耳に不安があってもできる在宅の翻訳|体に負担をかけない進め方と募集の選び方 2026


この記事のポイント
- ✓聴覚に不安があっても在宅の翻訳は始められます
- ✓文字で完結する仕事の選び方
- ✓翻訳の分野別の向き不向き
「聴覚に不安があるけれど、在宅の翻訳の仕事ならできるでしょうか」。こういうご相談を受けることがあります。
結論からお伝えします。大丈夫ですよ。翻訳は、在宅ワークのなかでも文字だけで完結しやすい仕事です。原文を読んで、訳文を書く。この中心の作業に音は一切必要ありません。
ただ、すべての翻訳案件が同じではありません。映像翻訳のように音声を扱う分野もありますし、打ち合わせがビデオ通話で行われる会社もあります。ここを最初に見分けられるかどうかで、働きやすさが大きく変わります。
この記事では、在宅の翻訳という仕事の全体像と、聞こえ方に不安がある方が案件を選ぶときの見分け方、そして無理なく長く続けるための整え方をお話しします。
なお、聞こえ方は人によって本当にさまざまです。この記事では医学的なことには触れません。障害者手帳や就労支援サービスを使えるかどうかも、制度は自治体によって運用が異なりますので、お住まいの窓口でご確認くださいね。ここでお伝えするのは、在宅ワークの実務の話だけです。
在宅の翻訳を取り巻く、いまの状況
まず、市場がどうなっているかを見ておきましょう。安心材料も、正直に言うべき厳しい面も、両方あります。
翻訳の仕事は大きく分けて、実務翻訳(産業翻訳)、出版翻訳、映像翻訳の3つです。このうち仕事の量が最も多いのは実務翻訳で、マニュアル、契約書、医薬品の資料、ITのドキュメント、企業のWebサイトといった文書を扱います。この分野は完全に文字の世界です。
機械翻訳とAIの登場で、翻訳の仕事はなくなるのではないかと心配される方がいます。実際、単純な文章をそのまま置き換えるだけの仕事は減りました。ただし、その代わりに増えた仕事があります。機械翻訳の出力を人が直す「ポストエディット」という工程です。訳文の品質を見極めて手を入れる作業なので、言語の力は変わらず必要とされています。
在宅での就業環境そのものも、ここ数年で大きく変わりました。実際の求人がどういう形になっているかを見てみます。
ご経験/スキル/配慮/ご希望をお伺いしたうえで、配属先、業務内容を決定します。 勤務形態・基本的には通常勤務となりますが、業務状況や部門方針により、時差出勤、在宅勤務ありとなります。 募集背景・将来を見据えた増員 人員構成(大阪本店)・聴覚障害者4名・身体内部障害者3名 会社の魅力・総合職のため確約は出来ませんが、転勤についても実績としてはほとんどありません。 出典: 求人ボックス
この募集で注目したいのは「ご経験/スキル/配慮/ご希望をお伺いしたうえで」という一文です。配慮の内容を最初に確認する前提になっている。こういう書き方をしている会社は、受け入れの経験があると考えていいでしょう。
もう1つ、既に同じ立場の方が在籍していると明記されている点も大きいです。前例がある職場は、何をどう伝えればいいかが社内で共有されています。あなたが一から説明する負担が減ります。
単価の話もしておきますね。実務翻訳の相場は、英日翻訳で原文1ワードあたり8円〜20円程度、日英翻訳で原文1文字あたり6円〜12円程度というのが一般的な幅です。専門分野の知識が要る医薬・特許・法務の分野はこれより高く設定される傾向があります。ポストエディットは通常の翻訳より単価が下がり、翻訳単価の50%〜70%程度で設定されることが多いです。
翻訳の分野を、音との距離で整理してみる
ここが一番大事なところです。翻訳と一口に言っても、音声との関わり方が分野によってまったく違います。落ち着いて1つずつ見ていきましょう。
実務翻訳。文字だけで完結する中心地
マニュアル、仕様書、契約書、社内規程、Webサイト、プレスリリース、学術論文。こうした文書の翻訳です。
