Webサイト保守・分析の受ける相手を見きわめる|断ってよい依頼


この記事のポイント
- ✓Webサイト保守・分析のクライアントの選び方を
- ✓契約実務の視点で解説します
- ✓初回の相談で確かめるべき権限と責任の所在
Webサイトの保守や分析の仕事で、いちばん多く相談が持ち込まれるのは「作業そのものの難しさ」ではありません。「この依頼、受けてよかったのだろうか」という後悔です。制作の仕事と違って、保守と分析は関係が長く続きます。相手を見きわめずに走り出すと、抜けられない関係のなかで消耗し続けることになる。これ、知らない人が本当に多いんです。
結論から書きます。保守・分析の依頼を受けるかどうかは、相手の人柄や規模ではなく、「権限」「責任の所在」「成果の定義」の3つが最初の打ち合わせで確認できるかどうかで決めてください。この3つが曖昧なまま始まった契約は、ほぼ例外なく後半で揉めます。逆に言えば、この3つさえ握れていれば、多少条件が厳しくても仕事は回ります。
この記事では、契約と法務の相談を受けている立場から、保守・分析の依頼を受ける前に確かめる項目、断ってよい依頼の具体的な型、角を立てずに断るための文面、そして受けると決めたあとに書面へ落としておくべき条項を順に整理します。
保守・分析の仕事は、制作の仕事と選び方の前提が違う
まず前提を揃えておきます。同じWeb系の仕事でも、制作と保守では「クライアントの選び方」の意味がまったく違います。ここを混同したまま、制作案件と同じ感覚で保守を受けてしまう人が非常に多い。
終わりが設計されていない契約である
制作は、納品という終点があります。仕様が膨らんでも、最悪は納品して関係を終えられる。ところが保守・分析には終点がありません。月ごとに更新され、解約を切り出さない限り続いていきます。つまり、相手を選ぶという行為の重みが、制作の何倍にもなるということです。
さらに厄介なのは、保守の仕事は「何もなければ何もしていないように見える」性質を持つことです。サーバーが落ちず、改ざんもされず、表示速度も落ちない状態を維持している月ほど、依頼側からは「今月は何をしてもらったのか」という疑問が出やすい。この構造を理解していない相手と長期契約を結ぶと、毎月のように業務範囲の説明に時間を取られます。
Webサイトの保守が「公開して終わりではない」性質の仕事であることは、実務側からも繰り返し語られています。
Webサイトは制作して終わりではありません。公開後も安定稼働させ、常に最新の情報を提供し続けるためには、適切な保守作業が不可欠です。本記事では、実際にWebサイトの保守を多く手掛けてきた自社の経験を基に、Webサイト保守の重要性から具体的な作業内容、効率的な進め方を解説します。 出典: tokoton.biz
つまり保守とは、目に見える成果物ではなく「落ちていない状態」「壊れていない状態」を売る仕事です。売っているものが状態である以上、何を維持し、何を維持しないのかを言葉で確定しておかないと、価値が伝わりません。
相手の内部事情に踏み込まざるを得ない
保守と分析は、相手の内側に入る仕事です。サーバーのログイン情報、CMSの管理者権限、解析ツールの管理者アカウント、場合によっては顧客データの入ったフォームの中身まで触ります。制作であれば外側から作って渡せば済んだものが、保守では相手の資産の内部に手を入れることになる。
ここで生じるのが責任の問題です。あなたが触ったあとにサイトが落ちれば、原因があなたの作業でなくても、まず疑われるのはあなたです。逆に、あなたが権限を持たされていない領域で障害が起きても、「保守を任せていたのに」と言われる。この非対称性を最初に潰しておかないと、何かあるたびに立場が弱くなります。
だからこそ、相手を選ぶときの基準は「良い人かどうか」ではありません。「責任の線を引く話ができる相手かどうか」です。線を引く話を嫌がる相手は、線の内側で何が起きても、あなたの責任にします。
分析が絡むと、期待値の管理が難しくなる
