ダブルワークで週40時間を超えた人が実際にした対応|勤務先への相談と時間の組み替え 2026

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
ダブルワークで週40時間を超えた人が実際にした対応|勤務先への相談と時間の組み替え 2026

この記事のポイント

  • ダブルワークで週40時間を超えたら
  • 勤務先への申し出の切り出し方
  • 未払いの割増賃金を請求する手順

ダブルワークで週40時間を超えたら、いったい何をすればいいのか。結論から言うと、やることは3つです。1つ目は、どちらの勤務先が割増賃金を払う立場なのかを事実ベースで確定させること。2つ目は、超過が続いている場合は勤務先に申し出て時間を組み替えること。3つ目は、過去に超過分の割増賃金が支払われていないなら、時効内に請求すること。この記事は「超えたらどうなるか」を怖がらせる内容ではありません。すでに超えてしまった人が、明日から何をどの順番でやればいいかを書きます。

「週40時間を超えると割増賃金が発生する」という知識だけが先に広まっていて、その先の手続きを説明している情報が極端に少ない。検索して出てくるのはルールの解説記事ばかりで、超えた後の当事者が知りたい「勤務先にどう言えばいいのか」「払ってもらえなかったらどこに行くのか」に答えているものがほとんどありません。正直なところ、これは情報の偏りだと思います。ルールを知って不安になったところで放置されている読者が多すぎる。

週40時間を超えた直後にやるべきこと

超過に気づいた時点でやるべき最優先事項は、慌てて勤務先に連絡することではありません。記録を先に固めることです。順番を間違えると、後から「言った言わない」になって不利になります。

最初にやるのは記録の確保

労働時間の通算が問題になる場面で、いちばん強い証拠は客観的な労働時間の記録です。具体的には次のものを集めます。

・雇用契約書、労働条件通知書(両方の勤務先分) ・直近6か月分の給与明細 ・タイムカードの控え、勤怠システムの打刻画面のスクリーンショット ・シフト表(LINEやチャットで送られてきたものも含む) ・出退勤時にオフィスや店舗のドアを解錠したログ、業務用チャットの発言時刻

給与明細は捨てずに残しておくべきものの筆頭です。私も編集の仕事で複数のクライアントを掛け持ちしていた時期に、稼働時間の記録をカレンダーアプリだけで管理していて、後から「この月は何時間だったか」を再現できずに苦労した経験があります。結局、メールの送信時刻を1件ずつ拾って再構成する羽目になりました。記録は「後で必要になるかも」ではなく「必ず必要になる」前提で残しておくのが正解です。

勤怠システムを使っている会社なら、退職前に自分の打刻履歴をCSVでダウンロードできるか確認しておくといいでしょう。退職後はアカウントが停止されて取得できなくなるケースが大半です。

2つの勤務先の時間を合算して事実を確定させる

記録が揃ったら、週ごとに合算して超過時間を計算します。ここで重要なのは、法定労働時間の週の起算日です。就業規則で定めがなければ日曜日始まりが原則とされています。会社ごとに起算日が違うと計算がずれるので、両方の就業規則を確認してください。

計算はシンプルです。

項目 計算方法
週の総労働時間 本業の実労働時間+副業の実労働時間
法定内 40時間まで
超過時間 週の総労働時間 − 40時間
割増率 通常賃金の25%以上(時間外)

たとえば本業で週35時間、副業で週12時間働いていたら、合計47時間。超過は7時間です。この7時間分に割増賃金が発生します。

ここで多くの人がつまずくのが「休憩時間を引き忘れる」点です。実労働時間で計算するので、休憩は含めません。8時間拘束で1時間休憩なら実労働は7時間です。この差が積み上がると、月単位では数時間のズレになります。

誰が割増賃金を払うのかを判定する

超過分の割増賃金を払う義務があるのは、原則として後から労働契約を結んだ側です。これは労働時間の通算に関する行政解釈で示されている考え方で、時間的に後に契約した使用者が、通算して法定労働時間を超える部分について責任を負うという整理になっています。

