しています。週40時間を超えているけれど違法なのかどうかわからない。会社に知られたらどうしよう。割増がついていない気がするけれど、言い出せない。この不確かさが、実際の労働時間以上に心を削ります。

だからこそ、制度を一度きちんと理解しておく価値があります。36協定は会社が結ぶもので、あなたが罰せられることはない。通算されるのは雇用契約どうしの場合だけ。超過分の責任は原則として後から契約した会社にある。この3点を知っているだけで、目の前の状況をずいぶん冷静に見られるようになります。

不安が消えないときは、一人で抱えないでください。労働基準監督署にも、各都道府県の労働局にも、無料で相談できる窓口があります。制度の詳細は厚生労働省の情報も参照できます(https://www.mhlw.go.jp/)。社会保険の扱いについては日本年金機構の案内も確認できます(https://www.nenkin.go.jp/)。

あなたが選んだ働き方を、制度のせいで諦める必要はありません。仕組みを知って、自分に合う形に組み替えていけば大丈夫です。あなたは一人ではありませんよ。

よくある質問

Q. ダブルワークで週40時間を超えると、私自身が36協定を結ぶ必要がありますか?

いいえ、必要ありません。36協定は会社と労働者代表が結び、労働基準監督署へ届け出るもので、個々の働き手が結ぶ書類ではありません。通算して法定時間を超える場合、原則として後から労働契約を結んだ会社が36協定の締結と割増賃金の支払いを担います。罰則の対象も会社側です。

Q. 週40時間を超えた分の割増賃金は、本業と副業のどちらが払いますか?

原則は後から契約した会社です。所定労働時間は契約の先後で通算し、突発的な残業(所定外労働)は発生した順に通算します。そのため、本業で急な残業が出て超過した場合は本業側が負担します。割増率は法定時間外で25%以上、深夜が重なると50%以上になります。

Q. 業務委託の副業でも労働時間は通算されますか?

通算されません。労働時間の通算は雇用契約どうしの場合に限られ、業務委託・請負・個人事業・法人役員としての業務は対象外です。そのため36協定も割増賃金も発生せず、本業がフルタイムでも時間の制約を受けにくくなります。在宅の受託業務が副業として選ばれやすいのはこの理由です。

Q. 副業先が36協定を結んでいるか、どうやって確認すればよいですか?

36協定は労働者への周知義務があるため、掲示や書面交付、社内ネットワークで確認できます。契約前の面談で、本業がある旨を伝えたうえで「通算すると法定時間を超えるが時間外として処理してもらえるか」「36協定は届出済みか、有効期間はいつまでか」を聞いておくと安心です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年2月19日最終更新:2026年8月2日
中西 直美

この記事を書いた人

中西 直美@SOHO編集部

産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。

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