個人事業主になるための3つの手順|会社員との違いやメリットを解説【2026年版】

長谷川 奈津
長谷川 奈津
個人事業主になるための3つの手順|会社員との違いやメリットを解説【2026年版】

この記事のポイント

  • 「こじんじぎょう(個人事業)」という言葉を耳にしたとき
  • 自由な働き方への憧れと同時に
  • 税金や手続きへの漠然とした不安を抱く方は少なくありません

「こじんじぎょう(個人事業)」という言葉を耳にしたとき、自由な働き方への憧れと同時に、税金や手続きへの漠然とした不安を抱く方は少なくありません。会社という後ろ盾を離れ、一人の事業主として立つことは、人生における大きな転換点となります。しかし、正しい知識を持って準備を進めれば、そのリスクは最小限に抑え、メリットを最大限に引き出すことが可能です。本記事では、私がフリーランスエンジニアとして独立した際の経験を交えながら、個人事業主になるための具体的なステップを論理的に解説します。

個人事業主(こじんじぎょう)とは?2026年の市場規模と定義

個人事業主とは、法人を設立せずに個人で事業を営む人のことを指します。税務上の区分では「個人所得」をベースに申告を行う立場であり、いわゆる「フリーランス」も、その多くが税務上はこの個人事業主として活動しています。2026年現在、働き方の多様化とDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速により、組織に属さない働き方を選択する層は年々増加傾向にあります。

日本の労働市場における広義のフリーランス人口は、一説には1,500万人を超えたとも言われており、経済規模も20兆円を突破する勢いで推移しています。これは、単なる「ブーム」ではなく、企業の雇用形態が「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へ、そして「プロジェクト単位の外部活用」へとシフトしているマクロな背景があるからです。

私が独立した5年前と比べても、個人が直接企業から案件を受注できるプラットフォームが整備され、障壁は格段に低くなりました。特にIT領域やマーケティング、AI活用支援などの分野では、特定の企業に属さない「専門家」としての価値が非常に高く評価されるようになっています。

会社員と個人事業主の「5つの大きな違い」を徹底比較

個人事業主になる前に、まず理解しておくべきは「会社員というシステム」から外れることの構造的な変化です。多くの人が「給与」と「事業売上」の違いだけに目を向けがちですが、実際には社会保障や税制、そして法的な責任の範囲において劇的な違いが生じます。

第一に、社会保険制度の違いです。会社員は厚生年金と健康保険(組合健保など)に加入し、保険料の半分を会社が負担しています。一方、個人事業主は原則として国民年金と国民健康保険への加入となり、保険料はすべて自己負担です。

例えば、国民年金の保険料は月額約17,510円(2025年度)ですが、これは収入が減った年でも他の年と同様に支払い義務があるため、経済的な負担を感じることがあります。 出典: ht-tax.or.jp

第二に、経費の扱いです。会社員は「特定支出控除」などの限られた枠組みでしか支出を控除できませんが、個人事業主は「事業に関係する支出」をすべて経費として計上できます。これにより、額面上の収入が同じであっても、手元に残る金額(可処分所得)は税戦略次第で大きく変わるのです。

第三に、責任の重さです。会社員は業務上のミスによる損害を原則として会社が負いますが、個人事業主は「無限責任」を負います。契約不履行や著作権侵害などが起きた際、個人の資産すべてが賠償の対象となるリスクがあります。そのため、賠償責任保険への加入や、法的な知識の習得が不可欠です。

第四に、社会的信用の構築プロセスです。住宅ローンの審査やクレジットカードの作成において、会社員は「所属する組織」の信用を利用できますが、個人事業主は「自身の過去の納税実績」で証明しなければなりません。独立直後にローンが組みにくいと言われるのはこのためです。

第五に、仕事獲得のサイクルです。会社員は会社が仕事を与えてくれますが、個人事業主は自身が「営業マン」兼「経営者」兼「実務担当者」として動かなければなりません。

このような違いを理解するために、現在の職種からどの程度の年収推移が期待できるかを確認しておくことも重要です。例えば、専門職の相場を知るには以下のデータが参考になります。

個人事業主になる最大のメリット|青色申告による節税と経費の力

リスクや責任が重くなる一方で、個人事業主には会社員では決して得られない強力なメリットが存在します。その最たるものが「税制上の優遇措置」と「経費コントロール」です。

最も大きな恩恵は、青色申告による最大65万円の特別控除です。これは、適切な帳簿(複式簿記)を作成し、e-Taxで申告を行うことで、所得から無条件で65万円を差し引ける制度です。所得税率が20%の人であれば、これだけで所得税と住民税を合わせて年間10万円以上の節税になります。

