経費精算システムを乗り換える|移す前に決めておくこと

中西 直美
中西 直美
経費精算システムを乗り換える|移す前に決めておくこと

この記事のポイント

  • 経費精算システムの乗り換えは
  • 製品選びより移行の段取りでつまずきます
  • 移す前に決めておくべきこと

「今の経費精算システムを変えたいけれど、途中で止まったらと思うと踏み切れない」。こういうご相談を、よくいただきます。

大丈夫ですよ。経費精算システムの乗り換えは、確かに関わる人の多い作業です。給与計算のように担当者だけで完結する業務と違って、申請する人、承認する人、経理で処理する人、全員が影響を受けます。だからこそ、準備の順番が大事になります。

うまくいかない会社に共通しているのは、技術的な難しさではありません。移す前に決めておくべきことを決めないまま、システムの比較から始めてしまうことです。この記事では、乗り換えを考え始めてから切り替えが終わるまでを、決めるべきことの順番に沿って整理します。

まず、なぜ変えたいのかを言葉にする

作業の話に入る前に、立ち止まってほしいことがあります。今の何が困っているのか、ということです。

近年、経費精算をめぐる環境が大きく動いています。

近年、多くの企業がインボイス制度や電子帳簿保存法への対応、そしてテレワークの定着といった大きな環境変化に直面しています。こうした中、旧来の経費精算システムでは「法改正への対応が追いつかない」「スマホ申請ができず現場に負荷がかかる」といった限界が見え始めており、システムの「リプレイス(乗り換え)」を検討する企業の方もいらっしゃるのではないでしょうか。本記事では、経費精算システムを刷新すべき判断基準や、失敗しないためのポイントを詳しく解説します。業務効率化とガバナンス強化を同時に実現するためのヒントとして、ぜひご活用ください。 出典: rakus.co.jp

制度への対応、働き方の変化、現場の負荷。この3つが、乗り換えを考えるきっかけとして多く挙がります。ただ、きっかけと理由は違います。

困っているのは誰かを分けて考える

乗り換えの検討でこじれやすいのは、困っている人が複数いて、それぞれ困りごとが違う場合です。

経理の方が困っているのは、チェックの手間かもしれません。承認する管理職が困っているのは、承認のたびに紙をめくることかもしれません。申請する現場が困っているのは、領収書を貼って提出することかもしれません。

この3つは、全部同じシステムの話ですが、解決したい内容が違います。どれを優先するかを決めないまま製品を比べると、判断の基準が定まりません。

おすすめしたいのは、それぞれの立場から3つずつ困りごとを挙げてもらうことです。紙に書き出して並べると、どこに一番負担が集中しているかが見えてきます。そして、その負担を減らすことを今回の目的にする。目的が1行で書ければ、あとの判断が速くなります。

乗り換えるべきか、設定を直せば済むかを見きわめる

もう1つ、確認してほしいことがあります。今の困りごとが、システムそのものの限界なのか、設定や運用ルールの問題なのかという点です。

承認の経路が長すぎて時間がかかる、という困りごとは、システムを変えても解決しません。承認のルール自体を見直す話だからです。入力項目が多すぎて申請が面倒、という場合も、項目を減らす設定ができるなら乗り換えは不要です。

一方、スマートフォンからの申請に対応していない、制度の変更に追随できない、といった困りごとは、設定では解決できません。ここがシステムの限界です。

この見きわめをせずに乗り換えると、新しいシステムでも同じ困りごとが残ります。運用ルールの問題を抱えたまま移行しても、ルールは一緒に移動してくるからです。

移す前に決めておく5つのこと

理由がはっきりしたら、作業に入る前に決めることが5つあります。

1つ目 いつ切り替えるか

経費精算システムの乗り換えで、影響が大きいのが時期の選択です。

避けたいのは、決算の時期と、年度末の締めが重なる時期です。この時期は精算の件数も増えますし、経理の方が最も忙しい時期でもあります。そこに移行を重ねると、担当者が持ちません。

適した時期は、月次の締めが終わった直後です。翌月の申請分から新しいシステムで受け付ける形にすると、区切りがきれいになります。年度の切り替わりに合わせる会社も多いです。