原文はテキストかPDF、納品もテキストかWordファイル。作業のすべてが文字で行われます。案件の依頼、質問のやりとり、納品の連絡も、翻訳会社とはメールでのやりとりが標準です。翻訳支援ツールを使う案件も多く、その操作も画面上で完結します。
音声を必要とする場面が構造的にありません。ここが最も相性のいい領域です。
さらに言えば、実務翻訳は「専門分野を持つ」ことで単価が上がる世界です。医療、法律、IT、金融、機械。どれか1つの分野の知識を積み上げていくと、その分野の案件が回ってくるようになります。翻訳の実力に加えて分野の知識で評価されるので、コミュニケーションの形式に左右されにくい。この点も安心材料の1つです。
ゲーム・アプリのローカライズ。文字中心だが確認は必要
ゲームのセリフやUIテキスト、アプリの画面表示を翻訳する仕事です。近年ニーズが伸びている領域です。
基本的には文字での作業ですが、案件によっては音声収録のスクリプトを扱ったり、ボイス付きのシーンを確認したりする場合があります。ここは案件ごとに違うので、受注前に「音声の確認作業は含まれますか」と聞いておくといいでしょう。
文字だけの部分を担当する形で分担している現場も多くあります。全部が音声絡みというわけではないので、募集内容をよく読んでから判断してくださいね。
映像翻訳・字幕。ここは慎重に見極めを
映画やドラマ、企業のPR動画に字幕を付ける仕事です。人気のある分野で、興味を持たれる方も多い領域です。
ただ、映像翻訳は音声を聞き取って訳す作業が中心になる案件があります。これは正直にお伝えしておきます。
一方で、映像翻訳のなかにも文字ベースで進む仕事があります。台本(スクリプト)が支給される案件、既に文字起こしされたトランスクリプトから訳す案件、外国語の字幕データを日本語字幕に置き換える案件などです。この場合、作業は文字を読んで文字を書く形になります。
映像の分野に興味がある場合は、映像翻訳・字幕・通訳のお仕事で仕事の全体像を確認したうえで、スクリプト支給の案件に絞って探すのが現実的です。募集要項に「スクリプトあり」「原稿支給」と書かれているかを見てください。
なお、通訳は音声のやりとりが本質の仕事なので、この記事では対象外とします。翻訳と通訳は別の職業だと考えてください。
出版翻訳。文字の世界だが入口は狭い
書籍を訳す仕事です。作業はもちろん文字で完結します。
ただ、入口が狭い。出版社との関係づくりや、下訳からの積み上げが必要で、いきなり在宅で仕事が回ってくる分野ではありません。目標として持つのはいいのですが、最初の収入源として考えるのは現実的ではないとお伝えしておきます。
応募と契約で、あなたが確認しておきたいこと
ここからは、実際に案件を探すときのお話です。難しく考えないで大丈夫ですよ。確認するポイントは5つだけです。
選考の流れに面接があるか、その形式はどうか
翻訳会社への登録は、多くの場合トライアル(試験翻訳)から始まります。課題文を訳して提出し、その品質で判断される。この形式なら、評価されるのは訳文だけです。
ただ、トライアル合格後に面談がある会社もあります。オンライン面談なのか、メールのやりとりだけで済むのか。ここは応募前に確認しておくと安心です。
オンライン面談が必要な場合も、チャット形式での実施をお願いできる場合があります。「文字でのやりとりのほうが正確にお伝えできます」と伝えてみてください。翻訳という仕事の性質上、文字で意思疎通ができることは何のマイナスにもなりません。むしろ、書く力が見えるという意味では有利に働くこともあります。
業務連絡の手段が文字で標準化されているか
翻訳会社との日常のやりとりは、案件の打診、納期の確認、質問と回答、納品の連絡です。これらはメールで行われるのが業界の標準です。
というのも、翻訳は「言った言わない」が致命傷になる仕事だからです。用語の指定、参考資料の場所、納期。すべて文字で残す文化が既にあります。この点で、翻訳業界はもともと文字ベースで回っている業界だと言えます。
ですから、あなたが特別に何かをお願いする必要はほとんどありません。もし電話でのやりとりを求められる場面があれば、「ご連絡はメールでいただけると確実です」と一言添えるだけで十分です。
