副業税理士が始める前に確認すべき規程と案件選び


この記事のポイント
- ✓副業税理士として活動する前に確認すべき税理士法・所属事務所の規程・案件選びの実務を
- ✓フリーランス保護新法の観点も含めて解説します
先日、ある勤務税理士さんから相談を受けました。「事務所に内緒で知人の確定申告を手伝って、お礼に5万円もらったんです。これって問題ありますか?」と。結論から言うと、これ、3つの観点で問題になります。税理士法上の「所属事務所の使用人としての守秘義務・名義貸し規制」、所属事務所の就業規則違反、そして税理士会への登録区分のズレです。つまり、「副業税理士」を始めるなら、税法の知識だけでなく、自分自身の法的立場と契約関係を整理してから動かないと、せっかくの資格を失うリスクがあるんです。
この記事では、副業税理士として活動を検討している方が、活動開始前に必ず確認すべきルール、案件の探し方、そして手取りを最大化する働き方の選び方を整理します。法律はあなたの味方ですが、ルールを知らないと味方になってくれません。
副業税理士の市場マクロ視点|なぜ今、増えているのか
副業税理士という働き方が広がっている背景には、3つの構造変化があります。
1つ目は、企業側の働き方改革。2018年の政府「副業・兼業の促進に関するガイドライン」改定以降、税理士法人や会計事務所でも所属税理士の副業を就業規則で許可するケースが増えました。日本税理士会連合会の登録者統計を見ても、勤務形態の多様化が進んでいます。
2つ目は、需要側の変化。クラウド会計(freee、マネーフォワード)の普及で、月次顧問契約までは不要だが「単発で相談したい」「年1回の確定申告だけお願いしたい」というスポット需要が急増しています。これがまさに副業税理士の活躍領域です。
3つ目は、報酬相場の安定化。クラウドソーシング上での税理士スポット相談の単価は、相談1時間あたり5,000円〜15,000円、年末調整・確定申告の代行は30,000円〜100,000円程度が中央値帯となっており、専業税理士の顧問契約とは別の市場が形成されています。
税理士資格を持ちながら会社員として働く方にとって、副業で税理士業務に携わることは、資格を活かしながら将来のキャリアへつなげる有効な手段です。 収入面はもちろん、働き方の柔軟性や実務経験の蓄積など、多くのメリットがあります。 ここでは、副業税理士として活動することの代表的なメリットをご紹介します。
この引用にあるように、副業税理士は「資格を活かしたサイドキャリア」として位置付けられつつあります。ただし、メリットを享受するには、最初の制度面の整理が必須です。
副業税理士として働く前に必ず確認すべき4つの規程
ここが本記事で一番伝えたいパートです。これ、知らない人が本当に多いんです。
1. 税理士法上の登録区分(開業税理士・所属税理士・社員税理士)
税理士登録には3つの区分があり、副業として税理士業務を行えるかどうかは登録区分で決まります。
開業税理士は、自ら事務所を構えて税理士業務を行う登録です。会社員と兼業する場合、所属する会社の業務内容と税理士業務の利益相反、および税理士法第40条(事務所設置義務)への適合が必要です。自宅事務所が認められるかは所属税理士会の判断に依存します。
所属税理士は、開業税理士や税理士法人に所属して業務を行う登録です。2014年の税理士法改正で、所属税理士は所属事務所外で「自己の名と責任において直接受任」できるようになりました。つまり、所属事務所の許諾を書面で得た上で、副業として個人受任が可能です。これが副業税理士の現実的な選択肢になります。
社員税理士は、税理士法人の社員(出資者)として登録するもので、原則として他の税理士業務との兼業は厳しく制限されます。
つまり、所属税理士登録のまま副業を始めるのが、現実的なスタート地点です。「これって脱税みたいに見られないかな?」と心配する方もいますが、所属事務所の書面許諾と税理士会への届出さえ整っていれば、堂々と活動できます。
2. 所属事務所・所属会社の就業規則と利益相反
税理士法上OKでも、所属先の就業規則がNGなら副業はできません。確認すべきポイントは3つです。
- 副業許可制か届出制か禁止か:就業規則の「副業」「兼業」項目を確認。許可制なら所定の様式で申請が必要
- 競業避止義務:同業他社(同じ税理士法人や会計事務所)の業務受託は禁止されているのが一般的
- 顧客紹介ルート:所属事務所の顧問先や、その紹介先を副業で受任することは原則禁止
