調剤薬局とドラッグストアは何が違うのか|働く側から見て何が変わるのか


この記事のポイント
- ✓調剤薬局とドラッグストアの違いを
- ✓働く側の実感で整理しました
- ✓求人票から実態を読む方法まで
まず、安心してください。調剤薬局とドラッグストアの違いが分からないまま就職先や転職先を決めようとしている方は、決して少数派ではありません。実際、どちらも「薬局」と呼ばれ、どちらにも薬剤師がいて、どちらも処方箋を受け付ける店舗があります。外から見ているだけでは、違いが分からなくて当然です。
私自身、43歳で会社員を辞めて独立した経験がありますが、そのときに痛感したのは、職場の看板ではなく「その場所で1日がどう動いているか」を知らないと、選択を誤るということでした。調剤薬局とドラッグストアも同じです。どちらが良いという話ではなく、その場所で何が起きていて、自分が何を任されるのかが違います。
この記事では、制度上の分類の話は最小限にして、働く側から見て何が変わるのかを中心に書きます。1日の動き方、人員体制、任される範囲、収入の作られ方、そして求人票のどこを見れば実態が分かるか。皆さんが自分で判断できるところまで持っていくのが目的です。
そもそも何が違うのか、制度の話を最短で整理する
用語の整理を先にしておきます。ここが曖昧なままだと、この先の話が全部ぼやけます。
調剤薬局は、正確には「保険薬局」と呼ばれる形態です。処方箋を受け付けて調剤を行い、健康保険の仕組みの中で報酬を受け取ります。店舗の収益の大半は、調剤報酬から生まれます。薬を仕入れて売った差額ではなく、調剤という行為に対して公定価格が付く仕組みです。つまり、単価が国の制度で決まっている商売だということです。
ドラッグストアは、小売業です。日用品、化粧品、食品、市販薬を販売して利益を出します。ここに調剤機能を併設している店舗が「調剤併設型ドラッグストア」で、近年はこちらが主流になりつつあります。調剤を併設していないドラッグストアでは、薬剤師は主に市販薬の販売と相談対応、店舗運営に関わります。
この2つを分ける最大の違いは、収益がどこから来ているかです。調剤薬局は制度に、ドラッグストアは商品の売上に、それぞれ収益の根が伸びています。この違いが、働く人の1日、評価のされ方、求められる能力のすべてに影響します。ここを押さえておけば、あとの話は全部つながります。
もう1つ、店舗の立地の考え方も違います。調剤薬局の多くは、医療機関の近くに構えます。特定の病院やクリニックの前にある薬局は、その医療機関の診療科に応じた処方が集中します。整形外科の前なら湿布と鎮痛薬、小児科の前なら散剤とシロップ、精神科の前なら向精神薬。扱う薬の偏りが、そのまま日々の業務の中身になります。
一方、ドラッグストアは生活動線の上に構えます。駅前、住宅街、ロードサイド。来店する人は処方箋を持っている人ばかりではなく、洗剤を買いに来た人、風邪をひいて相談に来た人、化粧品を見に来た人が混在します。薬剤師が対応する相手の幅が、そもそも違います。
正直なところ、この違いを「調剤薬局のほうが専門性が高い」と一言で片付けるのは乱暴だと思います。相手が持ってくる問題の種類が違うだけで、難しさの質が違います。処方箋の内容を読み解く難しさと、症状だけを聞いて市販薬で対応できるかどうかを判断する難しさは、まったく別種のものです。
調剤薬局の1日は、処方箋の波で決まる
調剤薬局で働くとき、1日のリズムを決めるのは前の医療機関の診療時間です。ここが、他の職場との最大の違いです。
朝、開局前に在庫の確認と前日の残務を片付けます。医療機関が診察を始めると、処方箋を持った患者さんが来始めます。午前の診察が終わる時刻、つまり昼前後に第1の波が来ます。この時間帯は、待合室が埋まり、調剤室が詰まります。処方箋の枚数が集中するため、調剤、監査、投薬を分担して回します。
午後は一度落ち着きます。この時間に発注、在庫整理、レセプトの点検、在宅訪問の準備などを進めます。門前の医療機関が午後の診察を始めると、夕方に第2の波が来ます。そして閉局前に、その日の記録とレセプト処理を終えます。
