継続取引の単価を3年据え置くのは違反になるか|定期的な価格協議の義務化 2026

丸山 桃子
丸山 桃子
継続取引の単価を3年据え置くのは違反になるか|定期的な価格協議の義務化 2026

この記事のポイント

  • 単価据え置きが3年続いても価格協議に応じない発注者は下請法違反の疑いがあります
  • 労務費転嫁指針や価格交渉促進月間の仕組み
  • 受注者側の交渉手順を解説します

「単価が3年間ずっと同じなんですが、これって普通ですか」。フリーランスの友人からこの相談を受けたとき、私は最初に「価格協議を申し出たことはある?」と聞き返しました。単価据え置きそのものは違法ではありませんが、受注者から価格協議を求められたのに発注者が応じない、あるいは形だけの協議で実質的に拒否するのは、下請法上の問題行為に発展する可能性があります。この記事では、単価据え置きと価格協議義務の関係を、法律の建付けと実務の両面から整理します。

アパレルEC業界で見た「協議なき据え置き」の実態

私はファッション・アパレル系のEC運営支援を主業務にしています。中小ブランドの案件では、契約時に決めた月額報酬が2年、3年と据え置かれるケースを何度も見てきました。原材料費や配送コストが上がっているのに、業務委託料だけは契約書の数字がそのまま生きている。これは決して珍しい話ではありません。

驚いたのは、据え置きそのものより「協議の機会が一度もなかった」というケースの多さです。値上げしてほしいと言い出しにくい空気があり、受注者側も「関係を壊したくない」と黙ってしまう。結果として、コスト上昇分をすべて受注者が吸収する構造が固定化されます。実はこの「協議機会の欠如」こそが、下請法や労務費転嫁指針が問題視しているポイントです。単価が上がらないこと自体ではなく、上げるかどうかを話し合う場が持たれないことが問題なのです。

マクロ視点で見る価格転嫁の現状

30%前後という数字を目にしたことがあるかもしれません。これは公正取引委員会や中小企業庁が継続的に実施している価格転嫁状況調査で、労務費の上昇分を「まったく価格に転嫁できていない」と回答した中小事業者の割合の目安です。原材料費については比較的転嫁が進んでいる一方、労務費(人件費相当分)の転嫁は依然として遅れているというのが、複数の調査で共通して示されている傾向です。

背景には、日本全体の構造的な問題があります。最低賃金は毎年引き上げられ、社会保険料の負担も増加傾向にあります。一方で、業務委託契約や下請取引の単価は「一度決めたら変えない」という商慣習が根強く残っています。発注側からすれば、単価を上げると自社の利益率が下がるため、できるだけ据え置きたいというインセンティブが働きます。受注側は取引を失うリスクを恐れて交渉を切り出せません。この非対称な力関係を是正するために、国は法律とガイドラインの両輪で介入を強めています。

2023年から実施されている「価格交渉促進月間」は、毎年9月と3月に発注側企業へのアンケート調査を行い、価格交渉・価格転嫁の状況を可視化する取り組みです。結果は業界別・企業別に公表され、価格交渉に消極的な企業は名前が明らかになる仕組みになっています。この可視化の圧力によって、大企業を中心に価格交渉への対応姿勢が変わりつつあるというのが、ここ数年の潮流です。

下請法における価格交渉の位置づけ

まず前提を整理します。下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者(発注側)と下請事業者(受注側)の取引を公正にするための法律です。資本金規模など一定の要件を満たす発注側企業に対し、下請代金の支払期日(原則として受領後60日以内)や書面交付義務などを定め、代金の減額や買いたたきといった不公正な行為を禁止しています。

下請代金支払遅延等防止法(いわゆる「下請法」)は、親事業者(発注側)と下請事業者(受注側)の取引を公正にするための法律です。資本金規模など一定の要件を満たす発注側企業に対し、下請代金の支払い期日(原則受領後60日以内)や書面交付義務などを定め、代金減額や買いたたき等の不公正な行為を禁止しています。特に原材料費や人件費などコスト上昇時の価格交渉・価格決定については、近年その重要性が増しています。政府も「価格交渉促進月間」の設定などにより、発注側・受注側の適正な価格交渉と価格転嫁の推進に力を入れています。 出典: biz.moneyforward.com

ここで重要なのは、「価格交渉」と「価格転嫁」は別の概念だという点です。価格交渉は発注者と受注者が取引価格を協議するプロセスそのものを指し、価格転嫁はコスト増を実際の価格に反映させる結果を指します。両者の関係を整理すると、次のように理解するのが正確です。