私の体験では、相談に来た方の半分以上が「就業規則を一度も読んだことがない」とおっしゃいます。まずは人事部に「副業申請の様式はありますか」と聞くところから始めるのが安全です。
3. 守秘義務と顧問先の情報遮断
税理士法第38条は、税理士の守秘義務を定めています。副業で別の顧客を受任する際、本業の顧問先情報を絶対に流用してはいけません。具体的には次の運用ルールを徹底してください。
- 副業用のメールアドレス・PC・クラウドストレージを本業と完全に分離する
- 副業の顧問先と本業の顧問先が同業他社にならないよう、受任前に必ず確認する
- 副業の業務記録(売上・経費・受任記録)を独立した会計帳簿で管理する
4. 確定申告と健康保険・厚生年金の扱い
副業の所得が年間20万円を超えると、所得税の確定申告が必要です(給与所得が複数ある場合は20万円ルールが適用されないので注意)。さらに、副業所得が事業所得として認められるかどうかで、損失通算や青色申告特別控除の扱いが変わります。
国税庁の通達では、副業の所得は「事業性の有無」と「記帳の有無」で事業所得か雑所得かを判定するとされています。詳しくは国税庁の通達を確認してください。
副業税理士の働き方は4タイプ|自分に合う形を選ぶ
副業税理士の活動形態は、大きく4つに分類できます。
タイプA:スポット相談・単発業務型
確定申告の代行、年末調整、相続税の単発相談、起業相談などを単発で受任する形態です。手数料0%のプラットフォーム経由なら、報酬の取りこぼしもありません。
- 報酬相場:相談1時間 5,000円〜15,000円 / 確定申告代行 30,000円〜100,000円
- 必要時間:平日夜・週末で月10〜30時間程度
- 向いている人:本業の繁忙期を避けて、繁閑をコントロールしたい人
タイプB:月次顧問契約型(小規模事業者向け)
個人事業主や小規模法人を月次顧問として継続支援する形態です。所属税理士登録の場合、所属事務所の書面許諾が前提となります。
- 報酬相場:月額 15,000円〜50,000円(決算料別)
- 必要時間:1顧問先あたり月3〜8時間
- 向いている人:継続収入を確保したい人、独立を見据えてポートフォリオを作りたい人
タイプC:執筆・セミナー・コンサル型
税務系メディアでの記事執筆、税理士向け勉強会の講師、企業の経理部門への業務改善コンサルなど、税理士業務「以外」の領域で資格を活かす形態です。税理士業務には該当しないため、規制が比較的緩やかです。
- 報酬相場:記事執筆 1本 20,000円〜80,000円 / セミナー登壇 1回 30,000円〜100,000円
- 向いている人:書くのが好きな人、人前で話すのが得意な人、専門分野(相続・国際税務・スタートアップ等)を持っている人
著述家,記者,編集者の年収・単価相場を確認すると、専門領域を持つライターの単価が高い傾向が分かります。税理士資格との掛け合わせは、まさにこの「専門性のかけ算」です。
タイプD:DX・業務効率化支援型
freee・マネーフォワード・弥生といったクラウド会計の導入支援、経理DX、AI活用支援などです。クラウド会計の認定アドバイザー資格と組み合わせると、案件単価が上がります。
AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、AI活用支援の案件動向を確認できます。税務×AIの掛け算は、これから伸びる領域です。
副業税理士のメリット・デメリットを冷静に評価する
メリットとデメリット、両方を冷静に見ておきましょう。
メリット(4点)
1. 本業の安定収入を維持しながら独立準備ができる
副業から始めれば、いきなり全顧客を失うリスクなしに、自分の顧問先ポートフォリオを構築できます。独立後の収益基盤の助走期間として有効です。
2. 専門分野の経験を広げられる
本業の事務所が法人税務中心なら、副業で相続税や個人事業主の確定申告を受けることで、専門領域を広げられます。
3. 報酬の上振れ余地が大きい
所属事務所の給与は固定ですが、副業の収入は受任案件と単価で決まります。本業給与の20〜50%の追加収入を作っている所属税理士は珍しくありません。
4. クライアントとの直接関係を構築できる
所属事務所の顧問先は「事務所のお客様」ですが、副業の顧問先は「自分のお客様」です。この関係性は独立時に資産になります。
デメリット(3点)
1. 本業との時間配分が難しい