この波の形は、前の医療機関の診療科と診療時間でほぼ決まります。つまり、求人票を見るときに「門前がどの科か」を知ることは、勤務の中身を知ることとほぼ同義です。
業務の中身を具体的に挙げると、処方箋の受付、内容の確認、疑義照会、調剤、監査、服薬指導、薬歴の記入、在庫管理、発注、レセプト業務、そして在宅訪問です。このうち、経験の差が最も出るのは疑義照会と服薬指導です。
疑義照会は、処方の内容に疑問がある場合に医師へ確認する行為です。用量が通常と違う、併用禁忌の組み合わせがある、前回と処方が変わっている。こうした点に気づいて、医師に確認します。これは薬剤師にしかできない仕事であり、調剤薬局で最も専門性が発揮される場面です。ただし、連絡する相手が門前の医師なので、関係性の作り方も実務能力のうちに入ります。
服薬指導は、患者さんに薬の説明をする行為です。慢性疾患の患者さんが定期的に来局する薬局では、同じ方と何年も顔を合わせることになります。前回からの変化を聞き、副作用の兆候を拾い、飲み残しがないか確認する。この継続的な関わりが、調剤薬局で働く人の多くがやりがいと言う部分です。
在宅訪問を行っている薬局も増えています。施設や個人宅に訪問し、薬の管理を支援します。運転が必要になること、訪問先ごとに準備が必要になることから、店舗内業務とは負荷の質が違います。求人票に在宅の記載がある場合、この業務がどの程度の比重かは確認する価値があります。
人員体制で言うと、店舗あたりの薬剤師は1名から4名程度の規模が多く、事務スタッフと組んで回します。小規模な店舗では、薬剤師が1人という日もあります。この場合、疑義照会も服薬指導も監査も、すべて1人で判断することになります。逆に大型の門前薬局では、役割が細かく分かれます。
ドラッグストアの1日は、店舗の営業時間で決まる
ドラッグストアの1日は、まったく違う原理で動きます。決めているのは診療時間ではなく、店舗の営業時間と客足です。
営業時間が長い店舗が多く、早番と遅番のシフト制が基本です。朝9時開店で夜22時閉店といった店舗では、シフトが2交代や3交代になります。土日祝日も営業しているため、休みは平日に回ることが多くなります。ここは生活のリズムに直結するので、家庭の事情がある方は最初に確認すべき点です。
調剤を併設している店舗では、薬剤師は調剤室にいる時間と売場にいる時間の両方を持ちます。処方箋が来れば調剤し、来ないときは売場に出て市販薬の相談に応じたり、登録販売者の質問に答えたりします。この切り替えが、調剤薬局との一番大きな違いです。調剤に集中したい人にとっては落ち着かない環境ですが、人と話すのが好きな人にとっては変化があって飽きにくい環境でもあります。
市販薬の相談対応は、実は難しい仕事です。患者さんは処方箋を持っていません。「風邪っぽいんですが何がいいですか」という漠然とした相談から始まり、症状を聞き取り、市販薬で対応できる範囲か、受診をすすめるべきかを判断します。この受診勧奨の判断は、処方箋を読む作業とはまったく別の能力です。要指導医薬品や第1類医薬品の販売は薬剤師でなければできないため、ここは店舗運営上も薬剤師の存在が必要な部分です。
加えて、ドラッグストアでは店舗運営そのものに関わる場面が出てきます。品出し、発注、売場作り、販促の企画、レジ応援、シフト作成、アルバイトの教育。店長職に就けば、売上と利益に責任を持ちます。これを「薬剤師の仕事ではない」と感じる人もいれば、「店を作る面白さがある」と感じる人もいます。ここは向き不向きがはっきり分かれるところです。
正直なところ、この点は入職前に理解しておかないと不幸になります。ドラッグストアに就職して「品出しばかりでスキルが身につかない」と悩む人がいる一方で、調剤薬局に就職して「毎日同じ処方の繰り返しで刺激がない」と悩む人もいます。どちらも、その職場で何が起きるかを知らずに選んだ結果です。
人員体制について言うと、ドラッグストアは薬剤師以外のスタッフが多い職場です。登録販売者、パート従業員、アルバイト。薬剤師は少数派になることが珍しくありません。この中で専門職として振る舞いつつ、店舗の一員として動く必要があります。人と関わる量は、調剤薬局より確実に多くなります。