質問の出し方が仕組みとして用意されているか
翻訳の実務では、原文が曖昧なときにクライアントへ質問を出します。この質問のやりとりは「クエリシート」と呼ばれる表形式のファイルで行われるのが一般的です。
つまり、質問も文字。しかも書式が決まっている。これは働きやすさに直結する仕組みです。
応募先を選ぶときは、この質問の出し方が用意されているかを見てください。用意されていない会社は、翻訳者を孤立させたまま作業させている可能性があります。これは聞こえ方に関係なく、品質面で不安がある現場です。
納品と検収の手順が明確か
いつ、どの形式で、どこに納品するのか。検収にどれくらいかかり、修正依頼はどう来るのか。支払いはいつなのか。
こうした手順が最初に文書で示される会社を選んでください。フリーランスとして仕事を受ける場合、取引条件を書面で明示することは発注側の義務とされています。制度の詳しい内容は公正取引委員会や厚生労働省の情報で確認できます。
条件が書面で来るということは、口頭での説明に頼らなくていいということでもあります。あなたにとっては、それ自体が働きやすさになります。
無理のない稼働量になっているか
これは心の健康の話です。翻訳の納期は、しばしばタイトに設定されます。「明日の朝までに5,000ワード」といった依頼が来ることもあります。
受けられる量を最初に決めておいてください。1日に処理できるワード数は人それぞれですが、実務翻訳で1日2,000ワード前後というのが1つの目安とされています。慣れないうちはこれより少なくて当たり前です。
無理をして受けて、品質が落ちて信頼を失うほうが痛い。断ることは、長く続けるための技術です。
未経験から在宅翻訳を始めるまでの手順
具体的な進め方をお話ししますね。焦らなくて大丈夫です。
1つ目のステップは、分野を1つ決めることです。 医療、IT、法務、金融、機械。いままでの仕事や勉強で触れてきたものがあれば、そこが出発点になります。何もなければ、興味が持てる分野で構いません。翻訳は語学力だけでは成立せず、その分野の知識があってはじめて訳せます。
2つ目のステップは、語学力を客観的な形にすることです。 英語なら英検やTOEIC、中国語なら中国語検定やHSKといった資格が、実力の目安として使われます。英検準1級・1級を副業に活かす|翻訳・教育・ライティングの案件では英語資格をどう仕事につなげるかが整理されていますし、中国語の方向ならHSK(中国語検定)で副業する方法|翻訳・通訳・インバウンド案件が参考になります。より上を目指すなら中国語検定(中検)1級のような上位資格もあります。
翻訳そのものの品質を示す指標としてはJTF翻訳品質認証があります。翻訳業界での評価軸を知るという意味でも、こうした資格の存在は知っておいて損はありません。
3つ目のステップは、トライアルを受けることです。 翻訳会社の登録翻訳者募集に応募し、試験翻訳を提出します。ここで大切なのは、落ちても気に病まないこと。トライアルは会社ごとに求める水準も分野も違います。複数社に出すのが普通です。
4つ目のステップは、小さく始めて実績を積むことです。 最初から大型案件は来ません。短い文書、部分的な作業から入って、納期を守り、質問を的確に出す。この積み重ねが次の依頼につながります。
翻訳以外の言語系の仕事も知っておくと視野が広がります。翻訳・ライティングレッスンのお仕事や英語・多言語翻訳のお仕事には、どういう業務が実際に発注されているかがまとまっています。言語交換を副業にする方法|日本語教師・翻訳・通訳で稼ぐ【2026年版】では語学を活かす仕事の選択肢が幅広く紹介されています。
仕事道具と、覚えておきたい作業の流れ
翻訳の実務でどんな道具を使うのか、少し具体的にお話ししますね。ここを知っておくと、募集要項の意味が読み取れるようになります。
翻訳支援ツールは、実務翻訳の標準装備
実務翻訳の現場では、翻訳支援ツールと呼ばれるソフトを使うのが一般的です。CAT(キャット)ツールと呼ばれることもあります。