ただし例外があります。契約の前後にかかわらず、所定労働時間を超えて働かせた側が責任を負う場面もあります。整理すると次の通りです。

ケース 割増賃金を負担する側
先の勤務先が所定時間内、後の勤務先で超過 後から契約した勤務先
後の勤務先が所定時間内、先の勤務先で残業して超過 残業させた先の勤務先
両方とも所定時間内だが合算で超過 後から契約した勤務先
両方で残業が発生 それぞれの残業をさせた側

このロジックがややこしいのは、「所定労働時間の通算」と「所定外労働時間の通算」を分けて考える必要があるからです。まず両方の所定労働時間を足して40時間を超えるかを見る。超えるなら、後から契約した側が超過分を負担する。次に、所定を超えた残業が発生した順に加算していき、40時間を超えた部分は残業をさせた側が負担する。この2段階です。

副業先が事実を知らない可能性を確認する

意外と見落とされるのが、副業先が本業の労働時間を把握していないケースです。労働時間の通算は、労働者本人からの申告がなければ勤務先が知りようがありません。副業を始めるときに本業の勤務時間を申告していなかったのなら、副業先は悪意なく割増を払っていないだけ、という可能性が高い。

この場合、いきなり「未払いだ」と切り出すのは得策ではありません。「本業の勤務時間をお伝えしていませんでした」という自己申告から入るほうが、話がスムーズに進みます。実務上、この一言があるかないかで相手の態度が大きく変わります。

勤務先への申し出をどう切り出すか

記録が揃い、誰が負担者かの見当がついたら、次は勤務先への申し出です。ここが一番心理的なハードルが高いところなので、具体的な言い方まで書きます。

申し出る相手と順番を間違えない

まず、申し出る相手は現場の店長やチームリーダーではなく、人事労務の担当部署にすべきです。現場の管理者は労働時間通算のルールを正確に理解していないことが多く、「うちは関係ない」と誤った回答をされて話が止まるパターンが頻発します。人事部門がない小規模事業者なら、経営者本人か、給与計算を担当している人が窓口になります。

順番としては、負担義務がある側の勤務先から先に話します。前述の判定で「後から契約した副業先」が負担者なら、副業先から。ただし、本業側で副業を届け出ていない場合は、話が本業に伝わるリスクを先に潰しておく必要があります。

申し出の文面例

メールや書面で残す形をおすすめします。口頭だけだと記録に残らず、後で争いになったときに不利です。

〇〇株式会社 人事部 △△様

いつもお世話になっております。□□部の(氏名)です。

労働時間の通算について確認させていただきたく、ご連絡いたしました。

現在、貴社での勤務に加えて、別の事業者と雇用契約を結んで勤務しております。
両社の労働時間を通算すると、週の法定労働時間である40時間を超える週が
発生していることに気づきました。

つきましては、
・私からの他社での労働時間の申告方法
・通算した場合の割増賃金の取り扱い
・今後のシフト調整の可否

についてご相談させていただけますでしょうか。
必要であれば、他社での勤務時間を記載した書面をご提出いたします。

お手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

ポイントは3つあります。

1つ目、責める言い方をしない。「未払いですよね」と切り出すと相手が防御的になり、話が長引きます。「気づいたので相談したい」というトーンに徹する。

2つ目、自分から情報提供を申し出る。労働時間の申告は労働者側の協力がなければ成り立ちません。「書面を出します」と先に言うことで、相手の事務負担への配慮を示せます。

3つ目、今後の調整も同時に相談する。過去の清算だけを求めると「金銭の請求」に見えてしまう。今後どうするかもセットで相談すれば、継続的な関係を前提とした話し合いになります。

副業を届け出ていなかった場合の伝え方

本業に副業を届け出ていない状態で超過が発覚した場合、対応の難易度が一段上がります。就業規則に副業の許可制や届出制が定められているなら、まずそこに違反している状態です。

このケースで最悪なのは、放置して社会保険や住民税の経路から発覚することです。運営側として長年この市場を見てきた感覚で言うと、後から発覚したケースのほうが処分が重くなる傾向は確実にあります。自己申告のほうが圧倒的に有利です。

伝え方としては、就業規則の副業条項を先に確認し、届出書のフォーマットがあればそれに従って提出します。届出書がない会社なら、次のような内容を書面で出します。

・副業先の事業者名と業種 ・従事する業務内容 ・勤務時間帯と週あたりの勤務時間 ・本業の業務に支障が出ない旨 ・競業に該当しない旨

競業避止と情報漏洩のリスクがないことを明示するのが重要です。会社が副業を制限する正当な理由として認められやすいのは、競業、情報漏洩、本業への支障、企業の信用毀損の4つです。ここに該当しないと示せれば、許可される可能性は高まります。