保守に分析がセットになると、難易度がもう一段上がります。アクセス解析のレポートを出す、改善の提案をする、施策の効果を検証する。これらは「やった仕事量」と「出た成果」が一致しません。丁寧に分析しても数字が動かない月はありますし、たまたま外部要因で数字が伸びる月もあります。
依頼側がこの不確実性を理解していないと、レポートを出すたびに「で、いつ結果が出るのか」という会話になります。分析を含む契約を受けるなら、初回の段階で「何をもって仕事をしたと見なすか」を作業ベースで定義しておく必要があります。成果の数字を約束できないという事実は、契約前に伝えたほうが、あとで伝えるより何倍も楽です。
Webサイトのコンサルティングや保守、分析がどういう仕事の集合体なのかを俯瞰しておくと、業務範囲の説明もしやすくなります。実務の内訳や求められる役割はWebサイトコンサル・保守・分析のお仕事にまとまっているので、自分が引き受ける範囲を言語化するときの下敷きに使えます。
初回の相談で必ず確かめる項目
ここからが本題です。依頼を受けるかどうかを判断するために、初回の打ち合わせで必ず確認する項目を挙げます。すべてを聞き出す必要はありませんが、聞いたときの相手の反応そのものが判断材料になります。
誰が意思決定をするのか
窓口の担当者と、決裁権を持つ人が別なのは普通のことです。問題は、その距離が見えていないまま進むことです。窓口の担当者が「大丈夫です」と言った内容が、決裁者のところで覆る。この繰り返しに巻き込まれると、作業時間より調整時間のほうが長くなります。
確認の仕方はシンプルです。「この件の最終的な決裁はどなたがされますか」「仕様の変更が出たとき、その場で判断できる範囲はどこまでですか」と聞く。ここで明快に答えられる相手は、社内の合意形成ができている可能性が高い。逆に「たぶん大丈夫だと思います」で流す相手は、後半で必ず揺れます。
もうひとつ、決裁者が誰かを聞いたときに不機嫌になる相手には注意してください。自分の権限を大きく見せたい担当者は、社内で説明するときにあなたの提案を自分の手柄として加工します。加工された結果、当初の合意と違う話が返ってくることがある。これは実際によく起きるトラブルです。
現在のサイトを誰が作り、誰が管理しているのか
保守を引き継ぐ場合、前任者が誰なのかは決定的に重要です。制作会社が今も生きているのか、担当者が退職して誰も中身を知らないのか、社内の誰かが片手間で触っていたのか。この背景によって、引き継ぎの難易度がまったく変わります。
特に気をつけたいのが、前任者との関係が壊れた状態での引き継ぎです。前の担当者が連絡不能になっている、あるいは揉めて解約したというケースでは、ドキュメントもパスワードも残っていないことが珍しくありません。その状態で「前と同じようにやってください」と言われても、何が「前と同じ」なのかを知る手段がない。
引き継ぎの状況が悪い場合は、受けないという判断より先に、「現状調査を独立した作業として切り出す」という選択肢を提示してください。いきなり月額の保守契約に入るのではなく、まず現状を洗い出す工程を挟む。この提案を受け入れられる相手なら、その後の関係も比較的うまくいきます。
権限を渡してもらえるのか
保守で最も揉めるのが、この権限の話です。サーバーの管理画面、ドメインの管理者アカウント、CMSの管理者権限、解析ツールの編集権限。これらのどれが渡され、どれが渡されないのかを、着手前に確定させてください。
「セキュリティ上の理由で渡せない」と言われることがあります。これ自体は正当な言い分です。問題は、渡さないと決めたなら、その領域で起きたことの責任もあなたが負わないと明記する必要がある、という点です。権限は渡さないが責任は負ってほしい、という要求は成立しません。ここを曖昧にしたまま始めると、障害が起きたときに全部あなたに寄ってきます。
現実的な落としどころは、権限の段階を分けることです。日常の更新に必要な権限は渡してもらい、サーバーの再起動やDNSの変更など影響が大きい操作は、依頼側の担当者と一緒に行う。そのうえで、「あなたが単独で操作できない領域の障害は、対応の助言はするが復旧の責任は負わない」と書面に書く。これで両者が納得できます。