確定申告期(2〜3月)や年末調整期(11〜12月)は本業も繁忙期。副業の納期管理が崩れると、両方の信頼を失うリスクがあります。
2. 賠償責任のリスクが個人にかかる
所属事務所の業務なら事務所が賠償責任保険でカバーしますが、副業の受任案件は自分で税理士職業賠償責任保険に加入する必要があります。年間保険料は20,000円〜50,000円程度です。
3. 確定申告・経理処理の手間が増える
副業の収入と経費を別途記帳し、毎年確定申告を行う必要があります。皮肉なことに、税理士自身が自分の確定申告で苦労するケースがよくあります。
副業税理士に向いているのは、現在の会社員としてのキャリアや安定した収入を維持しつつ、税理士としての活動にも挑戦したいという思いを持つ人です。一方で、専業での活躍を視野に入れている方には、早期に経験を積める環境が必要になることもあります。
つまり、副業税理士は「副業のままでいたい人」と「独立への助走期間として使いたい人」の両方に有効な選択肢ということです。
副業案件の探し方|現実的な5つのルート
副業案件をどこから取るかは、続けられるかどうかを左右する最大の論点です。
1. クラウドソーシング・マッチングプラットフォーム
2. 知人・士業ネットワーク経由
弁護士、社労士、行政書士、司法書士といった他士業との連携で案件が発生するパターンです。最も継続性の高いルートですが、構築に時間がかかります。
3. 税理士紹介サイト・税理士ドットコム
無料登録できる税理士紹介サービスへの登録です。ただし、紹介手数料が成約報酬の20〜30%程度かかるサービスもあるので、規約をよく確認してください。
4. 自分のメディア・SNS
note、X(旧Twitter)、ブログで税務関連の発信を継続すると、問い合わせベースで案件が入ってきます。立ち上がりに時間はかかりますが、長期的には最も単価が高くなります。
5. 商工会議所・地域コミュニティの相談員
地域の商工会議所や創業支援センターの相談員として登録する方法です。報酬単価は低めですが、地域の起業家との接点を作れます。
在宅ワークの求人の探し方5選|初心者でも安心な方法と注意点を徹底解説も参考にしてください。在宅型の案件探しの基本動線は、税理士の副業でも応用可能です。
案件選びの実務|契約前に確認すべき7つのチェックポイント
ここ、本当に重要です。フリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が2024年11月に施行されてから、副業税理士もこの法律の保護対象(特定受託事業者)に該当するケースが多くなりました。契約前に必ず以下を確認してください。
- 業務内容の特定:何を、いつまでに、どの形式で納品するか
- 報酬額と支払日:受領後60日以内の支払いが義務化されています
- 再委託の可否:本業の事務所のスタッフを使うのは原則NG
- 守秘義務とNDAの内容:NDA(エヌディーエー)の範囲が広すぎないか
- 責任範囲と賠償上限:報酬額の3〜5倍程度を上限とするのが一般的
- 解除条件:中途解約時の報酬精算ルール
- 管轄裁判所:相手方の所在地が遠方の場合は注意
これらを書面で残すこと。口頭契約は絶対に避けてください。
※具体的な契約書ひな形が必要な場合は、所属税理士会の規程例集や、弁護士に相談してください。本記事は一般論であり、個別の契約条件には別途専門家の判断が必要です。
1. 個人事業主向けの「丸投げ確定申告」案件が増加
クラウド会計の普及で「自分で記帳できそう」と思って始めた個人事業主が、年末に挫折して駆け込むパターンが増えています。12〜3月に集中する季節案件ですが、単価は50,000円〜100,000円程度で安定しています。
2. インボイス制度対応のスポット相談案件
2023年10月のインボイス制度施行以降、「免税事業者として続けるべきか課税事業者になるべきか」というスポット相談が定常的に発生しています。1案件あたり10,000円〜30,000円程度の単価帯です。
3. 「税理士+IT」のハイブリッド案件
freee・マネーフォワードの導入支援、経理業務のRPA化、Excelマクロでの月次集計自動化など、税理士業務とITスキルの掛け算案件が増えています。ソフトウェア作成者の年収・単価相場を見ても分かる通り、IT領域は単価が高い傾向にあり、税理士資格との組み合わせで他の税理士と差別化できます。
4. 国際税務・スタートアップ税務など専門領域の案件