ここで大事なのは、締めをまたぐ申請をどう扱うかを決めておくことです。切り替え日より前に発生した経費で、まだ申請されていないものがあります。これを古いシステムで受け付けるのか、新しいシステムで受け付けるのか。決めずに切り替えると、申請する人が迷います。

2つ目 過去のデータをどこまで移すか

過去の精算データをどう扱うかを決めます。選択肢は3つあります。

1つ目は、新しいシステムに全部入れる方法。過去の申請内容を新しい画面から見られるようになりますが、データの変換作業が必要です。項目の対応関係を整理する手間がかかります。

2つ目は、古いシステムを一定期間残して、そこで過去分を見られるようにする方法。作業は最も軽いのですが、契約を続ける費用がかかります。

3つ目は、古いシステムからデータを出力して保存し、必要になったらそのファイルを見る方法です。費用はかかりませんが、探すのに手間がかかります。

判断の基準は、過去のデータを見る頻度です。国税関係の書類には法定の保存期間があり、電子的に保存する場合の要件も定められています。要件の詳細は国税庁の情報で確認してください。保存の要件を満たす形を確保したうえで、日常的に見る頻度に応じて方法を選ぶのが現実的です。

3つ目 誰がやるか

作業の担当を決めます。経費精算システムの移行は、経理の担当者だけでは完結しません。

システムの設定と検証は経理が中心になりますが、承認の経路を設計するには組織の情報が要ります。申請者への案内は、部門ごとに伝えてもらう必要があります。会計システムとの連携部分は、システムに詳しい人の助けが要ることもあります。

最初に、この3つの役割を誰が担うかを決めておいてください。決めずに始めると、「これは誰の担当だろう」という確認で作業が止まります。

一部を外部に依頼する選択肢もあります。データの変換や、連携部分の設計は、経理の知識より技術的な知識が求められる部分です。この種の作業を委託する場合の水準は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場で職種ごとの相場を確認できます。全部を任せる必要はなく、技術的な部分だけを切り出して頼むこともできます。

4つ目 承認の経路をどう作り直すか

これが、経費精算システム特有の決めごとです。

今のシステムで動いている承認の経路を、そのまま新しいシステムに写すのか、この機会に見直すのか。写すだけなら作業は軽く済みますが、今の経路に不満があるなら、移行は見直しの好機です。

見直す場合は、金額による分岐、部門による分岐、費目による分岐を整理します。少額の精算まで部長の承認を必要としている会社では、金額の基準を設けるだけで承認の件数が大きく減ります。

ただし、経路を変えると内部統制の設計に触れることになります。監査を受けている会社では、経路の変更を独断で決められません。関係する部署に早めに相談してください。ここを後回しにすると、切り替えの直前に承認が下りず、日程が押します。

5つ目 いつまで古いシステムを残すか

新しいシステムに切り替えたあと、古いシステムをいつ止めるか。

判断の目安は、決算を1回終えるまでです。決算の過程で過去の精算内容を確認する場面があるため、その時期は見られる状態にしておくと安心です。1回通してみて問題がなければ、データを出力して保存し、契約を終えます。

ここでも、出力したデータの保存要件を満たしているかを確認してください。ただ手元に置いておけばよいというものではなく、保存の方法にも決まりがあります。

乗り換え先を見きわめる5つの基準

移行先がまだ決まっていない場合、選ぶ段階で見るべき基準があります。乗り換えという文脈だからこそ効いてくる項目です。

基準1 申請する人の手間が減るか

経費精算システムを使う人の大多数は、経理ではなく申請する側です。したがって、申請の手間が減るかどうかが、導入の効果を左右します。

見るべきなのは、スマートフォンから申請できるか、領収書を撮影して読み取れるか、交通費を経路の検索から入力できるか。この3つが揃っていると、申請にかかる時間が大きく変わります。