拒否されたときの選択肢

申し出た結果、「割増は払えない」「副業は認めない」と言われることもあります。その場合の選択肢は次の通りです。

状況 現実的な対応
割増賃金の支払いを拒否された 労働基準監督署への相談、内容証明での請求
副業を認めないと言われた 就業規則の規定を確認し、制限の合理性を検討
シフト調整に応じてもらえない 副業側の時間を減らす、または雇用契約以外の働き方へ移行
解雇や不利益な扱いを示唆された 労働局のあっせん、弁護士への相談

副業を理由とした解雇は、就業規則に規定があっても無制限に認められるわけではありません。本業に具体的な支障が出ているかどうかが判断のポイントになります。単に「副業しているから」というだけで解雇するのは、裁判で無効とされる可能性が高い。

未払いの割増賃金を請求する手順

過去に超過分の割増賃金が支払われていなかった場合、請求できます。ここは手順が決まっているので、順を追って説明します。

時効は3年、放置すると消える

賃金請求権の消滅時効は、当面の間3年とされています(本来は5年ですが経過措置により当面3年)。給与の支払日ごとにカウントが進むので、古い月から順に権利が消えていきます。「そのうち請求しよう」と思っている間に、月単位で請求できる金額が減っていく構造です。

つまり、気づいた時点で動かないと損をします。3年という期間は長そうに見えますが、交渉に数か月、労働審判に数か月かかることを考えると、余裕はそれほどありません。

請求額を自分で計算する

請求する前に、いくら請求するのかを自分で計算しておく必要があります。計算式は次の通りです。

1時間あたりの賃金 × 超過時間 × 0.25

時給制なら時給がそのまま基礎賃金になります。月給制なら、月給を月平均所定労働時間で割って時給換算します。

計算から除外できる手当があります。家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は、割増賃金の基礎から除外できるとされています。逆に言えば、それ以外の手当は基礎賃金に含めなければならない。役職手当や資格手当を除外して計算している会社は少なくないので、ここは要チェックです。

具体例で計算してみます。

項目 数値
月給(除外手当を引いた額) 22万円
月平均所定労働時間 160時間
時給換算 1,375円
週の超過時間 7時間
月の超過時間(4.33週) 30時間
割増部分(25%) 1,375円 × 30時間 × 0.25 = 10,313円

これが1か月分です。ただし、そもそも超過分の基本の賃金すら払われていないケースもあります。その場合は1.25倍全額(1,375円 × 30時間 × 1.25)を請求することになるので、金額は大きく変わります。給与明細を見て、超過時間分の賃金が支払われているか、割増部分だけが漏れているのかを区別してください。

請求の手順を段階的に踏む

いきなり訴訟を起こす人はいません。段階を踏むのが基本です。

第1段階:社内での請求

計算書を添えて、書面で請求します。この段階で解決するケースが最も多い。会社としても、労働基準監督署が入るより社内で処理したほうが負担が小さいからです。

第2段階:内容証明郵便での請求

社内で無視された、または拒否された場合、内容証明郵便で請求します。内容証明には時効の完成猶予の効果があり、送付から6か月間は時効の進行が止まります。時効が迫っている場合の応急処置として有効です。

内容証明に書く項目は次の通りです。

・請求の相手方(会社名、代表者名) ・請求者(自分の氏名、住所) ・雇用契約の内容(契約日、職種、賃金) ・未払いが発生している期間 ・請求金額とその計算根拠 ・支払期限 ・応じない場合に法的手続きを取る旨

第3段階:労働基準監督署への申告

割増賃金の不払いは労働基準法違反です。労働基準監督署に申告すれば、監督官が調査に入り、是正勧告が出ることがあります。ただし、監督署は個別の賃金請求を代行してくれるわけではありません。あくまで法違反の是正が目的です。

第4段階:労働審判または訴訟

金額が大きい、または会社が完全に応じない場合は、労働審判を申し立てます。労働審判は原則3回以内の期日で終わる制度で、通常の訴訟より短期間で決着します。多くのケースが調停で終わります。