何を成果と呼ぶのか
分析を含む契約では、この定義が生死を分けます。「アクセスを増やしてほしい」という依頼は、そのままでは受けられません。何のアクセスを、どの期間で、どの程度動かすことを期待しているのか。そして、動かなかったときにどうなるのか。
ここで押さえるべき原則は、成果の数字を契約上の義務にしないことです。検索順位も、問い合わせ件数も、外部要因で大きく動きます。あなたがコントロールできない変数に対して結果を約束すると、それは請負ではなく賭けになります。契約上の義務は「毎月のレポート提出」「改善提案の提示」「合意した施策の実装」といった作業に置き、成果の数字は目標として別に扱う。この書き分けは必ず行ってください。
依頼側にも納得してもらいやすい説明の仕方があります。「数字を約束する業者は、数字が出なかったときに数字の定義を変えます。定義を変えずに進めたいので、作業の中身で約束します」と伝える。この説明で不満を示す相手は、そもそも成果の不確実性を受け入れる準備ができていません。
分析やレポートの仕事がどんな作業で構成されるのかを整理しておくと、この説明がしやすくなります。マーケ戦略・分析・レポート作成のお仕事には、戦略立案からレポート作成までの実務が分野別にまとまっており、業務範囲を切り出すときの参考になります。
障害時の連絡経路と対応時間
保守契約で最もトラブルになりやすいのが、夜間と休日の扱いです。サイトが落ちるのは平日の日中とは限りません。深夜に落ちたとき、誰が誰にどう連絡し、いつまでに何をするのか。ここを決めていない契約は、いずれ必ず事故ります。
確認すべきは3点です。連絡は何で来るのか(電話なのか、チャットなのか、メールなのか)。受け付ける時間帯はいつか。そして、一次回答までの時間と、復旧着手までの時間をどう定義するか。「すぐ対応します」という言葉は、依頼側と受け手で想像している時間が10倍違うことがあります。
対応時間を定義するときは、SLA(サービス品質保証)という言葉を使う必要はありません。「平日の9時から18時に受け付け、受付から4時間以内に一次回答」といった具体的な書き方で十分です。時間外の対応を求められる場合は、別料金の追加作業として切り出してください。時間外対応を月額に含めてしまうと、実質的に24時間待機の契約になります。
個人情報と機密情報の扱い
問い合わせフォームのデータ、会員情報、購買履歴。保守の作業中にこれらへアクセスできてしまう場面は多く、アクセスできること自体がリスクです。何を見てよく、何を見てはいけないのか、そして万一漏れたときにどうするのかを、着手前に決めておきます。
秘密保持契約(NDA)を結ぶこと自体は難しくありません。むしろ確認すべきは、相手が個人情報の管理体制をどう考えているかです。「適当でいいですよ」と言う相手は、事故が起きたときに責任の所在を探し始めます。逆に、細かく取り決めたがる相手は面倒に見えますが、事故時の対応が明確なので結果的に安全です。
※実際に個人情報の漏えいが疑われる事態が起きた場合は、契約書の条項だけで判断せず、弁護士や個人情報保護に詳しい専門家へ相談してください。通知義務や報告義務の判断は、契約の当事者だけで完結する話ではありません。
契約書と支払い条件
最後に、最も基本的で、最も飛ばされがちな確認です。契約書はあるか。支払いのサイクルはどうなっているか。作業範囲の変更が生じたとき、どういう手続きで金額を見直すか。
2024年に施行されたフリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、発注者が取引条件を書面や電子メールなどで明示する義務を負い、報酬は原則として受領日から60日以内に支払わなければならないと定められています。つまり、「条件を書いたものがない」「支払いはいつになるか分からない」という状態は、法律が想定していない状態です。この点は法律の詳細を国が公開しているので、条文や解説は公正取引委員会などの一次情報を確認してください。