出張の多い会社では、移動中に申請できるかどうかが特に効きます。帰社してからまとめて処理する運用だと、申請が月末に集中し、承認と経理の処理も後ろにずれ込みます。

基準2 制度の変更に追随できるか

経費精算は、税務の制度と直結する業務です。制度が変われば、記録すべき情報も変わります。

確認したいのは、制度変更への対応がどう提供されるかです。クラウド型なら自動で反映されるのが一般的ですが、自社側で設定を合わせる作業が必要になる場合もあります。過去に制度が変わったとき、どのタイミングで対応が入ったかを聞いておくと参考になります。

基準3 承認の経路を自社の形で作れるか

組織の階層、金額による分岐、費目による分岐。自社の承認ルールをそのまま表現できるかを確認してください。

製品によっては、承認の階層数に上限があります。組織の階層が深い会社では、この上限に引っかかることがあります。また、代理承認の仕組みがあるかどうかも重要です。承認者が不在のときに止まってしまう設計だと、月末の締めが遅れます。

基準4 会計への連携が自社の科目に合うか

仕訳の形式を自社の勘定科目に合わせられるかを確認します。標準の仕訳パターンが用意されていても、自社の科目体系と違えば手で組み替えることになります。

部門別に経費を集計している会社では、部門の情報が仕訳に乗るかどうかも確認事項です。プロジェクト別の集計が必要な会社なら、その軸を持てるかも見てください。

基準5 データを取り出せるか

今回の乗り換えを経験する立場だからこそ、次を考えておいてください。将来この製品を変えることになったとき、データを取り出せるのか。

全期間分を出力できるのか、直近の一定期間しか出せないのか。契約前にこれを確認しておくのは、失礼な質問ではありません。今回苦労した部分を、次に繰り返さないための確認です。

こうした基準を持って製品を見ると、比較が短時間で済みます。基準がないまま各社の説明を聞くと、それぞれの得意な部分を聞かされるだけで、判断が進みません。

移行作業の進め方

決めることが決まったら、作業に入ります。順番があります。

手順1 新しいシステムの設定を先に作る

データや利用者を入れる前に、自社の精算ルールを設定します。費目の分類、金額の上限、申請に必要な添付書類、承認の経路。

この設定が終わっていないと、テストの結果を評価できません。順番を逆にすると、入れた申請を消してやり直すことになります。

設定の段階で、今の経費規程を見直す必要が出てくることもあります。規程には書かれているけれど運用されていないルール、逆に慣習として定着しているのに規程にないルール。こういうずれが見つかります。見つかったら、この機会に整理しておいてください。

手順2 少人数で試す

設定ができたら、まず数人で試します。選ぶのは、立場の違う人です。よく申請する営業の方、承認する管理職、経理で処理する人。それぞれの立場から1人ずつ選びます。

そして、実際にあった申請を新しいシステムで最初から最後まで通してもらいます。申請、承認、経理の処理、会計への計上。この流れが最後まで通ることを確認します。

ここで出てくる指摘は、たいてい貴重です。「この項目は何を入れればいいのか分からない」「承認の画面で申請の内容が見づらい」。こうした声は、全員に展開する前に直しておけば、切り替えの後の問い合わせが減ります。

手順3 会計への連携を確認する

経費精算の結果は、会計に仕訳として渡ります。この連携が正しく動くかを、切り替え前に必ず確認してください。

確認するのは、勘定科目の対応、部門の対応、消費税の区分です。特に消費税の区分は、制度の要件に関わる部分なので慎重に見てください。仕入税額控除の要件に関わる情報が正しく記録されるかは、経理にとって最も重要な確認事項です。

テストは、少額の申請を数件通して、会計側で仕訳を確認するという形で行います。金額が小さくても、仕訳の形が正しければ本番でも動きます。

手順4 申請者へ案内する

ここが、経費精算システムの乗り換えで最も大事な工程かもしれません。使う人の数が多いからです。

伝えるべきことは4つあります。いつから新しいシステムに変わるのか。どこからログインするのか。今までと何が変わるのか。分からないときは誰に聞けばいいのか。

特に「今までと何が変わるのか」は丁寧に書いてください。申請の画面が変わる、領収書の提出方法が変わる、承認の流れが変わる。変わる部分だけを箇条書きにすると、読む側の負担が減ります。