収入の作られ方が、そもそも違う
給与の話に入ります。ここは多くの方が最も知りたい部分だと思いますが、額面の比較だけをしても意味がありません。なぜその額になるのかを理解しないと、判断を誤ります。
調剤薬局の薬剤師の給与水準について、参考になる記述を引いておきます。
調剤薬局で働く薬剤師の平均年収は、約450万円〜550万円です。年収は薬剤師としての経験年数、勤務する地域や薬局の規模などによって異なります。たとえば、地方の調剤薬局は都市部よりも、比較的年収が高い傾向にあります。 出典: apo-mjob.com
ここで注目してほしいのは、地方のほうが年収が高い傾向にあるという部分です。これは調剤薬局に限らず薬剤師全般に見られる現象で、理由は単純です。都市部は薬剤師が集まりやすく、地方は集まりにくい。需給の差が、そのまま賃金に出ています。つまり、同じ仕事をしても、場所を変えるだけで水準が変わる職種だということです。
ドラッグストアの給与水準は、一般に調剤薬局より高めに設定される傾向があります。理由は2つあります。1つは営業時間が長く、遅番や土日勤務が発生するため、その分の手当が乗ること。もう1つは、小売業として売上に応じた評価の仕組みを持っていることです。店長や管理職に就けば、役職手当が加わります。
ただし、この差を見るときに注意すべき点があります。手当込みの金額なのか、基本給ベースなのかです。遅番手当や休日手当が前提の金額であれば、シフトが変われば収入も変わります。育児や介護で夜間や土日に入れなくなったとき、収入がどう変化するかは確認しておくべきです。
キャリアによる変化についても、参考例を挙げておきます。
病院薬剤師(430万円)が調剤薬局へ転職したケースでは、管理薬剤師に昇進し、3年後に650万円まで上昇し、店舗運営スキルという新たな経験も得ています。これらの事例は転職が年収変化だけでなく、新たなスキルやキャリアパス開拓の機会となることを示しています。ただし、ここで紹介した平均年収の数字は参考値であり、実際の給与は個々の状況によって違います。あくまでも参考として捉えてください。 出典: apo-mjob.com
この引用の最後にある但し書きは、そのまま受け取るべきです。平均値は参考にしかなりません。重要なのは、どちらの業態でも、役職に就くと収入の伸び方が変わるという構造です。調剤薬局なら管理薬剤師、ドラッグストアなら店長やエリアマネージャー。ここに至るまでの道のりと、そのポジションで何を求められるかが、業態によって違います。
管理薬剤師は、薬局の管理を担う立場です。医薬品の管理、従業員の監督、法令遵守の責任を持ちます。店長は、店舗の売上と利益に責任を持ちます。前者は専門職としての責任、後者は経営の責任です。同じ「昇進」でも、増える仕事の種類が違います。
リスクの話も正直に書いておきます。調剤薬局の収益は調剤報酬に依存しており、報酬改定の影響を直接受けます。制度が変われば、店舗の採算が変わります。ドラッグストアは競合との価格競争が厳しく、出店と撤退のサイクルが速い業界です。どちらにも、それぞれの不安定さがあります。安定を求めるなら、業態ではなく企業の規模と財務を見るほうが確実です。
任される範囲と、身につく能力が変わる
働く場所を選ぶとき、給与より長期的に効いてくるのが「そこで何が身につくか」です。ここを業態別に整理します。
調剤薬局で身につきやすいのは、処方解析の力です。門前の診療科に応じた薬の知識は確実に深くなります。整形外科の前で3年働けば、鎮痛薬と湿布の使い分けは体に入ります。精神科の前なら向精神薬の知識が、小児科の前なら体重換算と剤形の工夫が身につきます。この専門性は、転職時に明確な強みになります。
同時に、調剤薬局では患者さんとの継続的な関係の作り方が身につきます。何年も通う患者さんの変化に気づく力は、短期間では育ちません。在宅訪問を経験すれば、多職種と連携する力も加わります。
一方で、調剤薬局の弱点もあります。門前の診療科に処方が偏るため、扱う薬の幅が狭くなりがちです。1つの薬局に長くいると、他の診療科の処方に触れる機会が減ります。転職するときに「その診療科しか分からない」状態になるリスクがあるということです。対策としては、複数店舗を持つ企業で異動を経験するか、在宅や訪問で幅を広げるかのどちらかになります。