下請法における「価格交渉」は、発注者と受注者が取引価格を協議するプロセスを指し、コスト上昇分を価格に適切に反映させるために行います。「価格転嫁」はコスト増を価格へ反映させることであり、その前提として両者による十分な価格交渉が不可欠と位置付けられています。下請法自体には「価格交渉を行う義務」の明文規定はありませんが、交渉過程を無視した一方的な価格決定や据え置きは不公正な取引方法とみなされる可能性があります。そのため発注側企業は、取引先から価格見直しの要請があった場合には真摯に協議に応じ、公平な価格決定に努めることが求められます。 出典: biz.moneyforward.com

つまり、法律の条文そのものに「毎年価格協議をしなければならない」という直接的な義務規定があるわけではありません。しかし、受注者側から見直しの要請があったにもかかわらず、発注者が協議に応じない、あるいは協議したふりをして一方的に単価を据え置く場合、それは下請法が禁止する「買いたたき」に該当する可能性が出てきます。

「買いたたき」に該当する据え置きとは

下請法が禁止する代表的な行為の一つが「買いたたき」です。買いたたきとは、通常支払われる対価に比べて著しく低い代金額を不当に定めることを指します。単価据え置きが買いたたきと判断されやすいのは、次のような要素が組み合わさったケースです。

第一に、原材料費や労務費が明確に上昇しているにもかかわらず、発注者が一方的に従来価格を維持すると通告し、受注者の同意や協議のプロセスを経ていない場合です。第二に、受注者から書面や口頭で価格見直しの要請があったのに、発注者が正当な理由を示さず拒否、あるいは協議自体に応じない場合です。第三に、協議の場を形式的に設けたとしても、資料提出だけを求めて実質的な検討をせず、結果として据え置きを押し通す場合です。

下請法では、発注側企業が受注側企業との取引において適正な価格交渉を行い、不当な取扱いをしないよう明確なルールが定められています。ここでは、価格交渉に関連する義務と、法的に禁止されている主な行為を確認します。 出典: biz.moneyforward.com

3年間単価が据え置かれているという事実だけでは、直ちに違反とは断定できません。受注者側が一度も価格見直しを申し出ていない、あるいは双方が納得の上で現状維持を選んでいる場合は、法律上の問題は生じません。しかし、受注者が繰り返し交渉を試みたのに応じてもらえなかった、あるいは交渉すること自体を発注者から暗に牽制されたという事情があるなら、話は変わってきます。取引の力関係が非対称な業務委託契約では、こうした「言えない空気」こそが実質的な買いたたきを支えている構造だと理解しておく必要があります。

労務費転嫁指針が示す6つの行動

2023年11月、内閣官房と公正取引委員会は「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(通称・労務費指針)を公表しました。これは下請法そのものの改正ではなく、発注者側企業が採るべき望ましい行動を具体的に示した指針という位置づけですが、実務上の影響力は大きく、公正取引委員会の調査・指導の基準としても参照されています。

この指針では、発注者が採るべき行動として6つのポイントが示されています。1つ目は経営トップ自らが価格転嫁の方針に関与すること。2つ目は発注者側から定期的に協議の場を設けること。3つ目は説明や根拠資料を求める場合は、公表されている統計資料(最低賃金の推移など)を用いること。4つ目はサプライチェーン全体を通じて適切な価格転嫁が行われるよう配慮すること。5つ目は受注者から協議の要請があった場合には必ずテーブルにつくこと。6つ目は必要に応じて発注者側から価格の考え方を提案することです。

この中でとりわけ重要なのが2つ目と5つ目です。指針は「受注者から言い出すのを待つ」のではなく、「発注者側から定期的に協議の機会を設ける」ことを求めています。これは従来の商慣習を大きく転換する考え方です。単価据え置きが問題視されやすいのは、まさにこの「定期協議の欠如」が疑われる場面です。受注者が何年も声を上げられずにいる状態は、指針が想定する望ましい取引関係から外れていると言えます。

受注者側が取るべき交渉の進め方

単価据え置きに疑問を感じたとき、受注者側はどう動けばよいのでしょうか。感情的に「値上げしてほしい」と伝えるだけでは、交渉が前に進みにくいのが実情です。以下のステップで進めると、発注者側も対応しやすくなります。

