フリーランス 給与支払事務所|従業員を雇ったら出す届出と源泉徴収


この記事のポイント
- ✓フリーランスが従業員や家族を雇うときに必要な「給与支払事務所等の開設届出書」の提出条件
- ✓納期の特例まで2026年版で網羅解説
- ✓届出忘れによるペナルティと回避策も
フリーランスとして事業が軌道に乗り始め、いよいよ人を雇おうと考えたとき、最初にぶつかるのが「給与支払事務所等の開設届出書」という長い名前の書類です。結論から言うと、フリーランスでも従業員(家族・パート・アルバイト含む)に給与を支払う場合は、原則としてこの届出を提出する義務があります。
「自分1人でやっているから関係ない」「配偶者に少しだけ手伝ってもらうだけだから不要」と思い込んでいるフリーランスが多いのですが、給与を1円でも支払う段階で源泉徴収義務者となり、税務署への届出が必要になります。本記事では、フリーランスが給与支払事務所の届出を出すべきタイミング、書き方、源泉徴収の実務、納期の特例の活用方法まで、実務目線で網羅的に解説します。情報を後出しにせず、最初に結論をはっきり提示するスタイルで進めます。
フリーランスを取り巻く「給与支払事務所等の開設届出書」の現状
国税庁の統計によれば、個人事業主のうち従業員を1人以上雇用している層は約15%とされ、残りの85%は単独で事業を営んでいます。しかし、近年の傾向として、フリーランスのチーム化・スモールビジネス化が進んでおり、配偶者を専従者として雇用するケースや、業務拡大に伴いパート・アルバイトを雇うケースが増えています。
特にWebメディア運営、ECショップ、デザイン事務所、コンサルティング業など、案件ベースで動くフリーランスが「自分1人では回らない」ステージに到達したとき、必然的に人を雇う選択肢が浮上します。このとき、税務署への各種届出が後手に回り、結果として無申告加算税や延滞税を払わされる事例が後を絶ちません。
正直なところ、税務署の窓口で「えっ、それも出さなきゃいけなかったんですか?」と固まるフリーランスを何度も見てきました。届出書の名前が長くて固い印象を与えるせいか、「自分には関係ない」と勝手に判断してしまう人が多い印象です。届出自体はA4用紙1枚で完結する簡単な書類なのに、です。
ちなみに、フリーランス全般の手続き周りについてはフリーランス 補助金 2026で補助金や支援制度を整理しているので、人を雇うタイミングで合わせて確認しておくと、雇用関連の助成金を取りこぼさずに済みます。
給与支払事務所等の開設届出書とは何か
「給与支払事務所等の開設届出書」とは、給与を支払う事務所を新たに設けた場合に、所轄税務署長に提出する書類のことです。所得税法第230条に基づく義務であり、提出期限は開設の事実があった日から1ヶ月以内と定められています。
ポイントは、この届出が「給与を支払う側」の義務として課されていることです。フリーランス本人が個人事業主としての開業届を出していても、それとは別に、給与支払事務所としての届出が必要になります。混同しがちですが、両者はまったく別の手続きです。
提出が必要になる代表的なケース
提出が必要になるのは、以下のようなケースです。
・配偶者や親族を青色事業専従者として雇い、給与を支払う場合 ・パート・アルバイトを雇用し、給与を支払う場合 ・正社員を雇用する場合 ・業務委託ではなく雇用契約を結んで人材を確保する場合
ここで重要なのは、給与の金額の多寡にかかわらず提出義務があるという点です。「月3万円だけ配偶者に支払うつもり」「学生アルバイトに週1日だけ来てもらう」というケースでも、雇用契約に基づく給与支払いが発生する以上、届出は必須です。
従業員の給与が少額で源泉徴収の必要がない場合でも、「給与支払事務所等の開設届出書」の提出が必要です。源泉徴収の必要がなくても、税務署では納税状況を確認しています。そのため、たとえ納付額が0円だったとしても納付書の提出が必要になるので、従業員へ給与を支払う場合は「給与支払事務所等の開設届出書」を必ず提出するようにしましょう。なお、納付額が0円の納付書は金融機関では受け付けてもらえず、税務署に直接提出か郵送、もしくは電子申告での提出になります。
この引用が示すとおり、「源泉徴収額が0円だから届出不要」という解釈は誤りです。納税状況の管理は税務署の所管業務であり、給与支払いの事実が発生した段階で、税務署は当該事業者を源泉徴収義務者として把握する必要があるのです。
提出が不要なケース
一方で、以下のケースでは提出が不要です。