これは自動で訳してくれる機械翻訳とは別のものです。原文を文単位に区切って表示し、そこに訳文を入力していく画面を提供してくれる道具だと考えてください。過去に訳した文と似た文が出てきたときに、以前の訳を候補として出してくれます。
このツールの何がありがたいかというと、用語の統一と訳し漏れの防止です。長い文書を訳していると、同じ用語を途中から違う訳語にしてしまうことがあります。ツールがそれを防いでくれます。
そして、操作はすべて画面上で完結します。音声のガイドや通知音に依存する設計ではありません。ここも安心していただける点です。
募集要項に「CATツール使用経験者優遇」と書かれていることがあります。未経験でも応募できる案件は多いのですが、慣れておくと選べる案件が広がります。無料で試せるものもあるので、興味があれば触れてみてください。
用語集とスタイルガイドが、品質を決める
案件を受けると、多くの場合は用語集とスタイルガイドが一緒に渡されます。用語集はこの案件で使う訳語の一覧、スタイルガイドは表記のルール集です。
数字は半角か全角か、句読点は「、。」か「,.」か、英数字の前後にスペースを入れるか。こうした細かい取り決めが文書化されています。
これを守れる人が、信頼される翻訳者です。訳文の美しさより先に、指定どおりに作れることが評価される世界だと知っておいてください。
そして、この評価軸はあなたにとって追い風です。指示はすべて文書で来ます。読んで、その通りに作る。聞き取りが必要な場面がどこにもありません。
納品後の修正対応も、文字でやりとりされる
納品した訳文には、チェッカーやクライアントからフィードバックが返ってくることがあります。この修正依頼も、ファイルにコメントを付けた形か、指摘一覧の表で届きます。
最初のうちは指摘が多くて落ち込むこともあるでしょう。私も、自分の仕事に赤字がびっしり入った書類を受け取って、しばらく手が止まった経験があります。でも、あの指摘は否定ではなく、次の仕事のための情報でした。1つずつ理由を確認して直していくうちに、指摘の数は自然に減っていきます。
指摘が文字で残るというのは、後から何度でも読み返せるということです。その場で聞いて理解しなければならない口頭のフィードバックより、実は学びやすい形なんですよ。
トライアルに落ちたときの、立て直し方
トライアルの結果が不合格だったとき、多くの方が「自分には向いていない」と感じてしまいます。ここは誤解されやすいところなので、丁寧にお伝えしますね。
翻訳会社のトライアルは、その会社がいま必要としている分野・言語方向・単価帯に合う人を探すために行われます。つまり、訳文の出来だけでなく、会社側の事情も合否に影響します。同じ訳文でも、A社では不合格でB社では合格ということが普通に起こります。
ですから、1社の結果で自分の実力を判断しないでください。3社から5社は出してみて、そのうえで傾向を見る。不合格が続く場合は、分野を変えてみる、原文の読解に時間をかけてみる、といった調整を試します。
そしてもう1つ。トライアルは無償で行われるのが一般的ですが、分量には常識的な範囲があります。数千ワードもの課題を無償で提出させる募集は、内容をよく確認してください。通常は数百ワード程度です。
仕事の探し方と、お金まわりの基本
最後に、実際に案件を見つける方法と、収入まわりで押さえておくことをお話しします。
案件を探す入口は3つあります。1つ目は翻訳会社の登録翻訳者募集。各社が公式サイトで通年募集していることが多く、トライアルを経て登録される形です。2つ目は在宅ワークの求人サイトや業務委託のマッチングサービス。3つ目は、翻訳者向けの求人が集まる専門のサイトです。
どの入口でも、募集文面を読むときの視点は同じです。分野、単価、支払いサイクル、連絡手段、使用ツール。この5点が書かれているかを見てください。
収入の扱いについても触れておきます。翻訳の仕事を業務委託で受ける場合、収入は原則として事業所得または雑所得になります。年間の所得が一定額を超えると確定申告が必要です。経費として計上できるものには、辞書やツールの購入費、通信費、パソコンの購入費の一部などがあります。