条件を書面にすることを渋る相手は、それだけで判断材料になります。書面を嫌がる理由は、たいてい「あとで変えたいから」です。
断ってよい依頼の型
すべての依頼を受ける必要はありません。むしろ、受けないほうがよい依頼には共通の型があります。ここでは実際の相談で繰り返し出てくる型を挙げます。
とりあえず全部お願いします型
範囲を聞いても「全部お任せで」としか返ってこない依頼です。一見すると信頼されているようで、実態は「範囲を決める作業を丸投げされている」状態です。この型が危険なのは、範囲が決まっていないので、何をやっても「それはやってくれないんですね」が発生する点にあります。
対処法は、受けるかどうかを決める前に、こちらから範囲の草案を出すことです。「サーバーとCMSの稼働監視、月次のバックアップ確認、プラグインの更新、月次のアクセスレポート。ここまでを月額の範囲とし、デザイン変更や新規ページの追加は都度のお見積もりとします」といった形で紙にする。この草案に対して具体的な意見が返ってくれば、話が通じる相手です。「そのあたりは、やりながら決めましょう」と返ってきたら、断る判断でよいと考えてください。
権限は渡さないが責任は取ってほしい型
先に触れた通りですが、断ってよい型として改めて挙げます。サーバーの管理権限は社内で握ったまま、障害時の復旧責任だけを外部に置きたがるケースです。この構造では、あなたは調査すらできない状態で結果を求められます。
見分け方は簡単で、「アクセス権限をいただけない領域については、復旧の責任は負えません」と伝えたときの反応を見ることです。「それなら権限を渡します」または「その領域は当社で対応します」と返ってくるなら健全です。「そこを何とかするのがプロでは」と返ってくるなら、その仕事は受けないほうがよい。
前任者の悪口から始まる型
初回の打ち合わせが、前の業者への不満から始まる依頼です。もちろん、前任者に本当に問題があったケースもあります。ただ、統計的な話ではなく実務上の傾向として、前任者の批判に時間を割く相手は、次の担当者にも同じ批判をします。
見るべきは、不満の内容が具体的かどうかです。「更新が反映されるまで1週間かかった」「連絡が3日返ってこなかった」といった事実ベースの不満なら、改善可能な問題です。一方で「やる気が感じられなかった」「言わなくても察してほしかった」という抽象的な不満が中心なら、期待値が言語化されていない可能性が高い。言語化されていない期待は、いつまでも満たせません。
数字を約束させたがる型
「順位を上げてくれるんですよね」「問い合わせが増えるんですよね」と、契約前から結果の確約を求めてくる依頼です。前述の通り、成果は約束できません。ここで「頑張ります」と曖昧に答えてしまうと、相手のなかでは約束として記録されます。
この型に対しては、契約前にはっきり伝えるのが唯一の正解です。「結果を約束することはできません。約束できるのは、毎月の作業内容と、その根拠をレポートで示すことです」と言う。ここで離れていく相手は、遅かれ早かれ離れます。早い段階で分かるほうが、双方にとって損失が小さい。
24時間対応が当然という型
「サイトは24時間動いているのだから、保守も24時間でしょう」という論法です。理屈としては筋が通っているように見えますが、個人や少人数の体制で24時間の待機を月額に含めるのは現実的ではありません。含めた瞬間に、あなたの生活時間はすべて拘束されます。
断らずに調整する方法もあります。監視ツールによる自動検知と自動通知は用意し、人間の対応は営業時間内とする。時間外の緊急対応は、都度の追加作業として単独で扱う。この線引きを提示して受け入れられないなら、体制のある会社に頼むべき案件です。それは能力の問題ではなく、体制の問題だと説明してください。
相見積もりの当て馬型