・フリーランス本人1人で事業を営み、誰にも給与を支払わない場合 ・業務委託契約のみで外注先に報酬を支払う場合(外注先が個人事業主であれば、報酬の源泉徴収義務はあっても、給与支払事務所の届出は不要) ・既に「個人事業の開業・廃業等届出書」に給与等の支払状況を記載して提出済みの場合
最後のケースは特に注意が必要です。開業届の「給与等の支払の状況」欄に従業員数や支払方法を記載して提出していれば、給与支払事務所等の開設届出書の提出は省略可能です。これは見落としがちなポイントなので、開業時から従業員を雇う予定がある場合は、開業届の記入時点で給与支払欄をしっかり埋めておくと一度で済みます。
提出期限と提出先
提出期限は、給与の支払いを開始した日(または事務所を開設した日)から1ヶ月以内です。たとえば6月1日からアルバイトを雇い始めたら、6月30日までに提出する必要があります。
提出先は、原則として「給与支払事務所等の所在地を所轄する税務署」です。フリーランスの場合、自宅兼事務所として活動しているケースが多いと思いますが、その場合は自宅所在地を所轄する税務署が窓口になります。所轄税務署が分からない場合は、国税庁の国税庁公式サイトから「税務署の所在地などを知りたい方」のページで郵便番号検索が可能です。
提出方法は3パターン
提出方法は次の3つから選べます。
- 窓口持参: 直接税務署に持ち込む方法。控えにその場で受付印を押してもらえるため、後々の証明として確実
- 郵送: 提出用と控え用の2部を作成し、返信用封筒(切手貼付・宛名記載済み)を同封して送付。後日、控えが返送される
- e-Tax(電子申告): マイナンバーカードと対応リーダー、または利用者識別番号を取得すれば、自宅からe-Tax経由で送信可能
フリーランスとしておすすめなのは、迷わずe-Taxです。窓口に行く時間が惜しいですし、郵送は控えが返ってくるまで日数がかかります。e-Taxなら24時間提出可能で、受信通知がそのまま控え代わりになります。
ただし、e-Taxを使うには事前に利用者識別番号の取得が必要で、初回はそれなりに手間がかかります。この機会にe-Taxの初期設定を済ませておくと、その後の確定申告も電子提出できるようになるので、長期的にはメリットが大きいです。
書き方のポイントと記入項目
給与支払事務所等の開設届出書は、A4用紙1枚で完結する比較的シンプルな書類です。記入項目は大きく分けて以下のセクションで構成されています。
1. 届出の事由
「開設・移転・廃止」のいずれかに丸を付けます。新たに人を雇う場合は「開設」を選択します。
2. 給与支払事務所等についての届出の内容
開設年月日、給与支払を開始する年月日を記入します。「いつから給与を支払うか」を明確にする欄なので、雇用契約書に記載した給与支払開始日と整合性を取ってください。
3. 給与支払事務所等の所在地
事務所の住所を記入します。自宅兼事務所の場合は自宅住所を記載します。法人ではないため、登記情報との照合は不要ですが、所轄税務署の判定に影響するため正確に記入してください。
4. 給与支払を開始する従業員の人数
開始時点での従業員数を記入します。役員、従業員、青色事業専従者をそれぞれの欄に分けて記入する形式です。フリーランスの場合、「役員」欄は0、「従業員」または「青色事業専従者」欄に人数を記入することになります。
5. その他参考事項
特に変わった事情がなければ空欄でも構いませんが、月給制・時給制の別や、給与の支払日(毎月末締め翌月15日払い等)を記入しておくと税務署との連絡がスムーズになります。
会社を設立したときや、従業員・役員に給与を支払うときに必要になるのが、給与支払事務所等の開設届出書です。ですが、実際には「うちは社長1人だから給与支払事務所等の開設届出書は不要では?」「給与が少額なので届出は不要なのでは?」といった不要という誤解が多く見られます。
法人の話に見えますが、フリーランスでも本質は同じです。給与支払の事実があれば届出は必要、と覚えておけば判断に迷うことはありません。
記入時の注意点
私の体験では、初めて届出書を書いたとき、最も悩んだのが「個人番号又は法人番号」の欄でした。フリーランス(個人事業主)の場合、ここには事業主本人のマイナンバー(個人番号)を記入します。法人番号ではないので、誤って空欄のままにしたり、間違えて屋号を書いてしまったりしないよう注意してください。