付加金と遅延損害金

裁判所に請求する場合、未払いの割増賃金と同額の付加金を請求できる制度があります。つまり、認められれば最大で2倍の金額を回収できる可能性がある。ただし、これは裁判所の裁量で決まるもので、必ず認められるわけではありません。

また、退職後の未払い賃金には年14.6%の遅延損害金が発生します。在職中は法定利率(年3%)です。退職している場合は請求額に上乗せできるので、忘れずに計算に含めてください。

相談できる窓口を整理する

自分だけで抱え込む必要はありません。無料で相談できる公的な窓口が複数あります。それぞれ得意分野が違うので、状況に応じて使い分けます。

労働基準監督署

労働基準法違反を取り締まる行政機関です。割増賃金の不払い、労働時間の記録がない、就業規則が周知されていないといった法違反に対して、調査と是正勧告を行います。

全国の所在地は厚生労働省のサイトから確認できます。相談は無料で、匿名でも可能です。ただし、匿名だと調査の優先度が下がる傾向があります。

監督署に行くときは、事前に資料を整理していきましょう。雇用契約書、給与明細、勤怠記録、シフト表。この4点が揃っていれば、話は早く進みます。逆に、記憶だけで相談に行くと「証拠を集めてから来てください」と言われて終わります。

総合労働相談コーナー

各都道府県の労働局と労働基準監督署内に設置されている相談窓口です。労働基準法違反に限らず、いじめ、嫌がらせ、解雇、雇止め、配置転換など、あらゆる労働問題を扱います。

ここの強みはあっせん制度です。労働局のあっせんは、専門家が間に入って労使の話し合いをまとめる手続きで、無料かつ非公開。訴訟に比べると圧倒的にハードルが低い。ただし、あっせんに応じるかどうかは相手方の任意なので、会社が拒否すれば不成立で終わります。

法テラス

経済的に余裕がない人向けに、無料の法律相談と弁護士費用の立替えを行っている公的機関です。収入と資産の要件を満たせば、同一問題について3回まで無料相談が受けられます。

弁護士に依頼するほどの案件かどうか迷っている段階でも、まず法テラスで相談してみる価値はあります。

労働組合

社内に労働組合がある場合は組合に相談できます。社内にない場合でも、個人で加入できる合同労組(ユニオン)があります。組合に加入すると、団体交渉権を使って会社と交渉できるようになります。

会社は正当な理由なく団体交渉を拒否できません。これは会社側にとって無視できない圧力になります。ただし、組合費がかかることと、社内で目立つことになるという副作用は理解しておくべきです。

どの窓口を選ぶべきか

状況 適した窓口
割増賃金の不払いが明確 労働基準監督署
会社と話し合いたい 総合労働相談コーナー(あっせん)
法的な見通しを知りたい 法テラス
継続的に会社と交渉したい 労働組合
金額が大きい、退職済み 弁護士(労働審判・訴訟)

私が編集の現場で聞いた範囲では、まず総合労働相談コーナーに行って全体像を整理してから、必要に応じて監督署や弁護士に進むというルートを取る人が多い印象です。いきなり弁護士に行くと費用の話になって足が止まる。無料の窓口で状況を整理してからのほうが、判断がしやすくなります。

時間の組み替えで超過を解消する

過去分の清算とは別に、今後も超過が続くなら構造的に解決する必要があります。ここからは実務的な調整の話です。

シフトの組み替えで40時間内に収める

もっとも単純な解決策は、どちらかの勤務時間を減らすことです。ただし、収入が減るので現実的でない人も多い。そこで検討したいのが、時間を減らさずに超過を回避する組み方です。

週の起算日を意識すると、同じ総労働時間でも超過を分散できる場合があります。たとえば、週の後半に集中していた副業のシフトを、週をまたいで分散させる。ただしこれは総労働時間が変わらないので、月単位では同じことになります。あくまで、特定の週に集中して大幅超過が発生するのを避ける技術です。

より効果があるのは、変形労働時間制の有無を確認することです。1か月単位や1年単位の変形労働時間制を採用している職場なら、週40時間の判定が期間平均になるため、週によって40時間を超えても直ちに超過扱いにならない場合があります。就業規則を確認してください。