具体的な計算方法や自分のケースの扱いは、国税庁の情報を確認するか、所轄の税務署に相談してください。会計ソフトを使うと日々の記録が楽になります。
社会保険については、配偶者の扶養に入っている場合の収入基準や、自分で国民年金に加入する場合の手続きが関わってきます。日本年金機構の情報で確認できますので、収入が増えてきたら一度目を通しておいてください。
お金の話は後回しにされがちですが、最初に仕組みを知っておくと、年末に慌てずに済みます。難しく感じたら、税務署の相談窓口は無料で使えます。一人で抱え込まなくて大丈夫ですよ。
心と体を守りながら続けるために
ここは私が一番お伝えしたいところです。
在宅の翻訳は、長時間画面に向かう仕事です。そして聞こえ方に不安がある方の多くは、日常的に視覚での情報収集を多めに使っています。つまり、目にかかる負担が重なりやすい構造にあります。
まず、休憩を作業計画に組み込んでください。集中していると休憩を忘れます。翻訳は没入しやすい仕事なので、なおさらです。時間で区切る具体的な方法は在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックにまとまっています。25分作業して5分休むというやり方は、目を休ませる効果もあります。
次に、生活のリズムのなかに仕事の時間を置いてください。在宅の仕事は、境目がなくなると際限なく広がります。在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開のように、時間の枠を決めている方の例を見ておくと、自分の型を作るヒントになります。
そしてもう1つ。「フリーランスになって、急に人と話さなくなった」というご相談は本当に多いんです。在宅の翻訳は、その傾向が強い仕事です。孤独を感じたときに、それは自分の弱さではなくて、働き方の構造から来ているものだと知っておいてください。
私自身、独立したての頃に、家で一人で仕事をする時期がありました。誰にも会わない日が続いて、自分の考えが正しいのか誰にも確認できない。あのときに感じた心細さは、いまでも覚えています。私を助けてくれたのは、同じ働き方をしている人たちとのテキストでのやりとりでした。声を使わなくても、つながりは作れます。翻訳者どうしのオンラインのコミュニティや、勉強会のチャットは、そういう場所として機能します。
あなたは一人じゃありません。同じように在宅で言葉を扱っている人は、たくさんいます。
単価を上げていくための、現実的な道すじ
翻訳の収入は、単価と処理量の掛け算で決まります。処理量には体力の上限がありますから、伸ばせるのは単価のほうです。ここは経験年数だけで自動的に上がるものではなく、動き方で変わります。焦らず、ひとつずつ見ていきましょう。
分野の掛け合わせで、代わりのきかない位置に立つ
「英日翻訳ができます」だけでは、同じことを言える人が大勢います。ここに分野を1つ足すと、候補者の数が一気に減ります。さらにもう1つ足すと、ほとんど競合がいなくなります。
たとえば「医療と薬事の文書」「ITとネットワーク機器のマニュアル」「法務と英文契約書」といった組み合わせです。前職や資格、家族の事情から詳しくなったことでも構いません。深い専門でなくても、その分野特有の言い回しと、出典の探し方を知っているだけで、訳文の精度は目に見えて変わります。
翻訳会社の側から見ると、分野に強い人は「調べ直しの手間が少ない相手」です。同じ品質でも、確認の往復が少ない人のほうが、結果として全体のコストが下がります。だから単価を上げてでも押さえておきたい相手になる。ここが単価が動く仕組みです。
ポストエディットは、受け方しだいで消耗が変わる
機械翻訳の出力を直すポストエディットは、単価が通常の翻訳より下がります。ただ、案件によって求められる水準がまったく違い、ここを確認せずに受けると割に合わなくなります。