案内は、切り替えの直前ではなく、少なくとも2週間前に配ってください。読む余裕を作ってあげることが大切です。案内文を作る作業は手間ですが、この一手間で問い合わせの量が大きく変わります。文書で正確に伝える力が問われる場面で、ビジネス文書検定が扱う範囲と重なる実務です。

手順5 利用者と権限を登録する

申請する人、承認する人、経理で処理する人。全員のアカウントを登録し、それぞれに合った権限を割り当てます。

ここで確認したいのは、組織の情報をどこから持ってくるかです。人事システムから取り込めるなら、異動のたびに手で直す作業がなくなります。取り込めない場合は、経理か総務が手作業で更新することになります。異動の多い会社では、この更新作業が毎年一定の負担になります。

権限の設計では、代理の扱いを決めておいてください。承認者が休暇や出張で不在のとき、誰が代わりに承認するのか。この設定がないと、承認待ちのまま止まる申請が出ます。月末の締めが遅れる原因として、これは意外に多いものです。

手順6 切り替えと、その後の見守り

切り替えた最初の月は、問い合わせが来る前提で予定を組んでください。「問い合わせは来ないはず」と考えて予定を詰めると、想定外の対応で他の仕事が押し出されます。

そして、最初の月の申請は、経理側で内容をよく確認してください。設定の抜けは、実際の申請が入ってから見つかることがあります。数件を丁寧に見れば、抜けがあっても早く気づけます。

乗り換えで得られるもの

不安の話が続いたので、得られるものも整理しておきます。手間を引き受ける価値がどこにあるのかという話です。

まず、申請から支払いまでの時間が短くなります。紙の回付が残っている会社では、承認者の机で書類が止まる時間がなくなります。立て替えた人にとって、精算が早く戻ることは想像以上に大きな安心です。少額でも、自分のお金が出たままの状態は気持ちのうえで負担になります。

次に、経理の確認作業が減ります。金額の上限、必要な添付書類、費目の妥当性。こうしたチェックを仕組み側で行えるようになると、経理は例外的なものだけを見ればよくなります。差し戻しの回数が減れば、申請する側の手間も減ります。

そして、記録が残ることです。誰がいつ申請し、誰が承認したかが残ります。この記録は、監査や税務の確認に対応するときに効いてきます。紙の書類を探す作業と比べると、負担がまったく違います。

もう1つ、制度の変更に追随しやすくなります。記録すべき情報が増えたとき、システム側が対応してくれるなら、自社で運用ルールを組み直す手間が減ります。制度は今後も動きます。追随の仕組みを持っておくことは、長い目で見ると大きな差になります。

こうした変化は、切り替えた翌月にすべて現れるわけではありません。運用が落ち着くまでには数か月かかります。焦らずに見守ってあげてください。

乗り換えでよくある失敗

ご相談の中で繰り返し出てくる失敗を、4つお伝えします。

1つ目は、経理の視点だけで製品を選んでしまうこと。経理の作業は楽になったけれど、申請する現場の手間が増えた、という結果になります。選定の段階で、申請する立場の人にも触ってもらってください。

2つ目は、承認の経路を検証しないまま切り替えること。組織の階層が深い会社では、経路の設定に抜けが出やすいです。抜けがあると、承認が止まったまま誰も気づかないという状態が生まれます。

3つ目は、古いシステムを早く止めすぎること。過去の精算内容を確認する場面は、決算のときだけでなく、監査や問い合わせの対応でも出てきます。

4つ目は、案内が足りないこと。担当者にとっては業務の改善でも、申請する人にとっては手順が変わるという負担です。変化には説明が要ります。

失敗の事例を事前に知っておくことも役に立ちます。

本資料では、経費精算システムを導入する際に起こりがちな、典型的な8つの「失敗事例」を紹介するともに、自社にとって最適なシステム選定や使用中のシステムの効果検証に役立つ経費精算システムの「適合度」チェックリストを紹介する。現行の経費精算システムに問題を感じたり、乗り換えを検討したりする企業の経理部門にとって有用な内容となっている。 出典: special.nikkeibp.co.jp