今回は、青色申告65万円控除が一番おすすめの結果となりました。 出典: freee.co.jp

さらに、「家事按分(かじあんぶん)」という仕組みも強力です。自宅を仕事場にしている場合、家賃や電気代、インターネット代のうち、仕事で使用している面積や時間に応じた割合を「経費」として落とすことができます。会社員時代には生活費として支払っていたお金の一部が税金を下げるための武器に変わるのです。

また、個人事業主は退職金制度がない代わりに、「小規模企業共済」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などの制度をフル活用できます。これらの掛け金は「全額所得控除」となるため、将来の備えをしながら現在の税負担を劇的に減らすことが可能です。

自由な時間管理も大きな魅力です。例えば、在宅ワークを主軸に置く場合、集中力が続く時間帯に一気に作業をこなし、平日の空いている時間に用事を済ませるといった柔軟な生活が可能になります。

このように、時間の使い方を自分自身の裁量で決められることは、精神的な安定と高い生産性の維持に直結します。私自身、会社員時代は通勤時間に毎日2時間を費やしていましたが、独立後はその時間をスキルアップや家族との時間に充てられるようになり、生活の質が劇的に向上しました。

覚悟すべきデメリットと「会社員にはないリスク」の正体

光があれば必ず影があります。個人事業主という道を選ぶなら、直面する壁についても冷徹に分析しておく必要があります。最も多くの人が挫折する原因は、スキルの不足ではなく「事務作業と自己管理の破綻」です。

第一のデメリットは、収入の不安定さです。案件が途切れた瞬間、収入は0円になります。会社員のような有給休暇や休業補償(傷病手当金)はありません。自分が動けなくなれば、即座に事業が止まるというプレッシャーは、想像以上に精神を削ります。

第二に、確定申告をはじめとする煩雑な事務作業です。売上の管理、領収書の整理、請求書の発行、そして年度末の税務申告。これらをすべて自分で行うか、税理士に依頼する必要があります。実務に集中したいエンジニアやデザイナーにとって、この「稼ぎを生まない時間」の発生は大きなストレス要因となります。

第三に、福利厚生の喪失です。健康診断の費用負担、住宅手当、家族手当、そして何より「厚生年金の喪失」は将来の年金受取額に数千万円単位の差を生む可能性があります。この差を埋めるためには、会社員時代の1.5倍〜2倍の売上をコンスタントに上げ続ける必要があるのが現実的な計算です。

第四に、孤独感とセルフマネジメントの難しさです。上司もいなければ同僚もいない環境では、サボろうと思えばいくらでもサボれてしまいます。一方で、断るのが怖くて案件を引き受けすぎ、燃え尽きてしまう(バーンアウト)リスクも常に隣り合わせです。

特に初心者が陥りやすいのが、適切な仕事の探し方がわからず、低単価の案件で疲弊してしまうケースです。信頼できるルートで案件を探すことは、リスク管理の第一歩と言えます。

私の失敗談を一つ共有します。独立して1年目、経費計上の仕組みを甘く見ていた私は、年度末になって山のような領収書を前に途方に暮れました。結局、確定申告の期限ギリギリまで不眠不休で作業し、本業の納期を遅らせそうになるという失態を演じました。この経験から、日々の「仕訳」がいかに重要かを痛感しました。

迷わず進める「個人事業主への3ステップ」実務ガイド

いざ個人事業主として活動を始めようと決めたとき、具体的に何をどの順番で行えばよいのでしょうか。ここでは、最短かつ確実に「事業主」としての土台を作るための3つのステップを解説します。

ステップ1:開業届と青色申告承認申請書の提出

まず最初に行うべきは、最寄りの税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を提出することです。これは法律上、事業開始から1ヶ月以内の提出が推奨されています。手数料はかかりません。

同時に、必ず「所得税の青色申告承認申請書」も提出してください。これを忘れると、前述した65万円の特別控除を受けることができず、強制的に「白色申告」となります。青色申告は節税の要ですので、開業届とセットで提出するのが鉄則です。

提出は税務署の窓口で行うほか、郵送やマイナンバーカードを利用したオンライン申請(e-Tax)も可能です。最近では、ガイドに従って入力するだけで書類が完成するクラウドサービスも普及しており、15分程度で手続きを終えることも難しくありません。

ステップ2:事業用インフラ(口座・カード)の分離

書類の提出が終わったら、次にすべきは「公私の分離」です。個人のプライベート用口座とは別に、事業専用の銀行口座とクレジットカードを作成します。

なぜこれが必要かというと、帳簿付けの正確性と効率を劇的に高めるためです。生活費の決済と仕事の経費が混ざっていると、確定申告の際に一つひとつの明細をチェックして「これは仕事、これはプライベート」と仕分ける膨大な手間が発生します。専用カードで決済していれば、その明細すべてがそのまま経費データとして利用できます。