確認したいのは2点です。1つは、どこまで直すのかという水準です。意味の間違いだけを直せばよいのか、読み物として自然な日本語に仕上げるところまで求められるのか。後者なら、実質の作業量は翻訳とほとんど変わりません。2つ目は、元の機械翻訳の質です。分野に特化したエンジンで出した文と、汎用のエンジンで出した文とでは、直す量が倍以上違うことがあります。
受注前に、サンプルを数百ワードだけ見せてもらってください。「どのくらい手を入れる必要があるかを確認したいので」と伝えれば、断られることはまずありません。ここを飛ばすと、見積もりが根本から崩れます。
単価の相談は、実績が数字で示せるときに出す
単価の見直しをお願いするのは、気が重いものですよね。ただ、翻訳会社の側もレートの改定は日常的に行っています。切り出して失礼になる話ではありません。
出すタイミングは、継続して依頼を受けていて、修正の指摘が減っている時期です。文面はこう作ります。「この1年で御社から◯件、合計◯万ワードを納品させていただきました。指摘の件数も落ち着いてきましたので、次の案件からレートをご相談させていただけないでしょうか」。事実と希望だけを、短く書きます。
断られることもあります。それでも、条件のよい案件が出たときに声がかかりやすくなります。言わなければ、相手は現在の条件で満足していると受け取ります。伝えること自体に価値があるんですよ。
作業環境の整え方と、納品事故を防ぐ習慣
道具の話を、もう少しだけさせてください。ここを最初に整えておくと、後の消耗がかなり減ります。
辞書と検索の環境を、先に作っておく
翻訳の作業時間のうち、かなりの割合を占めるのが訳語を探す時間です。この時間を短くする仕組みを作ると、そのまま時給が上がります。
分野の専門辞書、対訳がそろっている公的機関の資料、過去の案件で使った用語集。これらをすぐ引ける場所にまとめておきます。ブラウザのブックマークを分野ごとに分けるだけでも、探す時間は明確に減ります。制度や法令の用語を扱うなら、厚生労働省や国税庁のように、公式の説明が体系的に置かれている情報源を手元に持っておくと、根拠のある訳語を選べます。
自分専用の用語集を1つ育てていくのもおすすめです。案件で調べた訳語を、その都度1行ずつ足していく。半年も続けると、他の誰も持っていない資産になります。
連絡を取りこぼさない仕組みを作る
案件の打診は、早い者勝ちになることがあります。メールの見落としが、そのまま機会の損失になってしまう。
翻訳会社ごとにメールの振り分けを設定して、案件の打診だけが目に入るようにしておいてください。画面上に通知を表示する設定にしておけば、音の通知に頼らなくても気づけます。スマートフォンの振動での通知を併用している方も多いです。
これは特別な配慮をお願いする話ではなく、単に自分の受信環境を整えるという実務の話です。誰にも相談せず、自分の手元で完結します。
ファイル名と版の管理で、納品事故を防ぐ
納品でいちばん多い事故は、古い版を送ってしまうことです。訳文の質とはまったく関係のないところで信頼を落としてしまうので、これは仕組みで防ぎます。
ファイル名に日付と版番号を入れる。納品用のフォルダを分けて、そこには最終版だけを置く。送信する前に、必ず開いて冒頭と末尾を目で確認する。この3つだけで、事故はほとんど起きなくなります。
私がご相談を受けるなかでも、「訳の内容ではなく、送り間違いで信頼を失った」という話は少なくありません。防げるところは、仕組みで防いでしまいましょう。
独自データから見えてくること
在宅ワークの案件を横断して見ていると、はっきりした傾向が1つあります。募集要項に業務連絡の手段が書かれている案件は、実務全体がきちんと整理されているということです。
「連絡はチャットツールで」「進捗は共有シートで」と書いてある案件は、仕事の進め方が仕組み化されています。逆に、連絡手段の記載がなく「詳細は面談で」としか書かれていない案件は、条件が後出しになりやすい傾向があります。