また、印鑑欄について。2021年4月以降、税務関係書類への押印は原則不要となりましたが、念のため認印を持参または用意しておくと、窓口で「念のため」と求められた際に対応できます。郵送の場合も同様に、書類自体は押印なしで受理されます。
源泉徴収の基本と実務フロー
給与支払事務所の届出を出すと、その瞬間からフリーランスは「源泉徴収義務者」になります。源泉徴収とは、給与を支払う側が、従業員の所得税相当額をあらかじめ給与から差し引いて、代わりに国に納付する制度です。
源泉徴収すべき金額の計算方法
源泉徴収額は、国税庁が毎年公表する「源泉徴収税額表」に基づいて計算します。表は「月額表」「日額表」「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」の3種類があり、給与の支払形態に応じて使い分けます。
月給制の場合は月額表を使用します。月額表には「甲欄」と「乙欄」があり、
・甲欄: 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した従業員に適用される税率 ・乙欄: 申告書を提出していない従業員(=他の勤務先がメインの場合等)に適用される税率(甲欄より高い)
フリーランスがアルバイトを雇う場合、原則として「扶養控除等申告書」を提出してもらい、甲欄で計算するのが一般的です。
納期の特例の活用
源泉徴収した所得税は、原則として徴収した月の翌月10日までに納付しなければなりません。しかし、給与の支給人員が常時10人未満の事業者は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することで、納付を年2回にまとめることができます。
具体的には、
・1〜6月分: 7月10日までに納付 ・7〜12月分: 翌年1月20日までに納付
という形になります。毎月の納付は事務負担が大きく、忘れがちになるリスクもあります。フリーランスで人を雇う規模なら、ほぼ確実に10人未満に該当するので、納期の特例は必ず申請しておくべきです。
申請書は「給与支払事務所等の開設届出書」と同時に提出するのが効率的で、税務署の窓口でも「合わせて出しますか?」と促されることが多いです。申請書を提出した月の翌月から特例が適用されます(つまり、提出月の源泉徴収分は原則どおり翌月10日納付になる点に注意)。
源泉徴収簿の作成と年末調整
源泉徴収した内容は「源泉徴収簿」に記録し、年末調整時に過不足を精算します。源泉徴収簿は法定様式ですが、市販の給与計算ソフト(freeeやマネーフォワードなど)を使えば自動生成されるため、手書きで作成する必要はほぼありません。
年末調整は12月に行い、その年に源泉徴収した金額と、本来納めるべき所得税額の差額を精算します。多く源泉徴収していれば従業員に還付し、不足していれば追加徴収するという仕組みです。
実際にやってみると分かりますが、フリーランスが1〜2人の従業員に対して年末調整を行うのは、給与計算ソフトを使えば1時間程度で終わります。逆に手計算で挑むと、扶養控除・生命保険料控除・社会保険料控除などの計算が複雑で、確実に半日以上溶けます。
給与支払事務所の届出を忘れた場合のペナルティ
「届出を忘れたまま給与を支払ってしまった場合、どうなるのか」これは多くのフリーランスが気にする点です。
結論から言うと、届出書自体の未提出に対する直接的な罰則は明文化されていません。所得税法第242条に「届出義務違反」として罰則規定はありますが、実務上、届出忘れだけで刑事罰や行政処分が課されるケースは極めて稀です。
ただし、深刻な問題は別のところにあります。届出を出していないと税務署は源泉徴収義務者として把握していないため、源泉徴収・納付が漏れる確率が圧倒的に高くなります。そして源泉徴収の納付漏れは、
・不納付加算税(原則10%、自主申告なら5%) ・延滞税(年率最大14.6%)
の対象になります。仮に月15万円のパート給与で源泉徴収すべき額が月数千円だったとしても、これを1年放置すれば数万円〜数十万円のペナルティになる可能性があります。
気付いた時点ですぐに提出する
もし提出を忘れていたことに気付いたら、過去に遡って届出書を提出することが可能です。提出日を「気付いた日」とし、開設日は実際の給与支払開始日を記入します。同時に、未納付の源泉所得税があれば速やかに納付すれば、自主的な対応として加算税が軽減される可能性があります。
このとき、「税務署に怒られるんじゃないか」と尻込みする人がいますが、税務署の窓口対応は基本的に淡々としています。きちんと自主的に対応する姿勢を見せれば、職員も丁寧にサポートしてくれます。むしろ放置することのほうがリスクが大きいので、気付いたら即動くべきです。