複数の候補に見積もりを出させて価格を下げる材料にする、という進め方自体は否定されるものではありません。問題は、比較の土俵が揃っていないケースです。他社の安いプランと同じ金額で、あなたには広い範囲を求めてくる。
保守の料金は、含まれる作業の中身によって性質がまったく変わります。ある会社の月額に含まれるのがサーバーの死活監視だけで、別の会社の月額にコンテンツ更新まで含まれているなら、金額を並べても意味がありません。「比較されるのは構いませんが、範囲を揃えた比較でないと当社の見積もりは意味を持ちません」と伝え、範囲表を出す。これに応じない相手は、価格だけで選んでいるので、次の年にはもっと安いところへ移ります。
断り方の実務
断ると決めたあと、どう伝えるか。ここで消耗する人が多いので、型を用意しておきます。
断ることは失礼ではない
前提として、依頼を断ることは礼を欠く行為ではありません。むしろ、受けられない仕事を受けて期待に応えられないほうが、相手に損害を与えます。断る理由を「能力がないから」と説明する必要もありません。体制と範囲が合わないという事実だけで十分です。
やってはいけないのは、返事を先延ばしにすることです。相手は他の候補を探す時間を失います。受けないと判断したら、その日のうちに伝えてください。
使える文面の型
角を立てずに断る文面には、共通の構造があります。感謝、結論、理由、代替案の4つです。
「このたびはご相談をいただきありがとうございました。検討いたしましたが、今回のご依頼はお引き受けを見送らせていただきます。理由は、ご希望の時間外対応と復旧責任の範囲が、当方の体制では確実にお応えできないためです。同様のご要望であれば、社内に監視体制を持つ制作会社様のほうが適していると考えます。もしご希望であれば、対応時間を平日日中に限定した範囲でのご提案は可能ですので、その場合はあらためてご連絡ください。」
この型のポイントは、理由を相手の落ち度ではなく自分の体制に置いていることです。「御社の要求が過大です」と書けば角が立ちますが、「当方の体制では応えられません」と書けば事実の説明で済みます。そして最後に、条件を変えれば可能だという道を残しておく。この一文があると、相手が条件を見直して戻ってくることがあります。
全部か無しかではない、三つ目の選択肢
断るか受けるかの二択で考えると苦しくなります。実務でよく効くのは、範囲を削って受けるという第三の道です。
たとえば「保守と分析と広告運用を全部お願いしたい」という依頼に対して、保守だけを受ける。あるいは「まず現状調査と改善提案までを単発で行い、その結果を見てから継続契約を検討する」という段階を提案する。この提案は、相手にとっても悪い話ではありません。いきなり長期契約を結ぶより、リスクが小さいからです。
削って受けるときのコツは、削った部分を明示的に文書へ書くことです。「今回の契約に含まれないもの」というリストを作り、そこに広告運用やデザイン変更を書き込む。含まないものを書いた文書は、含むものを書いた文書より強く効きます。
受けると決めたあとに固めておく書面
相手を見きわめて受けると決めたら、次は書面です。ここを丁寧にやっておくと、あとの1年が静かになります。
業務範囲は「含む」と「含まない」を対で書く
保守契約の書面で最も重要なのは、含まない作業を明記することです。含むものだけを書いた契約書は、書かれていないものが含まれるのかどうかで争いになります。
具体的には、次のような対で書きます。含むもの、たとえば稼働監視、バックアップの取得確認、CMSとプラグインの更新、軽微なテキスト修正、月次レポートの提出。含まないもの、たとえばデザインの改修、新規ページの制作、システムの機能追加、他社サービスとの連携実装、SNSの運用代行。この2つのリストが並んでいるだけで、追加依頼が来たときの会話が一瞬で終わります。
「軽微な修正」という言葉を使うなら、軽微の定義も添えてください。「1回あたりの作業がおおむね30分以内で完了し、月間の合計が一定回数を超えないもの」といった形で、量の上限を書く。上限のない「軽微」は、いくらでも膨らみます。