ドラッグストアで身につくのは、まず市販薬の知識です。処方箋なしで対応できる範囲と、受診をすすめるべき境界線を判断する力は、ドラッグストアでしか育ちません。症状を聞き取って選択肢を提示する力は、患者さんが自分で判断できるよう支援する仕事の核になります。
もう1つは、店舗運営の能力です。数字を読む、在庫を回す、人を配置する、売場を設計する。これは薬学教育では習わない領域ですが、独立や管理職を目指すときには確実に効いてきます。私自身、独立して最初に苦労したのは専門知識ではなく、数字の管理とスケジュールの組み立てでした。この種の力は、早いうちに身につけておくほど後が楽です。
ドラッグストアの弱点は、調剤の経験が積みにくい店舗があることです。調剤を併設していない店舗に長く配属されると、調剤の実務から離れます。後で調剤薬局に移ろうとしたときに、ブランクが壁になることがあります。求人に応募する段階で、調剤併設店に配属される可能性がどの程度かを確認してください。
どちらを選ぶにせよ、年収の比較は業態の名前ではなく、職種全体の水準と並べて考えると判断を誤りにくくなります。薬剤師の平均年収や、働き方ごとの単価の幅は薬剤師の年収・単価相場にまとまっています。調剤薬局とドラッグストアの求人に並ぶ金額が、全体のどのあたりにあるのかを確かめる物差しになります。
求人票のどこを見れば、その店舗の実態が分かるか
ここが実用的な部分です。求人票から読み取れることは、皆さんが思っているより多くあります。
調剤薬局の求人を見るとき、最初に見るべきは門前の医療機関です。求人票に明記されていることもあれば、「クリニック門前」としか書かれていないこともあります。書かれていない場合は、面接で必ず聞いてください。診療科が分かれば、扱う薬、1日の波の形、患者さんの層まで予測がつきます。
次に、1日あたりの処方箋枚数です。40枚の店舗と150枚の店舗では、働き方がまったく違います。枚数が少なければ一人ひとりに時間をかけられますが、その分1人体制になりやすい。枚数が多ければ分業が進みますが、常に急かされます。どちらが自分に合うかは、性格の問題です。
薬剤師の配置人数も重要です。処方箋枚数と薬剤師数を組み合わせれば、1人あたりの負荷が計算できます。ここが書かれていない求人票は、面接で聞いてください。答えを渋る場合は、何かしらの理由があります。
在宅の有無と比重も確認します。「在宅あり」とだけ書かれている場合、月に数件なのか、週に何度も回るのかで話が違います。運転の必要性、車両の提供、直行直帰の可否まで聞いておくと、実態が見えます。
ドラッグストアの求人では、まず調剤併設かどうかを確認します。そのうえで、配属店舗が固定なのか、異動があるのかを聞きます。全国展開している企業では、転勤の有無が生活に直結します。エリア限定の採用区分があるかどうかは、確認すべき最重要項目の1つです。
営業時間とシフトの形も必ず見ます。遅番の頻度、土日出勤の頻度、月あたりの休日数。給与が高めに見える求人ほど、この部分に理由が隠れています。年収の内訳を聞き、手当が何割を占めるかを把握してください。
両業態に共通して見るべきなのは、退職と募集の頻度です。同じ企業、同じ店舗が繰り返し求人を出している場合、定着していない可能性があります。求人サイトで企業名と店舗名を検索し、過去の掲載履歴を確認してください。地域ごとの条件を横断的に比べたい場合は、求人ボックスのような求人検索サービスで同じエリアの募集を並べると、その求人が地域の水準に対して高いのか低いのかが見えます。
調剤併設型のドラッグストアでは、調剤業務と売場業務の時間配分を必ず確認してください。求人票に「調剤併設店舗」とあっても、処方箋が1日に数枚しか来ない店舗では、実質的には売場と市販薬の相談が中心になります。逆に、処方箋の枚数が多い併設店では、調剤室からほとんど出ない働き方になります。面接では「1日の勤務のうち、調剤室にいる時間はどのくらいですか」「レジや品出しを担当することはありますか」と具体的に聞くのが確実です。薬剤師がレジに入るかどうかは企業の方針で分かれるところで、ここを入職前に知っているかどうかで、働き始めてからの納得感が大きく変わります。