業務委託契約なら届出は不要
ここまで雇用契約を前提に話してきましたが、フリーランス同士の業務委託契約であれば、給与支払事務所等の開設届出書の提出は不要です。なぜなら、業務委託契約の場合、支払う側にとって相手は「外注先」であり、給与の支払いではないからです。
そのため、フリーランスが自身の仕事の一部を他のフリーランスに振る場合、雇用契約ではなく業務委託契約として明確に区別することで、給与支払事務所の届出や源泉徴収義務(一部の業務を除く)から解放されます。
ただし、業務委託でも源泉徴収が必要なケースがあります。具体的には、
・原稿料、講演料、デザイン料、翻訳料 ・弁護士、税理士、社会保険労務士などの士業への報酬 ・プロスポーツ選手、モデル、外交員などへの報酬
これらに該当する報酬を個人に支払う場合、支払う側に源泉徴収義務が発生します(法人への支払いは原則不要)。
フリーランスが外注先のライターに原稿料を支払う場合、これに該当するため、源泉徴収(原則10.21%、100万円超部分は20.42%)が必要です。ただしこの場合も「給与支払事務所等の開設届出書」は不要で、「報酬・料金等の支払調書」を翌年1月末までに税務署に提出する形になります。
雇用 vs 業務委託の判断基準
「自分のケースは雇用なのか業務委託なのか」が曖昧な場合は、以下の観点で判断します。
・指揮命令関係の有無: 仕事のやり方を細かく指示する→雇用寄り ・勤務時間・場所の拘束: 決まった時間・場所での作業を要求→雇用寄り ・報酬の性格: 時間給で支払う→雇用寄り、成果物単位で支払う→業務委託寄り ・他社の仕事を受けられるか: 自社専属を要求→雇用寄り ・業務に必要な道具を誰が用意するか: 発注側が用意→雇用寄り
実務的な選択肢として、Web制作やデザインなどで外部のフリーランスに依頼する場合は業務委託のほうが税務手続きが圧倒的に楽です。一方、定型的・継続的な事務作業を任せたい場合は雇用契約のほうが現実的です。
例えば、アプリケーション開発のお仕事で扱うようなプロジェクト型の業務は、業務委託でフリーランスに発注するのが一般的です。同様に、AIコンサル・業務活用支援のお仕事などの専門領域も、業務委託モデルが主流です。
フリーランスが青色事業専従者を雇う場合の特例
フリーランス特有の論点として、配偶者や親族を「青色事業専従者」として雇用するケースがあります。これは、青色申告者が一定の要件を満たす配偶者・親族に支払った給与を、必要経費として計上できる制度です。
青色事業専従者の要件
青色事業専従者として認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
・青色申告者と生計を一にする配偶者または親族であること ・その年の12月31日時点で15歳以上であること ・その年を通じて6ヶ月超、青色申告者の事業に専ら従事していること
「専ら従事」という要件があるため、配偶者がフルタイムで別の仕事をしている場合は青色事業専従者として認められません。
必要な届出
青色事業専従者を雇用する場合、以下の届出が追加で必要になります。
- 青色事業専従者給与に関する届出書: その年の3月15日まで、または専従者を有することとなった日から2ヶ月以内に提出
- 給与支払事務所等の開設届出書: 専従者への給与支払開始から1ヶ月以内
「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出していないと、配偶者への給与は経費として認められません。届出書には支払額の上限や支払時期を記載するため、後から金額を変更したい場合は変更届出書を提出する必要があります。
実務上、青色事業専従者給与は月8万円〜30万円程度に設定されるケースが多いです。月8万円までであれば源泉徴収不要、月8万8千円を超えると源泉徴収が必要になります(甲欄の場合)。配偶者控除との兼ね合いも考慮しながら、最適な金額を設定することが重要です。
配偶者控除との関係
青色事業専従者として給与を支払う場合、その配偶者は配偶者控除(38万円)の対象外になります。つまり、配偶者控除を受けるか、専従者給与を経費にするか、どちらか一方の選択になります。
一般的には、専従者給与のほうが節税効果が高いケースが多いですが、配偶者の所得状況や事業規模によって最適解は変わります。年間100万円以上の専従者給与を支払えるなら、配偶者控除より専従者給与のほうが有利になるケースがほとんどです。