雇用契約ではない働き方に切り替える

労働時間の通算ルールが適用されるのは、両方が雇用契約(労働者)の場合です。副業が業務委託契約(請負・準委任)なら、労働基準法上の労働時間には通算されません。

これが実は最も現実的な解決策です。副業をアルバイトから業務委託に切り替えれば、週40時間の壁そのものが消える。もちろん、実態が労働者と変わらないのに形式だけ業務委託にする「偽装請負」は問題ですが、本当に成果物ベースで働くなら適法です。

業務委託への移行を検討するなら、時間ではなく成果で評価される仕事を選ぶことになります。在宅で完結する職種の例を挙げます。

・ライティング、編集 ・Webデザイン、バナー制作 ・プログラミング、システム開発 ・動画編集 ・データ入力、リサーチ ・翻訳 ・オンライン秘書、事務代行

このうち、どの分野にどれくらいの相場があるかを知りたいなら、職種別の年収データを見るのが早い。文章を扱う仕事の相場感は著述家,記者,編集者の年収・単価相場にまとまっており、賃金構造基本統計調査をベースにした職種別の水準を確認できます。開発系ならソフトウェア作成者の年収・単価相場が参考になります。どちらも公的統計に基づく数値なので、案件サイトの「稼げる」系の煽り文句より現実に近い数字が見られます。

業務委託に移行するときの注意点

雇用から業務委託に切り替えると、いくつか失うものがあります。

項目 雇用契約 業務委託
最低賃金の適用 あり なし
割増賃金 あり なし
労災保険 あり 原則なし(特別加入で対応可)
雇用保険 条件を満たせばあり なし
社会保険(健保・厚年) 条件を満たせばあり なし
契約解除の制限 解雇規制あり 契約条件による
労働時間の通算 される されない

このトレードオフを理解したうえで選ぶ必要があります。特に労災は重要です。業務中にケガをしても労災が使えないため、特別加入制度の利用や民間保険での補填を検討すべきです。フリーランス向けの労災特別加入は対象職種が拡大しており、詳細は厚生労働省のサイトで確認できます。

また、2024年11月に施行されたフリーランス保護新法により、業務委託を受ける個人には一定の保護が及ぶようになりました。取引条件の書面明示、60日以内の報酬支払、一方的な減額の禁止などが定められています。業務委託だから完全に無防備、というわけではありません。

収入を落とさずに時間を減らす発想

時間を減らして収入を維持するには、時間あたりの単価を上げるしかありません。当たり前の話ですが、実行できている人は多くない。

単価を上げる現実的な手段は3つです。

1つ目、スキルの証明を持つこと。同じ作業でも、資格や実績があると単価交渉の材料になります。事務系ならビジネス文書検定のような文書作成の基礎を証明する資格が、書類作成代行の案件で効いてきます。インフラ系ならCCNA(シスコ技術者認定)が、ネットワーク関連の案件で足切りを通過するための条件になっていることがあります。

2つ目、単価の高い分野に移ること。同じスキルセットでも、業界によって単価が違います。たとえばAI関連の業務支援は需要が急増しており、AIコンサル・業務活用支援のお仕事では業務プロセスにAIを組み込む支援の案件が扱われています。マーケティングやセキュリティを絡めた案件はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事にまとまっており、専門性が価格に直結する領域です。開発案件ならアプリケーション開発のお仕事で、Webからスマホアプリまでの案件傾向が確認できます。

3つ目、継続案件を持つこと。単発案件は毎回営業コストがかかります。継続契約に切り替えられれば、同じ収入でも実質的な労働時間が減ります。

生活時間の設計を見直す

時間の組み替えは、勤務時間の話だけではありません。生活全体の時間配分を見直すと、無理なく回せるようになるケースがあります。

在宅で複数の仕事を回している人がどう1日を組んでいるかは、在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開に具体的なタイムテーブルが載っています。家事と仕事をどう区切っているかの実例が参考になります。

作業効率そのものを上げたいなら、在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックで紹介されている手法が使えます。同じ2時間でも、集中して取り組めるかどうかで成果物の量は大きく変わります。

これから新しい在宅案件を探すなら、在宅ワークの求人の探し方5選|初心者でも安心な方法と注意点を徹底解説に、求人サイトの選び方と怪しい案件の見分け方がまとまっています。