クロスボーダーEC事業者の消費税還付、スタートアップのストックオプション設計、暗号資産の損益計算など、専門領域の案件は時間単価15,000円を超えることもあります。専門領域を1つ持っているかどうかで、副業税理士の収益性は大きく変わります。
5. 副業税理士の継続率は「最初の3案件」がカギ
データで見ると、副業税理士として登録した方のうち、最初の3案件を完遂できた人の継続率は80%を超える一方、1〜2案件で離脱する人も少なくありません。離脱理由の多くは「本業との時間配分の失敗」と「想定外の業務範囲拡大」です。前者は受任前のスケジュール確認、後者は契約書での業務範囲明示で防げます。
AI・マーケティング・セキュリティのお仕事やアプリケーション開発のお仕事のような周辺領域の理解も、税理士の副業領域を広げるヒントになります。クライアントの業務理解が深いほど、税務以外の論点(情報セキュリティ、業務効率化)も含めた提案ができ、顧問単価の上昇につながります。
また、リモート中心の働き方が定着している今、在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開や在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックで紹介されているような、在宅作業のリズム作りも参考になります。本業との時間配分は副業税理士の最大の課題です。
なお、税理士資格に近い周辺資格として、ビジネス文書検定で身につく契約書・提案書作成スキルや、IT系のCCNA(シスコ技術者認定)のようなネットワーク知識も、クライアントの業務理解を深める上で役立ちます。
副業税理士は、税理士法・所属先規程・フリーランス保護新法の3つの法規制を整理し、自分の働き方タイプを選び、契約書とスケジュール管理を徹底できれば、本業の収入を維持しつつ将来の独立に向けた助走を始められる、極めて合理的なキャリア戦略です。法律はあなたの味方です。ルールを知って、堂々と始めましょう。
公的機関・関連参考情報
本記事の内容に関連する公的機関や信頼できる情報源は以下の通りです。最新情報は公式サイトで確認してください。
よくある質問
Q. 副業でやっている場合でも、この法律の対象になりますか?
対象になります。 本業か副業かは関係ありません。「従業員を雇わずに業務を請け負う個人」であれば、すべて特定受託事業者として守られます。会社員が週末にライティングやデザインを請け負う場合も、立派なフリーランスです。
Q. フリーランスの副業で確定申告が必要になる基準は?
副業による所得(売上から経費を差し引いた金額)が年間20万円を超えた場合に、所得税の確定申告が必要となります。ただし、20万円以下であっても市区町村への住民税の申告は必要です。
Q. 自分が下請法とフリーランス新法のどちらの対象になるか、どうやって見分ければいいですか?
主な判断基準は「発注者の資本金」と「業務内容」です。下請法は発注者の資本金が1000万円超で、かつ物品の製造や情報成果物の作成などが対象になります。一方、フリーランス新法は発注者が従業員を使用していれば資本金要件はなく、すべての業務委託が対象となるため、より幅広いフリーランスが保護されます。記事内の「判定フロー」を活用して自分の状況を確認しましょう。
Q. フリーランス新法ができたことで、契約時のやり取りで気をつけるべきことは何ですか?
最も重要なのは「書面やメール等による取引条件の明示」が義務化された点です。口約束だけの業務委託は違法となる可能性が高くなります。業務内容、報酬額、支払期日などが明確に記載された発注書やメールの記録を必ず発注者からもらうようにしてください。万が一トラブルになった際、これらの記録があなたの権利を守る強力な証拠となります。
Q. フリーランス協会の福利厚生は副業でも利用できますか?
はい。法人・個人事業主だけでなく、会社員として働きながら副業をしている方でも一般会員になれば各種ベネフィットを利用可能です。
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この記事を書いた人
長谷川 奈津
行政書士・元企業法務
企業法務で年間200件以上のフリーランス契約を処理した経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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