ネット銀行の中には、個人事業主専用の「屋号付き口座」を開設できるところもあります。取引先からの信頼を得るためにも、自身の名前だけでなく「屋号」がついた口座を持っていると、ビジネスとしての形が整います。

ステップ3:記帳環境の整備と売上目標の設定

最後に、日々の売上と経費を記録するためのシステムを導入します。現代の個人事業主において、手書きの帳簿やExcel管理はあまり現実的ではありません。銀行口座やカードと連携して自動で仕訳を行ってくれる「クラウド会計ソフト」の導入を強くおすすめします。

また、具体的な「食っていくための数値」を算出してください。

  • 生活費(固定費+変動費)
  • 社会保険料・年金
  • 納税用資金(売上の20%〜30%はストックしておくのが定石)
  • 事業継続のための投資(PC新調、書籍代など)

これらを積み上げた合計が、あなたが最低限稼がなければならない「月商」です。会社員時代の給与と同じ金額を売上目標に設定すると、社会保険料の自己負担分だけ赤字になるという罠があります。

もし、ご自身のスキルセットでどの程度の単価が狙えるか不安な場合は、市場の相場をあらかじめリサーチしておきましょう。

失敗しないための「事業用インフラ」の整え方

インフラ整備において、もう一つ重要なのが「通信環境とセキュリティ」です。個人事業主は情報漏洩に対しても自己責任となります。顧客のデータを扱うエンジニアやデザイナーであれば、ウイルス対策ソフトの導入はもちろん、VPNの利用やデータのバックアップ体制も「経費」を使って優先的に整えるべき項目です。

また、スキルの証明となる資格の取得も検討すべきです。特に、クライアントワークにおいて客観的な指標となる技術認定は、案件獲得の際の強い武器になります。

ネットワークエンジニアとしての独立を目指すなら、こうした専門資格の有無が単価交渉の材料になります。また、事務作業の効率化やビジネススキルの向上を狙うなら、地味ながら強力な資格も存在します。

こうした細かなスキルの積み重ねが、メール一通、見積書一通の信頼感を生み出し、長期的な契約継続へと繋がります。

まとめ

個人事業主への転換は、働き方の自由度を高める一方で、自己責任の範囲が広がる大きな決断です。2026年という変化の激しい時代において、節税効果の高い青色申告や事業用インフラの整備といった基本を確実に押さえることが、安定した事業運営への第一歩となります。まずは開業届の提出から口座の分離まで、本記事で紹介した3つのステップを一つずつ確実に実行し、理想とするキャリアの土台を築いていきましょう。

よくある質問

Q. 会社員でも開業届を出して個人事業主になれますか?

はい、可能です。副業として事業を行っている場合でも、開業届を提出して個人事業主になることができます。ただし、勤務先の副業規定を確認しておく必要があります。また、失業手当の受給条件に影響が出る場合があるため、退職前後で開業届を出すタイミングには注意が必要です。

Q. 個人事業主になるために、まずどのような手続きが必要ですか?

事業を開始してから1ヶ月以内に、所轄の税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を提出する必要があります。また、節税効果の高い「青色申告」を選択する場合は、原則として事業開始から2ヶ月以内、またはその年の3月15日までに承認申請書を提出する必要があるため注意しましょう。

Q. 会社員から独立して個人事業主になる際、健康保険はどうなりますか?

会社員時代の健康保険を最長2年間継続する「任意継続」、またはお住まいの自治体の「国民健康保険」に加入するかのいずれかを選択します。自治体や前年の年収によって保険料が大きく異なるため、退職前にそれぞれの金額をシミュレーションして比較しておくことが大切です。

Q. 会社員を辞めて独立する際、必ず「個人事業主」になる手続きが必要ですか?

継続して事業を行う場合は、原則として所轄の税務署へ「開業届」を提出する必要があります。開業届を出すことで、最大65万円の控除が受けられる「青色申告」が選択可能になり、節税面で大きなメリットを得られるほか、屋号での銀行口座開設も可能になります。

Q. 個人事業主とフリーランスにはどのような違いがありますか?

「フリーランス」は特定の組織に属さず案件単位で仕事を請け負う「働き方」を指す言葉であり、「個人事業主」は税務署に開業届を提出して事業を行っている「税務上の区分」を指します。実態として大きな差はありませんが、公的な手続きや契約の場では「個人事業主」という呼称が一般的に使われます。

長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津

行政書士・元企業法務

企業法務で年間200件以上のフリーランス契約を処理した経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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