自社の状況と照らして、当てはまりそうな失敗を先に潰しておく。この進め方が、いちばん確実です。

領収書の扱いを決めておく

失敗の話に一つ加えておきたいのが、領収書そのものの扱いです。ここは切り替えの前に必ず決めておいてください。

電子的に保存する運用に変える場合、紙の原本をどうするかという問題が出ます。撮影して保存すれば原本は不要なのか、それとも一定期間は保管するのか。この判断は保存の要件に関わるため、自社だけで決めずに顧問の税理士に確認するのが確実です。

そして、決めたことを申請する人に伝える必要があります。「撮影したら原本は捨ててよい」のか「念のため手元に残す」のか。ここが伝わっていないと、人によって扱いが違う状態になります。あとから確認が必要になったとき、ある人は原本を持っていて、ある人は持っていない。こうなると対応が揃いません。

切り替えの案内文に、この1行を入れておくだけで防げます。細かいことのようですが、後から効いてくる部分です。

うまくいった会社に共通していること

これまで伺ってきた中で、乗り換えが良い形で着地した会社に共通していた点を3つお伝えします。

1つ目は、移行の計画を1枚の表にしていたことです。いつ何をやるか、誰が担当するか、その週に終わらせることは何か。書いてあると、途中で担当者が変わっても引き継げますし、進み具合を関係者に説明できます。

2つ目は、申請する側の声を早い段階で聞いていたことです。選定の段階で現場の人に触ってもらった会社は、切り替え後の問い合わせが明らかに少なかったです。逆に、経理だけで決めた会社は、切り替えた月に問い合わせが集中していました。

3つ目は、切り替え直後の期間に余白を作っていたことです。その月だけは他の予定を減らす、あるいは応援を頼む。この手当てがあった会社は、担当者が疲れきることなく乗り切っていました。

どれも特別なことではありません。でも、通常業務を回しながら進めていると、つい省いてしまう部分でもあります。始める前に、この3つだけは決めておいてください。

乗り換えを機に見直せること

移行は手間のかかる作業ですが、業務全体を見直す機会でもあります。

承認の流れを整理すると、経費精算以外の申請にも同じ考え方を使えることに気づきます。稟議、休暇、備品の購入。社内の申請は、どれも似た構造をしています。この整理の考え方は、ワークフローシステム比較2026|承認業務のDX化で年間200時間を削減で扱っている、承認業務を仕組みに載せる話と地続きです。

また、精算のデータには、部門ごとの経費の傾向が含まれています。これまで処理のためだけに使っていた数字を、経営の判断材料として見られるようにすると、乗り換えの価値が広がります。人材や組織の情報と組み合わせて見る視点は、タレントマネジメントシステム比較2026|カオナビ vs HRBrain vs タレントパレットで扱われている、社内の情報を一元的に扱う考え方と共通しています。

業務の流れそのものを設計し直したい場合は、外部の視点を借りる方法もあります。AIコンサル・業務活用支援のお仕事で扱われているような業務設計の支援は、ツールの導入より前の段階、つまり「今の流れをどう変えるか」を整理する部分に価値があります。

移行の期間中に気をつけたいこと

作業の話とは別に、進めている間の心の持ちようについて、少しお伝えさせてください。

システムの移行を担当している方から、「思ったより進まなくて焦る」というご相談をよくいただきます。これは、能力の問題ではありません。移行の作業は、通常業務の合間にしか進められないからです。締めの時期は手をつけられませんし、突発的な対応が入れば予定はずれます。

だから、最初から余裕を持った計画にしてください。3か月あれば足りると考えていた作業が、実際には手をつけられない日が多くて5か月かかる、ということが普通に起きます。遅れているのではなく、最初の見積もりが楽観的だっただけです。

そして、進み具合を共有する相手を作ってください。給与や経費の担当は、業務の性質上どうしても一人で抱えがちです。でも、移行の期間だけでも状況を話せる相手がいると、判断に迷ったときに前へ進めます。上司でも、同じ部署の同僚でも構いません。「今ここまで来ています」と口に出すだけで、頭の中が整理されます。