給与計算と社会保険の論点
フリーランスが従業員を雇用すると、給与計算だけでなく社会保険(健康保険・厚生年金)や労働保険(雇用保険・労災保険)の論点も発生します。
社会保険の加入義務
個人事業主の場合、以下のケースで社会保険(健康保険・厚生年金)の強制適用事業所となります。
・常時5人以上の従業員を雇用している場合(特定業種を除く)
5人未満であれば任意適用となり、加入は事業主の判断に委ねられます。フリーランスがアルバイト1〜2人を雇うレベルであれば、社会保険の加入義務はないケースが多いです。
ただし、2022年10月以降、社会保険の適用拡大が段階的に進んでおり、パートタイマーへの適用範囲も広がっています。具体的な要件は日本年金機構で確認するか、社会保険労務士に相談することをおすすめします。
労働保険の加入義務
労災保険は、従業員を1人でも雇用したら原則として加入が必須です。アルバイト・パート・日雇いを問わず、すべての労働者が対象になります。雇用保険は、週20時間以上勤務する従業員を雇用する場合に加入義務が発生します。
労働保険の手続きは管轄の労働基準監督署・ハローワークで行いますが、社会保険・労働保険の手続きはまとめて社会保険労務士に依頼するのが現実的です。フリーランス自身で全て対応するのは時間的にも知識的にも厳しいケースが多いです。
厚生労働省のサイトには、初めて従業員を雇う事業主向けのガイダンスが整理されており、必要な手続きの全体像を把握するのに役立ちます。
給与計算ソフトとアウトソーシングの活用
源泉徴収・年末調整・源泉徴収票の作成まで、すべてを手作業でこなすのは現実的ではありません。フリーランスが従業員を雇うステージに到達したら、給与計算ソフトの導入はほぼ必須です。
主要な給与計算ソフトの比較
主要な給与計算ソフトには以下のようなものがあります。
・freee人事労務: クラウド型、月額数千円〜。会計freeeとの連携がスムーズで、確定申告までワンストップで完結できる ・マネーフォワード クラウド給与: クラウド型、月額数千円〜。同社の会計ソフトと連携可能。UIはfreeeより落ち着いた印象 ・弥生給与: 老舗の給与計算ソフト。デスクトップ版とクラウド版があり、サポートが手厚い
正直なところ、フリーランス〜小規模事業者であれば、freeeとマネーフォワードのどちらかを選んでおけば失敗はありません。両者とも無料お試し期間があるので、UIの好みで選ぶのが現実的です。
税理士へのアウトソーシング
給与計算と年末調整をまとめて税理士事務所に外注するという選択肢もあります。費用感としては、月額1〜2万円程度(従業員数3人前後の場合)が相場です。確定申告も合わせて依頼すると、年間20〜30万円程度になります。
この金額を「高い」と見るか「事務作業から解放される価値」と見るかは、フリーランス本人の時間単価次第です。時間単価が高い職種(コンサルティング、システム開発、デザインなど)であれば、税務関連はアウトソースして自分の本業に集中するほうが合理的です。
ちなみに、ソフトウェア作成者の年収・単価相場を見ても分かるとおり、ソフトウェアエンジニア系のフリーランスは時間単価が高く、税務処理を自分でやるよりプロに任せたほうが経済合理性が高いケースが多いです。一方、著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると、ライター・編集者は単価のばらつきが大きく、自分の単価と外注費を天秤にかける判断が必要です。
個人事業主から法人成りするタイミングとの関係
従業員を雇うようになったフリーランスが次に直面するのが、「法人成りすべきか」という論点です。法人成りすると、給与支払事務所の届出に加えて、
・社会保険の強制加入 ・法人住民税の均等割(赤字でも約7万円/年) ・法人税の申告義務
など、税務・労務面の義務が一気に増えます。一方で、
・事業主本人を役員にして役員報酬を経費化できる ・所得分散による節税効果 ・対外的な信用力アップ
などのメリットも得られます。
一般的に、所得が800〜1,000万円を超えるあたりが法人成りの検討ラインとされていますが、これは単純な税率比較だけの話で、実際には事業の継続性、後継者の有無、取引先の要望なども含めて総合判断する必要があります。