対応時間と優先度を段階で書く
障害の種類によって、対応の緊急度は違います。サイト全体が表示されない状態と、フッターのリンクが1本切れている状態を同じ扱いにする必要はありません。
実務的には、3段階に分けるのが扱いやすい。サイト全体が停止している、または情報漏えいの疑いがある状態を最優先とし、営業時間内であれば即時着手。一部の機能が使えない状態を次点とし、原則として翌営業日までに着手。表示崩れや文言の修正といった軽微なものは、月次の定期作業でまとめて対応する。この3段階を書面に書いておくと、「なぜすぐやってくれないのか」という問いに対して、合意済みの基準で答えられます。
解約と引き継ぎの条件を先に決める
始まる前に終わり方を決めるのは気まずい、と感じる人が多い部分です。ただ、解約条件を決めていない契約ほど、終わるときに揉めます。
決めておくべきは3点です。解約の申し出は何日前までに行うか。解約時に、アカウント情報や管理ドキュメントをどう引き渡すか。引き継ぎ作業を行う場合、その工数は月額に含まれるのか別途なのか。特に3つ目は忘れられがちで、無償で長時間の引き継ぎを求められる原因になります。
引き継ぎの範囲を明記しておくことは、依頼側にとっても安心材料です。「終わるときに情報を人質に取られない」と分かるからこそ、依頼側は安心して権限を渡せます。この点を先に説明できる受け手は、それだけで信頼されます。
法律が守ってくれる範囲と、それでも契約書が要る理由
契約の話をすると、「法律で守られているなら契約書は要らないのでは」と聞かれることがあります。答えははっきりしていて、法律は最低限の線を引くだけで、線の内側の設計はしてくれません。
フリーランス保護新法は、取引条件の明示義務、報酬の支払期日、受領拒否や報酬の減額の禁止といった、発注者側の行為を規制する枠組みです。つまり、「イメージと違うから払わない」「あとから半額にする」といった行為には歯止めがかかります。これは大きな前進です。
ただし、この法律は「保守の範囲に何を含めるか」「障害時に何時間以内に一次回答するか」までは決めてくれません。そこは当事者が決める領域です。法律は、決めたことを守らせる仕組みであって、決める作業を代行してはくれない。だからこそ、範囲と時間と責任の3点は、自分の言葉で書面にする必要があります。
もうひとつ実務的な注意を書いておきます。書面がないまま口頭で進めた仕事について、あとから条件を主張するのは、法律があっても簡単ではありません。何を合意したかを示す記録がなければ、争いは水掛け論になります。メールやチャットのやりとりを残しておくだけでも、記録としての価値は大きい。
※実際に報酬の未払いや一方的な減額が発生した場合は、自力での交渉にこだわらず、弁護士や公的な相談窓口に相談してください。早い段階で相談したほうが、選べる手段が多く残ります。法律はあなたの味方ですが、味方を呼ぶのは自分の仕事です。
相手を見きわめる目は、市場の構造から養える
保守・分析の仕事を長く続けている人ほど、案件そのものより「誰と組むか」に時間を使っています。フリーランスや在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ても、この傾向ははっきりしています。単発の作業単価を追いかけている人は数年で入れ替わりますが、「この人に任せると社内が楽になる」という関係を作った人は、同じ相手と何年も続いています。
運営者として見てきた限りでは、長く続く関係には共通点があります。受け手が最初に範囲と責任の線を引いていること。そして依頼側が、その線を尊重していることです。線を引く行為は関係を冷たくすると思われがちですが、実際は逆で、線がはっきりしているほど、その内側で自由に動けます。線が曖昧な関係のほうが、お互いに遠慮が生まれて動きが鈍くなる。