週40時間超過が引き起こす副次的な問題

割増賃金だけが問題ではありません。超過が続くと、別の領域にも影響が出ます。

社会保険の加入義務

短時間労働者の社会保険加入要件は段階的に拡大しています。現在は、週の所定労働時間が20時間以上、月額賃金8.8万円以上、雇用期間が2か月超見込み、学生でないこと、かつ従業員数51人以上の企業、という要件になっています。

重要なのは、この判定は勤務先ごとに行われるという点です。労働時間は通算されますが、社会保険の加入要件は各社ごとに判定します。両方で要件を満たせば、両方で被保険者になります。

両方で被保険者になった場合、「二以上事業所勤務届」を提出する必要があります。年金事務所に届け出て、主たる事業所を選択します。保険料は両社の報酬を合算した標準報酬月額で計算され、各社の報酬額に応じて按分されます。届出をしないと保険料の計算が正しく行われず、後から追徴されることがあります。詳しくは日本年金機構のサイトで確認できます。

住民税から副業が発覚する経路

副業を本業に知られたくない人が最も気にするのが住民税です。仕組みを整理します。

給与所得は原則として特別徴収(給与天引き)になります。市区町村は、その人の全所得を合算して住民税額を計算し、主たる給与の支払者に通知します。副業分が加わると住民税額が増えるため、本業の給与担当者が「給与額に対して住民税が多い」と気づく可能性がある。これが発覚経路です。

副業が給与所得(アルバイト)の場合、住民税を普通徴収(自分で納付)に切り替えるのは原則できません。給与所得は特別徴収が原則だからです。一方、副業が事業所得や雑所得(業務委託)なら、確定申告書で「自分で納付」を選択できます。

つまり、発覚リスクの観点でも業務委託のほうが管理しやすい。これは労働時間の通算を回避できる点と合わせて、業務委託を選ぶ実務的な理由になります。

ただし、隠すことを推奨しているわけではありません。就業規則で届出が必要なら届け出るべきです。ここで説明しているのは、あくまで制度の仕組みです。

健康リスクと安全配慮義務

週40時間を大きく超える労働が続くと、健康を損なうリスクが上がります。労働時間と健康障害の関連については、時間外労働が月80時間を超えると健康障害のリスクが高まるとされ、月100時間超で関連性が強いとされています。

会社には従業員に対する安全配慮義務があります。副業を含めた総労働時間が過大になっているのを知りながら放置すれば、会社側の責任が問われる可能性があります。逆に言えば、労働者側から申告することで、会社が調整せざるを得ない状況を作れます。

実際のところ、ダブルワークで消耗して両方の質が落ちるケースは珍しくありません。ネット上でも同じ壁に直面している人の声が多く見られます。

ダブルワークの週40時間の壁についてお聞きしたいです! 最近副業やダブルワークをしている方が増えていると聞いて自分も考えていたのですが、本業と副業を合わせて週40時間の労働時間を超えると割増賃金が発生すると知り断念いたしました。

この40時間の壁ですが、実際に副業されている方はどう乗り越えているのでしょうか?

①40時間を超えているがおかまいなし ②本業副業合わせて40時間以内... 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

この投稿が示しているのは、多くの人が「①おかまいなし」と「②40時間以内に抑える」の二択で考えているという事実です。しかし実際には第三の選択肢、つまり雇用契約以外の形で働く道があります。この選択肢を知らないまま、副業そのものを諦めてしまう人が一定数いる。情報が届いていない領域です。

ケース別の対応シナリオ

状況ごとに、具体的にどう動くべきかを整理します。

正社員が本業、アルバイトが副業のケース

最も多いパターンです。本業の所定労働時間が週40時間なら、副業のアルバイト分はすべて超過になります。この場合、副業先(後から契約した側)が割増賃金を負担します。

対応の優先順位は、①副業先に本業の労働時間を申告する、②副業先が割増を払えないと言うなら業務委託への切り替えを打診する、③それも不可なら副業先を変える、という順になります。

現実には、時給が安いアルバイトの副業先が割増を払える体力を持っていないケースが多い。「うちでは対応できない」と言われて終わることが大半です。その場合、そのアルバイトを続けるかどうかの判断になります。