もう1つ。切り替えの日が近づくと、不安が大きくなるものです。何か見落としているのではないか、当日に止まるのではないか。この不安は、準備を丁寧にやった人ほど強く出ます。そういうときは、決めたことを書いた紙をもう一度読んでください。決めたことが決まっていれば、あとは順番に進めるだけです。

独自データからの考察

フリーランスと企業のマッチングを20年運営してきた立場から、この分野について観察をお伝えします。

システム移行の支援を依頼する内容が、この数年で変わってきています。以前は「データを変換してほしい」という作業の依頼が中心でした。今は「移行の計画を一緒に作ってほしい」という設計の依頼が増えています。

これは、移行の難しさが技術ではなく段取りにあることを、依頼する側が理解してきた結果だと感じます。データの変換自体は、道具が揃った今では大きな作業ではありません。難しいのは、いつ切り替えるか、承認の経路をどう作るか、誰にいつ何を伝えるかを決める部分です。

運営者として見てきた限りでは、こうした設計を伴う仕事は、依頼者と担当者が直接やり取りできる環境のほうが良い結果になります。間に会社が入ると、要件を伝えた相手と実際に手を動かす人が別になり、意図が薄まってしまうからです。直接つながる形なら、同じ予算でも確認のやり取りを多く重ねられますし、受け手の側も中間の取り分が引かれないぶん手数料0%の環境では手取りが厚くなります。認識合わせの回数がそのまま品質になる仕事では、この差が特にはっきり出ます。

最後に、もう一度お伝えします。経費精算システムの乗り換えは、決めることを先に決めてしまえば、あとは順番に進めるだけの作業です。時期、過去データの扱い、担当、承認の経路、古いシステムを残す期間。この5つを紙に書き出すところから始めてください。書き出せば全体が見えますし、全体が見えれば不安は小さくなります。一人で抱え込まず、関わる人と共有しながら進めていきましょう。

よくある質問

Q. 経費精算システムを乗り換える前に、まず何を決めればいいですか?

5つあります。切り替える時期、過去データをどこまで移すか、誰が担当するか、承認の経路を写すか見直すか、古いシステムをいつまで残すか。この5つを紙に書き出してから製品の比較に入ってください。決めずに比較を始めると、判断の基準がないまま情報だけが増えて決められなくなります。

Q. 今の困りごとは、乗り換えないと解決しませんか?

まず見きわめてください。承認に時間がかかる、入力項目が多いといった困りごとは、設定や運用ルールの見直しで解決することがあります。一方、スマートフォンからの申請に対応していない、制度変更に追随できないといった点は設定では解決できません。運用の問題を抱えたまま移行すると、新しいシステムでも同じ困りごとが残ります。

Q. 切り替えに適した時期はいつですか?

月次の締めが終わった直後がきれいです。翌月の申請分から新しいシステムで受け付ける形にします。年度の切り替わりに合わせる会社も多くあります。避けたいのは決算の時期と年度末の締めが重なる時期で、精算の件数も経理の負荷も増えるためです。締めをまたぐ未申請分をどちらで受け付けるかも、先に決めておいてください。

Q. 古い経費精算システムはいつ止めればいいですか?

決算を1回終えるまでは残しておくのが安全です。決算の過程で過去の精算内容を確認する場面があるほか、監査や問い合わせの対応でも必要になります。止める前にデータを出力して保存してください。国税関係の書類には法定の保存期間と電子保存の要件があるため、保存の方法が要件を満たしているかも確認が必要です。

Q. 申請する人への案内はいつ配ればいいですか?

遅くとも切り替えの2週間前です。書く内容は、いつから変わるのか、どこからログインするのか、今までと何が変わるのか、分からないときは誰に聞けばいいのかの4点。特に変わる部分は箇条書きにすると読む側の負担が減ります。直前に配ると読む余裕がないまま当日を迎え、問い合わせが集中します。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月20日最終更新:2026年9月3日
中西 直美

この記事を書いた人

中西 直美@SOHO編集部

産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。

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