もうひとつ、額面と手取りの話をしておきます。仲介の手数料が乗る取引では、依頼側が払った金額の一部が中間で消えます。同じ予算でも、中間マージンが乗らない直接の取引なら、依頼側はより多くを頼めますし、受け手の手取りは厚くなる。手数料0%で直接つながる形が意味を持つのは、金額の大小ではなく、この構造の違いです。手取りが厚ければ、無理な件数を抱え込まずに済み、1件あたりに使える時間が増える。結果として、相手を見きわめる余裕も生まれます。断れる状態を保つことが、結局は品質を守ることにつながります。
自分がどの職種の相場感で動いているのかを把握しておくことも、判断の助けになります。技術寄りの仕事であればソフトウェア作成者の年収・単価相場が、レポートや文章の比重が高い仕事であれば著述家,記者,編集者の年収・単価相場が、それぞれ職業分類ごとの水準を確認する材料になります。相場の位置を知っていると、条件の悪い依頼を「悪い」と判断できるようになります。
分析を軸に独立している人の実際の動き方を知りたい場合は、上級ウェブ解析士でコンサルティング独立|分析のプロとして稼ぐ方法が参考になります。資格を起点にして分析の仕事へ入っていく道筋と、その先でどう案件を選んでいるかがまとまっています。保守と分析を同時に引き受ける立場では、この「選ぶ側に回る」感覚が守りの要になります。
最後に、判断に迷ったときの一言だけ書いておきます。初回の打ち合わせで、範囲の話をした瞬間に空気が悪くなる相手とは、契約しないでください。範囲の話ができない関係は、範囲の外で必ず衝突します。逆に、面倒な確認に付き合ってくれる相手なら、その関係は長く続きます。見きわめの判断材料は、相手の規模でも予算でもなく、その一点にあります。
よくある質問
Q. 保守の依頼を断ると、次の紹介が来なくなりませんか?
条件が合わない依頼を断ったことで紹介が途絶えるケースは、実務ではほとんど見られません。むしろ、範囲外の仕事を無理に受けて品質が落ちたときのほうが評判に響きます。断るときは理由を相手の落ち度ではなく自分の体制に置き、条件を変えれば対応できる範囲を一文添えてください。条件を見直して再度依頼が来ることもあります。
Q. サーバーの管理権限をもらえない場合、保守は受けられませんか?
受けられないわけではありません。ただし、権限がない領域で起きた障害について復旧の責任を負わないことを、契約書に明記してください。日常の更新に必要な権限だけを受け取り、影響の大きい操作は依頼側の担当者と一緒に行う形が現実的です。権限を渡さず責任だけを求められる場合は、断る判断で問題ありません。
Q. 検索順位やアクセス数の向上を契約で約束してもよいですか?
避けてください。順位もアクセスも外部要因で大きく動くため、成果の数字を契約上の義務にすると、達成できなかったときに責任を問われます。契約の義務は月次レポートの提出、改善提案の提示、合意した施策の実装といった作業に置き、成果の数字は目標として別に扱ってください。この書き分けは事前に説明したほうが揉めません。
Q. 24時間対応を求められたらどう答えればよいですか?
監視ツールによる自動検知と通知は用意し、人間の対応は営業時間内に限定する提案が現実的です。時間外の緊急対応は月額に含めず、都度の追加作業として扱ってください。この線引きが受け入れられない場合は、能力ではなく体制の問題であると説明し、交代要員を持つ制作会社を勧めるほうが双方にとって安全です。
Q. 契約書がないまま口約束で始めてしまいました。今からでも作れますか?
作れますし、作るべきです。フリーランス保護新法では発注者に取引条件の明示義務があるため、条件を書面で確認したいという申し出は正当な要求です。すでに進行中の場合は、これまでの合意内容を整理した確認書という形で送ると受け入れられやすくなります。未払いや減額が既に起きている場合は、弁護士や公的な相談窓口に早めに相談してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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