両方とも短時間勤務のケース

たとえば本業が週25時間、副業が週20時間で合計45時間というパターン。この場合、超過は5時間で、後から契約した側が負担します。

金額としては大きくないので、交渉のハードルは低いはずです。副業先に申告して、割増を反映した給与計算に切り替えてもらう。これで解決します。

ただし、両方で社会保険の加入要件を満たす可能性があるので、そちらの手続きも忘れずに。

派遣とアルバイトの掛け持ちのケース

派遣社員の場合、労働時間を管理する責任は派遣元にあります。派遣先ではなく派遣元です。したがって、申告先も派遣元の会社になります。

派遣元は複数の派遣先に労働者を送っているため、労働時間の管理体制が整っていることが多い。他社での就業を申告すれば、シフト調整に応じてもらえる可能性は比較的高いと言えます。

一方で、派遣契約は期間が決まっているため、契約更新のタイミングで調整されるのが一般的です。契約期間の途中で大幅にシフトを変更するのは難しい場合があります。

副業が業務委託のケース

副業が業務委託なら、そもそも労働時間の通算対象外です。週40時間を気にする必要はありません。

ただし注意点があります。契約書が業務委託でも、実態が労働者と同じなら労働者として扱われる可能性があります。判断基準は、仕事の依頼を断れるか、業務の遂行方法に指揮命令があるか、勤務時間や場所が拘束されているか、報酬が労務の対価か、代替性があるか、といった点です。

「業務委託契約書にサインしているから大丈夫」ではなく、実態を見られます。時間で拘束されて指示通りに作業しているなら、労働者と判断される余地があります。

すでに退職している場合

超過が発生していた勤務先をすでに辞めている場合でも、未払い賃金は請求できます。時効内であれば権利は残っています。

退職後の請求は、在職中より心理的なハードルが低い一方で、資料の入手が難しくなります。退職前に給与明細と勤怠記録を確保しておくべき理由がここにあります。

また、前述の通り退職後は年14.6%の遅延損害金が付きます。請求額が増えるので、計算に含めてください。

独自データから見える働き方の変化

在宅ワークや業務委託の求人動向を長く見てきた立場から、いくつか観察していることを書きます。

掛け持ちの形が「雇用+雇用」から「雇用+業務委託」へ

20年この市場を見てきた立場から言えば、掛け持ちの形は明確に変わってきています。かつては「本業で会社勤め、副業で夜のアルバイト」という組み合わせが主流でした。この形だと労働時間が単純に足し算になり、週40時間の壁に必ず当たります。

現在は「本業で会社勤め、副業で在宅の業務委託」という組み合わせが増えています。この変化は、単に在宅ワークが増えたからというだけではありません。労働時間の通算という制約を、働く側が実務的に回避する手段として業務委託を選んでいる面があります。

運営者として見てきた限りでは、業務委託に移行した人がまず苦労するのは、時間管理ではなく見積もりの精度です。時給で働いていたときは「働いた分だけもらえる」構造でしたが、成果物単位になると、想定より時間がかかっても報酬は増えません。最初の数か月は実質時給が下がるのが普通です。ここで挫折する人が一定数いる。

逆に、見積もりの感覚がつかめた人は、時給換算で雇用時代を上回っていきます。分岐点は、同じ種類の仕事を繰り返して型を作れるかどうかです。毎回違うジャンルの仕事を受けていると、いつまでも見積もりが安定しません。

中間マージンの有無が手取りに与える影響

もう1つ、長く見てきて確信していることがあります。仲介手数料の有無は、金額の問題である以上に関係性の質の問題だという点です。

一般的なクラウドソーシングの手数料は16.5%から20%程度です。これは受け手の手取りが2割減るという話ですが、同時に、依頼者側から見ると「同じ予算で頼める量が2割少なくなる」という話でもあります。

手数料0%の直接取引では、この2割がそのまま両者に返ります。依頼者はより多く頼めるようになり、受け手は手取りが厚くなる。額面の単価が同じでも、実際に手元に残る金額が違ってくる。