法人成りする場合、給与支払事務所の届出は法人として改めて提出する必要があります。個人事業時代に出した届出は廃業届とセットで廃止扱いになり、法人としてゼロから手続きをやり直す形です。
このフェーズに到達したフリーランスの共通点は、
- 継続的な案件確保ができている: 安定した売上があるからこそ人を雇える
- 自分でなくてもできる業務の切り出しができている: 委任スキルが身についている
- 時間単価の意識が明確: 自分でやるべき仕事と外注すべき仕事を分けられる
これらは、フリーランスとして長期的に生き残るために必要なスキルセットです。給与支払事務所等の開設届出書という事務手続きの裏に、こうした成長ストーリーが隠れています。
AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のような専門性の高い領域では、案件単価も高くなる傾向があり、手数料差がさらに大きく効いてきます。事業を拡大していくフリーランスほど、プラットフォーム選びは慎重に行うべきです。
また、人を雇うフェーズに到達すると、自分自身も「経営者」としてのスキルアップが必要になります。中小企業診断士のような経営系の資格は、フリーランスが事業拡大する際の体系的な学びとしておすすめできます。事務系の事業を拡張する場合は、医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)のように、業界特化型の資格を持つスタッフを雇うことで差別化を図る戦略もあります。
業界全体のトレンドとしては、フリーランス・小規模事業者向けの補助金制度も拡充傾向にあります。たとえば送迎バス安全装置の設置補助金2026|介護施設の義務化対応と申請手順のような業界特化型の補助金や、一人親方 持続化補助金のような小規模事業者向けの支援策など、事業拡大期に活用できる制度は多岐にわたります。給与支払事務所の届出を出すタイミングは、こうした補助金・助成金の情報も合わせて確認する絶好の機会と言えます。
人を雇うこと自体に対する公的支援としては、厚生労働省が所管する各種雇用関連助成金(キャリアアップ助成金、特定求職者雇用開発助成金など)があります。これらは初めて従業員を雇うフリーランスにとって、非常に有利な制度なので、給与支払事務所の届出と合わせて必ずチェックすべきです。
最終的に、給与支払事務所等の開設届出書というA4用紙1枚の書類が、フリーランスから事業者への成長を象徴する一里塚になります。届出を「面倒な事務」と捉えるのではなく、「事業ステージが上がった証」と前向きに位置付けて、必要な手続きを淡々と進めていくのが、長期的に成功するフリーランスの共通スタンスです。
なお、関連テーマを扱ったW-8BENの書き方 日本のフリーランス向け 2026|租税条約と源泉徴収の実務もあわせて参考にしてください。
よくある質問
Q. 源泉徴収を忘れていたクライアントに、あとから請求すべきですか?
いいえ、フリーランス側から「源泉徴収分を請求する」必要はありません。源泉所得税を納めるのは、あくまで「支払う側(クライアント)」の義務です。確定申告の際に、実際に引かれた金額を申告するだけです。もしクライアントが引き忘 れていたとしても、あなたの確定申告で正しい所得税を計算して納めれば、税務上の問題はありません。
Q. 開業届を出していないフリーランスでも補助金は申請できますか?
原則として申請できません。国や自治体の事業者向け補助金は、税務署に「開業届」を提出し、事業として成立していることが大前提となります。まだ開業届を出していない場合は、まずは税務署で手続きを行うところから始めましょう。
Q. 源泉徴収されていないけど大丈夫?
問題ありません。源泉徴収されていない場合は、確定申告で正しく所得税を計算・納付すれば良いだけです。逆に、源泉徴収がない分、手元の資金が多くなるので資金繰りには有利です。
Q. 消費税のインボイスと源泉徴収の関係は?
源泉徴収税額の計算は、消費税を含む報酬総額で計算する方法と、消費税を除いた金額で計算する方法があります。請求書に消費税額が明記されていれば、消費税を除いた金額をベースに源泉徴収税額を計算できます。
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この記事を書いた人
朝比奈 蒼
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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