これは案件選びの、とても実用的な物差しになります。「配慮してくれる会社を探す」のではなく、「文字で回る仕組みができている会社を探す」。この見方に切り替えると、募集文面を読むだけで判断できるようになります。
翻訳という職種は、この点で有利です。もともと文字で回る業界だからです。
20年この市場を運営者として見てきた立場から言えば、長く仕事が続いている翻訳者には共通点があります。訳文の質はもちろんですが、それ以上に「この人に頼むと後の工程が楽になる」という信頼を得ている点です。用語を統一する、質問を的確にまとめて出す、納期の見通しを早めに伝える。この3つが揃っている人には、同じ会社から継続的に依頼が回ります。
そして、単発の案件を追い続けるより、継続の関係を1社か2社持つほうが、収入は安定します。新しい取引先を探す時間が減るぶん、実際の作業に時間を使えるからです。
もう1つ、市場の構造の話をさせてください。翻訳の仕事は、発注元から実際に訳す人に届くまでに、代理店や仲介が何段階も入ることがあります。その都度マージンが抜かれると、発注側は同じ予算でも訳者に届く額が減り、受け手は同じ労力でも手取りが薄くなります。逆に、仲介が少なく手数料0%で直接つながる構造なら、発注側は同じ予算でより多くを依頼でき、受け手は手取りが厚くなる。運営者として長く見てきて、この差は確かにあると感じています。
翻訳者としての価値を数字で確認したい方は、職種別の相場データも見ておくといいでしょう。著述家,記者,編集者の年収・単価相場では言葉を扱う職種の水準が、ソフトウェア作成者の年収・単価相場ではIT系の水準が確認できます。IT分野の翻訳を目指す場合、技術の知識がどう単価に反映されるかの参考になります。
聞こえ方に不安があることは、翻訳の仕事において不利には働きません。この仕事で評価されるのは、原文を正確に読み取る力と、訳文を的確に書く力です。どちらも、音とは関係のないところにあります。
焦らず、自分に合った案件を選んで、少しずつ積み上げていってください。大丈夫ですよ。
よくある質問
Q. 聴覚に不安があることは、翻訳会社への応募時に伝えるべきですか?
伝える義務はありません。翻訳会社の選考はトライアル(試験翻訳)が中心で、評価されるのは訳文の品質です。ただし面談がある場合は、事前に「文字でのやりとりのほうが正確にお伝えできます」と伝えておくと進めやすくなります。翻訳業界はもともとメールでの連絡が標準なので、特別な依頼にはなりません。
Q. 在宅翻訳の単価はどれくらいが目安ですか?
実務翻訳の相場は、英日翻訳で原文1ワードあたり8円〜20円程度、日英翻訳で原文1文字あたり6円〜12円程度が一般的な幅です。医薬・特許・法務などの専門分野はこれより高くなる傾向があります。機械翻訳の出力を修正するポストエディットは、翻訳単価の50%〜70%程度で設定されることが多いです。
Q. 映像翻訳や字幕の仕事は避けたほうがいいですか?
一律に避ける必要はありません。映像翻訳のなかにも、台本やトランスクリプトが支給される案件、外国語字幕を日本語字幕に置き換える案件など、文字ベースで進む仕事があります。募集要項に「スクリプトあり」「原稿支給」と書かれているかを確認し、音声の聞き取りが前提の案件を避ければ問題ありません。
Q. 未経験から在宅翻訳を始めるには何から手をつければいいですか?
まず専門分野を1つ決めてください。翻訳は語学力だけでなく分野の知識があって成立します。次に語学力を資格などの客観的な形にし、翻訳会社の登録翻訳者募集にトライアルとして応募します。トライアルは会社ごとに基準が違うため、複数社に出すのが普通です。落ちても実力不足とは限りません。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
中西 直美@SOHO編集部
産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。
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