運営者として見てきた限りでは、長く続いている受注者ほど、単発の作業を積み上げるのではなく「この人に任せると楽だ」と思われる関係づくりに時間を使っています。継続的に依頼が来る関係を1つ作れば、営業に費やす時間がまるごと不要になる。これは労働時間の総量を減らしながら収入を維持する、最も現実的な方法です。

週40時間の壁に悩んでいる人は、時間を削る方向ばかり考えがちです。しかし本質的な解決は、同じ時間でより多くを得る構造に移行することにあります。中間マージンのない取引形態を選ぶのは、その最初の一歩として意味があります。

職種別に見た移行のしやすさ

雇用から業務委託への移行は、職種によって難易度が違います。市場を見ている限り、移行しやすさは次のように分かれます。

移行しやすさ 職種の傾向
高い ライティング、デザイン、動画編集、プログラミング、翻訳
中程度 データ入力、事務代行、カスタマーサポート、経理
低い 接客、販売、製造、介護、運送

成果物が明確に定義できる仕事ほど移行しやすい。逆に、その場にいることが価値になる仕事は、業務委託化が難しい。

移行しにくい職種で掛け持ちをしている場合、労働時間の通算から逃れる方法がありません。この場合は正面から向き合って、勤務先と時間を調整するしかない。ただし、まったく別の分野で業務委託の仕事を始めるという選択肢は残っています。接客のアルバイトを減らして、その分を在宅のデータ入力に振り替える、といった組み替えです。

制度が働き方に追いついていない現実

正直なところ、労働時間の通算ルールは現在の働き方に合っていないと思います。1947年に制定された労働基準法の枠組みを、複数の仕事を組み合わせる現代の働き方に当てはめようとしているため、実務が回りません。

副業先が本業の労働時間を毎週把握して割増を計算する。これを小規模な事業者が正確に運用するのは現実的に困難です。結果として、ルールが存在するのに誰も守っていない、という状態が広範囲で発生しています。

厚生労働省は副業・兼業の促進に関するガイドラインで、労働時間の申告・管理の簡便な方法として管理モデルを示していますが、実際に導入している企業はまだ限定的です。制度の詳細は厚生労働省のサイトで公開されています。

この状況で働く側ができるのは、①ルール通りに申告して勤務先に対応を求める、②雇用契約以外の形で働いて通算対象から外れる、のいずれかです。前者は正論ですが、勤務先が対応できないケースが多い。後者は現実的ですが、労働者としての保護を失います。

どちらが正しいという話ではなく、自分の状況に合うほうを選ぶ。ただし、何もせずに超過を放置するのが最も損であることは間違いありません。割増賃金を受け取れないまま時効で権利が消え、健康リスクだけが積み上がる。これが一番避けるべき状態です。

よくある質問

Q. ダブルワークで週40時間を超えたら、割増賃金は誰が払うのですか?

原則として後から労働契約を結んだ勤務先が負担します。ただし、両方が所定労働時間内なら後の契約先、一方で残業が発生して超過したならその残業をさせた側が負担するという整理になります。まず両社の雇用契約書で契約日と所定労働時間を確認し、どちらが負担者になるかを特定してください。

Q. 過去に支払われなかった割増賃金は、いつまで請求できますか?

賃金請求権の消滅時効は当面3年です。給与の支払日ごとに時効が進むため、古い月から順に請求できなくなります。内容証明郵便を送れば送付から6か月間は時効の完成が猶予されるので、時効が迫っている場合の応急処置に使えます。給与明細と勤怠記録を揃えてから請求してください。

Q. 勤務先に週40時間超過を申し出たら、副業を辞めさせられませんか?

副業を理由とした解雇や不利益な扱いは、本業に具体的な支障が出ているかどうかで判断されます。単に副業しているというだけの処分は無効とされる可能性が高い。ただし就業規則に届出制の定めがあるのに未届けなら、まずその点を自己申告するのが有利です。後から発覚するほうが処分は重くなります。

Q. 業務委託なら週40時間の制限を受けずに働けますか?

労働時間の通算が適用されるのは両方が雇用契約の場合なので、副業が業務委託なら通算対象外です。ただし契約書が業務委託でも、時間や場所を拘束され指揮命令を受けている実態なら労働者と判断されます。また労災や雇用保険の対象外になるため、フリーランス向けの労災特別加入などで備えておく必要があります。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月25日最終更新:2026年9月6日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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