まず、コスト上昇の根拠を数値で示すことです。最低賃金の推移、消費者物価指数、業界団体が公表している賃上げ動向など、公的な統計資料を根拠にすると説得力が高まります。感覚的な「大変だから上げてほしい」ではなく、「最低賃金が過去3年で15%上昇しているため、現行単価では実質的な収入が目減りしている」といった具体的な説明が有効です。

次に、書面で協議を申し入れることです。口頭での相談は記録が残らず、後から「言った言わない」の水掛け論になりがちです。メールやチャットで日付入りの記録を残しておくと、万が一トラブルになった際にも協議を申し入れた事実を示せます。

そして、協議の結果がどうであれ、応答内容を記録しておくことです。発注者が正当な理由なく協議自体を拒否した、または理由を示さず据え置きを一方的に通告した場合は、下請法違反の疑いがある事案として、中小企業庁や公正取引委員会の相談窓口に相談する選択肢もあります。多くの受注者は「取引を切られるのでは」という不安から相談をためらいますが、下請法には報復的な取引停止を禁止する規定もあり、相談したこと自体を理由にした不利益取り扱いは禁止されています。

相談先と支援制度

価格交渉に関する悩みを一人で抱え込む必要はありません。公的な相談窓口や支援制度が複数用意されています。中小企業庁は「下請かけこみ寺」という無料相談窓口を全国に設置しており、価格交渉のノウハウ提供から、必要に応じたあっせん・調停まで対応しています。公正取引委員会も下請法違反の疑いがある事案について、匿名での相談・情報提供を受け付けています。

また、価格交渉促進月間のフォローアップ調査では、発注企業ごとの評価結果(価格交渉・転嫁の状況)が公表されており、自社の取引先がどの程度価格交渉に前向きかを事前に把握する材料にもなります。取引開始前や契約更新のタイミングでこうした公表資料を確認しておくと、後々の交渉の見通しが立てやすくなります。

さらに、中小企業向けの経営相談窓口では、価格交渉の進め方そのものについてアドバイスを受けられる場合もあります。フリーランス・個人事業主であっても、業種によっては商工会議所や業界団体を通じて情報収集できることがあるので、契約更新のタイミングが近づいたら早めに情報を集めておくとよいでしょう。

フリーランス・業務委託契約における注意点

ここまで下請法を中心に説明してきましたが、フリーランスや個人事業主として業務委託契約を結んでいる場合、必ずしも発注者が下請法の適用対象(資本金要件を満たす親事業者)とは限りません。下請法の適用対象外であっても、フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)が、業務委託の内容明示義務や支払期日の遵守、募集情報の的確表示などを別途定めています。

フリーランス新法は下請法とは適用要件が異なり、資本金規模に関わらず、業務委託を行うほぼすべての事業者が対象になります。単価据え置き自体を直接規制する条文はありませんが、契約条件の明示義務や、正当な理由のない受領拒否・報酬減額の禁止規定があり、価格に関するトラブルが生じた際の法的な足場として機能します。契約している発注者がどちらの法律の適用対象になるかは、資本金規模や取引の実態によって変わるため、不明な場合は下請かけこみ寺などの窓口で確認するのが確実です。

運営者の視点から見る「据え置き」の本質

フリーランス・在宅ワーク市場を長く見てきた立場から言えば、単価据え置きが起きやすい取引には共通点があります。それは、契約更新のタイミングが「自動更新」として形骸化しており、双方が単価について話し合う機会を意図的に作っていないケースです。定期的に業務内容や成果を振り返る場があれば、自然と単価の妥当性も話題に上がりますが、そうした場自体がない取引では、据え置きが「デフォルト」になりがちです。

もう一つ運営者として見てきた実感があります。長く続く取引関係ほど、受注者側が単価交渉を「対立」ではなく「情報共有」として持ちかけている傾向があるということです。「値上げしてほしい」ではなく「こういう理由でコストが上がっている、業務内容もこう変化している、単価についてすり合わせたい」という伝え方をする受注者は、発注者側からも協議に応じてもらいやすい印象があります。中間マージンが発生しない直接取引の場合、同じ予算でも発注者側はより多くの業務を依頼でき、受注者側は手数料0%のぶん手取りが厚くなります。この構造が双方にとって「協議する価値がある関係」を作りやすくしている面もあります。

在宅ワーク・業務委託の仕事を探す際は、契約条件が明確に示されているかを確認することが重要です。AIコンサル・業務活用支援のお仕事のガイドでは、業務範囲や報酬体系の見極め方を紹介しています。またAI関連分野に限らず、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように専門性の高い分野では単価交渉の余地も大きくなる傾向があるため、契約前の条件確認は特に丁寧に行うべきです。