調剤薬局の側でも、同じように確認しておきたい点があります。調剤事務のスタッフが何人いて、入力や会計をどこまで任せているか。事務スタッフが少ない店舗では、薬剤師が受付や会計まで兼ねることになり、投薬や薬歴の記入に使える時間が削られます。求人票の「スタッフ構成」の欄に、薬剤師と事務の人数が分けて書かれているかを見てください。
管理薬剤師の在籍年数も、聞けるなら聞いてください。頻繁に交代している店舗は、運営に何か問題を抱えています。逆に、長く続いている店舗は、働き方が安定している可能性が高いです。
どちらを選ぶかを、自分の条件から逆算する
ここまでの話を、判断の手順に落とします。どちらが優れているかではなく、皆さんの条件に合うのはどちらかを考えます。
第1の軸は、生活時間です。土日に休みたい、夜は家にいたいという条件が動かせないなら、調剤薬局のほうが合います。門前の医療機関の診療時間に連動するため、日曜が休診なら薬局も休みになります。逆に、平日に休みが取れるほうが都合がよい方や、シフトの自由度を重視する方は、ドラッグストアの働き方が向きます。
第2の軸は、人との関わり方の好みです。同じ患者さんと長く関わりたいなら調剤薬局、幅広い人と短く関わるほうが向いているならドラッグストアです。これは能力の問題ではなく、疲れ方の違いです。継続的な関係が負担になる人もいれば、毎回初対面の相手に説明するのが苦痛な人もいます。
第3の軸は、5年後にどうなっていたいかです。専門性を深めて特定領域の薬に詳しくなりたいなら、調剤薬局で診療科を選んで経験を積むのが近道です。管理職や独立を視野に入れるなら、ドラッグストアで数字と人の管理を経験するほうが遠回りになりません。
第4の軸は、地域です。前述のとおり、薬剤師の給与は地域差が大きい職種です。都市部にこだわらないなら、選択肢も条件も広がります。逆に居住地を動かせないなら、その地域にどちらの求人が多いかが実質的な制約になります。
第5の軸は、学び続ける環境があるかどうかです。どちらの業態でも、研修制度の中身には大きな差があります。勤務時間内に研修を受けられるのか、費用を会社が負担するのか、認定薬剤師の取得を支援する仕組みがあるのか。この3点は、面接で必ず確認してください。制度があると書いてあっても、実際には忙しくて誰も使えていない店舗はあります。だから、「直近でその制度を使った人は何人いますか」という聞き方をすると、実態が出てきます。数字で答えられない場合、制度は形だけである可能性が高いです。学び続ける環境の有無は、入職した年には差になりませんが、5年経つとはっきりした差になります。
第6の軸は、働き方の形そのものです。近年は、常勤以外の働き方を組み合わせる方も増えています。週の一部を店舗で働き、残りを別の仕事に充てる形です。医療や健康分野の知識を持つ人が、その知識を文章にする仕事に関わるケースは実際に増えています。
薬剤師の転職市場全体の動きを把握したい方は、選ばれる人とそうでない人の差がどこにあるかを整理した薬剤師転職の厳しい現状と格差|選ばれる人と淘汰される人の違い【2026年版】が、現在地を測る材料になります。店舗以外の選択肢を検討している方には、在宅で完結する薬剤師の働き方を扱った在宅薬剤師への転職ガイド|仕事内容・年収・求められるスキルの実態【2026年版】も参考になります。転職の相談先を比べたい場合は、支援会社ごとの得意分野を整理した薬剤師転職エージェントおすすめ比較|現役薬剤師が本音で選ぶ5選【2026年版】を見ておくと、どこに何を相談するかの見当がつきます。
もう1つ、判断を早めるための実務的な提案があります。どちらを選ぶか迷っている段階で、両方の店舗に足を運んでください。客として入るだけで分かることがあります。調剤薬局なら、待合室の混み具合、投薬口で薬剤師が患者さんとどれくらい話しているか、事務スタッフとの連携の様子。ドラッグストアなら、売場に薬剤師が出ているか、市販薬の棚の前で相談を受けているか、調剤室の窓口がどれくらい動いているか。求人票の文字より、15分の観察のほうが情報量は多いです。私は独立前、業界を変える判断をするときに、必ず現場を自分の目で見るようにしていました。人から聞いた話と、自分で見た光景は、記憶への残り方が違います。