職種別に見る単価相場と交渉材料

単価交渉を有利に進めるには、自分の職種の相場観を把握しておくことも欠かせません。相場から大きく外れた単価で契約している場合、それ自体が交渉の根拠になります。たとえば、ソフトウェア作成者の年収・単価相場のようなデータベースを参照すれば、業界全体の相場動向を客観的な数値で確認できます。同様に、著述家,記者,編集者の年収・単価相場のようなライティング系職種の相場情報も、価格交渉の材料として活用できます。

こうした相場データは、感覚的な「他の人はもっともらっているはず」という主張ではなく、「同職種の相場データではこの水準」という客観的な根拠として提示できる点が強みです。発注者との協議の場では、感情論よりも数値と統計に基づく説明のほうが受け入れられやすいというのが、実務上の共通認識です。

専門性を武器にする選択肢

単価据え置きが続く取引から抜け出す方法の一つが、専門性を高めて交渉力そのものを底上げすることです。資格取得によって業務範囲を広げたり、専門知識を証明できるようになれば、単価交渉の際の説得材料が増えます。たとえば中小企業診断士の資格は、経営全般に関するコンサルティング業務の幅を広げる選択肢として知られています。専門資格を持つことで、単純な作業単価ではなく、コンサルティング的な付加価値に対する報酬体系へと交渉を移行できる可能性もあります。

医療・事務系の分野でも同様の傾向があります。医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)のような資格は、専門性を示す材料として業務委託契約の単価交渉に活かせる場合があります。資格そのものが即座に単価を引き上げるわけではありませんが、業務範囲を広げたり、より専門性の高い案件に応募する際の足がかりになります。

契約書に盛り込んでおきたい価格見直し条項

据え置き問題を未然に防ぐ最も実践的な方法は、契約締結の段階で価格見直しに関する条項を盛り込んでおくことです。たとえば「契約期間中、少なくとも年1回は双方協議の上で単価を見直す機会を設ける」といった一文を契約書に加えておくだけで、後々の交渉がスムーズになります。

すでに締結済みの契約に価格見直し条項がない場合でも、契約更新のタイミングで追加を提案することは可能です。発注者側にとっても、定期的な価格協議は労務費転嫁指針が求める行動そのものであり、コンプライアンス上のメリットがあります。むしろ「協議の機会を設けたい」という提案は、発注者側にとっても歓迎されやすい提案だと理解しておくとよいでしょう。

まとめに代えて:据え置きは「話し合わないこと」が問題

単価据え置きそのものが違法というわけではありません。しかし、受注者から価格見直しの要請があったにもかかわらず発注者が協議に応じない、あるいは協議を形骸化させて一方的に据え置く場合は、下請法上の買いたたきに該当する可能性があります。労務費転嫁指針は、発注者側から定期的に協議の場を設けることを求めており、この流れは今後も強まっていくと見られます。

受注者側としては、コスト上昇の根拠を数値で示し、書面で交渉記録を残し、必要であれば公的な相談窓口を活用するという実務的な対応が有効です。取引関係を壊すことを恐れて交渉を諦めるのではなく、双方にとって持続可能な取引条件を作る対話として価格協議を位置づけることが、結果的に長期的な信頼関係の構築にもつながります。

よくある質問

Q. 単価が3年間据え置かれているだけで下請法違反になりますか?

据え置き自体は直ちに違反とはなりません。受注者から価格見直しを要請したのに発注者が正当な理由なく協議に応じない場合、買いたたきとして問題視される可能性があります。

Q. 発注者に価格協議を申し出るタイミングはいつがよいですか?

契約更新前や、最低賃金の改定など公的な統計データに動きがあったタイミングが有効です。書面で記録を残しながら早めに申し入れるのが望ましいです。

Q. 価格協議を申し出たら取引を打ち切られないか不安です。どう対処すべきですか?

下請法には交渉を理由とした報復的な取引停止を禁止する規定があります。不安が強い場合は、申し入れ前に下請かけこみ寺など公的な相談窓口に相談する方法もあります。

Q. フリーランスで発注者が下請法の対象外の場合、価格協議の根拠はありますか?

その場合はフリーランス新法が適用される可能性があります。資本金規模に関わらず業務委託を行う事業者を広く対象としており、契約条件の明示義務などが定められています。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月28日最終更新:2026年7月23日
丸山 桃子

この記事を書いた人

丸山 桃子@SOHO編集部

アパレルEC運営支援・SNSコンサル

アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。

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