運営者の視点から見た、専門職の働く場所の選び方
フリーランスと在宅ワークの市場を20年見てきた立場から、専門資格を持つ方の働き方について、観察を述べておきます。
運営者として見てきた限りでは、資格を持つ方が働く場所を選ぶとき、最も見落とされているのは「その場所で何を任されるか」です。給与、通勤時間、休日数は誰でも比べます。しかし、その職場で3年過ごしたときに何ができるようになっているかを比べる人は、多くありません。そしてこの差は、5年後、10年後に効いてきます。
もう1つ実感しているのは、専門職ほど、勤務先が1つしかない状態のリスクが大きいということです。資格があるから食べていけると考えている方は多いのですが、実際には勤務先の制度変更や経営判断に、収入のすべてが左右されます。複数の収入源を持っている方は、選択肢がある分、交渉の余地も生まれます。
この市場を長く見ていて、はっきりしていることがあります。仲介する層が薄い取引ほど、受け手の手取りが厚くなるという構造です。同じ予算でも、間に立つ事業者が少なければ依頼する側はより多く頼めますし、受ける側に残る額は増えます。手数料0%の直接取引が支持されるのは、金額の大小というより、この手取りの厚さという質の部分です。
薬剤師の方が、店舗勤務と並行して何かを始める場合、相性がよいのは知識を形にする仕事です。医療や健康の分野で正確な文章を書ける人は、実は多くありません。服薬の相談で身につけた、相手の生活に合わせて説明を組み立てる力も、店舗の外で生きる技術です。自分の知識がどこで使えそうかは、焦らず、今の職場で任されている仕事の中から見当をつけていけば十分です。
最後にもう一度だけ、リスクを正直に書いておきます。調剤薬局もドラッグストアも、制度と競争環境の変化を受け続ける業態です。どちらを選んでも、その選択が10年後まで安泰である保証はありません。だからこそ、選ぶ基準を「今の条件」だけに置かず、「そこで何が身につくか」に置いてください。身につけた能力は、店舗がなくなっても残ります。
よくある質問
Q. 調剤薬局とドラッグストアで、給与はどちらが高いですか?
一般にドラッグストアのほうが高めに設定される傾向がありますが、遅番手当や休日手当を含んだ金額であることが多い点に注意が必要です。調剤薬局の平均年収はおよそ450万円から550万円の範囲とされ、地方のほうが高い傾向があります。額面だけでなく、手当の内訳とシフトが変わったときの変化を確認してください。
Q. 調剤の経験を積みたい場合、ドラッグストアは避けるべきですか?
調剤併設店に配属されるなら経験は積めます。問題になるのは、調剤機能のない店舗に長く配属された場合です。応募の段階で、調剤併設店への配属可能性と、異動の頻度を確認してください。併設店が主流になりつつあるため、企業と店舗を選べば調剤経験は確保できます。
Q. 求人票で最初に確認すべき項目は何ですか?
調剤薬局なら門前の医療機関の診療科、1日の処方箋枚数、薬剤師の配置人数の3点です。ドラッグストアなら調剤併設の有無、転勤や異動の範囲、遅番と土日出勤の頻度です。どちらも、同じ店舗が繰り返し求人を出していないかを求人サイトで確認すると、定着状況の目安になります。
Q. 未経験からどちらに入るのがよいですか?
特定の診療科の処方に詳しくなりたいなら調剤薬局、市販薬の相談対応や店舗運営まで経験したいならドラッグストアが向きます。5年後に専門性を深めていたいのか、管理や経営の側に進みたいのかで選ぶのが現実的です。どちらに入っても、最初の3年で任される範囲が後のキャリアを大きく左右します。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
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